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「・・・ん、んん」


 いつの間にか寝ていたらしい。

 いや、気絶していたのか?

 たぶん、後者が正しい気がする。


 最早どっちでもいいもんだが、今俺はどこにいるんだ?


 なんか見慣れない場所にいる。

 ある程度整った部屋だ。ちょっとしたビジネスホテルに近い。

 そう考えると、ここはたぶんどこかのオアシスだろう。


 いつの間にこんなところに移動したんだ?

 さっきまでガノダウラスとかいうバカでかい恐竜と戦っていたはずなんだが・・・


「あ、キリさん起きたね」

 横にヴェロニカとマーベルさんがいた。

「お目覚めですか。気分はいかがです?」

「・・・めちゃくちゃだるい」


 今気付いたことだが、とにかくだるい。


 体が重い。例えでよく「体に鉛が入ったかのような」とか言うが、本当にそれっぽい。筋肉痛とかそういうもんじゃなくて、上から岩でも乗っけられてるみたいだ。

 動かせないわけじゃないが、相当気合を入れないと動けない。

 何でなんでこうなったんだ・・・?

「キリさんの様子からして、魔力切れなんじゃないかな?」

「魔力切れ、か」

「うん、正確に言うと、魔力を振り絞って出し過ぎて枯渇した感じかな」

「枯渇・・・?」

 切れると枯渇ってどう違うんだ?

 言ってることは同じ木がするんだが・・・?

「切れると枯渇は違うよ」

 例えば、とヴェロニカは話を切り出し、

「切れるとスキルを使えなくなるだけだけれど、枯渇すると全く身動きが取れなくなってしまうんだ。今のキリみたいにね」

「ふむ・・・?」

 そういえば、リオーネは魔力が切れたとか何とか言っていた気はするが、座り込んだりしたわけじゃなかったはず。

 一方の俺はこういう状態になった。

 切れると動けない、枯渇すると身動きが取れない。ヴェロニカの説明は正しい気はする。

「人はね、魔力が切れないように本能的に制御しているんだ。もう出ないってところまで来ると、魔力を出し切らないように自然と止めるんだよ」

 本能的にブレーキを掛けるってことか。

 人は脳の一部しか使ってないって話もあるが、それに近い機能なんだろうか?

「枯渇してしまうっていうことはね、人の体に最低限残っていないといけない力を出し切ってしまうということだよ。例えば湖が干上がっちゃうみたいなことかな?」

「・・・水が無くなるまでは使えるが、水の供給源が枯れたら湧かなくなる・・・ってところか」

「そういうことだね」

「ということは、キリヤさんは魔力を出し切った、と?」

「そうじゃないと、三日も寝たきりにならないんじゃないかな?」

「・・・おい、今なんて言った?」

 耳までおかしくなったかな?

「キリ、三日も寝てたんだよ」


 三日も寝てたってか!?


「今の今まで全く起きませんでしたね」

「死んだんじゃないかってキースたちも言っていたけれどねぇ」

 そりゃあ、三日も寝てりゃあ死んだと思われても仕方がないわな・・・

「枯渇すりゃあ、そういう風になってもおかしくないってか・・・」

 言ってることは分からなくもないし、特別おかしいとは思わないが、

「いや、それでもキリの状態は悪いよ」

「・・・ええ・・・?」

 より悪いってこともあんの?ヤダ、怖い。

「普通、次の日には動けるんだけどねぇ」

「出し切ったというレベルではない、と?」

「わたしにも分からないけれど、状況から察してそれが近いとは思う」

 一日で回復するのが一般的なのに、三日も掛かったって、誰が聞いても普通じゃないだろう。

「キリはそんな強力なスキルを使えるわけじゃないのに、おかしいねぇ。魔法だって風と水魔法の初級しか使えないし、一生懸命使おうとしたって限りがあるし、どこかで魔力が切れるって体が分かるはずだし・・・」

