雅人の婚約者
買い出しに行く途中に、先ほどの老夫妻に声をかけられた。
「あんた達、どこに行くんだね」
「買い出しに行きます」
靖子さんが言う。
「そんな事をせんともうちらとバーベキューでもしないか?」
「えっ?」
私に視線を送る靖子さん。
だから私は「私は別に構いませんよ」
「我もご馳走になろうじゃないか」
「じゃあ、お言葉に甘えまして」
バーベキューをご馳走になりまさに至れり尽くせりって感じだ。
今日は本当に最高の日だった。
靖子さんからプロポーズの約束もあったし、それにここで出会えた老夫婦。
本当に本当に人生が素晴らしい瞬間を私は目の当たりにしている。
日は沈み、バーベキューの準備に取りかかるのを私たちも手伝う。
「奥さん。良い包丁さばきをしているね。あんたは本当に良い奥さんだよ」
「ありがとうございます」
靖子さんは照れながら言う。
靖子さんが私の奥さんかあ。
実を言うと私は結婚は諦めていた。
それでもって靖子さんと出会い、こうしてソウルメイトとして私達は出会った。
でも明日の選考がうまく行けばの話だが。
キャンプファイヤーにも参加させられて大盛り上がり。
みんなで歌って踊り、少々お酒も勧められて飲まない訳には行かないのでご馳走になった。
「何か、すごく幸せなんだけれども」
私がお酒の勢いで叫んだ。
「何を言っているの雅人さん。これからもっと私達は幸せになるんだよ」
靖子さんは言う。
この時はまだ知らなかったんだ。
私達の幸せを壊そうとする者がいる事に・・・。
そう、それは言わずとも知れず、アケミの事だ。
私の幸せを根こそぎ奪おうとするアケミ。
奴らなら何か仕掛けてくる。
酔いが少し醒めた頃そう感じていた。
朝になり、爽快な目覚めだ。
それと共に嫌な予感。
「どうした雅人」
「リリンは感じないか?妙に嫌な予感がしてたまらない」
「確かにそうじゃのう」
「すぐ出発した方が良いかも知れない」
「靖子」
リリンが眠っている靖子さんに声をかける。
私も同じように「靖子さん」
「どうしたの?」
寝ぼけ眼の靖子さん。
「私達は狙われている身、だからそろそろ行こう。連中の手の届かない場所まで」
「エッ!連中ってあの女の?」
「そうなんだ。連中がまた何か仕掛けてくるかも知れない」
「どうして?」
「説明している暇はない。とにかくここから、さらに北へ行くんだ」
「解ったわ」
すぐにテントを畳んですぐ出発をした。
昨日の老婦人に挨拶をして出かけたい所だが、そういう暇はない。
黒磯の駅に向かう途中に、連中に出くわしてしまった。
「あら、こんな朝早くからお出かけ?」
アケミだ。
「もう私達の事はほおって置いてくれないか?」
「あなたをほおって置いたらこの子がどうなるか分からないしね」
アケミは子供を抱きながら言う。
「あんた子供がいたのかよ!」
「いたよ~悪い~」
「私はあんたの子供を殺すような事はしない。だからもう私達の事はほおって置いてくれよ。一生のお願いだよ」
そこにリリスもいる。
リリスは言う。
「我の勤めは雅人を不幸のどん底に陥れる事」
「リリス、その契約は無効には出来ぬみたいだな」
リリンが言う。
「ならばリリンよ。我と対峙するか?」
リリンが息を飲む。
「お主がそうならば仕方がない。我は小奴らを守らなければならぬ」
「何故、どうしてそこまで素奴らの肩を持つ?」
再びリリンが息を飲む。
「申せリリン。命が惜しければ」
「申した所で何も変わらぬ」
「ならば我と、対峙をするのだな」
「それも致し方なかろう」
リリンは大釜を召還してリリスと対峙する構えを取った。そこでリリンは「何をしておるのじゃ。お主等はさっさと行かぬか?」
「リリンをほおって行けないよ」
靖子さんが「右に同じ」そこで靖子さんはアケミに「雅人さんは幸せになって良い人間なの、あなたにそれを左右する権利なんてない」
「彼が私にした事を知らない癖に」
「あなたも雅人さんの凄いところを知らない癖に」
「そんなの知った事じゃない。これはカルマ何だから」
「カルマだか何だか知らないけれど、雅人さんに手を出すなら私が許さない」
