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2

 翌朝、俺たちはレノトに向けて出発した。


 商人たちと一緒に活動していた時は、時間に追われたりする場面もあった。

 朝飯を食いたいが、ヴェロニカの世話もしなきゃいけない。いつ出発の声掛けがあるか分からないから落ち着かない・・・そんな具合。


 ただ、個人で活動すると、ある程度時間の余裕を作ることができる。

 状況によって早く出ることも、ゆったりすることもできる。これはマジで大きい。

 キャンプ場の話になるが、所によってはチェックアウトが早い場合もある。道具の撤収は結構時間が掛かるものだから、そこに時間を掛けたくなる時もある。朝飯も調理して食いたいのに、そっちに時間が掛かるからできない・・・それに近い気がする。


 今朝は比較的落ち着いて出発できた。

 道具もタープと食器を広げただけで撤収は簡単だったし、かまどを片付けるくらいで済んだ。

 落ち着いて出発できるってのはありがたい。


「とりあえず、レノトの調査もするとして、やることを固めておくか」

 ドッシュに揺られながら、マップを確認。

 進路は間違ってない。進む方角も、踏破のおかげで迷わずに済むみたいだ。地味にありがてぇ。

「キリヤさんの武器の強化をされてはいかがです?」

 武器の強化・・・要るのかなぁ?

 でもまあ、要るか。俺だけで戦わなきゃいけないこともあるだろうし、だとすれば、ランドリザード相手でも一発で悶絶させられるくらいの攻撃力は欲しい。到底無理だろうが。

「防具も強化したほうがいいと思うよ」

 最悪の場合に備えて、防具に力を入れるのもアリか。

 ただまあ、俺の場合・・・防具ってのはチェストリグとベルトパッドくらいな物。ほとんど無いに等しい。

 かと言って、剣士みたいな防具を着用するってのもちょっと違うよなぁ。

「どちらにしても、マナタイトは一つしかありませんし、そもそもクラフターがいらっしゃるかどうかも分かりません。現地で確認したほうがいいですね」

「マーベルの知り合いにはいないの?」

「素材を卸すこともありますが、個人的に声が掛からない限りは要件が無かったもので、知っている方はこの辺りには・・・」

 だとしたら、レノトで何かしら強化するって話は無しかな。

「というか、前々から聞きたかったんだけど、マーベルさんの取り扱い商品ってのは主にどういう物なんだ?」


 その辺りはあまり聞いていなかった。

 とりあえず、武器は扱わないっていうことだけは覚えてるんだが。


「私は生活必需品や雑貨、道具などを主に扱っています。モンスターや鉱石などの素材であったり、薬なんかも扱ってます」

 俺が今持っている道具の大半はマーベルさんから買った物だから、挙がったラインナップはよく分かる。

 首都で商売しているところも見たし、武器や防具以外は扱っているっていう印象でいいんだろうな。

「私はランドリザードの素材を売って回ってみます。その際は調査もしておきますから、進展があれば報告します」

「何を売るんだ?」

「肉や臓器です」

 ・・・そういえば、そういうのもあったな。

「売れる、のか?」

「ランドリザードの肉と臓器は思いの外人気があるんですよ。食用で、焼いても煮てもおいしいんです」

 ああ、あれ食うのかぁ・・・

 捌かれた状態を見る限り、マズそうには見えなかったんだが、トカゲと思うと食欲が湧かないなぁ。

 ここは異世界だし、ああいうのを食うのが普通というか、文化なんだろう。

「せっかくだし、少しだけ残してもらって、キリも食べてみなよ」

「あれを?」

「わたしは食べたことないけれど、人気らしいよ」

 そりゃあ、赤ちゃんのあなたが食べられる物じゃないですよね。

 イメージとしちゃあ・・・焼肉かもつ鍋か?

