ACT.110 兆候(Ⅰ)
これ以上ライの障害になりそうならば、その白く細い首をへし折ってしまおう。
そう、衝動的に左手をセリアの首元目掛けて突き出そうとして──。
──その手が、勝手に止まった。
「えっと?」
不自然な俺の様子に困惑して小首を傾げてみせるセリアに対し、俺は即興で状況を誤魔化そうとセリフを放り出す。
「失礼、虫が飛んでて。ほら、外の席だから」
首を鷲掴みにするような拳の形を握り込むように変えながら、我ながら拙いと思う嘘を吐く。
予想外の事態に動揺して、俺らしくもない稚拙な嘘を吐いてしまう。
「申し訳ない、手を洗ってくるから待っていてくれないか?」
「え、あのライくん!?」
そう言って俺は握り込んだ拳をそのままに席を立つ。
彼女に顔を向けないようにしながら、店の中へ──そして人目につかない場所へ移動する。
そして、焦りと苛立ちからダンッと強く壁を殴った。
「何がどうなっている」
あの時、一瞬俺の動きが止まった。
いや違う、止まったんじゃなくつま止められたんだ。
眠っている筈の、表の深層意識に。
「今まで、こんな事なかったぞ──?」
表と裏のパワーバランスは俺の方が圧倒的に高い。
俺の方からはライの意識を自由にオンオフすることも、軽い記憶改竄すら出来るが逆は無い。
ライの意識が俺に対して何かをする、という事態は今までで一度もないし、そもそもあってはならない。
だが、今回は明らかに俺以外の意思が身体を止めていた。
セリアを殺させまいとしていた。
俺は軽く瞳を閉じ、胸に手を当てて心の深層部分に探りをいれる。
──ライの意識は、眠ったままだ。
そうして今のライは表層に出た俺を認識していないのを改めて確認する。
予想外の、全くこれまで想定していなかった出来事に思わず左手で顔を覆う。
「今のはただのエラーか、何かの兆候か」
この世界では何かが起こり始めている。
竜王を名乗る謎の転生者に、奴に与する転生者たち──組織的に団結した転生者たち。
奴らの存在が、何かしら俺たちにも影響を与えているのか。
その可能性は──いや、わからない。
今まで通りに事を進められないのなら、俺も覚悟を決めるしかない。
「今まで以上のことをするしか、な?」
9月まで更新お休みします。




