外伝2話 チョコレートとキャラメル
「こんなものかな? 溶かして型に入れたり、お菓子を作るのはお市ちゃんや葉子ちゃんや孝子ちゃんと一緒にやればいいよね」
光輝の下に葉子が嫁いでからもうすぐ最初のバレンタインデーの日が近づいており、今日子は一人チョコレート作りに精を出していた。
原料のカカオは海外からの輸入だと入手が困難なので、カナガワからの自動農園から入手している。
ただチョコを固めて手作りチョコレートというわけにはいかず、一からチョコレートを製造しており、原料も貴重で失敗できないため、この作業は今日子が一人で行っていた。
「ぬうぁーーー! 義姉さんがチョコを作っているぅーーー!」
今日子達が作業をしている現場を通りかかった清輝が、その様子を見て大きな声をあげた。
「常務、どうかしましたか?」
清輝と一緒にいたキヨマロが、彼の異変に気がついてその理由を訪ねる。
「バレンタインなんて都市伝説なのにぃーーー!」
「いや、普通に存在しますけど……」
高性能アンドロイドであるキヨマロは、人間をサポートするために多くの情報をその人工知能に蓄えている。
主人が女性ならば、バレンタインデーのフォローも完璧にこなすのだ。
業務で主人が取引先などに義理チョコを配る可能性だって高いのだから当然だ。
本命に送るチョコレートについてのアドバイスすら可能で、キヨマロは伊達に高性能アンドロイドを語っていなかった。
そんなキヨマロからしたら、バレンタインデーが都市伝説だと叫ぶ清輝の方が変人に見えてしまうのだ。
「副社長、常務はどうかしたのですか?」
「マロちゃん、そこは詮索してあげないのが優しさってものよ」
義弟が女性にまったくモテず、今までバレンタインのチョコを貰った事がないのだと指摘しないだけの優しさが今日子にはあった。
ちなみに今日子は、士官学校時代に山ほど貰っている。
彼女は、女子には物凄くモテるのだ。
「常務は、何度か副社長からチョコを貰っていましたよね?」
「義理だけどね」
今日子も常識的な配慮ができる人間だから、モテない義弟に義理チョコを贈るくらいの事はしていた。
今回も、ちゃんと清輝の分の義理チョコは作っている。
「それは、ちょっとした贈り物……バレンタインは都市伝説……」
「自分の考えを曲げませんね」
「過去に何かあったのかな?」
そうは思っても、今日子もキヨマロも清輝の過去を詮索しようとは思わなかった。
あえてパンドラの箱を開けるのは危険だと思ったからだ。
「僕の漫画が大ヒットしていたら、女性ファンから大量のチョコが届く予定だった……」
「キヨちゃん、現実を見ようね」
漫画家志望であった清輝は、何度か新人賞に応募しては落ちていた。
だから、清輝の下にファンからチョコレートが届く事は決してないのだ。
「それはともかく、義姉さんはバレンタインデーという悪夢を普及させるつもりなのか? だとしたら、僕の持てる力をすべて用いて阻止しなければならない!」
「えっ? そこまで思い詰める事なの?」
今日子には、清輝の無駄に強い決意が理解できなかった。
「そこまで考えていないわよ。カカオなんて、カナガワの自動農園で手に入るだけだし」
アフリカに行けばあるのであろうが、輸入するとなると、とてつもない手間になる。
品質も保障されておらず、今のところ輸入を行う予定はなかった。
ただの甘い物でも高級品なのに、チョコレートを日の本で普及させるのは難しいのだから。
「何となく習慣でこの時期だけど、チョコを作って食べたいだけよ」
「ならばいい。バレンタインこそ、この世のすべての元凶。いや、クリスマスと双璧か? 第一、異教徒の祭りだ」
「異教徒って……キヨちゃん、無宗教じゃないの……」
「いいや、僕はバレンタイン、クリスマス死ね死ね教の信者なんだ!」
「不毛そうな宗教ね……」
今日子には、なぜ清輝がバレンタインデーにそこまで憎悪を燃やすのか?
