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銭(インチキ)の力で、戦国の世を駆け抜ける。(本編完結)(コミカライズ開始)  作者: Y.A


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第八十二話 欧州無敵連合艦隊

「デウス様は日の本に神の信仰を取り戻すため、南蛮より援軍を遣わしてくれます。我らもそれに協力し、真の信仰の道に戻ろうではないですか」


 うっとりとした表情で、集まった仲間達に対し話をする岡左内。

 蒲生騒動によりお尋ね者となった彼であったが、いまだ津田家に捕まらず、西日本を中心に反津田家の活動を続けていた。

 それは、光輝と同じくキリスト教嫌いであった細川幽斎とも迎合しない、当初は規模が小さい活動であったが、逆に幽斎と組んでいなかった事が後に幸いした。


 織田幕府崩壊、津田幕府成立の余波で、左内への追及の手が緩んだからだ。

 津田家に敵意を持ち逃走を図った旧幕臣、細川家旧臣の捜索と捕縛に労力が割かれるようになり、左内は逃走生活が楽になっている。


 彼は逃走と並行して、どうにか津田光輝を打倒する手段を考えていた。

 だが、彼の持つ領地、財力、兵力などを考えると、通常の方法では成し得ない。

 左内は色々と考えた末に、外国勢力を利用した津田光輝打倒を考えるようになった。


 彼は同じく不遇を託つ宣教師達と協力をし、彼らの故郷イスパニアとポルトガルから援軍を得る事に成功したのだ。

 ポルトガルに関しては、現在スペインと同君連合を組んでいる同じ国であったが、海外で活動しているポルトガル人達の中には、故郷が他国に併合された事実に反発している者も多い。


 『黄金の国ジパングにイスパニアから独立したポルトガルの植民地を得て、そこを拠点に力を蓄え、最終的にはポルトガル本国を独立させる』という目標に従い、日の本出兵に協力するポルトガル人は多かった。

 イスパニアも間抜けではないので、ポルトガル独立勢力の動きは掴んでいる。

 だが、ただ弾圧しても費用ばかりかかって何の益もないので、ジパング侵略で彼らを使い潰そうと計画した。 

 現在、イスパニアの財政状況は決してよくない。

 新大陸で原住民を奴隷のように扱い金銀を採掘させているが、過酷な労働環境と伝染病のまん延で労働力が減少していたからだ。

 新大陸から送られてくる金銀が減れば、イスパニアの財政は途端に悪化する。

 なぜなら、イスパニアは大国ゆえに存在するだけで多額の経費がかかるからだ。


 そこでイスパニアも軍艦と兵力を送り、黄金の国ジパングを占領してしまおうと計画した。

 イスパニアの狙いはジパングの金銀だけではない。

 現在、欧州全土で上流階級に持て囃されている『ツダ製品』であった。

 経済を金と銀にばかり頼ると、今度は金と銀の価値が下がってインフレーションになる可能性がある。

 銅銭の他に金貨と銀貨も流通させている津田家には余計にその危険性があったが、彼らは優れた技術力によって領内の開発を進め、研究、生産した様々な品を流通、交易に使い、庶民の生活レベルを上げて所得と購買力も増やし、その経済力を上げる努力を怠っていなかった。

 そのおかげで常に銭は不足気味であり、津田領の経済発展は著しい。

 最新の情報によると、その津田家が織田幕府を破って政権を樹立したという。

 津田家が天下を取った以上は、経済発展が日の本や外地、その周辺地域にも波及するはずだ。


 世界に冠するイスパニア帝国としては、大陸から収奪している金銀と交易ばかりに経済を任せるのをやめ、日の本を占領して津田家の財力と技術を手に入れ、イスパニア千年帝国を樹立する最高の機会だと思った。

 

 幸いにして、日の本にはイスパニアを受け入れる勢力がある。

 キリスト教への弾圧が激しい津田幕府に反発するキリシタンの日の本人達であった。

 黄色い猿ではあるが、キリシタンになる判断力くらいは持つ連中で、もしジパングを占領したら半人間扱いくらいはしてもいいと、イスパニアの王フェリペ二世は考えていた。


 ただの差別主義者ではなく、同時に彼は有能で冷徹な統治者でもある。

 もしイスパニア単独でジパングを攻めるとなると、犠牲が大きくなってしまう事は理解していた。

 その間に、手空きの欧州で他国が戦争を起こしたら面倒である。

 そこで、キリシタンへの弾圧を行う津田幕府を討伐するためという理由で、欧州中から義勇兵を募ったのだ。

 フェリペ二世の呼びかけに、実はカソリック信仰にそれほど熱心ではない彼から見ると、狂信者、宗教に騙されやすい愚かな者、津田家の財と利益を手に入れようと目論む欲深い連中や勢力、その思惑は別として、多くの兵力と船が集まった。


 イングランド、フランス、東欧諸国も、国家は参加していなかったが、ローマの呼びかけで敬虔なカソリック信徒、有志貴族達が船や兵員を出している。


 ジパングで莫大な富を得られる。

 フェリペ二世の呼びかけで、軍艦や輸送用の大型ガレオン船の建造も始められた。

 一時的ではあるがイスパニアを中心に『ジパング特需』も発生し、その時は欧州各地で繰り広げられている戦争も減ったほどだ。


『連中を使い潰せば、欧州でも我がイスパニアが優位に立てる。素晴らしい事だ。欲深いバチカンの連中も、十字軍の再来とばかりに喜んでおるわ。猿が相手なら人殺しも罪にならぬか』


 フェリペ二世は、自らが計画した会心の策に一人ほくそ笑んだ。

 

