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死神様  作者: 柴田盟
第2章南へ。
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悲しみの運命

 壷を持っていく途中、母さんは足を滑らせて、こけて壷を割ってしまった。


 その瞬間あらゆる殺気を感じていたが、それも無くなってしまった。


 つまり私は人間にとりつかれる事は無くなったのだと言う事が分かった。


「はああ、この壷は一千万円したのに」


 母親は壷を割った事に慟哭するのだった。


 私の命よりも一千万円の方が大事かあ~。


 ため息をついこぼしてしまう。


 するとリリンが光の紐でつないだ父親を解放しに出てきた。


「もしかして、この壷を割ったのはお前か?」


「ごめんなさいあなた」


「こいつで雅人を保険金にかけて殺すつもりだったのにどうしてくれるんだ」


 そこで私が「せめて私が居ないところでそれを言えよ」


「雅人よ、これがお主の両親か?」


 同情に近い眼差しで私の事を見つめる。


「そんな目で見ないでくれよ。そんな目で見られると何か辛い」


「すまぬ」


「ところで・・・」私が話を進めようとしたところ、アケミとリリスが私達の前に現れた。


「ゴキブリみたいな生命力ねあなた達は」


「アケミ、リリス、靖子さんを返せ」


「人質を返せと言われて返すバカがどこにいると思うの?」


「何ぃ!?」


「靖子とやらは元気よ。証拠なら見せてあげるわ」


 リリスが片手を上げて、頭上に靖子さんの姿が映し出された。

 しかも靖子さんは悲しそうに下着姿のままで映し出されている。


「貴様等、絶対に許さないぞ」


「許さないからどうすると言うの?」


「クッ!」


「あなたは小説家のようね。私があなたの物語を作って上げる。しかもバットエンドにね」


「アケミ、お主の野望もここまでじゃ」


 リリンはアケミにめがけて、先ほど父親を縛った光の鞭を放ったがたやすくリリスに受け止められてしまった。


「リリスどういうつもりだ」


「どういうつもりもない、すべてはアケミ様の仰せのままに」


「リリス、行くわよ。それとついでにそのゴミも始末してちょうだい」


「ゴミ?」


 すると頭上から私の母親と父親にめがけて二つの槍が刺さった。


「父さん!母さん!」


 私は父さんと母さんの元へと行く。


 すでに即死だった。


「哀れな両親を持ったのもだのう。雅人よ」


 アケミはそう言って、リリスと共に消えていった。


 父さんと母さんの遺体を見つめて思う。

 これでも私を育ててくれた両親だ。

 両親との微笑ましい記憶が走馬燈のように蘇る。


「雅人よ気持ちは分かるが、そ奴らの心は黒く染まっていた」


「うるせーよ!」


「雅人」


 リリンの優しい眼差しに見守られながら、両親の事を思い出していた。

 昔から私はわがままだったが、それでもちゃんと育ててくれた。


 いつからその歯車が狂い始めたのかは、すべては私のせいだ。

 私がアケミにあんな事をしなければこんな事にはならなかった。

 私はアケミに対して許されない事をしてしまった。


「リリン、僕は幸せになって良いんだよね」


「もちろんじゃ。お主がそれを強く思えば、我の力も増す。とにかく呪いは解けた。これでお主の危険も軽減された。靖子も見つけやすくなった事だ」


「そうだ。僕の物語はバットエンドなんかで終わらせはしない」


「その粋じゃ。その思いを強く思うのじゃ」


 そうだ。リリン言うとおりだ。


 強い思いが残酷な現実を壊すことが出来る。


 アケミ、もうお前の事を許しはしない。

 私の人生をこうも変えたのだから。


「行こうリリン」


「ふむ」


 こうして僕は両親を亡くして、また靖子さんを探す旅に出かけるのであった。


 両親に殺されそうになったとは言え、両親を亡くした心の痛みはすぐに治まる事はなかった。


 しばらく私は小説を書く意欲がわかなくなってしまったのだ。


 それでリリンは僕の事をとがめようとはせずに優しく寄り添ってくれた。


 私はリリンに聞いてみた。死神であるリリンは両親は居るのかと?


