ACT.42 謀の影(Ⅰ)
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「ぐっ、うぅ」
あくる朝、ライは酷い頭痛と共に目を覚ます。
街の教会、その一室でライはのそりとベットからはい出そうとする。
「み、水」
喉の渇きを感じて虚空に手を伸ばすと、その手にそっと水の入った銅のコップが渡される。
「――こうなると思って、水もらって来てましたよ」
ライに水を手渡したのは、ノアであった。
その水を、ライは一息に飲み干して、口元を袖で拭う。
未だに早鐘の様にガンガンと脳に響く頭痛に耐えながら、ライはふらふらと立ち上がってノアにコップを返す。
「あ、ありがとうノア。――ところで、昨日何があったっけ?」
ライの頭の中からは、昨夜の記憶がほとんど吹っ飛んでいた。
「確か、髭の男がなんか言ってたのは覚えているんだけど」
自信なさげにそんなことをいうライの様子に、ノアは大きなため息をこぼす。
「昨日、自分らに絡み酒かましてきたオッサンから、いろいろ聞けたのはいいんッスけど、そのあと『お前らも酒を飲め』っと言われて、パイセンは断ろうとしたけど中々相手も引かなくて、最後は――」
「――飲んだんだ、僕」
粛清騎士、ライ・コーンウェル。
その最大の弱点は、アルコールであった。
弱い酒でも一杯飲めばK.Oされてしまう程、アルコールを受け入れられない体質。
「飲めないなら、断ればよかったと思うんっスけど」
「い、いや、善意で勧められたから断りづらくて」
「――まぁ、パイセンが卒倒してくれたから絡み酒脱出が早くできたんですが」
そう言いつつ、蒼白な顔のままライは着替えを始める。
「パイセン、そんなふらふらで行けるんっスか?」
「だ、だいじょうぶ」
そう、今日は領主へ会いに行く予定であった。
「そういえば、領主には事前に連絡とかはしているんですか?」
「してはいないけど、それが?」
「それってあってもらえるんですかね」
領主というのは、案外多忙だったりする。
税収だけを得て、のうのうと怠惰に暮らしているのもいるにはいるが、そんなのは少数派だ。
「大丈夫。聖教会の粛清騎士が面会を希望するんだ、それを拒否できる要件なんて殆ど存在しない。そもそも、抜き打ちで行かないと意味がない」
――そう、これは監査ともいえる行為だ。。
転生者との癒着があるか、あるなら証拠を暴かなければならない。
そして、疑惑があるのだ。
「領主は、何故か業者から家畜を集めている。――が、この領地からの主だった輸出の流れは無い筈」
この不審さには、ベルタが気が付いて、ライたちを派遣した。
聖女からの信託で、この領地は出ていない。
だが、信託漏れの可能性もあるし、それに――。
「あの竜王への手がかりになるかもしれない」
信託にあった転生者は、粛清騎士がほぼ狩り尽くしている。
転生者の王を名乗る少年が、転生者を束ねている――束ねるだけの転生者仲間がいるなら、それは全て信託漏れの転生者になる。
そもそも、信託漏れがどのくらいいるかもどこに潜伏しているかもわからない。
だがもし、ここの領主が転生者と癒着してるのなら、その転生者は信託漏れだ。
それならそいつは、竜王につながっている可能性があった。
――今回の任務は、そんな重要性を秘めていた。




