カーチェイス
私は呪いをかけられ思った事をリリンに告げる。
「リリン。もう私に構うのはやめろ。お前まで邪悪に染まり、いつか私を殺そうとする日がやってくるかも知れない」
「大丈夫じゃ、我は人間ではない死の神だ。神様である。そんな呪いに惑わされるほどの者ではない」
「もうやめてくれよ。もう私は死にたい」
するとリリンは私の頬を強く殴り、「甘ったれた事を言うな。お主がそうなったら靖子はどうなる」
「靖子・・・さんも・・・人間だ・・・仮に出会えたとしても・・・僕にかけられた呪いで・・・僕を殺しにかかるよ」
みっともなくも私は涙を流してしまった。
「そうか、ならば我がお前を介錯する」
「介錯って事は私を殺すんだね」
「そんなに死ぬのが嬉しいか?」
「私は死ぬ以外に、もう何も望むことはないよ」
リリンはナイフを召還して、倒れ込んでいる私に差し出した。
これで死ねるのだ。
ナイフを拾い、いわば切腹しようとした時、それはナイフではなくただの棒だった。
「お主本当に死にたいと思っておるのじゃな」
「思っているとも、これ以上の絶望を味わって、死にたくならない人なんていないよ」
僕はみっともなくも泣きわめいた。
その姿を見ているリリンの視線を感じる。
そして鈍器のような物で、後頭部を殴られ、私は・・・・・。
****** ******
気がつけば真っ暗闇の中でイスに座らせられて鎖で縛られていた。
「気がついたか?」
真っ暗な闇の中でリリンが手に炎を灯している。
「何のつもりだ?早くこいつを外してくれ」
「我の契約を忘れたか?雅人よ」
「一年は僕の味方になってくれるって言っていたな」
「そうじゃ、一年、一年はおろかまだ半年もたっておらぬぞ」
「だったら今すぐに私を殺してくれ」
「雅人よ、呪いの発信元を突き止めた」
「どこにあるんだそれは?」
「東京のとあるビルの中じゃ。そこに霊媒師達がお主に呪いをかけている」
「アケミの仕業だろう」
「そうしか考えられぬ」
「じゃあ、今すぐに行こう。その呪いを解くために」
僅かな希望があるならそれにあやかりたくなる。
「雅人よ忘れているようだが。もし我の契約を破ったらどうなるか覚えておるか?」
「僕を地獄に落とすんだろ」
「教えておくが地獄は今のお主の状態よりもきつい所だ。その事を忘れるでないぞ」
僕は大きく息をのみ頷いた。
すると僕を縛った鎖が解けた。
「これからその霊媒師達の所に行くぞ」
「行くって言ってもどうやって」
「お主のために作っておいた」
それは数珠だった。
「それを腕に巻き付けておれば、人間からの気配は消える。さあ靖子を助ける前に霊媒師を退治しに行くぞ」
「退治って、その霊媒師強いんじゃないの?」
「大丈夫じゃ。我がついておる」
リリンの言う地獄ってここよりも酷いところなら、もう死ぬわけには行かないな。
それよりもリリンはどうしてこんな僕の肩を持つのだろう?
私みたいに死にたい人間なら何人もいる。
でもリリンは僕の肩を持ち助けてくれた。
そしてリリンがピンチの時、あれは黒磯の高原だった。
私は無我夢中で怒り任せにしたら、空から蛇が降ってきた。
それで悪い連中を一掃することが出来た。
それはずっと気になっていたことだったんだ。僕は何者で何のためにリリンを守り守られ小説を書き続けるのか?
今は考えても仕方がない。
とにかく僕にかけられた呪いを解きに行かなければならない。
「じゃあ、リリン行こう霊媒師の所にってここはどこなんだ」
「ここは高崎市の廃ビルじゃ、靖子を助けるために霊媒師を倒しに行くぞ」
「うん」
廃ビルから出ていくと、もう夜だった。
時計を見ると午後九時を示している。
「新幹線ならまだ走っているよ」
「じゃがまだ数珠は持っているけれど、お主は狙われた身、迂闊に行くのは危険じゃ。金はかかるかも知れぬがタクシーとやらに乗っていった方が良い」
「じゃあ、タクシーで行くことにしよう」
駅前のタクシー乗り場でタクシーを一台呼び寄せて、中に乗り、「お客さん、どこまで行きますか?」
「東京までお願いします」
「東京ってあんたお金持っているの?」
「ありますよ」
万札十枚見せびらかせた。
「わかりました東京ですね」
お金を見せびらかせたら、すんなりと信用してくれた。
「リリン、東京のどこら辺にあるの?その霊媒師がやっている所って」
今、タクシーは高速に乗っている。
何だろう。タクシーの速度が次第に上がってきている。
「どうしたんですか?運転手さん」
「何か分からないけれど、後ろから煽り運転してくるトラックがいる」
「後ろを見てみるともの凄い速度で私達が乗るタクシーに向かって煽り運転をしてきている」
「リリンもしかして?」
「やはり数珠の力だけではそうは行かぬか?