「この人間は絶対にこの子に害を与える」
「それはあなたの被害妄想だよ」
「違う。雅人がいるから私、いや存在そのものが人類に悪影響を及ぼす現況よ」
アケミは好き放題私の事を言っている。
「もし雅人さんに何かしたらあなたの子供を殺すよ」
するとアケミは恐ろしい形相で靖子さんを見る。
「リリス、今の聞いたよね。一刻も早くこいつらを殺して、いやこいつらに一生辛い人生を送るような体にして」
「アイヤイサー」
だがリリンは「そうはさせない!リリス憎しみを糧にアケミの用件に従うのはやめろ」
リリスは憎しみを糧に力に変えているのか。その対象にリリンは私達の純粋な魂を糧に戦っている。
だったら、勝負は見えている。
リリンが勝つに決まっている。
私の思った通り、リリスはリリンに打ちのめされる。
そこでアケミがこの世の者とは思えないほどの見るに耐えがたい形相をしている。
ちなみにアケミが持っている赤ん坊は泣いている。
アケミの憎しみがリリスの力を増している。
何か悪い予感がする。
そこで靖子さんが「あなたいい加減にしなさいよ」
アケミが抱いている赤ん坊を取り上げる。
「返して、私の大切な真奈美ちゃんを!」
「返して欲しければ、もうこんな事はやめて!」
「やめるから返してよ!」
靖子さんは赤ん坊を持ってアケミから逃げる。
そこでリリンが「まずい、アケミの憎しみが上昇して、これ以上は」
「ひとまず逃げよう」
するとリリンは片手を挙げて私と靖子さんが抱いているアケミの子供も一瞬で別の場所まで移動した。
その瞬間にアケミの悲鳴が聞こえる。
「ここどこ?」
辺りを見渡すと凄い町並みの所にワープした。
「私知っている。ここは仙台よ」
「そうか私達は北へ向かっているんだったねリリン」
「危ないところじゃった。あのアケミの憎しみ危機感をエネルギーにしているリリスにやられそうになった」
アケミの子供が泣いている。
「おーよしよし、ベロベロバー」
と靖子さんは必死にあやすと「キャキャ」笑ってくれた。
「リリン、まずいことになったんじゃないか?」
「じゃな、アケミのエネルギーとする憎しみが爆発して、今度こそ殺しにかかってくるかも知れぬ」
「雅人さん、リリンちゃん、この子を一刻も早くアケミに帰せば、アケミの憎しみもなくなるんじゃないかな?」
「だけどアケミは被害妄想の激しい人間だ」
「その通りじゃ。一刻も早くその子をアケミとやらに帰して、少しでもそのアケミの被害妄想を消そう」
「私は思うんだけど、アケミからこちらにやってくるんじゃないか?」
「うわーこの子かわいい。私と雅人さんの子供にしない?」
「何を言っているんだ靖子さん」
「冗談よ」
「とりあえずここでは何だ。場所を変えよう」
そう僕たちがいる場所はサラリーマンや学生がごった返している仙台の駅前だ。
こんな所で悠長に話をしていると赤子によくないだろう。
とりあえず私たちは海へ向かう事になった。
そんな時にリリンは言う。
「感じる。アケミとやらの憎しみの声が」
「もしかしたら私達はとんでもないことをしてしまったんじゃないか?」
「海へ通って行く電車は地下鉄に乗っていく」
電車に乗り、そこで靖子さんは、「雅人さん私達の小説大賞を獲得しましたよ」
「エッ本当に?」
私は耳を疑った。
「本当に本当です」
そこでリリンが「お主等それで結婚の約束をしたのじゃろう」
「何か夢みたいだ」
「これで私達も夫婦ですね」
「やったー」
喜んだが、その喜びもつかの間なのかもしれない。
私にも感じるリリスとアケミの憎しみが。
本当にまずいことになっている。
一刻も早くアケミとリリスにこの子を帰さないと取り返しのつかない事になってしまうかもしれない。
「どうしたんですか雅人さんそんな暗い顔をしていて」
「その子を早くアケミに帰さないと」
そこでリリスが「案ずる事はない。それは向こうからやってくる。憎しみという力を蓄えてな!」
せっかく靖子さんと契りを結ぶ事が出来たのに喜んで良いはずなのにそれと同時に恐怖が私たちを襲ってくる事を思うと鬱になる。
どうして私はあの時アケミにあのような事をしてしまったのか?
