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「助かったよ。ありがとう」
「ったく、無茶しやがってよ」
ジェシカは不満そうに、イケおじの患部に当てていた手を離す。
「あとちょっと回復が遅れたら、下手すりゃくたばってたぞ、お前ら」
「ジェシカさんに感謝ですね」
「全くだ」
*
イケおじがマイコーの後頭部をぶん殴って気絶させた後、
「こんなことを君たちに頼むのは虫が良い話だということは分かっている。だが、どうか頼む。俺たちを助けてはくれないか?」
回復を依頼された。
「てめぇ・・・どの面下げて言ってんだ?」
今まで散々、面倒事に巻き込まれた。
特にジェシカの場合、マイコーたちとは因縁があるから余計に腹が立つだろう。言葉の節々に棘がある。
「そう言われても仕方がない。俺たちはそういうことをしてきた。だが、今はこの有様だ」
イケおじも大概だが、マイコーとメリルも相当なダメージを負っているし、回復の要であるパーシーも自分の回復で手一杯といったところだ。
こりゃあ、そのまま放っておいたらマジで全滅だ。
いや、パーシーだけは生き残るかもしれないが、他三人はかなり厳しいだろう。
マイコーとメリルはノックアウト状態だし・・・イケおじだけは何とかなるかもしれないが。
「断る。テメェらにゃ散々因縁つけられたからな」
とまあ、こういう風になるのは、ある意味自然なことではあるが・・・
「では、こうしましょう」
ジェシカとイケおじの間にマーベルさんが入った。
「あなた方、鋼の剣はジェシカさんに報酬を支払う。これでいかがです?」
「おいマーベル。あたしはそもそも嫌だっつってんだぞ」
「確かに、彼ら・・・特に剣士の方の面倒事には悩まされました。ジェシカさんも腹が立っていることも理解できます。ですが、ここまでボロボロの彼らを見捨てるのは目覚めが悪い」
まあ・・・確かに目覚めは悪いな。相当。
ピンピンしてるならまだしも、アイラに相当痛めつけられてるからな・・・加減してくれていたからどうにか五体満足の状態なんだろうが、下手をすりゃ腕の一本や二本で済まないだろう。あのサイクロンエッジとかいう神力は。
「それにまあ・・・こうやって頭下げてるわけだし」
パーシーは自分に必死だし、他の二人は気絶しているから仕方がないにしても、イケおじは誠意を持って頭を下げてきている。
これを無下にするってのは若干心苦しいところがあるよなぁ。
「なので交換条件として、適正な報酬を払ってもらえば良いでしょう」
治療費ってことにしておけば、それなりに心の整理もつくだろう。
「それに加えて」
「え?お金の話だけじゃないの?」
思わず尋ねてしまった。
「散々されてきましたからね。それだけで納得できるほど、甘くはないでしょう」
・・・絞れるまで絞るつもりだな、これは・・・
まるで濡れた雑巾みたく、水分が無くなるまでねじってねじってねじり倒す、と。
「それなりに価値のある物を提示していただきます」
「・・・金銭ではなく、物で判断する、ということだな」
「そういうことです」
これで了承したら、最悪の場合、丸裸にされることもあり得るな・・・
「分かった。その条件を飲もう」
「いいでしょう」
マーベルさんは紙切れとペンをイケおじに差し出して、
「サインしてください。口約だけでは逃げられるかもしれませんし」
「この状態で逃げ切ることはできないし、するつもりもないが・・・」
イケおじはペンを取って、
「いつの間に契約書を作ったんだ・・・」
「こういう時のために、多少の準備はしていますよ」
えぐすぎる。対応力がえぐすぎる。今に始まったことじゃないけども。
「ではジェシカさん、お仕事です」
「・・・本当にやんのかよ」
「これはあくまでも商売です。さあ、始めましょう」
*
という流れで今に至る。
まずはパーシーの治療を行った。
ヒト族だから大した回復速度はないとしても、治療する人間は一人より二人のほうがいいっていう理由だ。
そして傷が深いマイコー、メリルを終わらせて、最後のイケおじっていう順番になった。
本来ならイケおじも相当なダメージを負っているわけだが、体力的に余裕があって、最年長だから他の連中を優先してほしいっていう希望があった。
本当に体力があるほうだからできたことだが、優先順位をわざわざ下げるのは悪手のような気がする。実際、ジェシカも不満そうに・・・っていうか、露骨に不満が態度に出ていた。
とりあえず、全員の治療を終えはしたが、何ともモヤモヤが残る一件になった。
「では、貴重品を並べてもらいましょう」
一息つく間もなく、マーベルさんが身ぐるみを剥ごうとしていた。
「分かった。パーシー、全員の荷物を出して彼女の前に」
「了解」
いくら商売とは言っても、ここまでしなくてもいいような気もするんだが・・・
「キリさん、それは違うよ」
ヴェロニカがテレパシーで話しかけてきた。
「こうしておくことで、彼らを牽制しているんだよ」
また俺の前に現れたらどうなるか分かってるんだろうな、みたいなことか?