運転手よ後部の窓を開けろ!」
「開けてどうするの?」
「良いから命が惜しければそうしろ」
「はい」
後部座席の窓が開き、リリンは手から稲妻のような物を発して、煽り運転をしてくるトラックを止めた。
だが安心するのはまだ早かった。
次のトラックがまた煽り運転をしてきた。
「何なんだこれは。俺達を殺す気か?」
運転手はパニックに寸前だった。
「運転手さん落ち着いて」
と僕は運転手をリラックスさせる。
後部座席から見える煽り運転をする人の顔を見ると、何かに囚われたような顔をしながら煽り運転をしてくる。
「数珠があれば大丈夫だったんじゃないの?」
「それほど強い霊媒師と言ったところか。クッ、アケミの奴どれだけ小汚い真似をすれば気が済むのじゃ?
えーい運転手よ。このままスピードを上げて東京まで進め」
そう言ったのだが、運転手は、「お前達の墓場となるのはこの高速道路だ」
「アケミの奴そこまで強い霊媒師に頼んでいるそうじゃな。面白くなってきたようだぞ雅人よ」
リリンまで何を言うんだ。
「全然面白くもないよ」
「とにかく雅人よ」
そう言って、運転手を気絶させた。
タクシーは回転しながら進んでいる。
「うわあああああああああああ」
「雅人よ落ち着け、とにかく運転手と運転を代われ」
言われたとおり、車は回転しながら進んで身動きがとれない状態だが、何とかハンドルに手を当てて真っ直ぐに進行した。
そして気絶した運転手を助手席に座らせて僕が運転することになった。
一応運転免許は持っているが、もう何年も動かしてないので、最初は戸惑ってしまったが、とにかくアクセルを思い切り踏めば何とかなると思ってスピードを上げて、煽り運転を受けながらも、とにかく前進した。
「行けええええ」
まるでアクション映画を撮っているような感じだ。
トラックは追ってくる。
私はここで死ぬわけには行かないのだ。
何台もの車を追い越しながらスピードを上げて行く。
それでもトラックは私めがけて追ってくる。
ものすごくスリリングな感じだ。
時速は百六十キロを超している。
それでもトラックは追ってくる。
そして東京に入るインターチェンジを曲がった。
それでもトラックはスピードを下げずに追ってくる。
「くそ一般道路でこのスピードはまずいよ」
「クッ、そのまま走行するしかなかろう」
一般道路に入り、小刻みに車を追い越していく。
そしてトラックはバランスを崩して、倒れた。
また新たなトラックが追い込みをしてきそうなので、私はスピードを徐々に下げて、止まり、リリンと共にタクシーから降りた。
その時警察のパトカーのサイレンの音が鳴り響く。
「クッ、警察にも呪いをかけられた者はおる。だからここは逃げた方が良い」
とリリン。
「逃げるぞ、雅人」
リリンは僕の手を引き、尋常じゃない足の速さで走った。
「なんて早さなの?」
「我につかまっていれば早く走れる呪文を使っておるのじゃ」
「なるほど」
これも僕が創作意欲で満ちたリリンの力なのだろう。
路地から路地へと人気のない真夜中の道を走っていった。
たどり着いた場所は病院だった所の廃ビルだった。
「ここなら人は寄ってこないだろう。
さあ、雅人我は少々力を使ってしまった。
創作意欲を我にくれぬか?」
「もちろん」
僕はリリンの傍らで小説を書き始めた。
ここは暗いので懐中電灯を使うことにした。
そうだ。僕はまだ死ぬわけにはいかないのだ。
僕にはリリンしか頼る者はいない。
そのリリンに創作意欲を注入できるのは僕だけだ。
僕の物語のメモリーブラッドは三巻目に突入した。
空想がドンドン僕の心の中へと浮かんでくる。
それが僕の物語だ。
リリン、創作意欲を捧げている僕を幸せにして欲しい。
出来れば靖子さんも。
何だか眠くなってきた。
****** ******
いつの間に眠ってしまったのか、窓の外から注がれる太陽の光に目をくすぶられ私は起きる。
あれ?リリンは?