まったく理解できなかった。
「『ちょこれーと』ですか。前に一度清輝様からいただいた事があります。こうやって作るのですね」
「色が泥みたいですね。美味しいのでしょうか?」
「今まで今日子さんが作ったもので、不味い物なんてなかったじゃないですか。大丈夫ですよ」
基本のチョコレートが完成したので、今日子はお市、葉子、孝子と共にチョコを使ったお菓子作りをしていた。
甘くしたチョコレートを溶かして型に入れたり、チョコレートケーキを作ったり、ホットチョコの素を作ったりと、四人で忙しく作業している。
「みっちゃんは、甘い物も好きだから」
「きっと、喜んでくれますね」
「旦那様と一緒に食べましょう」
今日子は、お市も葉子も健気で可愛いなと思った。
「今日子さん、このちょこれーとは柔らかいままですけど大丈夫ですか?」
「これはこの柔らかさが特徴で美味しいのよ。キヨちゃんも好きだし」
今日子は、ガナッシュ、いわゆる生チョコレートを作っている孝子の質問に答える。
バレンタインデーに無駄な憎悪を燃やす清輝であったが、別にチョコレートが嫌いなわけでもない。
前に、今日子が生チョコを作ってあげた時は好評であった。
「(孝子ちゃんからチョコを貰えば、キヨちゃんも意外と現金だから喜ぶよね)」
「それにしても、色々と種類があるのですね」
通常のスイートチョコレート、ミルクチョコレート、ホワイトチョコレートの他に、アーモンド、ピーナッツ、ヘーゼルナッツを包んだもの、日本酒、焼酎、ジャムを入れたボンボンや、トリュフチョコ、イチゴ、コーヒー、抹茶味の物など、多くの種類が作られた。
「これに、チョコケーキと、ホットチョコ。糖分過多だけど、たまにはいいよね」
完成したチョコレート菓子がテーブルに並べられ、光輝と清輝も一緒にご相伴に預かった。
「チョコはいいねぇ。心を豊かにするよ」
「そうだね、兄貴」
今まではバレンタインデー撲滅を宣言していた清輝も、妻である孝子が作ったチョコレートを堪能していた。
それはそれ、これはこれと割り切れる心の棚が彼には存在するのだ。
「初めてちょこを見た時に色で驚きましたが、食べるととても美味しいですね」
「口の中でとろけますぅ」
「こんなに美味しいもの、今までに食べた事がありません」
お市も葉子も孝子も、自分で作ったチョコレートケーキやホットチョコを堪能した。
いつの時代も、女性は甘い物が大好きである。
三人とも、幸せそうな表情を浮かべチョコレートを楽しんでいる。
「みんな、まだ満足しないでね。とっておきがあるから」
今日子は今日のメインイベントと言わんばかりに、台所の奥から台車に載せたある物を持ってきた。
「凄いです! こんなに大量のちょこが!」
「贅沢ですね」
「ちょこの滝とは予想外でした」
三人が驚くのも無理はない。
今日子が準備していたのは、チョコフォンデュが作れる業務用のチョコファウンテンであった。
実は以前、今日子が衝動買いをしたのはいいが、一回使っただけでカナガワの倉庫に仕舞われていた品であった。
「(前も見たけど大きいなぁ……)」
「(だって、兄貴、これ業務用だぞ……)」
衝動買いしただけあり、チョコファウンテンは高さが一メートル以上もあった。
大量のチョコを使わねば溶けたチョコが流れず、後片付けも面倒なので今まで倉庫に仕舞われたままであったのだ。
「今日子さん! これってどうやって食べるんですか?」
珍しく興奮した様子で、お市は今日子にチョコフォンデュの食べ方を尋ねていた。
「これはね、この専用のフォークにマシュマロやカットしたスポンジや果物を差して、こうやって流れるチョコを絡めるの。お好みで、砕いたナッツ類やアラザンやカラースプレーを散らして……」
今日子はお市達の前で、チョコフォンデュ作りを実演する。
「面白そうですね」
「早速試してみましょう」
「私もやりたいです」
三人は競うようにチョコフォンデュを作り、美味しそうに食べ始める。
まるで子供のようにはしゃぎ、それぞれが作ったチョコフォンデュの感想を述べ合った。
「楽しくて美味しくて、最高ですね。私はましゅまろのが好きです」
「私はばななですね」
「いちごも美味しいですよ」
三人は、チョコフォンデュを大いに堪能した。