 そしてリリンは答えた。もちろんだとも、と。


「リリンはそんなに幼いのに、両親に会えなくて寂しくないの?」と聞いたら「我はこう見えてもお主の十倍は年をとっている、今更両親の事なぞ考えている余裕は無いわ」


 そうか。


 靖子さんを探しにリリンに頼り、靖子さんは西に行ると言っている。


 バットエンドなんかで終わらせてたまるものか。


 思えばアケミは最初に出会ったときは大人しくて気の弱い小さな女の子だった。

 それでも僕より年上で大学を出ても就職も出来ない訳ありの女の子だった。


 あれはフリースクールで出会ったのだ。

 僕は彼女に勉強を教えてもらい、そんな彼女にひかれていった。

 だが彼女にはその気はなく、私を傷つけまいと、丁重にお断りされた。

 でも私は諦めきれずに彼女の愛されたいと願い、何度も何度もアプローチをした。

 それでも彼女アケミは僕を拒んだ。

 それで私の中でエスカレートしていって、彼女のストーカーとなってしまった。

 許されないことは分かっていたが、自分でも止めることが出来なかった。


 なぜあの時、自殺未遂に追い込むまで僕は彼女にしつこく迫った。

 もしかしたら私は彼女のことを愛していなかったのかもいや愛していなかったと言った方が適切だ。


 そうだ。すべて私が巻いた種だ。

 私が刈り取らされるべきなのだろう。


 その為に両親を亡くした。友も亡くした。私の居場所も無くなった。


 でもこんな私でもリリンと靖子さんは私の事を許してくれた。

 靖子さんは僕と結婚までしてくれた。


 この幸せを壊す者はたとえ、刈り取らされる罰であろうとも死守しなければならない。


 リリンは言っていた。


 私には大きな使命があると。


 それがなんなのか分からないが、それを見つけに行かなくてはいけない。


 私はアケミの罪は認める。

 でもリリンと靖子さんと出会った幸せは何としても死守する。


 たとえそれが刈り取らされる罪であっても。


 あれから二日がたち、私に小説を書く意欲が舞い戻ってきた。


「さあ、リリン、小説を書くよ。この創作意欲で靖子さんを助けに行こう」


「待っていたぞ雅人、雅人には大きな使命がある。その使命に打ち勝つために我に力を与えてくれ」


「任せておいて」


 私は今東京の小さな下町の喫茶店で小説を描いている。

 もっとリリンに未知なる力を発してもらい靖子さんを助けに行くんだ。


 アケミ行っておくがお前にした事は悪いと思っている。


 でも私の手にした幸せを奪うものなら、それは神に反する事だとしても許しはしない。

 だから私は負けない。


 小説を書き続ける。


 そんな時、私のスマホに着信が入った。


 着信画面を見ると文術社の前原さんからだった。


「もしもし」


「こちら文術社の前原ですが、雅人さんですよね」


「そうです。雅人です」


「本屋はごらんになられましたか?」


「いえ、まだ」


 僕達は散々な目にあっているので、本屋なんかに行く余裕がない事は伏せておき「いえ、まだ見ていませんが」


「あなたの小説が十万部売れて、今大盛況となっている事はご存じはないですか?」


「十万部?そんなに売れたんですか?」


「ファンレターも出版社にたくさんあります」


「そうですか」


「嬉しくないんですか?」


「嬉しいですよ。でもこちらでちょっとした事情がありまして」


「事情と申しますと?」


「あなた方には関係のないことです」


 そんな言い方は素っ気ないとは分かっていても、編集部の前原さんに言っても仕方がない。


「まあ、私達に力になれることがありましたら、何なりと申し出ください雅人先生」


「雅人先生ですか、何かこそばゆいんですが」


「あなたはもはや文芸会の新人スター並の人ですよ。もっと胸を張っても言いと思うんですけれども」


「そうですか?」


「それより今はどこにおられるのですか?」


「ちょっと待ってください」


 僕はスマホを伏せてリリンに相談してみる。


「リリン、出版社の方が会いたいそうなんだが、会っても大丈夫かな?」


「ふむ」


 しばし考え込み、「大丈夫だと思うが」


「今、東京の新小岩にいます」


「今東京におられるのですか?じゃあ是非今からでも猛ダッシュでそちらに伺いたいのですか、よろしいでしょうか?」


「はい」


 今居るお店の名前を教えて、三十分後にはこれる様子だ。


「リリンこれから以前仙台で会った前原さんが来る」


