即採用
数話ぐらいならグロは無いですが、時々あるので気をつけてください。
「また落ちた……」
スマホの画面には見慣れた文字が並んでいた。
『誠に残念ながら――』
アモンは通知を閉じる。
これで十社目だった。
「もう笑うしかないな……」
ため息を吐きながら、夕暮れの街を歩く。
高校を卒業してから就職活動を続けていたが、結果は全滅。
特別優秀でもない。
かといって問題を起こしたこともない。
なのに、どこへ行っても不採用だった。
「このまま一生働けなかったらどうしよう……」
考えたくもない未来が頭をよぎる。
アモンは首を振った。
「やめやめ。今日はゲームだ。」
考えたところで結果は変わらない。
家に帰り、ゲーム機の電源を入れる。
現実から逃げるにはちょうど良かった。
――――――――――――――――――――――
三時間後。
「強すぎだろこのボス!」
画面の中で主人公が吹き飛ばされる。
七回目の敗北だった。
「攻略サイト見るか……」
スマホを取り出す。
そして検索を開いた瞬間。
奇妙な広告が表示された。
――――――――――――――――――――――
【異世界勇者になりませんか?】
【経験不問】
【即採用】
【勇者代行ユートピア社】
――――――――――――――――――――――
「なんだこれ?」
思わず声が出る。
怪しさしかない。
だが、「即採用……」
その三文字が妙に刺さった。
十回連続で落ち続けている人間には、危険なほど魅力的だった。
――――――――――――――――――――――
「どうせネタだろ。」
そう呟きながら広告をタップする。
すると面接予約画面が開いた。
――――――――――――――――――――――
【面接可能日時】
明日
――――――――――――――――――――――
「早っ!」
思わず突っ込む。
だが断る理由もない。
アモンは予約ボタンを押した。
――――――――――――――――――――――
翌日。
指定された住所へ向かう。
正直、途中で引き返そうか何度も考えた。
しかし目的地に到着した瞬間、その考えは消えた。
――――――――――――――――――――――
「でかっ……」
巨大なビルだった。
少なくとも三十階以上はある。
怪しい詐欺会社の規模ではない。
――――――――――――――――――――――
恐る恐る中へ入る。
受付には女性スタッフがいた。
「あの、面接を……」
「アモン様ですね。」
「え?」
「お待ちしておりました。こちらへどうぞ。」
――――――――――――――――――――――
名前を言っていない。
少し気になったが、案内されるまま進む。
やがて一つの部屋へ到着した。
――――――――――――――――――――――
「社長がお待ちです。」
ドアを開ける。
そこには一人の女性が座っていた。
二十代後半ほどに見える。
長い黒髪。
落ち着いた雰囲気。
そして何より――
妙な威圧感があった。
――――――――――――――――――――――
「こんにちは。」
女性は微笑む。
「二代目勇者代行ユートピア社社長、ルゼです。」
アモンは慌てて頭を下げた。
「よ、よろしくお願いします!」
――――――――――――――――――――――
「では面接を始めましょう。」
ルゼは書類を閉じる。
「質問はたったの三つだけです。」
――――――――――――――――――――――
アモンは緊張した。
ようやく面接らしくなってきた。
「一つ目の質問です。」
ルゼが言う。
「死ぬ覚悟はありますか?」
「……は?」
アモンは固まった。
――――――――――――――――――――――
「聞こえませんでしたか?」
「いや、聞こえましたけど!」
ルゼは真顔だった。
冗談を言っているようには見えない。
「えっと……ちなみにどういう仕事なんですか?」
――――――――――――――――――――――
「勇者の代行です。」
「意味が分からないです。」
「そのままの意味ですよ。」
ますます意味が分からない。
――――――――――――――――――――――
ルゼは続ける。
「回答をお願いします。」
アモンは悩んだ。
だが、今さら帰るのも癪だった。
「覚悟……は、あります。」
ルゼは頷く。
――――――――――――――――――――――
「では、二つ目の質問です。」
「自分以外の誰かを救うために危険へ飛び込めますか?」
アモンは少し考える。
正直、自信はない。
だが、見捨てる方が後味が悪い気がした。
「たぶん……飛び込みます。」
「なるほど。」
ルゼはメモを取る。
――――――――――――――――――――――
「最後の質問です。」
空気が変わった。
「あなたは力を欲しますか?」
その問いだけは不思議だった。
アモンはしばらく黙る。
――――――――――――――――――――――
就職。
将来。
不安。
焦り。
何も変えられない自分。
全部が頭をよぎった。
「欲しいです。」
――――――――――――――――――――――
ルゼは初めて満足そうに笑った。
「面接は終了です。」
「え?」
「採用です。」
「え?」
「採用です。」
「ええっ!?」
人生初の採用だった。
アモンは思わず立ち上がる。
――――――――――――――――――――――
「本当ですか!?」
「はい。」
ルゼは当然のように答える。
「では入社手続きを行います。」
「えっと……仕事内容の説明とかは?」
「これから行います。」
ルゼは席を立った。
――――――――――――――――――――――
「ついてきてください。」
アモンは後を追う。
案内された先には巨大な金属製の扉があった。
「ここです。」
――――――――――――――――――――――
ルゼが扉を開く。
その瞬間。
アモンは言葉を失った。
扉の向こうには…
空があった。
森があった。
山があった。
そして見たこともない巨大な月が浮かんでいた。
「……え?」
理解が追いつかない。
ビルの中のはずだ。
なのに、扉の向こうには別世界が広がっている。
――――――――――――――――――――――
ルゼは振り返った。
「勇者代行ユートピア社へようこそ。」
その瞳は静かだった。
「ここがあなたの最初の勤務地です。」
アモンは呆然と呟く。
「……異世界?」
ルゼは頷いた。
「はい。」
「異世界です。」
そこで初めて。
アモンは気付いた。
あの広告は冗談でも詐欺でもなかった。
本当に異世界の勇者募集だったのだ。
初投稿です。頑張ります。