 財政負担は決して小さくないが、兵力の大半が義勇兵なので食料だけを負担すればいいのが楽であった。

 褒美は、日の本の猿共から略奪でもさせれば済む話だ。

 軍隊は男ばかりなので女の準備も必要だが、『現地で性欲を発散させる雌猿の数が十分、同じく穴は開いている。新大陸と同じだ』という風に考えていた。

 随分と失礼な考え方だが、この時代のヨーロッパ人は大概こんなものである。

 もし猿が減れば、欧州から移民をさせてもいいとフェリペ二世は考えていた。


『準備が整い次第、船団を出発させるのだ』


 こうして、フェリペ二世は『欧州無敵連合艦隊』と呼ばれるようになった大艦隊を日の本に向けて出発させる。

 その規模は軍艦が五百二十六隻、その他の船も合わせると二千四十八隻。

 これは、記録にも残っている正確なものだ。

 イスパニアは東洋でも兵員を募る予定で、その最終的な兵力は十万人にも迫るものとなった。


『チャイナとその属国も兵を出す。同じく猿の異教徒どもだが、盾には使えるだろう』


 そしてこの出兵と連動して、いまだ日の本と講和交渉が結べていない明と朝鮮も兵を出す事が決まっていた。

 フェリペ二世が不足する陸上兵力を補うため、精力的に明と交渉を行ったのだ。

 明は対日の本戦における大損害のせいで威信が低下し、そのせいで増えた異民族反乱への対処で忙しく、『夷には夷をもって対抗する』という原則に従った。

 ただ、兵力を出さないと失った台湾、琉球、海南島の奪還が難しいと考えていたので、李氏朝鮮にも命令して兵力を準備している。

 船も、商人などから強引にかき集めていた。


『ジパング制圧により、我が千年帝国の第一歩が始まるのだ!』


 フェリペ二世は、出発する大船団を見送りながら一人悦に入る。

 常識で考えれば、これだけの兵力を整えて戦争に負けるはずがないからだ。

 だが、まさかこの大船団が原因で、これより百年以上にも渡る欧州全体の停滞をもたらすとは、さすがのフェリペ二世もそこまでは予想できなかった。






「(それは、外国人に国を売っているのでは?)」


 欧州無敵連合艦隊の来訪を、まるで神が来るかの如く嬉しそうに話す左内を見て、雑賀孫一は醒めていた。

 他の同志達を見ると、左内と同類で喜んでいる者、孫一と同じく醒めている者と半々だ。

 ここに集まっている者達は、みんながキリシタンというわけではない。

 一向宗、天台宗、宗教は関係なく織田家と津田家による天下統一の過程ですべてを奪われてしまった者、旧幕臣や細川家、元蒲生家臣氏郷派の姿もある。

 ようするに、津田家が倒れて自分達が復権できればいいと考えている者達の集まりとも言えた。

 宗教や前に所属していた勢力は違うが、津田幕府打倒に向けて一緒に戦う。

 いわば、対津田幕府互助会のようなものであった。


 第一、孫一も一向宗で傭兵をしていたが、本来は八咫烏信仰……ほぼ神道の信者と見て間違いはなかったのだから。


「おおっ! 南蛮より、神の教えを理解しない津田光輝に神罰を下す艦隊が来るのですな!」


「……」


 ここに、左内と同じレベルでキリシタン狂いとなってしまった人物がいる。

 彼の名は、斎藤竜興。

 織田信長に美濃を追われてから、彼はずっと織田家と戦い続けた。

 討ち死にしたという噂も世間には流れていたが、現に彼は生きている。

 斎藤家当主時代には悪愚だと言われていたが、彼が家督を継いだのはわずか十三の時、美濃を追われたのは二十の頃であった。

 あの織田信長に対し、二十前の若造では荷が重かったというのが現実ではないかと孫一は思うのだ。

 孫一は竜興と共に戦った事もあるが、なかなかに優秀な人物であったし、苦労を重ねていたので人間もできていたと記憶している。

 ここで再会するまで十年以上も会っていなかったが、まさか左内に唆されてキリシタンになっているとは思わなかった。


 だが、皮肉にもその過度なキリスト教への傾倒ぶりが評価され、左内から頼りにされているのだから、人間何が幸いするかわからないという事だ。


「我らは何をすればいいのだ?」


「日の本で騒ぎを起こす。津田幕府が蜂起した我らに構っている間に、南蛮と明の軍勢が背後から津田幕府を襲うわけだ」


「我らは使い捨てか?」


「まさか、同じ神を信仰する同朋を南蛮人が見捨てるはずがない。明経由で我らに協力してくれる大名もいる。危険ではあるが、実入りは大きいぞ」


「おおっ!」


「先祖代々の領地を取り戻すぞ!」


「津田家め! 目にものを見せてやる!」


 左内の説明を聞き、多くの同志達が気勢をあげた。

 南蛮と明が協力してくれるのなら、大名に戻れたり、先祖代々の土地を取り戻すのも容易いと感じたからだ。

 

「(問題は、使い潰される側に入れられないかだな……)」


 大半の無邪気に喜んでいる連中に反して、孫一はどこか醒めていた。

 彼がこの企みに参加したのは、他に行き場所がなかったからだ。

 今さら津田家に降伏しても許されるとは思わず、ただ逃走しているだけでは津田家の間諜にいつか捕えられてしまう。

 左内の計画を聞くと戦力的には勝ち目がありそうに見えるし、今はとにかく逃げ込める先の確保の方が重要だと。

 ただ孫一は、心のどこかである懸念も抱いている。

 

 本当に、自分達が津田家に勝てるのかと。

 負け犬根性だと言われかねないので口には出していないが、孫一は幾度も津田家に負け続けた。

 負け続けたからこそ、津田家の恐ろしさを誰よりも理解しているとも言える。


「久しいですな、孫一殿。我らが勝てば、斎藤家も美濃国主として復活できます。孫一殿も紀伊に戻れるではないですか。共に頑張りましょう」


「そうですな」


 孫一は、嬉しそうに自分に話しかけてくる竜興を見て、余計に自分達の勝利に疑念を抱くようになってしまう。

 だが、水面下では確実に計画が進行していた。







「大御所様、いいできの銭ですな」


「織田幕府の『文禄通宝』は失敗に終わったから、精度には拘ったらしい」


「独自通貨の鋳造が始まりましたか。津田幕府の基盤が強固になりますな」


 江戸にある隠居屋敷において、羽柴秀吉が新通貨『慶長通宝』の見本を見て感想を述べた。

 討ち死にした将軍信重の喪があけると同時に、信輝は正式に征夷大将軍の地位についた。

 津田幕府が開設され、代々津田家の当主がこの職に就く事が決まったのだ。


 津田幕府は、次々と新しい政策を打ち出した。 

 まずは、独自貨幣『慶長通宝』の鋳造開始、長年かけて技術力をあげてきたというか、元からある技術を職人に教えてきた津田家が、石山に建設した造幣所で鋳造を開始した。


 今までに世に出回っていた永楽通宝を含む他すべての貨幣との交換が義務づけられたが、交換は順調に進んでいる。

 津田幕府の経済力と軍事力を背景に、慶長通宝が高い信用度が得られたからだ。

 精度の方も永楽通宝よりも上がっており、同時に新しい金貨と銀貨『慶長金貨』と『慶長銀貨』の鋳造も開始している。

 旧金銀貨との交換レートも正式に定められ、これも交換が進んでいた。


 他にも、長さや重さ、升の統一、幕府で使う共通言語の統一も始まっている。

 方言の禁止はしていないが、共通語を読み書きして喋れないと津田幕府への仕官ができなかったし、京の大学にも入学できなかった。


 外地でも共通語の導入が始まっていて、徐々に外地の日の本化を進める予定であった。

 他にも、仏教のいくつかの宗派が統合している。

 

