7-1
「ああ、初めましてですよね」
そういった女性は部屋に入って扉を閉じた。
「ああ、さっき起きたばっかだからな」
「これは失礼。私はアイシャ。アイシャ・リンドバーグです」
綺麗に一礼した女性はアイシャというらしい。
長い黒髪から長く尖った耳が見える。彼女もエルフ族であることは間違いない。
すらっとした体型で、割と健康的な肌の色をしている。結構活動的なタイプなのか?
服装は動きやすいパンツスタイルで、コンパクトにまとめられているように見えるが、所々綺麗な刺繍や装飾が見られる。
姿勢もいいし、もしかするといいところのお嬢さんだったりするのかね?
「君のことは奥さんから伺っていますよ」
「あ、ああ、おう・・・」
この人にも奥さんって話は通ってるんだな・・・
どんどん外堀が埋まっていってるような気がするのは俺だけなのか・・・?
「あのガノダウラスをあそこまで追い込めるとは、なかなかの実力者ですね」
「・・・あんた、見てたのか?」
「まあ、そういうことになりますね」
こいつ、いつから見てたかは分からないが、最後のほうはきっちり見てたはず。
だったら手伝ってくれるなり、救助を呼ぶなりしてくれたらいいものを・・・
「あはは、そんなに睨まないでくださいよ。悪気があって手出ししなかったわけじゃないんです」
「あなた。アイシャさんは王国の調査隊の一員だそうで、この辺りにも仕事の一環でいらしたようなんです」
「王国の調査隊・・・?」
何だ、そりゃ・・・?
少なくとも、宮仕えってことは分かるが・・・
「私は奥様の紹介のとおり、シルフィ王国の調査隊に籍を置いていましてね。元々はベルーシュ出身なんですが、今は首都に出向しているんです」
「・・・ベルーシュ?」
どっかで聞いたことがある地名のような気がするんだが・・・
「調査隊は王国内のありとあらゆる出来事の調査を行っているんです。環境、人の流れ、犯罪、時にはモンスターの動向も調べます」
「・・・なるほど。要は王国中の問題になりそうな全てのことを調べるってことな」
「そういうことですね」
地質学者とかも含みそうだが、ざっくり警察っぽいようなことをするんだろう。
「王国の調査隊と言えば、相当優秀な方でないと入れないようですよ」
「そんなことありませんよ」
少なくとも王国のって縛りなわけだし、優秀じゃなきゃ入れないってのは分からんでもない。
気になるのは、
「んで、そんな優秀な人が何でこんなところにいるんだ?」
ここがどこのオアシスかは分からないが、仮にも首都勤めなら、相当南下してきているはず。
何が目的だったのか気にはなるところだ。
「私の目的はガノダウラスだったんですよ」
「・・・あいつ?」
「正確に言うと、あなた方が倒した個体を含む、が正しいですが」
「・・・ってことは」
今の言い方だと、相当数いるってことにも聞こえる。
だとしたら面倒な話になりそうだが・・・
「調査隊の他の隊員から、ガノダウラスの情報を聞きましてね。女王陛下に報告が上がって、正式に調査を行うことになって、私が対応するように命令が下ったわけです」
シルフィは女王が統治してるみたいだな。
そんで、アイシャも宮仕えで確定か。
「情報を精査していくうちに、ガノダウラスが南にいるという情報を手に入れたので、南下していくうちに環境が荒れていることが分かり、行き着いた先で」
「俺たちがあの化物と戦ってた、と」
「そういうことです」
大方の事情は分かったが、俺が気になるのはそこじゃない。
「ちょっとくらい手伝ってくれても良かったのになぁ」
「私は戦闘があまり得意ではないので、大目に見てもらえると助かるんですが」
「そういう問題じゃあねぇんだよ」
ちょっとでも手伝おうって姿勢を見せろってことだよ。
どんな武器を使うのか・・・いや、そもそもこの人のジョブが分からんから何とも言えんが、どんな攻撃だって気を散らしてくれれば助かるのに。
「それはそれとして、だ」
どうせ言ったところで聞き入れることはないだろうし、仮に聞き入れられたとしても、終わったことだしな・・・
それよりも解決したいことがある。
「まず、トイレ行かせてくれや。いい加減漏れる・・・」
*
ここはどうやら、今いるオアシスはシルフィ王国の最南端の町・ウトの近くにあるらしい。
ガノダウラスを倒した後、伸びてしまって俺を連れて移動するのはなかなか難しかったようで、俺が乗っていたドッシュに積まれた後、アイシャの案内でオアシスに移動って流れらしい。
俺を含めて満身創痍だった俺たちは、突然現れたアイシャの提案に乗っからないとどうしようもなかった。
特に俺が伸びてしまったことが大きい。
せめてまともに歩けていたなら、ここまで面倒なことになってなかったろうに。
全てはあの梟のせいだな。
いや、全部がそうだってわけじゃない。威嚇がなきゃ、今頃俺たち全員、ガノダウラスの腹の中だったかもしれないし。助かったは助かった。
ただ、リスクがでかすぎた。
魔力が枯渇しても最大三分。使ったら最後。歩けなくなるまで感覚が狂う。
使いどころが難しいスキルを手に入れてしまった。今後、使うタイミングを見極めないといけない。そもそも、使うようなことにならないってのが一番いいが、ガノダウラスみたいなモンスターがうろうろしている世界なわけだし、使う機会はまた来るだろう。
もっと使いこなせるようにならないといけないかもしれない。だけど、その手段は・・・?
