ACT.86 最優の交戦(Ⅱ)
警棒による打ち払いを右膝に受けて姿勢を崩しかける転生者は、倒れ込む最中にライに向かってその剛腕を振るう。
その剛腕が振るわれる風切り音を耳にしたライは、振り向かずに後方へ跳躍回避する。
折角作った追撃の機会を棒に振った形ではあるが、ライとしては慎重に動かざるを得ない。
何故なら今のライは黒鎧を着装していない。
単純な防御力だけならば転生者相手には心元ない場合が多くあるが、それでもあの鎧は特別製。
あるのと無いのでは、生存率に雲泥の差が生まれる。
更に言うなら愛用の盾も無く、些細な一撃が致命的な結果を招き寄せる可能性が非常に高い。
繊細に、慎重に、冷静に。
死合い運びをしなければならない。
「どうするのが、正解か」
視線を敵から逸らさず、一挙手一投足を見逃さずに臨機応変な対応が出来る余力を残しながらも脳内では更なるプランを練る。
肉体変化の異能の応用で、転生者は傷を瞬時に修復してくる為生半可な攻撃は無いも同義。
しかし、失った肉体は再度同じ量の血肉を補給しなければならないというのもわかっている。
ならば──。
「──ストックを削り切るのが正解か」
それならば、とライは木製の警棒の両端を両手で持つと右膝を思い切りソレに打ちつけて二つにへし折った。
「!?」
予想外の行動に狼狽える転生者を無視して、ライは再び疾駆する。
迎撃せんとまた大振りに腕を振るう転生者のソレを掻い潜り、懐に入り込む。
そして鋭利にささくれだった切先を柔らかな脇腹に突き刺した。
「ぎゃあ!?」
更に捻りこむように押し込んだ後、一気に引き抜く。
故意に広げた傷口から鮮血が噴水の様に吹き出してスラムの地面を赤く染める。
ライは引き抜いた後、更にまた転生者から距離を取る。
既に塞がった傷口を抑えたまま、転生者はライを睨む。
そんな転生者に対して、ライは口を開く。
「本当は首を刈り取るのが一番早いんだけど」
異能の所謂核となっているのは脳であるというのが、聖教会の異端審問部の調査研究で明らかにされている。
異能は、脳を中心点として作用する。
故にこの転生者の場合は、首を落とせば首を中心に再生が始まる──だが再生しきるだけの肉の蓄えが首にはない為、再生しきれずに死ぬだろう。
だが、今の装備で首を取ることは厳しい。
更に手足を切り詰めてストックを削ることも難しい。
そんな中でライがたどり着いた答えがある。
手持ちの武器で一番削りやすい──損失させやすい肉体は何か。
「失った分の血液も、肉体変化で補うんだろう。──なら、そこを狙うのが最適解だ」
人体の中で最も欠損、損失させやすいモノ──血液。
ライは、転生者を失血でストックを削りきろうと考えた。