 南蛮の宣教師を真似て、共同で外地での布教活動を開始したからだ。

 これには、津田幕府の援助もある。

 東南アジアでは宣教師による現地住民のキリスト教徒化が進んでおり、それに対抗したというわけだ。


 ただ、織田信長と戦って壊滅した一向宗と天台宗はこれに参加していない。

 いまだ組織の建て直しに成功していないからだ。


 寺は、公家と並ぶ学術の拠点でもある。

 彼らは布教のため、世界各地の言語の習得と研究、教典などの翻訳もおこなう事になった。

 外地にも寺を建立し、現地で得度した僧侶を日の本に留学させたり、移民や仕事で外地に向かう日の本人に現地の言葉を教える仕事を始める計画にもなっていた。


 俗にいう『寺前留学』制度である。

 命名者は清輝であった。


「大御所様は、坊主の扱いが上手いですな」


「逆らわせず、新しい利益で釣って、みんなで幸せになりましょう」


「それが一番ですか」


 無理に津田幕府に逆らわなくても、外地で信徒を増やせるのだ。

 どの宗派も過去に大名に逆らった事実を忘れ、外地での布教活動の準備を進めていた。


「北方、南方共に順調ですが、明と朝鮮はどうにもなりませぬか?」


「信輝も苦労しているみたいだな」


 早速信輝が講和交渉を開始したのだが、明と朝鮮が無茶な条件ばかり出して交渉が進まないらしい。

 実務交渉を任せられた本多正信も、まったく進まない交渉に苦労の連続だそうだ。


「噂だと、懲罰で日の本に兵を出すとか。朝鮮は先導役を買って出たらしい」


「それは大変ですな」


「小太郎からの情報だけど」


 風魔小太郎も、同じ名乗りの二代目が諜報の責任者になっていた。

 二代目からは海外に対しての諜報活動も始まっている。

 明や朝鮮にも草を送り込んでいるのだが、明が日の本への懲罰として遠征を計画しているという情報が入ってきたのだ。


 最近手を焼いていた中国東北地方に割拠する女真族が大人しくなったが、海禁策を掲げる落日の明は朝鮮救援の戦費で財政が悪化していた。

 それを何とかすべく、最近景気のいい日の本を狙ったというわけだ。


「大義名分は立ちますか」


「先に攻めてきたのは、日の本の方だからな」


 反撃されて酷い目に遭っても、先に攻めた日の本が明に文句など言えるはずがなかった。


「朝鮮も兵を出すのでしょうか?」


「元寇を見るに、明が命令すると思うな」


 今の明にも余裕があるわけではないので、ある程度の兵力を確保するとなると、やはり李氏朝鮮にも出兵を命じないといけないはずだ。

 そして、李氏朝鮮がそれを断れるはずがない。

 光輝はそのように分析していた。


「でも、これを討てば講和になるかな?」


「そうなのですか?」


「朝鮮は明の属国だからな。明が折れてくれれば、朝鮮も折れざるを得ない。逆に、明が折れないと単独で講和というわけにもいかないわけだ」


 朝鮮は数千年もの間、ずっと中国の属国であった。

 だからその命令には逆らえない。

 そんな朝鮮であるが、日の本に対しては常に上から目線であった。

 彼らの考えでは朝鮮も日の本も同じ明の属国だが、朝鮮は自分の方が兄で、日本は弟だという妙な認識を持っている。

 親である明が日本を懲罰するのであればそれに手を貸して当然だという感覚があり、明が日の本と講和するのであれば、朝鮮も講和して当然だという考えがあるのだと秀吉に説明する。


「ならば、親の明が折れれば朝鮮も講和しますか」


 そんな話をしてから数か月後、いよいよ明、朝鮮連合軍による日の本懲罰軍が九州を伺うようになった。

 津田幕府将軍信輝は、陸、水軍の軍勢を北九州に集結させる。


 基本作戦は、水軍により上陸前になるべく兵ごと船を沈める。

 上陸した敵は速やかに排除するという簡単な作戦案になっていた。


「津田幕府軍の負けはないと思うのですが……」


「何か不安でも?」


「よくある話ですよ」


 隠居屋敷を訪ねていた謙信に、光輝は自分が知り得た情報を説明する。


「毛利家が、妙な動きをしているのです」


「みたいだな」


「やはり、ご存じでしたか」


「まあ、小太郎は優秀だから」


 毛利家は、不遇の日々を送っていた。

 織田信長に攻め立てられて安芸一国のみを安堵され、それから一切加増を受けていない。

 度重なる出兵で財政も厳しく、当主輝元を補佐する小早川隆景は苦労の連続だそうだ。


「輝元が、明と密かに連絡を取り合っているようだな」


「上杉家で知り得た情報もそれです」


 明に『我が毛利家が、日の本侵攻の先導役となりましょう。その代わりに長門、周防、石見、出雲、伯耆、備前、備中、備後、美作、播磨、因幡、但馬の領有を認めてほしい』と密書を出していたと、風魔小太郎からの報告であった。


「随分と欲張りな要求ですな。大毛利家復活ですか。いや、かの元就公も超える偉大な計画ですか。しかし、よく隆景殿が許しましたな」


 ただの裏切りではなく、他国に同朋を売る行為なのだ。 

 もし露見したら、毛利家は売国奴として確実に改易されるはず。

 毛利家は、先々代の当主元就が正親町天皇に対し即位料、御服費用、改元費用を献上し、勤王の家柄という側面も持っていた。

 明への呼応は、それらの評価をすべて台無しにしてしまう可能性があったからだ。


「隆景殿なら、最近は病床に臥せっているという情報だ」


「御目付役が機能していませんか」


 隆景は苦労の連続で、遂に床に伏せるようになってしまったそうだ。

 お目付け役がいないために、輝元が暴走したらしい。


「どうするのです?」


「こんな文が来ているからなぁ……」


 発見は遅れたが、病床にあっても隆景は輝元の不祥事に気がついたようだ。

 『自分が腹を切るから、毛利家を助けてほしい』と、光輝に手紙を送ってきた。


「隆景殿が可哀想になるな」


 自分で毛利家の家督を継いだ方がよっぽど上手くいくのに、甥の補佐に徹した結果がこれでは救いがない。

 光輝は、ただ隆景に同情した。


「こんな穴だらけの謀略、輝元殿は上手くいくと思っているのでしょうか?」


 謙信からすれば、こんなものは謀略にも値しなかった。

 ただの自殺願望にしか見えない。


「それが、他にもお仲間がいるのさ」


 津田家にルソンを奪われ、交易のために辛うじて港を使わせてもらっているイスパニアと、マカオ喪失を恐れているポルトガル。

 この両国も明に加担していると、光輝は信輝から報告を受けていた。


「明と南蛮が?」


「敵の敵は味方というわけだ」


 津田幕府政権下となった日の本は、キリスト教の禁教命令までは出していない。

 だが、布教の名を借りた宣教師や南蛮人の犯罪、反国家的な活動は容赦なく取り締まるようになった。

 奴隷売買や海賊行為への加担、日の本国内での犯罪行為で捕縛、処刑される宣教師や南蛮人が増え、本国から抗議がくるようになっていた。


 南蛮人からすれば、未開のサルが白人を裁くなどあってはならないというわけだ。

 捕縛して取り調べ中であったり、処刑する前の同朋に謝罪、賠償して釈放せよと上から目線で要求してきた。


 一方の津田幕府側は、この要求を一蹴した。

 法に則った行為であると毅然と返答している。


 これも原因の一つであったが、津田幕府は徐々にキリスト教徒への締め付けも強化している。

 津田家や他の大名家の家臣なのに、有事の際に宣教師や南蛮人の言いなりになって反乱でも起こされると困るからだ。

 津田家も含めて各大名達の脳裏には一向宗の記憶が色濃く、再びあの悪夢を避けようと、キリスト教徒家臣の雇い止めや、全国への啓蒙活動をおこなっていた。


 宣教師のあとに侵略者が現れ、インド周辺、東南アジア、太平洋、南北アメリカ大陸で起こっている事を瓦版などで伝えている。

 そのおかげもあり、日本国内のキリスト教徒は減少を続けていた。


 しかしながら、やはり信仰を捨てられない者もいる。

 毛利家がキリスト教徒を新規に雇い入れて兵力を増強し、九州でも大友家、大村家、有馬家、松浦家などのキリシタン系旧家臣が、イスパニア、ポルトガル本国の命を受けた宣教師の命令で武装蜂起を計画していると報告が入ってきた。