リリンが居ない事にふつふつと不安の気持ちに苛まされ、「リリン」と大きな声を出して言った。
するとリリンが現れて「何じゃ朝から騒々しい」
「何だよいたのかよリリン」
「さあ、朝飯の用意は我がした」
「朝ご飯はベーコンエッグにフランスパンをスライスした物だった」
「リリンって料理が出来たの?」
「それはいささか失礼なんじゃないか?」
「でもおいしそうだね」
「とにかく食え、今は一刻を争う時じゃ」
「いただきます」
食べてみるととてもおいしく、本当にリリンが作った物なのかは怪しく思ってしまう。
「何じゃ、雅人よ。こんな事を出来ないとでも思ったか?我は靖子の手ほどきを見ている。じゃから作れるのじゃ」
「そうなのか?」
死神の学習能力はハンパないと思った。
気のせいだろうか?リリンが以前よりもりりしく思ってしまう。
「どうした?我の顔に何かついておるのか?」
「いや、まあ、以前よりもりりしく思えてきて」
「それはお主のおかげかも知れぬかな?」
「どうして?」
「お主の創作意欲に我の力も増してきた」
「なるほど」
「それよりも、お主に呪いをかけている霊媒師の居所を掴んだ」
「本当に?」
「ああ、じゃがお主は残酷な真実を目の当たりにするぞ」
早速霊媒師の所にリリンに案内してもらう。
病院の廃ビルから出ると、そこは私が小さい頃から住んでいた町だった。
しかもこの廃ビルになった病院は僕が生まれた病院だった。
昨日は無我夢中で走ってきていたから、分からなかった。
数珠の力を強めてもらったせいか?人と出くわす事は無くなった。
リリンの後に付いていくと私の実家に向かっている。
「まさか、僕の両親が・・・」
「ふむその通りじゃ、霊媒師はお主の両親じゃ」
驚く事も無かった。両親ならやりかねない。
以前アケミから逃れたときに、保険金欲しさに殺されそうになったからだ。
そして私の家に到着した。
今すぐにやめさせないと。
「雅人よ迂闊に踏み入れて行くのは危険じゃ」
そんなリリンの忠告を無視して僕は家の中へと入っていく。
リビングにたどり着いて、そこには母親が御子姿で父親は神職が着るような袴を着て不気味な壷をテーブルの中央に置き、手をすり合わせ祈祷している。
「母さん?父さん?」
僕が両親に声をかけると、母親は一瞬うろたえた表情になり、父親は嫌らしそうな笑みを浮かべている。
「雅人、帰ってきたのか」
父親が言う。
するとその時、妙な違和感がとれた感じがした。
「母さん、父さん、僕を殺すために妙な祈祷をしていたんだね」
そこで母さんが「何を言うの?親が子供を殺すとでも思ったのかい?」
「じゃあ、その祈祷は何なんだ?」
「これはお前が幸せになるためにしたことだよ」
そう言いながら金属バットを取り出して、僕の顔面に直撃させようとした。
私は殺されることを覚悟して思い切り目をつむっていた。
すると何もない。
恐る恐る目を開けると、リリンが中に入ってきて、父親を光のロープみたいな物で父親を押さえつけていた。
「雅人、その壷を叩き割るんじゃ」
「分かった」
壷に手を出そうとすると母さんが壷を取り上げて、「何をする気だい雅人」
「母さん、その壷をこっちに渡してくれないか?」
「何を言うのこれはお前を幸せにする為の壷だよ。これを割ったら・・・あなたが幸せになれなくなるじゃない」
「茶番はよせ!それは私が不幸にし、私を殺すための物」
すると母さんはすぐに態度を変え、「じゃあ、今まで育ててきた恩を忘れたと言うのか?」
「忘れてないよ」
「学校まで行かせて、何の見返りもなく私達に暴力を降ったのはお前だろう」
「そうだよ。僕は誰に殺されても文句は言えない。だからお金ならここにある」
このお金は私が小説で入賞したときの賞金だ。
「そんなはした金はいらないよ」
壷を持って外に出ていってしまった。




