ACT.93 人間らしい営み(Ⅰ)
カーティス特務神父からの突然の休暇指示を受けたライ。
これ以上聖教会本部にいることもままならず、渋々私服に着替えて出て行く。
なんとはなしに釈然としない思いを抱えたまま向かう先は"驢馬の鬣亭"だ。
「なんか、久しぶりに帰ってこれた気がする」
実際、長期の遠征任務が続いてベネトナシュに帰ってくることがしばらくできなかった。
経営しているカワード夫妻のご好意で屋根を貸してもらっているのに申し訳ないと思い、帰り道の途中で簡単な土産を買って向かう。
聖教会本部を中心として幾つかの大通りが走っているこのベネトナシュの第四大通りの中腹ぐらいの位置に"驢馬の鬣亭"はあった。
観光都市の外観イメージを壊さないような地味でこじんまりとした見た目ではあるが、経営しているカワード一家の人柄もあり、常に人の行き来が多い活気のある店だ。
その名前のとおりの看板が見えて、心無しかライの歩みは軽やかになる。
──ライ自身はその事に気が付いてはいないが。
「お、お邪魔します」
長らく留守にした事もあり、ライは少し申し訳なさそうに扉を開ける。
昼のピークを過ぎた頃合いで、店のお客は少し少なめに見えた。
おそらく今ぐらいなら、奥でまかないを食べている頃だろうなとライは察しをつける。
カランコロンと扉に付けられたベルが来客を告げる音を鳴らすと店の奥から賑やかな足音が近づいてくる。
「いらっしゃいま──ライ君!」
店の奥から笑顔で出てきた少女は、ライの姿を見るなり更に表情を輝かせる。
軽快な足取りで席と席の間をすり抜けてライの元へ向かうと、少女はライの手を取って満点の笑顔で彼を迎える。
「おかえり!」
栗色の三つ編みとそばかす、そして夏の太陽のように眩いハツラツとした笑顔が印象的なこの少女の名前はセリア・カワード。
"驢馬の鬣亭"のカワード夫妻の一人娘であり、看板娘。
そして数少ない──否、唯一ライに取っての。
──いや、これ以上語るのは辞めておこう。
これ以上裏が語るのは野暮ってモノだ。
とにかく、セリアはライにとっての唯一無二であった。
まぁ、当の表はまだ自身の気持ちには気が付いていないようだがね。
セリア・カワード、1話以来の登場です。
本当はもっと出したかったけど、機会があまり無くて……。