「私の保管庫は冷蔵もできますから、保存用としてある程度残しておきますね」

 こういう話が出なきゃ、全部売ってたな、この人・・・

 別にいいけど。


 などとやり取りをしていると、


「レノトが見えてきたね!」

 ドッシュたちが軽快に走ってくれているおかげで、レノトが見えてきた。

「そんな急がなくてもいいぞ、自分たちのペースで走っとくんな」

 急かしたつもりはないんだが、想定よりも早く着きそうではある。

 ドッシュたちにとって普通のスピードだったらいいんだが。

「・・・ねぇキリさんや」

「どうしたんだいヴェロニカさんや」

「向こうのほう、騒がしくないかい?」

 周囲を軽く見回すと、レノトから西へ少し離れたところで砂煙が見えた。

「・・・嫌な予感しかしないなぁ」

 苦戦させられた、これから食うことになる、あの化物が脳裏にちらつくが、

「いや、ランドリザードじゃなさそうだね。人とモンスターの意思が乱雑に入り乱れているよ」

「・・・それって、大量発生では?」

 大量発生って・・・何が?

 もう嫌な予感しかしてないんだが。

 嫌な予感が継続してるんだが。

「キリ、行ってみよう!あっちに行ってみて!」

「ギャ!」

 ヴェロニカがドッシュを向かわせてしまった!

「おいおい、この前の話忘れたのか!?」

 危険な場所へ自分から踏み込むことはしない。

 これを約束させたはずなんですけど!

「分かっているけれど、行く先の町だし、見逃してよ!」

 少し離れたところではあるが、確かに町も近そうに見える・・・

「そもそも、大量発生って何が発生するんだよ!?」

「それはまあ、モンスターですね」

 ・・・ですよねぇ。そういうものしか発生しませんよねぇ。

 当然でしょ、みたいな感じにもなるよねぇ。

「経験とお金になります。相手によっては簡単にあしらえますし、行ってみて損はありませんよ」

「危なかったら、わたしが大きい魔法で吹き飛ばしてあげるから!」

 それはそれで怖いんですよ。また大変なことになりそうな気がして・・・

「見えてきました!」

 ドッシュが軽快に飛ばしてくれるからか、あっという間に目視できる距離まで近づいてきた。

「あれはレッドゴブリンだね!」

 

 レッドゴブリン、とな・・・?


 ゴブリンっていうとアレか?

 マンガとかゲームとかでよく出てくるような・・・

「大して強くないから、ちゃちゃっと倒しちゃおう!」

 ヴェロニカが言う強くないってのは、俺のそれとは基準が違う。根本的に違う。

 信用できんなぁ。

「すげぇ大混戦だな・・・」


 大勢の人間と、大勢のモンスターが入り乱れて戦っている。

 まるで、大河ドラマの合戦みたいだ。


「盛り上がってるねぇ!」

「ワクワクしてんじゃないよ」

 ピロン!

 注意した直後、まるでスマホが鳴ったみたいに何かが鳴った。

「なんだ・・・?」

 スマホはヴェロニカに預けてるし、通信圏外だから通知なんか来ることもない。

 何が鳴るんだ?

「パスポートを見てごらん」

「はい?パスポート?」

 ヴェロニカに促されて、パスポートをポーチから取り出してみると、トップ画面に今まで見たことがない表示が出ていた。

「なに・・・?」


 緊急クエストのお知らせ。

 レノト近郊に大量のモンスターが押し寄せてきています。

 町の防衛のため、周辺にいらっしゃる戦闘ジョブの方に討伐依頼を配信します。


「・・・なんだこりゃ」

 クエストとして配信されていて、しかも広範囲に手当たり次第に送ってるのか?

 というか、探検家って戦闘ジョブ判定だったのか?

