ACT.59 粛清騎士レオーネ・ゴドウェン(Ⅰ)
「聖教会所属、粛清騎士序列四位レオーネ・ゴドウェン! 女神に代わって、これより秩序を遂行します!!」
名乗りを上げると同時に、彼女は身を低くして勢いよく地面を蹴る。
地を這う獣のような極端な前傾姿勢は、人間相手に慣れた相手ほど迎撃がし辛い。
だからこそ、怪物は迫りくるレオーネに対して踏みつけで迎撃を図る。
怪物が左足を大きく振り上げた瞬間、レオーネは更に加速する。
より細かく、より強く大地を蹴り上げて進む様は、獣の疾走というより燕の低空飛行に近い。
そして何より、異様な速度で走っていながら──。
「軸足、もらうよ」
──その動きは、羽毛のように軽やかだった。
怪物が振り上げた足の有効範囲をするりと抜けたレオーネは低すぎる姿勢で跳躍し、身体を大きく捩じる。
まるで布を絞るかの様に捩じった身体には、恐ろしいほどの力が宿る。
捩じって勢いをつけて両腕をそろえて伸ばし、一気に双斧を振るう。
疾走による加速力と身体の回転による遠心力が、彼女自身の剛力に上乗せされる。
生々しくも堅い何かが切断される異様な音が響き、右足を失った怪物が勢いよく転倒する。
「やっと良い位置に首が来たね」
だが、レオーネはここからさらに追撃する。
大きく夜空へ向かって跳躍。
自身の身長を飛び越えるほど高く跳んだレオーネが、怪物の首目掛けて刃を振り下ろす。
ギロチンのように振り下ろされようっとする刃を、怪物が真横に身体を転がして回避する。
レオーネの刃が轟音を立てて地面を割った。
しかしその刃には、大量の血と体毛がこびについていた。
大きく転がって態勢を直した怪物は、右肩からの大量出血に小さくうめき声をあげる。
怪物はここに来て、大きな怖れと戦慄を覚えた。
「よっと」
そんな軽い調子の掛け声と共に地面から斧を抜き取るレオーネ。
彼女は、あの激しい動きをしていながら一切息があがっていなかった。
明らかに、異常だった。
彼女は粛清騎士──転生者ではない。
異能を所持していないにもかかわらず、身体能力特化型の怪物を圧倒するほどの戦闘力を有している。
それも、小手先の技量ではなく純粋な身体能力で。
その事実を目の当たりにして、怪物は一歩後ずさる。
異能を使えば今まで誰にも負けたことなどなかった、ずっと勝ち続け喰らい続けてきた。
それなのに異能なしでここまで強いなんて、と怪物は思った。
こんな酷い話があるか、と。
「──こんなの、こんなのまるでズルいじゃないか」
そんな怪物の呟きに、彼女が笑う──。
「あ、喋れたんだね」
──否,嗤った。




