プロローグ─休暇─
「コーンウェル、君はしばらく休暇だ」
「──はい?」
エルトール領からプロキシマでの任務を終えて、王国第二都市ベネトナシュにある聖教会本部へと帰還した粛清騎士ライ・コーンウェル。
諸々の報告を上官であるカーティス特務神父へ行った最後に彼からそう告げられる。
「きゅ、休暇ですか?」
「右腕を骨折しているじゃないか」
先日、プロキシマでの戦闘で利き腕を骨折していたライ。
そう問われた彼は、添木された右腕をぐりぐりと動かしてみせる。
「大丈夫です、まだ戦えます」
「いやそういう問題ではないんだが」
ライからの斜め上の回答に特務神父は眉間の皺に指を当てて深い溜息を溢す。
「ごく一般的な基準では、骨折というのは大怪我の分類であって」
「問題ありません」
「なかったら何も言わないよコーンウェル」
言いながら呆れたように乾いた笑い声を上げる特務神父。
任務の最中であれば、骨折程度は圧して戦闘続行するのが粛清騎士たちの常ではある。
だが、今回は事情が異なった。
「現在、ベネトナシュに手の空いてる粛清騎士が君の他に三人もいるのだ。ならば、余裕があるうちに君を休ませるのは必要だろう」
「しかし特務神父」
「もしハウエルが同じ状態で同じ事言っていたら、君はどうするかね?」
「それは──そうですが」
そこまで諭されて、ようやくライは渋々自身の非を認める。
「かしこまりました。それでは謹んで休暇を取らせていただきます」
「よろしい」
そして姿勢を改めて一礼したのち、ライは踵を返して部屋を出──ようとした所で特務神父に呼び止められる。
「待てコーンウェル。ちなみに聞くが、これから何処に行こうとしている?」
呼ばれて振り返ったライ。
彼は何てことなさそうに特務神父にこの後の予定を答えた。
「修練場で、自主的な鍛錬を」
「休めコーンウェル」
▽▲▽
粛清騎士序列六位ライ・コーンウェル。
14歳で任命されてから3年経った彼であるが、実はこの間に完全な休暇を所得したことがなかったのである。
──つまり、この若すぎる騎士は休み方を知らなかった。