「続きを見てごらん」


 配信後、五分以内に参加の意思表明をお願い致します。

 参加してくださる場合、協会が協力金をお支払いします。

 不参加の場合でも、あなたの不利益になることはございません。


「・・・参加は強制じゃないのか」

 こういうのって、強制で無理矢理参加させられて痛い目に遭うってのがオチだと思ってたんだが、そういうわけじゃないらしい。

 断ることもできるはできるってのはありがたい。ただでさえ、頭おかしいんじゃねぇかってくらい強いのと戦ったわけだし、今日は遠慮するってのも視野に入れたいよな。

「ただまあ・・・」

 今回は乗るか。

 パスポートの参加、不参加の選択肢の参加を押す。

 すると、緊急クエストの依頼表示が、参加に切り替わった。

「向かわせたわたしが言うのも何だけれど、いいのかい?」

「ま、やるだけやらにゃな」

 ランドリザードもポイズンスパイダーも、ヴェロニカがいてくれたからどうにかなった。

 この先も一緒にいるだろうが、いつも一緒にいるとは限らない。俺だけで切り抜けられる実力を手に入れないと。

 レッドゴブリンとやらと一戦交えて、経験値を積もうじゃないか。

「マーベルさん、ヴェロニカを頼んます」

「はい!」

 今回は背負って戦える状態じゃなさそうだ。周りに人も多い。

 ヴェロニカをマーベルさんに預けて、

「よし、近くまで運んでくれな」

 俺だけ先行!

「あれがレッドゴブリンか・・・」

 敵がしっかり見えてきた。


 レッドゴブリン。

 その名前のとおり、赤い皮膚をしている。

 個体差は当然あるだろうが、全長は大体140センチくらいか?全体的に痩せ細っているが、これは単純に栄養が足りていないからか、それともゴブリン自体がそういう体型なのか・・・

 武器は棍棒・・・いや、その辺で拾った太い枝のようにも見える。あれはイイ薪になるかもしれん。

 一応、性別もあるらしい。男は腰だけ、女はワンピースみたいな感じの、何かの皮で作られた衣装を着用している。

 栄養不良の小鬼・・・というイメージが妥当か?

「果たしてこれが強いのか・・・」

 とりあえず、行くか!

「ヴェロニカたちのところへ戻ってな」

 ドッシュから飛び降りて、鞭を抜く。

「んじゃ、やりますかぁ!」

 最寄りのゴブリンがフリーの状態。他の戦士に襲い掛かろうとしている。

 駆け込んで攻撃範囲まで飛び込んで、シンプルに革紐を叩き込む。

「ぎえっ!?」

 頭をしばくと、まるでお笑い芸人のリアクションで痛がる。

 見ていて笑える・・・ってならないのは、相手が、

「ぎっ、ぐががっ!」

 化物だから、か。

「おら、来いよ」

「ぎえええっ!!」

 挑発すると、すぐに襲い掛かってきた!

「しっ!」

 スピードウィップで続けて頭をしばく。

 リアクションが大きいからか、隙が大きいように思える。それに、鞭の一発もそこそこ効いているよう見える。

「ぐ、ぐえぇ」

 パタリ。ものの五発打ち込んだだけで倒れた。

「・・・こんなモン?」

 ぶっちゃけ、これに困ることある?って印象だ。

 これは俺が楽観的過ぎるのか、トカゲとクモを相手にして感覚が麻痺したのか・・・

 たぶん、後者だな。いきなり強いのを相手にしちまったから、基準がおかしくなったんだ。

「よし、どんどん行くか!」

 すでに戦闘は始まっている。いや、始まって割と時間が経過しているのかもしれない。

「助っ人か!?ありがたい!」

 俺の参戦に気付いた剣士がいるが、

「奥から来てるぞ!気を付けろ!」

 割と消耗している。怪我はしてないようだが、土汚れもあるし、掻いている汗もすごい。

 それに、地面に転がって悶絶している連中も一人や二人じゃない。

「そら、そっちだ!」

「お、おう!」

 ゴブリン相手に困るくらいの実力なのかもしれないが、数も相当多い。

「なあ、最初はどれくらいの数がいたんだ?」

「最初は三十匹もいなかったんだ!だけど途中で増えて・・・」

 今はもう何匹か分からん、と。

 こりゃあ、終わるまで集中を切らさないようにしないとなぁ。

「よし、このまま突っ切るか!あんたも一緒に来るかい?」

「お、おう!」

「左側は任せる!名前は?」

「キースだ!ご覧のとおり、剣士をしてる!」

「キリヤだ!右側は俺がやる!行くぞ!」

 キースと一緒にモンスターの多い方へ突っ込む!