「チョコが沢山必要だし、後片付けも面倒なんだけどね」
「私、お手伝いしますから」
「ありがとう、お市ちゃん」
チョコフォンデュは予想以上に好評で、これ以降も津田家ではお祝いの席などで必ずチョコファウンテンが用意されるようになるのであった。
「お市から贈り物か……」
それから数日後、岐阜城にいる信長の下に、お市からチョコレートが届いた。
保存などの関係で粒状のチョコのみであったが、甘い物が好きな信長は初めて食べるチョコレートを大いに気に入った。
「沢山あるな。暫くは……」
「殿、お市さんの配慮を無にしてはいけませんよ」
とても美味しいので独占しようとした信長に対し、濃姫が釘を差した。
「量が多いのは、家臣に下賜するのを考慮しての事です。織田家は美濃を制圧してまだそれほど時が経っておりません。彼らに織田家の力を見せつけるため、このような貴重なお菓子を下賜すれば効果的です」
「なるほど、さすがはマムシの娘よ」
今までに食べた事がない高価な甘味を、自分のご機嫌伺いに来た美濃の豪族連中に下賜して、織田家の実力を見せつける。
信長が美濃を統治する正当性については、濃姫のおかげでこれを確保できている。
もうひと押し、力を見せつけて彼らがよからぬ事を考えないようにするというわけだ。
「これは初めて見るお菓子ですな」
「砂糖とは違うようですな」
「南蛮の品なのでしょうか?」
信長は濃姫の助言に従い、岐阜城に挨拶に来た美濃の豪族達にチョコレートを下賜した。
西美濃三人衆である稲葉良通、安藤守就、氏家直元は、信長から下賜されたチョコレートを口にしてその美味しさに驚いた。
「我が家臣に、商人上がりで南蛮や明、朝鮮にも顔が利く男がおる。こやつに頼めば、このような珍しい品も手に入るのだ」
そのような物凄い豪商が信長の家臣にいて、自分が命令すればこのくらいのものはすぐに手に入る。
信長一流のハッタリに、臣従したばかりの西美濃三人衆は簡単に引っかかった。
別に嘘をついているわけでもなく、光輝は信長に頼まれれば貴重な物を簡単に献上する事がよくあるのも事実だからだ。
「サル! ミツから貰った菓子をやる! サルもたまには女房孝行しろ!」
外様の家臣ばかりでなく、与えられた墨俣周辺の開発状況を報告しに来た木下藤吉郎にも、信長はチョコレートを与えた。
元ヤンキーでワンマンな信長であったが、意外と女性には優しい。
時おり、このように家臣の妻に配慮する事もあった。
「これは、お市が作ったそうだ」
「お市様がですか。勿体なくて食べるのが躊躇われますな」
「バカ者! 勿体ないから食え!」
「へい、それは勿論ですとも」
藤吉郎にとっては今も、お市はあこがれの姫様である。
彼女が作ったお菓子と聞いて、彼は信長に頭を下げながら締まらない笑みを浮かべていた。
「おおっ! お市様がぁーーー! ありがたき幸せ!」
同じくチョコレートを下賜された柴田勝家は、信長と藤吉郎が若干引くほど一人ではしゃいでいた。
「……喜んでもらえて何よりだ。権六」
そんな感じで、信長はお市から贈られたチョコレートを食べたり、家臣達や家族に下賜したりして数日をすごした。
だが、信長にはどうしても一つ気になっていた事があるのだ。
「大殿、何が気になるのですか?」
夜、寝所で濃姫が信長にそっと訪ねてみた。
勘が鋭い彼女は、信長が何かを気にしている事に気がついていたのだ。
「お濃には隠し事はできぬな。実はお市からの手紙にはこう書かれている」
信長は、濃姫に手紙で気になる部分を見せた。
「溶けたちょこの滝? それに好きなものをからめて食べるちょこふぉんでゅという夢のようなお菓子……ですか?」
「そうだ。我に送ってこなかったという事は、何らかの事情で新地でしか食べられない物のはず。どのような食べ物なのか気になって夜も寝られん」
ただし、夜寝られなければ昼に寝るのが信長という人間だ。
「そのうちに、味わう機会もあるのでは?」
信長ほど食い意地が張っていない濃姫は、そのうちに食べられるはず、と信長に言うとそのまま寝てしまった。
しかし、肝心の信長の方はチョコフォンデュが気になって仕方がない。
床に入っても、気になるのはチョコフォンデュの事ばかり。
どういう食べ物なのか?
どのくらい美味しいのか?