 ルソンや台湾でも、同じような武装蜂起が計画されている。

 明、朝鮮軍が九州に攻め入った隙に、これらの地域を奪い返そうと本国から艦隊と兵力を呼び寄せていた。


「宗教は必要なものだが、付き合い方を考えないといけないな」


「そうですな……して、大御所様は?」


「何もしない。信輝達に任せるだけだ。我らは年寄りで、いつまでも彼らを心配して面倒を見てやれないのだから」


「確かにそうですな。上杉家も景勝に任せるしかありません」


「第一、信輝の方が優秀なのだから。今日子が口を出しても、俺が口を出す事はないのさ」


「それはそれは」


 光輝の言い分に、謙信は笑ってしまった。


「対策は十分なのですか。ならば安心です」


 謙信は安心して津田屋敷を出た。

 彼がいなくなった後、光輝と今日子はその足でカナガワへと向かう。

 

「社長、副社長。大船団ですよ」


「本当に凄いな」


 日の本に迫る欧州無敵連合艦隊の詳細は、とっくに津田家によって判明していた。

 当たり前だが、アンドロイドなので年を取らないキヨマロが、偵察衛星、無人偵察機によって正確な隻数から、船に搭載されている大砲の総門数まで把握していたのだ。

 欧州無敵連合艦隊が、大船団を組んでケープタウン沖を航行している写真がテーブルの上に置かれている。


「うち、偵察衛星なんて持っていたっけ?」


「カナガワで自作しました。西暦の頃に使っていた旧式程度なら材料があれば作れますから。無人偵察機も同じですね。社長が戦場跡で拾って修理したやつはそろそろ耐用年数に問題が発生しつつあるので、同じく旧式を製造しています」


「なるほど……神の目線でこの世界のすべてを知るキヨマロこそが、実は本物の神なのかもな」


「そういうのに興味はないですね。私はアンドロイドなので」


 キヨマロは相変わらずであった。

 三十年以上も容姿が変わらないキヨマロに対し、いまだ多くの者が疑問を感じている。

 大陸由来の謎の秘法で年を取らないとか、実は妖怪と人間の間に生まれた子供だとか。

 様々な噂が流れていたが、暫くすると『キヨマロは津田家に仕える影の一族の当主で、見た目が変わらないのは、当主が密かに交替しているからだという結論に落ち着いた。


 それにしては代々の当主がまったく同じ容姿なのだが、そうとしか考えられないので世間ではその説が一般的となっている。

 キヨマロは外部の人間には滅多に姿を見せず、その神秘性がますます津田家の力を世間に見せつける要因となっていた。


 津田家の力の源泉を担う者ゆえに、キヨマロの身柄の拉致や暗殺を企む者も一定数存在したが、全員が返り討ちに遭っている。

 津田家の諜報を担当する風魔小太郎ですら、キヨマロの真の正体を知らないのだ。

 光輝からは『津田家の奥を管理する特殊な奏者だ』としか知らされておらず、深入りはしないようにと命令されていた。


 たまにキヨマロの秘密を他家に売り飛ばそうと考える諜報関係者が現れるのだが、彼らの最期は悲惨だ。

 その死体のみならず、津田家に仕えていたという事実すら抹消されてしまうのだから。


「船団の数は、二千四十隻。出航時に比べて八隻少ないです。優秀ですね」


 この時代、とにかく船はよく沈んだ。

 造船技術と航海技術が、まださほど進歩していないからだ。

 交易や航海は命がけなのが、この時代の常識であった。

 それは、津田家から知識と技術を導入している津田水軍でも同じだ。

 欧州や明に比べると損失は少ないが、それでも定期的に船員の死亡と船の損失は報告される。

 

「逃走する船が皆無なのも大きいわね」


「黄金の国ジパングを制圧する艦隊ですからね。実入りが大きいと聞いているから、脱走、逃走は少ないと思いますよ」


「夢を見させて侵略に参加させるのね」


「馬の鼻先に人参をぶら下げるようなものです」


 キヨマロの例えに、光輝と今日子は納得した表情を見せる。


「それで社長、副社長。どうしますか?」


「明と朝鮮も船と兵を出すんだろう?」


「はい、かなり無茶をしていますが……」


 信長の朝鮮侵略に対し、援軍を出していた明水軍の被害は大きかった。

 津田水軍も、琉球、台湾、海南島攻略時に明水軍の船を相当沈めており、朝鮮への補給を妨害した明水軍の船も返り討ちにしている。

 倭寇という名なのに実は明の人間が大半であった、彼らの討伐のついでに沈められた船も多く、実は明水軍にはさほど船が残っていない。

 朝鮮水軍については言うまでもない。

 津田水軍が船も港も造船所も焼き払っていたので、碌な船が残っていないはずだ。


「明は商人の船を徴発するようです」


「ならば、上陸前に兵ごと沈めるのが一番か……」


「欧州無敵連合艦隊も同じですね」


「俺達は何もしないで、信輝が対応するけどな」


「そうだね。大まかな情報は確認したから、屋敷に戻ろうか?」


「そうだな。俺、お腹が空いたよ」


「お昼ご飯、何にしようか?」


「客観的に見て、我々がいなければ日の本は大ピンチだと思うのですが、お二人は呑気ですね……」


「「隠居したから」」


 あとはキヨマロに任せ、二人はお昼ご飯のために隠居屋敷へと戻った。

 そして慶長三年、明、朝鮮連合軍と、イスパニア、ポルトガル連合軍による日の本侵略作戦が始まる。 

 

 まずは羽柴領となった豊後にて、改易されて浪人していた大村純忠、有馬晴信、美濃追放後織田家に敗北を重ねて各地を流浪した斎藤竜興、細川家滅亡後に逃走した雑賀孫一も加わって一斉に蜂起した。