 こういう数が多い現場だと、こっちも集団で連携を取りたい。

 キースもそうだが、他の連中も大半がソロで活動しているように見える。一部はパーティを組んでいるみたいだが、少数かもしれない。

 相手は集団で来ている。その場で居合わせたからいきなり連携ってのは難しいだろうが、しないよりするほうが警戒できる範囲も広がるし、単純に手数も多くなる。

「なあ、あんた!魔術師か!?俺たちが守ってやるから、一緒にどうだい?」

「え、ええ・・・?」

 こうやって声を掛ける中で戸惑う奴もいるが、混乱している状況で自分が思い通りにいかないことも多いらしく、

「わ、分かったわ!攻撃は任せて!」

 こうやって参加してくれる場合もある。

「リオーネ、俺とキースの間に立て!程良い距離感でいてくれたら、俺たちが守れる!攻撃は任せる!」

「難しいことを要求するわね・・・!」

 承知の上で要求しているんだが、俺も後ろを気にしながら戦わないといけないわけだし、全員が高度なことをしてるんだよ・・・!

「よし、進むぞ!」


 剣士のキースと、白魔術師のリオーネ。

 三人体制になって、一気に七匹倒せた。


 前衛二人と後衛一人。効率的に倒すことができた。ある意味、理想的なパーティかもしれない。


「粗方片付いたように見えるけど・・・」

 緊張感はそのままに、一呼吸入れて状況確認。

 周りに転がっているのはゴブリンと、体力が尽きた連中くらい。

 まだ戦えそうな連中は・・・ざっくり十人くらいか?

「何匹いたんだ、これ・・・」

 最初は三十匹だったって話だが、それ以上の数が転がってるぞ。きっちり数えてる場合じゃないが、ざっくり五十匹じゃきかない数だ。

「ちょっと待って、向こうでまだ誰か戦ってる!」

「まだいるのかよ!?」

 もう少し離れたところで、まだ何人か戦っている。

「全滅まで終わらんし、行かねぇとな」

 途中で抜けるってこともできないのか、それともしない理由があるのか・・・

 どっちにしても、参加しておいて抜けるってのは気持ちのいいものじゃないし、行けるところまで行かないとな!

「よし、行くぞ!キースは俺と前へ、リオーネは後ろから支援してくれ!」

「おう!」

「分かったわ!」

 二人を連れて、まだ戦闘が行われている現場へ急行!

「いくわよ・・・シャインアロー!!」

 リオーネが光の矢で最寄りのゴブリンを射抜いた!

「うーし、突っ―――」

 突っ込むぞ、と言おうとした瞬間。


 前の集団から人が一人、吹っ飛んできた。


「・・・はあ??」

 思わず足が止まった。キースもリオーネも、吹っ飛んできた奴を見て動きを止めてしまっている。

「う、ぐぐっ、ふぅっ・・・」

 苦しいのが分かるくらい、声がしんどそう。


 それでも、ゆっくりと立ち上がったのは、耳の尖った少女だった。


「・・・エルフか?」

「え、エルフが何で・・・」

 あの子、耳が長くて尖っている。

 色白で細い体つきで、長い若草色の髪の毛。顔も割と可愛い気がする。

 なるほど。こっちの世界でも、ああいう子をエルフというのか。

 などと思っていると、

「うおっしゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 可愛い顔が一気に豹変。

 雄叫びを上げて、

「燃えてきたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 またモンスターの群れに突っ込んでいった・・・

「・・・えっ?」


 あの子、ああいう子なの?


 可憐そうな見た目してるのに、なんかいきなり女子格闘家みたいな顔つきになって・・・走り込んでいったんだけど・・・

「エルフって接近戦を避ける種族じゃなかったっけ?」

 こっちでもそういう認識なのか?