「強力なスキル、か」

 心当たりが一つある。


 威嚇だ。


 アポロから授けられたあのスキル・・・あれを使ってから全部狂った。

 あれが原因に違いない。

 あれにそんな、魔力を根こそぎ持っていくくらいの力があったとは・・・


 いや、あるかもしれん。

 何せ、あの化物の身動きを完全に封じるスキルだ。それくらいの魔力を持っていってもおかしくない。

 まさか、こんな目に遭うとは思わなかったが・・・

「そういえば、ガノダウラスはどうなった?」

 威嚇の件はアポロにでも聞かないと分からん。後で覚えてろよ、あの梟。

 それはそれとして、あの化物がどうなったのかは気になる。

 生きているわけだし、助かったってのだけは分かるが・・・

「あれはヴェロニカさんが止めを刺しましたよ」


 *


「よくもここまで暴れてくれたねぇ、キミぃ」

 マーベルと一緒にドッシュで戻ったわたしは、目の前の光景に驚いた。

 ジェシカは吹っ飛ばされて動けない。

 キースとリオーネもズタボロ。

 キリはぐったりして動けない。

 ガノダウラスは相当な深手を負っているようだけれど、まだ動けるみたい。かなり鈍くなってはいるけれど、頭に血が上った影響で動けている。

「マーベル!?戻ってきたのか・・・!?」

「皆さんは下がってください!」

 もうあと少しだ。

 あれを生かしておくと、またどこかで被害が出る。

「ここで仕留めるよ。フリーズエッジ!!」


 *


 そこからの記憶が無いが、初手の氷の刃で足を貫いて地面に固定。

 その後、更に氷魔法で追撃し、頭と胸部を貫通させて倒した。

 ヴェロニカとマーベルさんが来てからはこういう展開だったらしい。

 本当に怖い。

 大砲どころか、本当にミサイルみたいなモンだろ。いくら結構なダメージがあったとしても、あれを一人でブチのめすとは。

 しかも、たった三発の魔法でってのが拍車を掛ける。

「ガノダウラスの残骸は私が回収しています。皆さん、満足に動ける状態ではありませんでしたので」

 いつもならここで思うところがあるんだが、もう驚きもない・・・

「他の連中は?」

「皆さん、もう活動されてますよ」

 ジェシカは相変わらずの回復速度で、自分自身を真っ先に回復させて、キースを治療。

 リオーネは魔力が切れてしまっただけで、火炎放射のダメージは回復してもらっていたから、服がボロボロになったくらい。

 一応、優秀なヒーラーがいてくれたおかげで、大きな被害を出さずに済んだ・・・ってところか。

 今は三人とも、オアシスで立ち回りの練習をしているらしい。

 それぞれ思うところでもあったんだろうか?

 確かに立ち回りは課題ではあったんだが、俺がとやかく言う立場じゃないから、特別口出ししない。それでもまあ、自発的にやっているってことはそういうことなんだろう。

「それは一旦置いておいて、キリに聞きたいことがあるんだよ」

「どうした?」

「あのガノダウラスの動きを一時的に封じるなんて、普通じゃあできないんだよね」

「ん、うん」

 こりゃあ、何か気付いてるな・・・

「かと言って、ああいうスキルがあるなんて知らないし・・・一体、どういう力だったのかなと思ってね」

「ああ、なるほどね・・・」


 こりゃあ、話さざるを得ないかねぇ・・・


 ヴェロニカはパスポートで得られるスキルを把握しきっているはずだ。

 モンスターを釘付けにするスキルがないことは、この話の切り出しから理解できる。

 別に隠すこともないし、魔力が枯渇した原因が威嚇であったなら、それを知っておいてもらってもいいような気もするが、

『少年』

 アポロが突然話しかけてきて、

『威嚇のことは伝えぬほうが良いであろう』

 ということらしい。

『後で理由を話してやろう。今は適当にあしらっておけ』

 そういうのをテレパシーで読まれたらひとたまりもないんだが、ヴェロニカは特に何も言ってこない。

 ってことはやっぱり、テレパシーでアポロとのやり取りは聞くことができないってことか?

「まぁ・・・なんとなく、ああいうことができるんじゃないか?」

 とりあえず、詳しい理由を聞くまでは公表できんってことには変わりない。

 適当にあしらえるとは思えんが・・・

「・・・なんとなくでああいうことができるくらいなら、キリは最初からもっとできたと思うのだけれどねぇ」

 こいつ、本当に察しがいいな。良すぎる。

 アポロの存在まで察しているのかいないのか、そこも気にはなるけど。

「俺も最初から上手くできればいいんだけどなぁ」

 そこは俺も本当にそう思うことだから嘘はないが、

「・・・ふぅん。そっかぁ」

 こりゃあ、何か思ってるリアクションだな。

 言いたいことは分かるんだが、俺も辛いところなんだよ・・・

 アポロのヤツ、内容がしょうもなかったら許さんぞ。

「・・・っと、そろそろトイレに行きたい」

 頭も体もはっきり起きたわけだし、便意は止まっちゃくれないらしい。

 いい加減、トイレに行きたいわけだが。

「体を起こしましょうか?」

「ああ、頼んます」

 情けない話だが、体が思うように動かん。

 これじゃあまるで介護だよ。

「大丈夫ですか?」

「ああ、まあね・・・」

 体を起こすだけでしんどいわけだし、枯渇ってのは相当なもんだな。二度と同じ目には遭いたくないもんだが・・・

「―――ああ、起きたんですね」

 突然扉が開いて、

「・・・どちらさん?」


 部屋に一人、女性が入って来た。

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