 安芸でも毛利輝元が、キリシタンである岡定俊、小西行長、キリシタンではないが毛利家拡張を目指した家臣達と共に津田幕府の命令を無視して蜂起。


 宇喜多家では、先代当主直家の甥宇喜多詮家と明石全登が手勢と共に一斉に毛利軍に合流している。


 ルソンでも、松永久秀の甥でキリシタンである内藤如安が、千々石ミゲル、伊東マンショ、中浦ジュリアン、原マルチノらと共に宣教師や在留イスパニア人達と共に蜂起した。


 台湾、琉球、国内でも数ヵ所で、キリシタンの一斉蜂起が発生している。


「これは、思ったよりも大規模ですな」


 江戸の隠居屋敷において、光輝は木製のボードに日本と外地の地図を張り、敵軍、反乱軍の位置を朱で示して謙信達に見せていた。


 謙信は、その正確な日本とその近辺の地図に、正確な海図を見て津田家には絶対に逆らわないようにしようと心に誓う。

 天才である謙信は、勝てない敵とは戦わない主義なのだ。


「如安のバカ者めが……」


 松永久秀は、自分の甥がルソンで発生した反乱の首謀者だと聞いて一人溜息をついた。


「大御所様、如安はいい大人です。自分が何をしているのか理解しているはず。助命は無用です」


 松永家にまで累を及ぼすわけにはいかないと、久秀は苦渋の選択で甥を切り捨てた。

 その辺の割り切りのよさは、さすがは戦国武将の生き残りだと光輝と今日子は思っている。


「大御所様、対応はできているのでしょうか?」


「大丈夫みたいだな。我々にできる事は、戦況の確認のみさ」


 秀吉達の心配をよそに、将軍信輝は的確に対処していた。

 まず日の本各地で発生した反乱に対しては、対応部隊が降伏勧告の後に容赦なく鎮圧している。

 圧倒的に不利な状況での少数の蜂起だ。

 死ねば天国に行けると本気で思っている半ば狂信者の類なので、彼らは一方的な射撃や砲撃の後にほぼ全滅した。


 一番規模が大きかった豊後での蜂起も、扇動した宣教師達ごとほぼ壊滅している。

 

 小早川隆景の願いも空しく蜂起してしまった毛利家と、身内と家臣に反逆者を出してしまった宇喜多家であったが、反逆者達は津田幕府軍によって安芸国内に閉じ込められてしまった。

 元々兵力で劣るので明、朝鮮連合軍に呼応する計画であり、安芸国内に閉じ籠るのは計画の範囲内とも言える。


 元々、安芸国外に打って出る力がないのも現実であったが。


「大御所様、私の予想以上に連中は脆かったですな」


「諜報部隊が活躍してくれたからな」


 蜂起する時機や軍勢の規模を事前に知られてしまえば、彼らは何もできず、拠点に立て籠もるしかなくなる。

 対応した津田家警備隊の若手指揮官や、羽柴軍の若手武将に功績を稼がせただけで終わってしまった。


「それでも、細かな蜂起は諜報部隊だけでは掴めなかった場所もあったし、外地も反乱軍の規模や指揮官がわからなかったところもあった」


 諜報部隊が外地で活動を始めてから、まださほど時間が経っていない。

 漏れがあっても仕方がないというわけだ。


「その代わりに、ちょっと他の者に動いてもらった。まあ、信輝が頼んだみたいだけど」


「他の者ですか?」


「筑前様、私ですよ」


「弘就殿か」


 信輝が仕事を命じたのは、『生涯現役』を口にしながらも半隠居状態にある日根野弘就であった。

 彼は、何か単発の仕事があるとそれに対応するようになっていた。


「弘就殿に? まさか!」


 勘のいい秀吉は、すぐに豊後における反乱首謀者の中に、斎藤竜興がいたのを思い出す。


「竜興殿も苦労の連続で、現実が見えてきたというわけですな」


 もう美濃の国主でなくてもいい。

 幕臣で銭侍でもいいから斎藤家を復興させてくれと弘就に連絡を取っており、それを彼が信輝に上奏したら、今回の反乱軍の情報を流したらという条件が出た。

 幕臣への推挙という条件を受けた竜興は、孫一が引くほどキリスト教に傾倒したフリをして岡左内の信用を得て、彼の傍にいるからこそ知り得る情報を信輝に流し続けたというわけだ。


「竜興殿は脱出できたのでしょうか?」


 秀吉は、豊後における反乱の首謀者に竜興の名があったので、羽柴軍が間違って討ってしまったのではないかと心配になった。

 せっかく身を挺してスパイ行為までしてくれたのだから、死なれてしまうと罪悪感に襲われてしまうからだ。


「とっくに逃げ出していますよ。蜂起した連中からすれば、竜興殿が蜂起した直後にいなくなったなんて情報は流せませんからね」


 もしそんな事実が反乱軍全体に知れ渡ったら、士気の低下が甚だしい事になってしまうからだ。

 なので、竜興は最後まで戦った事にしておかなければいけない。

 今まで竜興を信用していた岡左内の怒りは激しく、彼は普段の実力を発揮できずにあっという間に討たれてしまった。


「これで斎藤家は再興しました。少し肩の荷が降りたような気がします」


 元斎藤家重臣として最後の仕事をこなせたと、弘就は安堵の表情を浮かべる。

 いくら津田家家臣になっても、まったく竜興の事が気にならなかったわけではないからだ。


「あと国内は、安芸だけですか」


「信輝は、あそこはわざと潰していないのだと思うわ」


「国内の反乱分子を吸い寄せるわけですな?」


「それしかないと思う」


 秀吉はすぐ、今日子の考えに気がついた。


「もう一つ目的があって、外国勢力を確実に誘引して討ち、暫くは大きな戦はゴメンだと思っていると思う」


 統治体制の強化、国内、外地開発、新領土の測量、移民支援、水軍のさらなる増強。

 やる事はいくらでもあるので、彼ら欧州勢との戦は暫く遠慮したいのが信輝の本音であった。


「となると、安芸に国内の反乱分子を閉じ込めた以上は……」


「先に外を片付けるわね。きっと」


 今日子の予測は当たり、津田幕府初代将軍津田信輝は、釜山から対馬、北九州経由で上陸しようとした明、朝鮮連合軍二十五万人に対し、船ごと沈める戦法でほとんど九州への上陸を許さなかった。

 わずかに上陸した軍勢も、容赦なく津田幕府軍によって討たれていく。


「あくまでも徴発した船なのだが、陛下はどうやって商人どもに弁償するのだ?」


 次々と沈む味方船を見ながら、明軍のとある将軍が溜息をついた。

 津田水軍にまるで歯が立たず、ただ茫然と戦場を見ているしかなかったのだ。


 明と朝鮮は、津田水軍による海賊狩りと信長による朝鮮出兵、その後の財政悪化で軍船の再建が進んでいなかった。

 そのため、兵員が運べればいいと商船を強引に徴発したが、碌な武装もない商船など津田水軍からすればただの餌でしかない。

 その砲撃に圧倒され、次々と撃沈されていく。

 