 エルフ族って聞くと、どっちかっていうと後衛で、回復魔法だったり、弓が得意なイメージ。それに、大人しそうな気がする。

 間違っても、

「どりゃあぁぁぁぁ!!」

「ぎ、ぎあ!!」

 拳を固めて小鬼と殴り合うもんじゃないと思うんだが・・・

 まあ、そりゃあエルフが殴り合いを専門とする世界もあるとは思うが、

「め、珍しいわね」

 ・・・とまあ、リオーネのリアクションから察して、俺のイメージとラヴィリアの常識がそう遠くないことが分かった。

 分かったが、

「だっ、コラァ!!」

 例のエルフの女子が小鬼を殴り倒した。

「っしゃあっ!!」

 清々しい笑顔・・・結構ボコボコにされているようだが。


 あの子、やる気というか気合というか、そういうのは明らかにある。明らかにあるんだが、攻撃力と機動力が低いように見える。


 戦士はパーティの前衛。接近戦の要で花形。攻撃力を重視するもの。

 だが、ゴブリン一匹倒すのに十発くらい殴っている。俺でも上手くいけば三発、四発くらいで倒せるが、それ以上の手数を要しているとなると、攻撃力は俺よりも低い。

 それに、相手の攻撃を避けられていない。全て受けている。

 攻撃を受けるってことは、致命傷になり得る。相手が今のレッドゴブリンくらいならまだしも、それこそランドリザードみたいな巨大でパワーファイトを仕掛けてくる敵には危険だ。避けるというのは思いの外重要だと、この世界で分かった気がする。

 ガードはしているようだが、あの華奢な体つきだと少しのダメージでも重くなるかもしれない。避けるほうがいいのは明白だが・・・

「おい、キリヤ・・・」

「おっとぉ・・・」

 キースに言われて気付いたが、奥から別の個体がやってきた。

「でけぇな、オイ!!」


 体は赤いが、さっきまでしばき倒してきた個体と比べ物にならないくらいでかい!


 身長は3メートルくらいだろうが、ガリガリで骨と皮だけの小鬼と比べても、ガタイがごつくなっている。まるでプロレスラーだ。

 持っている武器も、枝とかじゃなく、ぶっとい丸太だ。その辺の木を折って持ってきたんだろうか。

「ありゃあ・・・ボスゴブリンだ」

「ゴオァアアアアアアアアア!!!」

 小鬼と比べても、相当荒れてる。

「ゴアッ、ゴオァ!!」

 その割に、小鬼たちを指揮している。

 なるほど。小さいゴブリンたちを統率するボス・・・それがコイツってことか。

 統率する力はあるみたいだし、人間に知能は近くなったのか?

 いや、今はそんなことはどうでもいいか。こいつを倒さないと終わらん。

「・・・リオーネ、あと何発魔法撃てる?」

「あ、あと・・・撃てて二発かな」

 俺とキースの攻撃も、通じるか分からない。頼りなるのは魔術師の攻撃だと思うが、この二発で仕留めないといけないとなると難しいな。

 なんか、嫌な予感がするんだよなぁ。トカゲの時と同じ感じがする。

「キース、俺たちであれを引き付けるぞ。二人で気を散らせば・・・いや」

 さっきのエルフの女子も、他の連中もいる。

「接近して気を散らしている間に、リオーネができる限り攻撃力を高めた魔法を撃ち込む・・・これが最良だろうと思う」

「まあ、ありゃあ・・・」

 丸太を振り回して、剣や槍を持った戦士たちを殴り飛ばしている。

 上手く立ち回っても、接近戦で一太刀入れるのも難しい。

「そうなるよなぁ・・・」

「リオーネ、頼むぞ!」

 まずは小鬼を排除したいが、

「ぎえええっ!!」

「ぎえっ、ぎえっ!!」

「こいつら・・・!」

 さっきよりも動きがよくなってる、だと!?

