倒れる小さな身体
床に倒れているリンネ。
靴を放り出し駆け寄る。
異常なほどの熱。
浅く荒い呼吸。
汗だくの身体。
「リンネ?!リンネ!!!」
「ヤ…マト…?」
薄く目が開く。虚ろな目はヤマトを見ているのかすらわからなかった。
すぐにリンネを抱き上げ、ベッドに寝かす。
「今、拭くもん持ってくるから。洗面所借りる」
洗面所に行きタオルを取り出す。それを濡らしリンネの元に戻った。
「服、脱がすぞ」
パーカーに手をかけた瞬間、止められる。
「…っ、じぶ、んで…っやる…」
「でも…」
「だ、い…じょっ…ぶ…」
弱っているはずなのに手は強く押される。
「…終わったら教えてくれ。洗面所のところで待っているから」
ヤマトは洗面所のドアを閉める。
違和感が頭を巡る。
「なんでこんな鉄の匂いがするんだ…」
リンネの部屋に入った瞬間、微かに鉄の匂い。
血?
だが、そんな形跡はなかった。
……あれか…?いや、ちがう。
「ヤマ、ト…」
小さな声が聞こえる。ドアを開け、リンネの横に座る。
「いつから熱が出ていた?」
「……わから、ない…」
苦しそうに呼吸を繰り返す。
リンネの手が上がる。そっと握ると握り返される。
「…ごめ…伝染ると…よくない、から…」
「伝染んねぇよ。大丈夫だ」
髪を撫でる。
少しずつゆっくりになる呼吸。目を閉じ眠る。
「なんか冷やすもん…」
手を離す。
どこか苦しそうな顔はただ見つめることしかできない。
「冷蔵庫開けるぞ」
冷蔵庫を開け、ヤマトは目を見開く。調味料は揃っている。だが、食材が一つもない。
まるでずっとそこに居なかったかのように。
「…近くにコンビニあったよな…」
それでもヤマトはこの部屋から出たくなかった。
窓を開けると髪が風に靡く。
不安が押し寄せる。
このまま目を覚まさなかったらどうしよう。
そう思えば思うほど傷が痛む。
「…ってぇ…」
ずっと塞がらない傷。
「なんでまだ塞がってねぇんだよ…」
ヤマトは呼吸を整える。
「俺の傷より…先にリンネが優先だ…」
立ち上がりリンネの元に行く。
夕暮れ。
リンネはゆっくり目を開ける。顔を横に向けると座ったまま眠るヤマトの姿。額には濡れたタオル。
そっと起こさないように起き上がる。
静かに洗面所に向かう。
鏡に映る自分。
パーカーのチャックを下げ、服を捲る。
そこには、血が滲む包帯が上半身に巻かれていた。
「…」
服を脱ぎ、包帯を取る。
血が流れる。
流れる血はあの日のことを思い出す。
リミッターが外れたヤマト。
神咲の奇襲。
拳を握り、慣れた手つきで新しい包帯を巻いた。
切られても、お構い無しに出てくる異型。
「無理しすぎたかな…」
休む間もなく痛む身体を動かし続けた。
それでも守らなくちゃいけない。
戦わなくちゃいけない。
ずっとそう思っていた。
思っていたはずなのに、
「もう…疲れた…」
世界がそれを許さない。
小さな声は空間に消える。
「…リンネ…?」
声がし、急いで服を着る。血の着いた包帯は袋に詰め、奥に隠す。
まだ身体がだるい。動かすのもままならない。
ドアを開けるとヤマトと目が合う。
久々に見たヤマト。
リンネは覚束無い足でまっすぐヤマトに向かって歩く。
ヤマトも立ち上がりリンネを抱きしめるように支える。
「…会いたかった…」
力強く抱きしめられる。
ヤマトは顔を顰めた。
間違いない。
部屋に入った時から感じた鉄の匂い。
今、リンネの身体から濃く香る。
犬の妖怪だから匂いに敏感だ。
「なぁ…リンネ…」
低い声。
「どこか怪我してないか…?」
リンネの目が見開く。
まずい…忘れていた…
ヤマトの言葉にリンネは顔を上げれず、ただ焦る。
「身体、見せてくれないか」
ヤマトの言葉になにも返せなかった。