「今の島津家には足りないものが多いけん。おまんらが地獄に行ったあとは有効に活用させてもらうとよ」


 鹵獲された船も多かった。

 この戦いには島津軍も参加し、精鋭が多い彼らは躊躇う事なく敵船へと斬り込み、制圧してから鹵獲していく。

 鹵獲船を活用して、島津家も水軍と交易を拡張する予定だからだ。


「これからは交易で生きていかんと」


 薩摩と大隅は回復したが、島津家がずっと健在なら攻略する予定もあった琉球と台湾は津田幕府に取られてしまったので、島津家は交易量を増やそうと船の確保に勤しんでいた。

 勿論造船も行っているが、必要量を満たしているとは言えない。

 ならば他から奪えばいいと、豊久自らが精鋭を率いて敵船に斬り込んでいたのだ。


「ちょっと船床に血糊が目立つけん。薩摩で掃除と補修が必要とね」


「少し古い船ですが、新造船が完成するまでの繋ぎにはなりますか」


「転売してもいいから、損はなか」


 豊久の御付きのまま、島津家の宿老になった長寿院盛淳は、島津軍で奪った船を見分していた。

 周囲にも、船員が討たれるか降伏した船が十数隻もある。

 海に投げ出された敵兵も多く、彼らはそのまま沈むか捕虜となった。

 無料で大型商船が手に入るとあって、島津家以外にも敵船の鹵獲に精を出す大名は多かったからだ。


「我らのような剣士でも、役に立つ戦場があるな」


「種子島では対応できない速度で斬り込んでいく。種子島は銃口がこちらに向いていなければ当たらない。船の狭い通路では、取り回しの悪い種子島よりも短刀での戦闘が有利だな。これは攻城戦や町などを占領する時にも応用できる」


「今日子様は、剣術には精神修養と体力増強などの効果もあると仰っていた。種子島の普及で剣術も衰えるかと思ったが、弓術と同じく需要は存在するのか」


「それを上手く取り込んで道場を盛り上げないとな」


「そのための功績稼ぎだ。南蛮人に殺されるような奴は弟子を取る資格などない」


 津田幕府軍のみならず、各大名家の斬り込み隊には多くの剣豪も参加していた。

 伊東一刀斎とその弟子である古藤田俊直、神子上典膳、林崎甚助、柳生宗章、宗矩兄弟など枚挙にキリがないほどだ。

 ここで南蛮人に斬り込んで勝てれば宣伝になると、わざわざ臨時で斬り込み隊に参加した剣術家も多かった。

 彼らは銃の取り回しが悪い船内などで無類の強さを発揮し、自らの居場所を見つける事に成功する。

 後世、彼らは海兵隊要員として活躍していくようになっていく。


 それとは別に、島津軍は剣豪達に負けないくらい強かった。

 彼らに負けじと、積極的に敵船に斬り込んでいく。


「あいつらは鬼だ!」


「東洋鬼め! こっちに来るな!」


「明の連中が何か言っているとね。意味はわからんが」


 豊久以下島津軍と剣豪連合によって容赦なく斬り殺されていく味方を見て、中国人や朝鮮人は過去の朝鮮侵略時の悪夢が蘇り、恐怖に打ちひしがれてしまう。

 さらに降伏しようにも言葉が通じず、そのまま斬られてしまう者が続出した。


「お義爺様の話によると、今度は南蛮の軍艦を奪える好機が来るとね」


「向こうは新型船が多いそうですぞ」


「それは楽しみやね。南蛮人にも骨がある奴がいると嬉しいとね」


 明、朝鮮連合艦隊よりも難敵であるが、欧州のガレオン船は津田家以外の大名から見れば最新の船になる。

 これを奪って、商船や護衛用の軍船に活用したいと考える大名は多かった。

 商船主体の明、朝鮮連合艦隊との戦闘は、その前哨戦、練習戦でもあった。

 

「南蛮人は、明や朝鮮のように弱くはないそうですが」


「そこは返り討ちに遭わないように研究をするとね。島津家のためにも、船はいくらでも必要とね」


 明、朝鮮の艦隊は壊滅し、逃げ延びた船はわずか十数隻のみであった。

 兵員の犠牲者も膨大なものとなり、日の本への上陸作戦は失敗。

 津田幕府軍は残敵を掃討し、津田幕府直轄地である済州島に捕虜収容所を建設して捕虜を管理した。

 その間にも、続けて朝鮮と中国沿岸に対して攻撃を続行する。

 再び港と船を焼き払い、両国の海岸沿いにある都市の軍駐屯地、大商人の屋敷、城や政庁などを短時間占領して財貨などを奪った。


 戦争でかかる膨大な戦費の補てんと、戦端を開いた以上は明本土も攻撃を受けるのだという事実を知らしめ、講和を促進するためであった。

 一撃離脱の襲撃と略奪しかおこなわないのは、中国大陸の広さに呑みこまれないためと、同じ統治に手間をかけるなら外地の方が将来的には実入りが大きいと、将軍信輝が考えたからである。

 

 これら津田幕府軍による一連の軍事行動のせいで、明の経済は麻痺した。

 見つかり次第船は軍民問わずに撃沈か拿捕され、沿岸部では大量に流通していた銀、綿織物、絹織物、陶器、工芸品、書籍、穀物などが大量に略奪されたからだ。


 神出鬼没の津田水軍に対し明軍はほとんど損害を与えられず、逆に被害を増やして民衆からの支持を失った。

 一時津田水軍の活動が低調になった時機があったが、それはその間にようやくルソン沖に到着した欧州無敵連合艦隊との決戦がおこなわれたからだ。


 両軍は大砲を多数装備した大型快速帆船を数百隻以上も揃えて決戦に臨んだが、欧州無敵連合艦隊は津田水軍の大型鉄蒸気船と新型大砲の前に壊滅する。


 装備の差もあるが、欧州無敵連合艦隊の将兵はケープタウン経由で長い期間航海を続けていたので疲労困憊、この時代の船員がよくかかる壊血病の患者も多かった。

 長く過酷な航海の果てに損傷が著しい船も多く、壊血病などとは無縁で船員の士気も高い津田水軍とは最初から戦いにならなかったのだ。


「あれは何だ!」


「空を飛んでいるぞ! 悪魔の使いだ!」


「あんなのに勝てるはずがねえ!」


 船の速度と大砲の射程距離、命中率、威力。

 すべて津田水軍に負けて翻弄されているところに、上空から飛行船部隊が姿を見せた。

 飛行船など見た事もない南蛮人達は、飛行船を悪魔の使いだと勘違いしてさらに混乱してしまう。


「盛淳、あの船とね!」


「船員が混乱しておりますな」


「これぞ好機!」


 大混乱し、組織だった砲撃すらできなくなった敵船に対し、津田水軍のように大きな船がほしい大名家が斬り込み隊を送り込み始める。

 津田水軍も使えそうな船に斬り込みを開始したので、完全な競争になっていた。


「津田水軍の装備よりもちと古いが、交易と海賊相手には十分とね!」


 戦国時代を生き抜いた血の気の多い武士を多数抱える大名家は、自らの利益のために軍船だろうが商船だろうが、容赦なく奪っていく。

 大型船など、津田家以外ではそう簡単に作れない。

 ならば、敵から奪うのが手っ取り早いという考えであった。

 