 攻撃は当てられるものの、リアクションも薄くなってるし、二匹で連携している・・・

「こいつは・・・!」

 何かしら仕掛けがありそうだな。いきなり動きが良くなるわけがない。

 ただ、今はそれを解き明かすことができない。シンプルに叩くだけだ。

「クラッシュソード!!」

「シッ!!」

 キースと協力して最後の個体を倒して、

「あんたら、協力してくれ!一人や二人じゃこいつにゃ勝てん!!」

 周囲に呼びかけるものの、

「うるせぇ!!俺の手柄の邪魔すんな!!」

 というヤツもいれば、

「も、もう動けん・・・!」

 丸太で殴られて身動きが取れないヤツがいる。

 一方で、

「うりゃあぁぁっ!!」

 意気揚々と殴りかかる、例のエルフの女子も。

 こりゃあ、骨が折れるな。トカゲの時とは別の形で。

「とにかく、やらにゃ話が始まらん!キース、手前で引き付けろ!俺が奥に行く!」

「おう!」

 俺はそこまで防御力は高くないはずだし、ここは本職にお任せするとしよう。

「なあ、エルフのお姉さん!協力してくれ!」

 気を散らす要員は多いほうがいいんだが、

「ああ!?邪魔すんじゃないよ!今いいところなんだからなァ!!」

「おまっ、マジか」

 見た目メチャクチャきれいなのに、言動が残念ときたか・・・

 別にどうでもいい。どうでもいいんだが、なんか釈然としない。

「ゴオオッ、アアァァァッ!!」

 ボスゴブリンが丸太を振りかぶった!

「うっ」

「おい、避けろ!!」

 俺は後ろに飛んで丸太が届かない距離まで離れられたが、エルフの子は動きが鈍い・・・!

「ゴッ、オアァァァァァッ!!!」

「ぐっ!!!」

 まるでテニスラケットでボールを打つみたいに、丸太がエルフの少女に直撃した!!

「がはっ!!」

 両腕でガードしてはいたが、質量もパワーも大きい攻撃・・・さすがに吹っ飛ばされた!

「チッ」

 さすがに心配になるが、そればかり考えちゃおれん!

「この隙を狙う!」

 大振りの攻撃で、右半身に大きな隙が見える!

「これでどうだ!!」

 力を込めて右わき腹に革紐を叩き込んだ!

「グガッ、アア!?」

 叩き込んだものの・・・

「・・・ブフゥ・・・?」

「・・・ああ、大丈夫そっすか?」

 脇腹を指でポリポリ掻いてるだと・・・?

 あまりダメージになってないってか。そりゃあ、剣士やら魔法使いと比べると、一発の威力なんて微々たるもんだろう。そんなもんだろうが、それはそれで傷つくぞ・・・


「リジェネ!!!」


 遠くで声がした。

 何かのスキルみたいだが、

「いっくぜぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」

 この感じは・・・

「おらぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 あのエルフの子だった。

 何かのオーラみたいなものを纏って、走ってこっちに向かって来る。

「おいおい、あんだけやられて、何であんなに元気なんだ?」

 口の周りにも衣類にも、血が付いている。服は小鬼のそれかもしれないが、口周りはあの子のだろう。明らかに大ダメージを負っているはず。

 それなのに、今から参戦します、みたいな元気・・・どうなってんだ、こりゃ。

「あの子、やっぱりヒーラーなのか!」

「ヒーラーなのに格闘家やってるの!?え、どっち!?」

 キースもリオーネも困惑しているようだが、

「二人とも、今はそれ置いとけ!!目の前のを倒すぞ!!」

 俺も気になるけど。気になるけど、目の前にまだ敵がいる。

「ぐはぁ!!」

 生意気な剣士も吹っ飛ばされて、周りにいるのは俺たちだけ。俺の思惑からだいぶ外れはしたけど、これで集中してやれる。

「よし、あの子を中心にして戦うぞ!」

「大丈夫かよ、オイ!」

「やるしかないんだよ!」

 こっちの言うことを聞いてくれないなら、上手い事使っていけばいいだけのこと!