「そうか」


「それとリリン、私の小説が十万部を売り上げたそうだ」


「そうなのか?」


「そうみたい」


「なるほど、最近力が増すと思ったら、それが原因か?それで何を話し合うんだ」


「そこまでは聞いていない。多分メモリーブラッドの第二巻の話かもしれない」


「とにかく雅人よ。お主の小説がそこまで売れているのじゃ、これは我にとっても力になる。じゃから我の為にも雅人自身の為にも、もっと小説を書き続けるのじゃ」


「分かっているよ」


「ようし、もっと面白い小説を書き続けるぞ」


「その粋じゃ」


 小説を書く間もなく前原さんはやってきた。


「雅人さん、それにリリンちゃんも」


「はあ、何か照れくさくなってしまう私であった」


「今回の話の件ですが、以前靖子さんでしたっけ、その人に雅人先生の不躾に書いた小説を読ませてもらいこの小説を文庫化したいと思いまして、今日ははせさんじました」


「それと靖子さんはどうしました?」


「靖子さんは今実家に帰っています」


 この人にアケミやリリスの事を話しても仕方がない。


「そうですか、靖子さんはイラストレーターとしては一流ですと私は思います」


「それとメモリーブラッドの第二巻を検討中なのですが、そちらはいかがなさいますか?」


 メモリーブラッドの第二巻か、そう言えば靖子さんがさらわれたと同時に、第二巻の表紙をメールで添付してきたっけ。


 だから、「メモリーブラッドの二巻はすでに出来上がっています」私はポメラのデーターを取り出して、さらにその靖子さんが描いたイラストも見せた。


「素晴らしいイラストですね、それと小説の方は、ここで読まさせてもらいます」


 小説を読むには時間がかかる。

 その間、リリンに力を蓄えるためにメモリーブラッドの三巻を書いている。


 一時間くらいが経過して、出版社の編集さんの前原さんは「全部読まさせてもらいました。いや素晴らしい作品です」


「そうですか」


「私がこんなに絶賛しているのに嬉しくないんですか?」


「嬉しいですけれど、今はちょっと訳があって素直に喜べない状況なのです」


「靖子さんと何か会ったのですか?」


「・・・」


 この人に話しても仕方がないと思って話さなかったが「もし私でよければ力になりますが?」


「その気持ちだけで結構ですよ。今、メモリーブラッドの三巻を執筆中でして」


「さすが雅人先生、メモリーブラッド第二巻を出す前にもう次の小説を、それとこの不躾に書いたノートの方を文庫化したいんですがよろしいでしょうか?」


「それじゃあ早速、その時の靖子さんのイラストを添付してください」


「じゃあ、まず初めはこの不躾に書いたノートの方を文庫化にして世に送り込みます。そしてメモリーブラッドの第二巻は少し間をおいて半年後に出版させます」


「ありがとうございます」


「じゃあ、今日のところは失礼させて貰います。これからも頑張ってください」


 出版社の編集さんの前原さんは勢いよく飛び出してしまった。


 それで言い忘れたかのように前原さんは戻ってきて「あっそう言えば、忘れていたんですが、メモリーブラッドの売り上げのお金はどこに振り込めば良いですか?」


 そう言えば私は通帳を一枚持っていた。


「ここに振り込んでくれれば良いです」


「分かりました。では後ほど」


 と言って私のコーヒー代とリリンのパフェ代もおごってくれた。


 雅人先生かあ~。靖子さんと一緒ならもっと喜びを分かちあえたと思ったのに。


 そこで私は思いだした「そう言えば、リリン、僕たちが有名になったら何かきな臭いとか言っていなかったか」


「ああ、覚えている。靖子をさらったのもそのせいかも知れぬ」


「じゃあ、出版はなしにした方が良いんじゃないか?」


「でも雅人のファンが増えれば我の力が増す一方じゃ」


「そうか」


 時計を見ると午後七時を示している。


「リリン、何か食べに行くか?」


「そうじゃのう。そろそろお腹が空いてきたのう」


 ここ新小岩はかなりしゃれた店でいっぱいだった。


「リリン、何か食べたい物はあるか?」


 リリンに聞いてみたがいつの間にか居なくなってしまった。


「リリン」


 心配になって呼んでみると、回転寿司屋の手前で立ち止まっている。


 雅人よ。お寿司が回っている。


「じゃあ、夕ご飯は回転寿司にしておきますか」


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