「もう焼夷壺の投下はいい。次は破裂壺を投下するぞ」


「了解です」


 飛行船を操る立花宗茂は、最初は大砲装備数が多い軍艦に焼夷壺を、奪えそうな船には破裂壺を投下した。

 破裂壺は、対人殺傷用の大型手りゅう弾と同じ効果を発揮する。

 船体をあまり傷つけず、船員のみを飛び散った破片で殺傷するのだ。


「敵の数が多すぎて、夜になってしまいそうですね」


「逃す心配はないがな」


 宗茂は、飛行船内に常備されている赤外線暗視スコープの電池残量を確認する。

 夜間にも逃走する船への攻撃を止める予定はなかった。


「この不思議な眼鏡は暗闇でもよく見えるとね。向こうはおい達が見えんけん。これはまたも好機とね!」


 同じ装備を貸与された豊久以下島津軍は、夜襲の方が有利だと積極的に敵船に接舷、上船して敵兵を斬り、船を奪っていく。

 船は奪った家の物。

 事前に津田幕府がそう約束していたので、彼らは夜も休まずに攻撃を続けた。


「ジパングの黄色い猿どもは夜行性なのか? うわぁーーー!」


 またも一人、イスパニア軍船の船長が夜陰の中で斬られた。


「南蛮の言葉はわからんが、失礼な事を言いそうな顔をしていると」


 豊久は、人を斬りすぎて血塗れになった刀を倒れているイスパニア人の服で拭いた。

 甲板上には、降伏する間もなく斬られたイスパニア軍人の死体と血溜まりで埋め尽くされていた。


「殿、これはイスパニアでは最新の軍艦だそうです」


「ふーーーん、津田水軍の船に比べるといまいちとね。まずはこれで練習やね」


「我々は、大砲など撃った事がありませんからな」


「これからは銃も大砲も必須やね。やりようによっては、こういう斬り込み戦法も役に立つ。使いどころの問題と」


「研究が必要ですな」


 攻撃は夜明けまで続き、フェリペ二世が送り込んだ欧州無敵連合艦隊は八割を超える船が撃沈、拿捕され、大量の戦死者と捕虜を出した。

 逃げ出した船も津田水軍による追撃艦隊によって次々と撃沈され、降伏していく。


「やはり、新型蒸気船はいいな」


「ええ、追撃も楽ですよ」


 追撃艦隊の司令官である藤堂高虎は、副将である里見義重と共に燃え盛るイスパニア軍船を見ながら話をする。

 義重は、津田家に討たれた里見一族の数少ない生き残りで、旧里見水軍組の精神的な主柱であった。

 彼は津田家による関東制圧作戦時には幼少であり、異母兄義頼からは家督相続を巡って一方的に憎まれていた。

 そのため、里見家滅亡時には寺に預けられており、皮肉にもそのおかげで義重は、数少ない里見一族の生き残りとなっていたのだ。


「さすがに全艦撃沈は不可能ですか」


「ただわけもわからず逃げている船は、沈んだようなものだ。第一、どの面を下げてイスパニアの王に報告するというのだ」


「それもありますか」


 高虎の想像どおり、わずかに生き延びた船も大きく航路を外れてヨーロッパに戻る前に遭難したり、フェリペ二世からの処罰を怖れてインド洋付近で海賊に鞍替えしてしまったりしたものまであった。


 兵員も討ち死にした者が圧倒的に多かったが、数千人の捕虜も得ている。

 彼らは、済州島の捕虜収容所へと移送された。

 後世、この島は捕虜収容所の島として世界でも有名になっていく。


「全滅? ジパングに上陸どころか、ルソンにも届かなかっただと?」


 一年後、フェリペ二世は欧州無敵連合艦隊全滅の報を聞いて、その場にへたり込んでしまった。

 ジパングを占領し、その富とツダ製品に関する技術を独占。

 その力を用いて世界帝国を築くという夢が、ただ人と金と船を失っただけで終わってしまったのだから当然だ。

 これまでにかけた費用がすべて無駄になった事を知り、フェリペ二世の頭の中にはイスパニアの国家財政の事しか思い浮かばなかった。


「一隻も残らずにか?」


「はい」


 すべて津田水軍によって撃沈拿捕されたわけではないが、敗走した後に遭難したり、インド洋付近まで逃げてから海賊に鞍替えしてしまった船もあった。

 フェリペ二世のコントロールから外れたわけだから、喪失と同意であると家臣が報告する。


「そっ、そんなバカな……」


「陛下! おい! 医者を呼べ!」


 あまりのショックにフェリペ二世は倒れてしまい、そのまま帰らぬ人となってしまった。

 その後継者はフェリペ二世ほどの能力に恵まれず、イスパニアとポルトガルはこれより斜陽の時代を迎える事となる。

 有志貴族や商人の参加に留めていたオランダとイギリスも無傷というわけにいかず、それを敏感に嗅ぎつけたオスマントルコが欧州に対する圧力を強め、欧州はオスマントルコとの争いで無駄に国力を消耗していく事になる。







 ルソンで蜂起したキリシタン反乱軍も鎮圧されてかの地の安全が確保されると、日本軍はポルトガル領マカオと、広州の沿岸タイパン湾とハウホイ湾に挟まれた島と半島を占領した。


 イスパニアと組んで攻めてきた明に対し、講和を結ぶようにと圧力をかけるためである。


「速やかに上陸し、作戦によって決められた地域を占領せよ!」


 この作戦は陸軍と水軍と共同作戦であり、総司令官はルソンにおいて内藤如安が首謀した反乱を一日で平定した大谷吉継が命じられていた。


「水軍と連携しての上陸作戦か。これも新しい戦だな」


「今回は上陸用舟艇なるものが間に合わず、今日子様が残念がっていたな」


 吉継は、副将である片桐且元と共に次々とマカオに上陸を行う味方を見ていた。

 気安い口調で会話をするのは、二人が友人同士であるからだ。

 海上の津田艦隊からは絶え間なく大砲による砲撃が行われ、上陸部隊に対する援護が行われている。

 本来であれば上陸用舟艇を使えば効率的なのだが、この種類の船は座礁を避けるために小型で喫水が浅く、船底も平らで外洋航海能力がない。

 大型船に搭載するにも従来の船では効率が悪く、専用の揚陸艦を建造するにはもう少し時間がかかる。

 上陸用舟艇自体にも動力があった方がよく、でなければ大型の大砲が揚陸できないから、この問題も解決しないといけない。


 仕方なしに、従来の大型船に搭載可能で、手漕ぎ式、前面の扉が観音開きになり、砂浜にも馬や四斤野砲と共に上陸可能な上陸用舟艇の開発が始まっていたが、今回の作戦には間に合わなかった。