「リオーネ、一発で決めろ!!」

「余計な重圧を与えないで!!」

 いや、余計じゃなく、ここは一番本気の部分なんだけど・・・

「行くぞ!」

 殴り合いをしているエルフを横切って、

「スピードウィップで!!」

 まずは相手の動きを奪いたい。

 スピードウィップで相手の足を狙ってしばくと、

「グッ、グガガッ!!」

 意識がこっちに向く。そこを、

「クラッシュソード!!」

 キースが剣で左わき腹を斬り裂く!

「ガガッ!?」

 足元に打撃、上半身に斬撃。そして、

「あんたら、やるじゃないか!!」

 正面に立ったエルフが、

「グローパンチ!!!」

 渾身の右ストレートを腹部に叩き込んだ!

「グフッ!?」

 ふらついてくれたか!?

「リオーネ!!」

「シャイン、アロー!!!」

 小鬼に撃っていたものとは比べ物にならないくらい大きい矢が放たれ、それがボスゴブリンの胸部を貫いた!!

「いったか!?」

 どすんっ!!

 巨体が倒れて、地面が少し揺れた!

「よーしよしよし!」

 即席にしちゃあ、上出来のコンビネーション、そしてその結果よ!

 俺たちの攻撃は大したことなくても、シャインアローの一発は相当あるはず。

「グ、グブ・・・」

 まだ息があるってか。

「ちょっと・・・結構いっぱいいっぱい溜めて撃ったシャインアローなんだけど・・・」

 一応倒せてはいるが、仕留めきるまでいかなかったか。

 ・・・ヴェロニカなら一発で破裂させているかもしれないな。

 あれは特異な例なわけだし、比べるのはリオーネに申し訳ないか。一般レベルだとこれが標準なのかもしれないし、比べるのはやめておこう。

「よし、仕留めるぞ」

 いつ動き始めるか分からない。回復する手段もあるかもしれない。

 俺たちも疲弊しているし、さっさと倒しておくに限る。

 ナイフを抜いて、

「キース、心臓だろうと思うところに一発、叩き込んどけ。俺は頭をやる」

「おう」

 こいつもトカゲと同様、脳天と心臓を潰せば終わるだろう。一応、生物だし。

「いくぞ・・・クラッシュソード!!」

 ボスゴブリンに乗り上がったキースが、胸部に剣を深く突き刺した。

「グゥゥ・・・!」

「悪いな。これも一種の生存競争ってやつだ」

 俺はナイフを額に突き刺した。

 ボスゴブリンは動かなくなった。うめき声も出ない。

 少しすると、パスポートから音が鳴った。

 ポーチから取り出して、

「・・・ふぅ・・・」


 モンスターの発生が収まり、レノトの脅威が取り除かれました。

 貴殿の協力のおかげです。

 協力金の受け渡しを行いますので、協会へお越しください。お待ちしております。


「終わったか・・・」

 この終わった時の脱力感・・・

 生きてるわぁ。俺。

「こんなバケモン相手にするの、初めてだぞ、俺・・・」

「私も・・・」

 キースはゴブリンの上で、リオーネは地面に座り込んで脱力。

 確かに、初めてだったらしんどいよなぁ。これは・・・

 正直に言えば、俺もいつやられるかヒヤヒヤしていた。近くにヴェロニカもいないし、かと言って連れて来られたわけでもなく、援護無しで挑まないといけない緊張感。

 結局、俺一人の力じゃどうにもならなかったわけだが・・・まあ、ヴェロニカに頼らずに倒せたってことで、一歩進んだってことにしておくか。

「あんたも疲れたろ。町にもどっ―――」

 言いかけて気付いた。


 あのエルフの女子・・・立ったまま気絶してる。


「・・・ええぇ・・・???」

 どういうオチだよ、コレ・・・

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