目を瞑っても、次々と自分が予想したチョコフォンデュの図が思い浮かんでは消えていく。
そのまま眠れない時間が続き、空が白み始めた頃、遂に信長は決断した。
「馬を持てい!」
素早く身支度を整えた信長は、小姓や護衛を担当する家臣を引き連れ、まずはこの日岐阜城内に泊まっていた藤吉郎の寝所に直行した。
「サル! 新地に行くぞ!」
「ええっ! 私はこのまま墨俣に戻る予定で……」
「急ぎ支度せい!」
「畏まりました!」
一瞬藤吉郎は、先に領地に戻ってしまった勝家が羨ましいと思ったが、同時に新地に行くのなら美味しい物が食べられると思って内心喜んでいた。
こうと決めた信長に逆らうのは危険であったし、これは最近織田家のために活躍している藤吉郎への信長なりの好意でもあると気がついたのだ。
「遅いぞ! サル!」
「すみません!」
「急ぐぞ!」
「殿、またですか?」
「戻るまで任せるぞ!」
信長は林秀貞に留守を頼むと、乗馬した十名ほどで新地へと駆け出した。
「任せるって……南に走ったという事は新地か……」
秀貞は、また何か食べ物目当てで新地に向かったのかと頭を抱えた。
「大殿、お腹が空きました」
「新地で腹が破れるまで食え! 飯は抜きで走る!」
途中馬だけは休ませながら、信長一行は新地を目指した。
そのおかげもあり、丸一日ほどで新地へと到着する。
「毎日チョコだと胃にもたれるし、健康にも気を使わないとね」
「この雑穀飯、十六種類も配合してあるのに美味しいな。食物繊維も取れていいじゃない」
「健康にいいねぇ」
信長が迫りつつある頃、光輝達は普通に朝食を取っていた。
今朝はご飯を今日子の勧めで雑穀ご飯にしていたが、この時代にある嵩増しのための雑穀ご飯とは違って、未来風に食べやすく美味しくなっている雑穀ご飯なので好評であった。
「白米よりも糖分の吸収がゆっくりだから、短時間で急に血糖値を上げすぎず糖尿病にもいいのよ」
「このカマスの一夜干しもいいな」
「これは新地で漁師が獲ったやつだね。ようやく漁獲量が増えてきたんだ」
「そうなのか」
「兄貴、昨日報告したじゃん」
家族で食事を取っていると、突然堀尾吉晴が駆け込んできた。
「殿! 一大事です!」
「茂助、お腹でも減ったか?」
「朝食、食べて行く?」
一大事と言われても、本当に一大事ならキヨマロが駆けつけてくるはず。
なので光輝と今日子は、のん気に吉晴に朝食を勧めていた。
「おっ、これは美味しそうなご飯……じゃなくて! 大殿が来ています!」
「お兄様がですか? どうしてまた急に?」
信長が来たというので光輝と今日子とお市が出迎えると、そこには目の下に隈を作った信長、秀吉他一行が立っていた。
「大殿、何か一大事ですか?」
「兄上様、急にどうかしたのですか?」
光輝とお市が信長一行に声をかけると、信長は手短に用件を述べた。
「お市よりちょこふぉんでゅという食べ物について聞いておる。今日は夜通し馬を走らせて疲れたから、ひと眠りした後に食すぞ! 準備しておけ!」
「はあ……」
いきなり新地に姿を見せてどんな用事かと思ったら、信長はお市からの手紙に書かれたチョコフォンデュが食べたくて、急ぎ馬を飛ばしてきたらしい。
後ろを見ると、木下藤吉郎を筆頭に疲れ果てた家臣達は今にも倒れそうであった。
「藤吉郎殿?」
「私、墨俣の開発状況を大殿に報告しに来ましてね……」
その日は岐阜城に泊まったのだが、そのまま強引に信長のお供を命じられた。
最後まで言わなくても、光輝には藤吉郎が言わんとしている事がわかってしまった。
「お風呂に入って少し寝た方がいいですよ」
「新地殿、お腹が空きました」
「えっ?」
「昨日の朝から、丸一日走って水しか飲んでいないのです」
「ええと……朝食を準備します」
「ミツ! このままちょこふぉんでゅを食べるまで絶食しようと思ったのだが、腹が空きすぎて眠れなさそうだ。朝飯を準備せよ!」
「はい」
信長一行は、風呂に入り、朝食を食べ、そのままひと眠りするのであった。
「さあ、よく寝たな。早速、ちょこふぉんでゅとやらを食べるとするか」
昼頃に起床した信長一行は、新地城内にある宴会用の部屋で今や遅しとチョコフォンデュを待っていた。
特に信長は、まるで子供のようにワクワクした表情を浮かべている。
「大殿、お待たせしました」
「今日子、待っていたぞ」
今日子が台車に載せた業務用のチョコファウンテンを持参すると、信長は声も出さずに息を呑んだ。
高さ一メートルほどの高さから、大量の溶けたチョコレートが滝のように流れているのを目撃したからだ。
