ACT.88 その在り方(Ⅲ)
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レオーネが目覚めた時、遠くから響く悲鳴が聞こえた。
「な、にが?」
重い頭痛に額を片手で押さえて、彼女は身を起こす。
ぼんやりとした視界がはっきりとすると、そこが見慣れぬ肋屋であることがわかった。
肋屋の歯抜けのような壁の隙間からは、明るい日差しと大勢の人たちの剣呑な叫びと地響きが漏れ出していた。
「い、かない、と」
彼女は現状がどうなっているかを知らない。
だがそれでも、今が自分が行かなければならない状況であるというのだけは直感的に理解した。
「行かないと!」
自身を鼓舞するように言葉を吐き出し、簡素な寝台から立ち上がる。
だが、その瞬間に足元に力が入らずによろめいて床に膝を突いてしまう。
──彼女は自分のその無様で情け無い為体に、歯を食いしばった。
この場にライや他の誰かが居たのなら、気を使わせない為に彼女はもしかしたら渇いた笑顔を浮かべていたかもしれない。
だがここには誰も居ない、それ故に彼女は感情を剥き出す。
悔しい、腹が立つ、いっそ殺してやりたい──と、自分に対して。
「あ、姐さん目が覚めたんですか!」
物音を聞いて肋屋に入ってきたのは、以前レオーネが助けたスラムの小男であった。
どうやら此処は彼の住まいであることを、レオーネは知った。
「なんか騎士様がさっき突然走り出して、なんかそっちからたくさん人が!」
「おっけー、だいたいわかった」
その言葉でライが此処へ意識の無い彼女を運んだこと、そして彼が既に戦いに赴いたのを理解する。
「──私に殺らせてっていったのに、しょうがないなぁ」
だが彼は何も悪く無い。
悪いのは、弱い自分自身であることをレオーネは重々承知している。
だから責めるのは、自分だけ。
そして激励をかけて奮い立たせてくれるのも自分だけだ。
パン、と両手で頬を叩く。
痛みで目が覚める、気合いが入る。
「じゃあ、私も行ってくるから貴方は避難を」
「む、無茶ですって、ふらふらじゃないですか!?」
ふらつきながら立ち上がるレオーネを心配して支えようと近づく小男を彼女は片手で制する。
「──私はこの為に此処にいるの。お願いだから、私の在り方を奪わないで」
優しく、それでいて覚悟を感じさせる笑みを浮かべて。
そしてレオーネは駆け出した。
己の生きる意味を果たす為に、罪の精算と救済の為の一歩を踏み出したのだ。




