プロメテウスの火・1a
黒いボディスーツの上にオレンジ色のジャケットを羽織った五人の新人宇宙消防士たちが、ガラパゴス日本区航空宇宙消防本部の滑走路を歩いている。
管制塔では管制官たちが慌ただしく指示を出し、レスキュー隊員を乗せた航空機が次々と飛び立っていく。まさに今、史上最大のスクランブルが展開されているところだ。各国の政府はすでに事態を把握しているようだが、それを国民たちに発表する段階にはまだ至っていない。だから人工島の人々は、この猛烈な離陸の様子を、呑気にイベントか訓練でも眺めているような感覚で見ている。
リーダーの桃井華を中心に、救命医の天野妙子、宇宙船技師の千堂しのぶ、パイロットの佐藤愛梨紗、そして通信士の夏木ユズ。五人は左右に広がり、スペースプレーンが待機している第七滑走路を目指し、まっすぐに前を向いて歩いている。
それを追うように、後ろから一台の屋根なしの緑のジムニーが走ってきた。時代遅れのクラシックなガソリン車だ。運転しているのは前田六郎教官で、サングラスを着けているためにその表情はうかがい知れない。後部座席には三人の、アバター訓練室の女性スタッフが同乗している。彼女たちもなぜかおそろいのサングラスで統一している。
古めかしいエンジンの音に、しのぶが真っ先に気づいた。
「げえっ、教官たちが追ってきたよ」
「気にすることないよ」
華は堂々として振り向きもしない。
ジムニーは五人の横に滑り込んできた。端を歩くユズのすぐ近くに、運転席の前田教官の顔がある。
「教官、お姉さんたち、やっほー」と、ユズは小声で言って、小さく手を振った。
妙子はびくびくしながらうつむき、しのぶはそっぽを向き、愛梨紗はきまり悪そうにきょろきょろしているが、華は動じずに前を見て歩いている。
前田教官はのろのろと車を走らせながら、運転席から顔を突き出し、サングラスを取った。
「お前たち、腹は減ってないか?」
愛梨紗の頭がぴくりと動いた。しかし、みんなは無視している。
「減ってるよな?」
と、教官は念を押す。
華たちがアバター訓練室に緊急で呼び出されたのは午後二時だった。昼食から二時間以上が経ち、いろんなことがあって気持ちが高ぶっていて空腹を気にするどころではなかったが、確かにお腹が空いていた。
後部座席のお姉さんたちもサングラスを外して、何やら大きな紫色の風呂敷包みを持ち上げた。
「ユズちゃん、これ持っていきなさい」
名指しされると無視できない。ユズは手を伸ばして包みを受け取った。それは四角くて、ずっしりと重かった。
「これ、なんですか?」とユズ。
「おにぎり。私たちが握ったの。ウインナーと玉子焼きも入れといたから」
「わあ」と、愛梨紗が嬉しそうな声を上げた。
華は、ちらっと教官の顔を見た。教官がずっとこっちを見つめているのに気づいて、思わず目を逸らす。教官はそれを見逃さない。
「桃井、もう俺は怒っていないから、そんな風につれなくするな」
華は黙っている。
「俺がお前を怒鳴ったのは、お前が先輩たちのことを信用していないように思えたからだ。仲間を信用しないで自分勝手に行動する奴は、現場をかき回すだけでなんの役にも立たないからな」
華は、まだ黙って前を向いて歩いている。
前田教官は言った。
「でもな、お前を見ていてわかったんだ。お前は龍之介君たちのことが信じられないわけじゃない。ただ、これから起きようとしていることに対して、最善の方法は何かと考えた結果、そういう選択をしたのだと……、そういうことだよな? お前は自分の中から聞こえる声に、素直に従っただけなんだ」
華は、ほんの少し上を向いて考えた後、ついにわずかに視線を動かした。そして、教官とちょっとだけ目が合って、すぐに逸らした。
「そういう声は、ときに真実を教えてくれることがある。どんな理屈よりも明確だ。宇宙消防士の勘というやつさ。お前にはその素質があるのかもしれない」
華はついに教官のほうを向いて、照れくさそうに肩をすくめてみせた。
教官は言った。
「がんばってこい。最善を尽くせ」
「ありがとうございます」
と、華ははにかんで笑った。