「おおっ! まさにちょこの滝! 何と贅沢な! ミツ、今日子! 早く食べ方を教えるのだ!」
今日子がお市に説明したのと同じように串にマシュマロを差し、チョコレートを絡めてから砕いたナッツ、アラザン、カラースプレーをまぶしていく。
「他にも、果物やケーキのスポンジ、パン、クッキーに。白玉、餅、煎餅、ポテトフライなども準備しました。塩気と甘いチョコレートの組み合わせも意外と美味しいですよ」
「これは楽しくて美味い! 全種類を試したくなるな!」
今日子から説明を受けた信長は、子供のようにはしゃぎながらチョコフォンデュを堪能した。
「果物の酸味と、ちょこれーとの甘さが合わさると美味しいですな。いやーーー、今日は新地に来て正解でしたわ」
藤吉郎や他の家臣達もチョコファウンテンに群がり、競うようにチョコフォンデュを作って堪能した。
「ああ、チョコを補充しないといけませんね」
途中、今日子がチョコファウンテンに新しいチョコレートを追加した。
チョコファウンテンは一定の量のチョコレートがないと装置内を還流しないので、時おりチョコレートを補充する必要があるのだ。
「まだなくなっていないのに、ちょこを補充するのですか。贅沢ですな」
見た事もない貴重なお菓子を大量に準備できる。
藤吉郎は、新地家の財力にただ驚くばかりであった。
「ミツ、我らがお腹一杯食べ終わっても、ちょこは大量に余るな」
「そうですね。これは普通にチョコにして再利用しますけど」
「そうか! 全部持って帰るぞ!」
また信長から無茶な命令が出たが、光輝と今日子は何も言わずにチョコファウンテン内に残ったチョコレートを再加工し、信長にお土産として渡した。
ただ、さすがに暫くチョコレートは在庫切れである。
原材料であるカカオをアフリカから輸入する算段がどうしてもつけられない以上、カナガワで生産しているカカオの量には限界があったからだ。
「何と! そこまで貴重なものとは! これは大切に食べないと駄目だな。サル! 戻るぞ!」
「へい。新地殿、お騒がせしました」
すべての用事を済ませると、信長は颯爽と岐阜城へと戻って行く。
常識人の藤吉郎は、そっと光輝と今日子に謝ってから信長について行く。
「茂助、もし大殿に何かあったら困るから……」
「そうですよね。護衛に入ります」
「はい、お弁当」
「奥方様の優しさが身に沁みます」
急遽、岐阜までの護衛任務を命じられた吉晴は、数十名の兵を率いて信長のあとを追いかけるのであった。
「今日子さん、兄上様が申し訳ありません」
「まあ、いいんじゃないかな。今日は、新しいお菓子を作ろうか?」
チョコフォンデュ騒動から数日後、今日も今日子達は台所にいた。
この時代にも牛乳が手に入るので、それと砂糖を材料に生キャラメルを作ろうとしていたのだ。
「お鍋に牛乳、牛乳から攪拌した生クリーム、はちみつ、砂糖、バニラビーンズを入れて火にかけます。あとは、焦げないようにヘラで混ぜながら、なるべく強い火力でひたすら加熱します」
「これは大変ですね」
「混ぜる手を止めると焦げるからね。約半刻ほど加熱して、色が茶色くなって粘りが出たら、このクッキングシートの上に広げて伸ばし、涼しい場所で粗熱を取ります。冷蔵庫で一時間ほど冷やして固め、包丁で一口分ずつに切れば完成」
生キャラメル作りは上手くいき、この日のオヤツは生キャラメルとなった。
他にも、生キャラメルクリームをパンやバナナに塗ったものも出ている。
「ちょこれーとと同じくらい美味しいですね」
「生キャラメルの売りはこの柔らかさだからね。今日は上手く行ったわ」
「でも、こんなに柔らかいと保存が効きませんね」
「そこは、普通の硬いキャラメルってのもあるから」
お市は、自作したキャラメルを信長の下に贈った。
「ほほう、ちょこれーとに続き、きゃらめるとな。これも美味いではないか」
だが、同時に信長は再び気になってしょうがない事があった。
「生きゃらめる……わざわざ『生』とついている以上、何かが違うのだ。気になる。今すぐ食べてみたい……馬の準備をせい!」
思い立ったら吉日の信長は、そのまま立ち上がり、新地へと出かける準備を始める。
「大殿、またですか?」
「秀貞、留守を任せるぞ! 犬! ついて来い!」
「はっ!」
信長はたまたま傍にいた前田利家に供を命じ、今度は生キャラメルを求めて新地へと駆け出していくのであった。
「(上手くいったな。まつに、きゃらめるとやらを食べさせてやりたいからな)
信長からお供を命じられるよう、タイミングよく彼の傍にいた利家は、自分の策がうまくいき一人心の中でほくそ笑むのであった。