「魔力の上げ方?」
「おう」
魔力のこと、というより、この世界のことは地元民に聞くのが一番。
ここがどこかのか、辿り着いた経緯をアイシャとマーベルさんから一通り聞いた後、一旦解散。
二人だけになったタイミングが話しやすい。
ということでヴェロニカに尋ねてみると、
「キリの魔力量を上げるってことかな?」
「そうそう。もっと攻撃できるようになりたくてな」
威嚇のことは黙っておけって言われてるし、それらしい適当な理由をつけておく。
「手っ取り早いのはスキルを覚えることだね」
「そういうのあったっけか」
パスポートを取り出してスキル欄を開く。
「魔力量増加っていうスキルがあるでしょ?」
すごい単純なネーミングのスキルがあった。
「それを覚えると、魔力の量が増えるよ。単純に増えるから、使える魔力も増える。いっぱいスキルを使えるわけだよ」
「まあ、そういうことだよな」
そういう内容だってことはゲームをやってりゃそれなりに分かる。
問題は、
「これを覚えると、どれくらい増える?」
問題は増加量。
例えば基礎を100だとして、そこから一割増えるなら110になる。
パスポートを見た感じ、魔力量増加もレベルがある。レベル1から3まで。
レベル1を覚えたとして、どれくらい増えるのか?
レベル1で一割、2で二割とかだとした場合、3でも三割。それくらい増えて、威嚇に対応できるようになるのか・・・?
もちろん、これから経験値を溜めていくことで、俺自身の魔力量が自然と上がることもあるだろう。ただ、この世界はそういうステータスをパスポートで見ることができない。ゲームやらアニメやらで標準的なシステムが、ラヴィリアにはない。しかも、レベル1でどれくらい上がるかの目安もない。
だから単純に覚えることに不安を覚える。限られたスキルポイントを使うわけだし、多少の無駄撃ちは仕方がないにしても、可能な限り有効利用したいってのが本音。
魔力量増加・・・これはアリなのかナシなのか?
「増える量についてはよく分からないねぇ」
・・・とまあ、これである。
「覚えてみないと分からないし、覚えたとしてもどれくらいまで使えるかを試してみないといけないんだよね。スピードウィップが五回から七回に増えた、とかね」
聞いた感じ、ヴェロニカも不便に思っているように思う。ステータスが分かったらいいのに、みたいなことはないにしても。
「人間の能力が何かの目安で分かれば便利なのだろうけれど、人の能力を表すなんてそうそうできることじゃあないだろうしね」
そうだよなぁ。人の能力を数値化なんて、普通できることじゃないんだよなぁ。
ああいうのはゲームだからできるわけだし。いや、分かったほうが便利ではあるんだけども。
「話を戻すけれど、増加量は分からないから、良い結果になるかどうかは本人次第だよ」
「うーん、そうだよなぁ」
一か八かみたいなスキルを覚えるのはやめておくか・・・
今もオンになっているはずだが、かくれんぼがどれくらい効いているのか分かってない。普通にみんなに認識されてるっぽいし、ホント効いてんのかコレ・・・
「キリも攻撃スキルを覚えて使い始めた当初と比べると、余裕が出てきたように見えるけれどね」
「・・・そうか?」
俺はいつでもいっぱいいっぱいなんだが、ヴェロニカにはそう見えていないらしい。
「スピードウィップと通常攻撃を混ぜながら攻撃していた当時は、戦闘が終わったらしんどそうにしていたけれど、最近はほとんどスキルに頼った立ち回りをしているけれど、疲れた様子はないしねぇ」
そうやって聞くと、確かに俺自身の魔力量が上がっているように思える。
だが、たぶんそうじゃない。
「みんなが上手くやってくれてるから、そういう風に見えるだけだぞ、たぶん」
俺自身の魔力量が増えたっていうより、立ち回りがそれっぽく変わったからだろう。
無論、俺自身が成長しているならありがたいし、願ったりではある。
ただ、ヴェロニカと俺しか戦うメンツがいなかった頃と、ジェシカたちがいる今じゃあ状況が違う。
圧倒的な火力でクモたちを仕留めるわけではなく、普通の火力ながら人数を駆使して戦う。これは立ち回りに工夫がいる。
ジェシカがいっちょ前の火力を出せるように前に向かわせて、キースも近接戦闘で目立ってもらう。高火力のリオーネが最後尾で、その間で隙を縫うのが俺。一発の火力はヴェロニカに劣るにしても、人海戦術で対応できる量は増えている。自然と立ち回りもそういう風になるし、俺の手数も減っている可能性もある。
「キリはもう少し自分に自信を持ったほうがいいと思うけれどねぇ」
自然と喜べんのよなぁ。
―――俺は自分ができる男だなんて、これっぽっちも思ったことはない。
「まあ、できることが増えるわけだし、魔力量を上げておくことに越したことはないけれどねぇ」
「そうだなぁ」
ちょっと増やしたところで、威嚇が満足に使えるようになるかは話は別・・・
これは追々の課題で、魔力量増加も保留だな、こりゃあ・・・
「ところで、体の調子はどうだい?」
魔力量の話が一段落したところで、
「まあ・・・悪くはないかな」
相変わらずだるいし、体も重い。
さっき起きたばっかりだし、いきなり回復するもんでもない。筋肉痛と一緒だと思おう。
「どうしたんだ?」
「詳しい話はマーベルとアイシャから聞いてほしいけれど、シルフィ王国の首都に一緒に来てほしいみたいだよ」
「・・・はい?」
何でそうなる???




