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ガラパゴス・ガーディアンズ こちら航空宇宙消防本部第十七小隊  作者: 霧山純
第十三話「たんなる異性の限界内の友情(前編)」
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たんなる異性の限界内の友情(前編)・2b

 なにやら廊下からバタバタがやがやと騒がしい人の気配が近づいてきたかと思うと、華たちの部屋の玄関前で物音が止まり、続いて呼び鈴が軽快に鳴った。


「来た!」

 ユズが小声で叫び、呼応するように華と愛梨紗と妙子は立ち上がった。全員、このときのためにしっかり顔を洗って着替えを済ませ、妙子などは口紅まで塗っている。華は、そんなきれいな妙子を見て、今度お洒落をもっと教えてもらおうと思った。

「はい、ただいま」

 と、妙子が玄関まで出ていった。


 ドアが開くと、そこにいたのは妙齢の上品な女性だった。ふわりと袖の広がった白いブラウスと、ハイウエストの青いロングスカートを着て、長い髪を赤いリボンでまとめている。そして、顔には古風な細いフレームの眼鏡という装い。

「あら、早苗(さなえ)さん」

 妙子はちょっと驚いて後ずさりした。


「お邪魔しますよ天野さん、あら、みなさんおそろいですか? 千堂さんはいらっしゃらないようですけど」

 早苗はリビングを覗き込んで、冷ややかに状況を観察した。何を隠そう、この女性はこの女子寮の寮長だ。名を花園(はなぞの)早苗さなえという。歳は三十。


「しのぶさんはまだ寝てます」

 妙子がさらに後ずさりすると、早苗はずんずんと部屋の中へ踏み込んできた。

 その背後から、三国(みくに)龍之介りゅうのすけと、なぜかロジャーこと山田(やまだ)健太郎けんたろうがひょいと顔を出した。健太郎がこちらに向かってにかっと笑ってみせた。


「龍之介さん!」

 と華が思わず声を上げてしまったので、早苗はすかさず振り返り、男たちを一喝した。

「まだ入っちゃいけません!」

 龍之介たちはしゅんとなって廊下の向こうに姿を消した。


「早苗さん、説明させてください。実は深い事情があって……」

 妙子が両手で抑えようとすると、早苗は冷たい口調でこう言った。

「ええ、そのことなら、先ほどあの方たちからお話を伺いました。何もおっしゃらなくて結構です。あなた方がお困りになっていることはよくわかりました。ですが、ここは女子寮です。男性の立ち入りは禁止となっております。あなた方も、そのことはご承知のはずですよね?」

「はあ……」妙子はぐうの音も出ない。


「早苗ちゃん、お願い」

 ユズが両手を合わせて早苗にすがりついた。「どうか龍之介さんをしのぶさんに会わせてあげて」

「あら、ユズちゃん」

 早苗はユズの前だと表情が少し優しくなった。兄のコウジが新人の頃からの長い付き合いだからだ。

「ユズちゃん、あなたが呼んだの?」

「ううん、私じゃない、華が呼んだの」


「ユズのバカ!」と華は心の中で叫んだが、早苗の突き刺すような視線を浴びて、華はたちまち縮こまった。

「あなたね、元凶は」

「はい、私です」

 早苗はさらにずんずんとリビングに踏み込んできて、華の前に仁王立ちになった。

「あなた、公私混同で任務に支障をきたすようでは、宇宙消防士失格ですよ」

「はい、ごめんなさい」


「恋愛禁止とまでは申しませんけど、もう少し自覚を持っていただかないと、あなたのためにみなさんが迷惑されるのですよ。たとえばあの方たちのような(龍之介たちを振り返って)有能な方たちが、もしこの件で上から目をつけられて処分を受けられるようなことにでもなったら、それこそ救われるはずだった人たちの命が救われなくなってしまうといった事態にさえなるかもしれないのですよ。もし、そうなったときにあなたに責任が取れますか?」

「ごめんなさい」


「早苗さん、もう、いいじゃありませんか」

 涙目になっている華の前に、龍之介が割って入った。

「あら、ダメじゃありませんか、女子の部屋に入ったりなんかして」

「処分だってなんだって受けますよ。俺が責められるのは構いませんが、桃井をこれ以上責めないでやってください」

 龍之介は、華の前で自分を盾にした。


「それとこれとは別です。あなたはすぐにここから出ていきなさい!」

「あんたが出ていくなら、俺も出ていきますよ」

「力ずくでそうするとおっしゃるなら、どうぞ、そうなさったらよろしいじゃありませんか」

 早苗は両手を広げて龍之介につかみかかろうとした。龍之介はここで手を出すわけにはいかないと、器用に左右に身体をかわした。そうしながら、華を部屋の向こうに押しやった。


「ご両人、そろそろそのくらいにしておきましょうよ」

 健太郎は、華を受け止めてユズがいるほうへ逃がしてやった。ユズは泣いている華に、しきりにぺこぺこ謝った。

 さらに健太郎が参戦したことで、リビングはえらい騒ぎになった。


 そんな騒ぎを尻目に、個室のドアが開き、しのぶが目をこすりながらよたよたと現れた。

「ああ、寝過ぎた。頭が痛い……」

 呆気にとられた妙子が、しのぶのそばに駆け寄る。

「大丈夫? しのぶさん」

「何の騒ぎ? うるさいんだけど」

 しのぶは愛梨紗の姿を見ると、にやりと笑ってこう言った。

「いい匂いじゃん、今朝はパンケーキ?」

「すぐ温め直すけん、そこに座って待っときーね」


 しのぶがパンケーキとサラダを食べている間も、リビングでは早苗と男二人が口論を続けている。華は龍之介の後ろでおたおたしていて、しのぶが出てきたことに気づいていない。

 ユズがやっと気づいて、ダイニングテーブルのほうへやって来た。

「あ、しのぶさん、おはよう」

「おはよう、ユズ。なんなの? あれ」

「さあ……」

 と、ユズはとぼけた。


 言い合いに疲れて、やっと静かになった頃、龍之介はようやくしのぶの存在に気づいた。

「あ、しのぶ、大丈夫か?」

「大丈夫か、って、何が?」

 妙な空気が流れた。みんなが心配してああだこうだと思案を巡らせていた当のしのぶが、何食わぬ顔で部屋から出てきて朝飯を食っている。

「せっかくの休みなのに、どこにも出かけないの?」

 しのぶはみんなを見回して、不思議そうにそう言った。

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