色々と鬱な事を考え巡らしていると、靖子さんが私の左手をリリンが私の右手をつかんできた。
「雅人さんは一人じゃない」靖子さん。
「そうじゃ、我らがついている」とリリン。
「そうだよね私は一人じゃない。みんながついている」
握りしめた両手をぎゅっと握りしめ二人の暖かい手を感じている。
そして地下鉄は外に出てちょうどその時海が見えた。
キラキラと輝く海。
「うわー綺麗」
赤子を抱きながらうっとりしている靖子さん。
「海か我も久しぶりじゃ」
「次、降りるよ」
海の見渡せる駅に到着して私達は、外に出た。
「こっちじゃこっちじゃ」
海に行きたいとまだかまだかと言うリリン。
この子が僕たちの子供なんだな。
燦々と輝く日光は赤子には良くないためか?靖子さんは日傘をさしている。
海に到着して海水浴シーズンなのに誰もいなかった。
「誰もいない」
「何か変ね」
靖子さんも不振に思っている。
「誰もいない海かあ」
僕が言うとリリンが「感じるアケミの憎しみが」先ほどまであれだけはしゃいでいたリリンでさえ何か妙な物がとりついていると不振に思っている。
「早くこの子を帰してあげるべき何じゃない?」
「それは大丈夫、そうせずとも奴の方からやってくる」
果てしないのどかな誰もいない海。
その時突風が走った。
「何」
突風にあおられて日傘が持って行かれた。
「やはり来たか?」
リリンが言う。
リリンの視線を追っていくとアケミとリリスが私たちの前に立ちふさがっていた。
恐ろしいほどの憎しみに刈られたアケミが現れ、それをエネルギーとしているリリス。
「返せ私の子供を」
恐ろしいほどの形相で私たちに訴えるアケミ。
靖子さんに帰して上げてと目配せをした。
アケミさんの子供は母親であるアケミの顔を見て泣いておびえていた。
そんな様子を見て靖子さんは「とにかくその顔何とかならないの?この子おびえているよ」
「そのあたしの子を返せ」
アケミの憎しみを浴びてパワーを増幅するリリス。
そこでリリンが「早く帰してやれ。これ以上憎しみを増幅させたら元も子もなくなる」
「でもこの子母親を見て凄く怯えている」
「良いから早く!」
リリンが言う。
「分かった」
靖子さんはアケミに子供を差し出した。
子供は大泣きしながら嫌がっていたが次第に収まり、アケミは元の母親の姿を取り戻して、子供もそんなアケミに安心して眠っている。
「もういいだろアケミ。私たちはあんたの子供を殺す気はない」
「はっはっはっ」
「何がおかしい」
「これだけの憎しみを私に味あわせて、まだそんな事を言うか。
お前が幸せだとかたはら痛いんだよ」
その時リリスが靖子さんにめがけて真っ黒い波動のような物を放ったが間一髪、その波動はリリンによってはじいた。
「なぜ靖子を狙う」
リリンが言う。
「その靖子とやらはお前の婚約者と聞いてな」
アケミが高らかに言う。
もう私は我慢が出来ず、「このやろう!」と子供を抱いているにも関わらずに、殺すつもりでアケミに立ち向かった。
がしかし、リリンに光の縄みたいな物をくくり使わせられて、私は動けなくなった。
「これ以上リリスの憎しみを増幅させてどうする。そこで少しは頭を冷やすと良い」
奴らは私を不幸のどん底に陥れる事を楽しんでいる。
「靖子さんは関係ない。私を不幸にしたければ、私を狙えば良いだろう」
「お前は私に何をした」
「許されない事なら償うよ。どう償えば許されるんだ」
光の縄で縛られている私はアケミに見下ろされている。
「そうだね。お前には廃人にでもなってもらい、誰も助けも来ない山奥で一人静かに死んでもらわねばな」
圧底のサンダルで私を踏みしめるアケミ。
「くっ」
そこで靖子さんがそんなアケミに体当たりをした。
「あんたなんか最低よ。女の腐ったような人ってあなたみたいな人を言うのよ」
「リリスは何をしている」
リリスはリリンと戦闘中だった。
アケミは「リリスこの女を殺してしまいなさい」
「そうはさせぬ」
リリンが踏ん張っている。
いつも私達の魂を直に受け継いでいるだけあるような戦いっぷりだ。




