ACT.44 謀の影(Ⅲ)
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屋敷の二階窓から飛ばされたであろう、助けを求める手紙。
それを確認した二人は、事が急を要すると判断した。
「本来なら、実直なデータ集めて外堀からじわじわと責めるのがセオリーなんっスけどね。どうします?」
「一時引こう。どのみち今踏み込むことはできない」
そう言って踵を返して街中へ向かう。
助けを求める手紙を見て、即行動に移さないライのその姿は、見ようによっては非情に見えるかもしれないが、実態は異なる。
今、引くのは助けるべき相手を、確実に助ける為。
この手紙の差出人が不明で、かつ今回の件に絡んでいる転生者の正体も不明だ。
「容疑者は、三人」
「領主であるエルトール伯と、メイド。――そして、娘さんっスね」
そう、今回の件の容疑者は、三人に絞り込まれているといっても過言ではない。
あの屋敷に住んでいる三人。
通常の犯罪行為などなら、年端も行かない二人の少女は除外されそうなものだが、転生者相手の場合は異なる。
転生者には、見かけの年齢は関係ない。
前世の記憶、人格に覚醒するタイミングはまちまちだ。
生まれた瞬間にすでに覚醒している場合もあれば、老年に差し掛かった時という場合だってある。
だからこそ、見かけで判断するなんて発想は最初から消している。
「それに、今回は状況が複雑だ。三人の関係が、どのパターンか見極めなければいけない」
ライが想定しているのは、三人の配役だ。
今回想定できる役は、三種類。
一人目が、倒すべき転生者。
二人目が、護るべき人質。
最後が、何らかの理由で転生者に組みしている協力者。
それぞれの配役の位置、そして枚数によって取れる選択肢も取るべき手段も異なる。
「――まぁ、一端落ち着いて考えを纏めましょう。時間もちょうどいいですし、教会に帰って昼飯とかどっスか?」
「そうだね。じゃあ、帰りながら何か適当に買っていこう」
この街でライたちが一時活動拠点にしている教会は、無人である。
普段は隣の町にある教会の神父様が、兼任で管理してくれている。
その為、帰りがけの屋台かどこかで食べ物を買って帰るのが、一番手っ取り早い昼食の取り方であると言えた。
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そうして、教会に紙袋を持って帰ってきた二人は、客室に椅子とテーブルを用意して腰を下ろす。
「あ、自分が水をもってきます」
ノアがそう言ってサンドイッチの入った紙袋を置いて席を立つ。
ライがしばらく待っていると、銅のコップを持ってノアが帰ってくる。
「パイセンは先に食べてても良かったのに」
ノアが何気なく言うが、ライは静かに首を振る。
「そんな少しを待てないほど空腹じゃなかったから」
何となく律義さを発揮したライをしり目に、いそいそとノアは反対側の椅子に座る。
「自分は、もう腹ペコっス」
そう言って、いただきますも無しにノアは紙袋から取り出したサンドイッチに齧り付く。
――瞬間、その表情が凍り付く。
齧りついたサンドイッチからそのまま静かに口を離したノアは、静かにこう言った。
「――これ、毒はいってますね」