だったらまあ、十分な牽制にはなるだろうな。
何せ、助けてもらった相手に身ぐるみを剥がされるんだ。イケおじならともかく、マイコーみたいなプライドの高いやつからしたら屈辱以外の何物でもない。
仕返しも考えられるが、もう二度と会いたくないっていう考えを植え付けたほうが身のためか。
「あら、良い物をお持ちで」
マーベルさんがマイコーの荷物の中から、マナタイト鉱石の原石を発見した。
「それは・・・マイケルが剣の強化に使おうとしていた石」
・・・ということらしい。
どういう使い方をするかで性能は変わってくるだろうが、
「これはいただきましょう」
マーベルさんは鉱石を荷物から抜き取った。
「これはなかなかの痛手だな・・・」
どうせマイコーのことだ。世間的に討伐が難しいレアモンスターの素材が手に入ったら、剣の強化を最優先にしただろう。
マナタイトは産出量が限られてるって話だし、そりゃあそうするのが普通だと思うが。
「他は大した物はありませんね・・・」
散々物色しておいてそのセリフとは・・・本当に怖いな。色んな意味で。
「では、鉱石だけをいただきます。そして報酬ですが、一人当たり十万フォドルで手を打ちます」
「お、おお・・・」
貴重な鉱石だけじゃなく、金まで巻き上げていくとは・・・さすがとしか言いようがない。
「結構な大金だぞ・・・あんたら、払えるのか?」
「ああ、その辺りは問題ないが・・・」
ないんかい。まあ、そこそこ実力はあるほうなわけだし、それなりに貯蓄もしてるんだろうが。
「十万と言わず、有り金を持っていくといい」
イケおじが財布をポーチから出して、
「おいおい、そこまで言ってないだろ」
「いや、いいんだ。パーシー、みんなの金を集めろ」
良くはないだろう。
ただでさえ悪者みたいなことをしてる気分なのに、拍車が掛かってしまう。
「要求の額は入っているはずだ。これで手打ちにしよう」
「・・・いいでしょう」
集まった財布からお金を抜いて確認したマーベルさん。
様子からして四十万以上はあったらしいが・・・
「俺たちは今からこの森を出る」
イケおじは荷物と武器を持って、
「どこに行くんだ?」
「一旦は首都に戻ろうと思う。二人も伸びたままで、これ以上ユニコーンがいる森に滞在するのは危険すぎる」
妥当な判断だろう。
あれだけボコボコにされりゃあ、仕方がないところではあるし・・・
「態勢を立て直して、今後のことを決めるつもりだ」
今後のこと、か。
パーティのことか、イケおじ本人のことか、それともまた別のことか。
何となく、こいつらに何かが起こるような気がする。
まあ、首都に戻ってくれるならもう関わることもないだろうし、別にどうでもいい話ではあるが。
「君たちはここを拠点にしたようだが、早く去ったほうがいい。見ての通り、ユニコーンの能力はとてつもなく強力だ」
「ああ、そりゃあ分かってる」
ただ、俺たちは襲われないとは言えんよなぁ。
「今まで済まなかった。ではな」
イケおじとパーシーは騎獣を連れて来て、マイコーとメリルを載せた後、自分たちも乗って去っていった。
「ようやく彼らと会わなくて済みそうだね」
「まあ、そうだな」
目の前でボコボコにされていく様を見られ、その傷の治療までしてもらい、挙句貴重品とお金まで巻き上げられて、プライドもズタズタだろう。
マイコーとメリルは気絶している間に起こったことだから何ともだが、後で知ったらどうなるか分からないが。
逆上して追ってくることも考えられるが、これから俺たちは更に北上して、あいつらは南下する。それに活動資金も空の状態になっているわけで、資金調達することを踏まえると、簡単に振り切れそうな気はする。
何にせよ、あいつらと会うことももうないだろう。
そう考えると、この展開で良かったのかもな。
『去りましたか』
森の奥からアイラが戻って来た。
「なんだ、待っててくれたのか」
『あなたに神力を授けていませんからね。それに話をしたいとも思っていました』
こりゃあ、長い夜になりそうだな。