 精鋭部隊による通常の小型ボートによる上陸作戦が行われている。

 作戦は順調であったが、たまに銃撃や砲撃を食らって犠牲が出ていた。


 少数ながらも大海戦に負けたイスパニア軍艦がマカオに逃げ込み、港から砲撃し、損傷の激しい船から大砲を降ろして反撃を行っていたからだ。


「海上からの砲撃は命中率に難があるな」


 吉継は、気になった事を鉛筆でノートに書いていく。

 江戸において生産が始まった鉛筆は、筆と墨よりも船上で使うのに便利であった。

 今は少数の初期生産品しかないが、幕府軍と水軍で正式に採用が決まっている。


「イスパニアの連中が地上に揚陸した大砲が意外と厄介だな。射程はこちらの方が上だが、命中率を考えると潰すのに時間がかかる」


「今日子様が提案している照準装置の開発促進が必要だな。あと、上陸はもう少し後でよかったかもしれぬ」


「何分、初めての作戦で色々と齟齬があるな」


「あとで反省会を開かねばなるまい」


 これら一連の欧州勢や明、朝鮮との戦いは津田幕府の圧勝であったが、吉継や且元は冷静に次の戦いを見越していた。

 将来、日の本が移民や交易で外地に出る時、現地勢力や南蛮人との間に小規模な争いが多発する可能性が高く、それを解決するため、水軍の強化と、必要な規模の上陸部隊を速やかに送る事が重要であったからだ。


「内地はこれから平和になるが、外地はこれからか」


「国内の血の気の多い連中は、仕事が沢山ある外地で預かればいい」


「そういう連中が外地で悪さをしないように見張るのも我らの仕事か」


「そういう事だな」


 数年後、吉継は津田幕府軍のすべてを取り仕切る立場となり、且元はそれを支えるナンバー2となった。

 内地を平和に導き、外地での様々な紛争やトラブルに的確に対処していく。

 吉継はその能力により、将軍信輝から『百万の兵を任せても安心できる男』という評価を受けるようになるのであった。








 同時に北方でも、津田幕府の動きに呼応した男がいた。

 沿海王にして伊達家当主の政宗である。


「津田家打倒のためにも、我ら伊達家は勢力を拡大しないとな」


 樺太からも追われた政宗は、シベリア地域、現在のハバロフスク、ウラジオストク辺りで勢力を拡大していた。

 現地の各部族を従わせ、優れた防寒技術や寒さに強い農作物、種子島、大砲などを武器に支配力を強化していたのだ。

 それらの技術と定期的に日の本からやってくる移民は、実は光輝と信輝からであったが、政宗はいつか津田家を滅ぼすために臥薪嘗胆であると家臣や一族に言い含め、日本勢力の拡大に勤しんでいた。


 敵である津田親子から援助を受けてはいるが、政宗は心にいくつも棚が作れる性格であったから気にしないようにしている。

 『俺に援助などして、いつか見ていろよ!』と公言して、精神の安定を図れる図太さを持っているのだ。

 そんな政宗であったが、彼は津田幕府と明との戦争を利用して中国東北部に橋頭保を築こうと画策していた。


 明は、不足する兵員を再び東北部の女真族などで補っていた。

 朝鮮での戦役でも致命的な損害を受けていたのに、彼らは再び男手を兵員として差し出す羽目になったのだ。

 そして彼らは、釜山と北九州の間にある海に沈んだか、済州島の捕虜収容所にいて戦力にならない。

 

 明は戦に負けて犠牲は多かったが、油断するとすぐに反抗する女真族の力が落ちた事を歓迎する向きもあった。

 女真族は、ヌルハチという期待の部族長が朝鮮での戦争で討ち死にしていた事もあり、いまいち纏まりに欠けた。

 各部族間同士の対立を明に突かれて、勢力の減退が著しかったのだ。


「津田幕府と明が争って消耗している間に、俺は勢力を拡大する。力を蓄えて、いつか津田幕府を打倒するのだ!」


 全軍を招集した政宗は、黒竜江付近までの占領に成功して有頂天であった。

 ご機嫌で自分の構想を、伊達成実、片倉小十郎、鬼庭綱元、支倉常長、鈴木元信、石母田景頼、屋代景頼らに語る。


「左様ですな、殿の野望成就もすぐそこですぞ」


 代表して片倉小十郎がそれに賛同するが、みんな本心ではそんな事は思っていない。

 第一、政宗本人ですらどこまでそう思っているのかわからないというのに。


 南奥州、蝦夷、樺太と追われて思うところがないわけでもないが、伊達家はどうにか北方の大地で拠点を築く事に成功した。

 民間交易という名目になっているが、実は津田家からの支援のおかげなのは、伊達家家臣団の間では口にしてはいけない公然の秘密だ。


 みんな大人なので、政宗の前でそれを言わないくらいの分別はあるのだ。

 それにここは寒いが、領地の広さで言えば南奥州時代とは比べ物にならないのだから。

 伊達家は現地部族の征服のみならず、彼らに寒い土地でも収穫できる作物や、農業技術と進んだ牧畜の普及、防寒に優れた衣服や住居の建築技術の普及、これらを進めて順調に勢力を拡大している。


 伊達一族と家臣団は地元有力部族の子弟との婚姻を進め、彼らに日の本式の苗字などを与えて家臣化を進めていた。

 徴税を円滑にする単位の統一、共通語、新貨幣もなぜか民間交易で入ってきたが、効果はあるので政宗はそれを受け入れている。


 『津田幕府の支配下に入っているのに等しいのでは?』と聡い者は気がついたのだが、誰もそれは口にしない。

 

 なぜなら、みんな大人だからだ。

 

 そういえば、津田幕府成立時に政宗は後陽成天皇に招待されて京に行った事がある。

 外地に領地を持つ身とはいえ、伊達家は代々左京大夫の官職を持つ身であったからだ。


 後陽成天皇は、政宗に従三位権中納言の官職を与えてその活躍を労った。

 その後、たまたま一緒に参内していた津田信輝から食事に誘われ、津田家京都別邸において豪華な晩餐会の主賓となっている。


 政宗は『俺は、津田家からの毒殺など恐れぬ!』と一緒に連れてきた各部族の有力者達の前で豪語したが、伊達家譜代の家臣達でその危険性を感じている者は一人もいなかった。


 津田幕府が、伊達家を日本勢力拡張のために利用している事に気がついたからだ。

 だが、それを政宗に指摘する者などいない。


 そんな事は政宗自体が百も承知で、それにみんな大人だからだ。


 家臣達も津田幕府から沢山お土産をもらい、地元部族の長達は伊達家の上に津田家というもっと富裕で強い権力者がいる事を知った。


 そのせいで伊達家に反抗的な者が減るのだが、政宗は『俺が強いからだ!』と家臣達には言っている。

 小十郎達も、あえて事実を指摘しない。

 そんな事をしても無駄だし、なぜならみんな大人だからだ。

 特に伊達家家宰として家臣団を纏める小十郎は、能力もだが、誰よりも大人である事が求められた。


「明と津田幕府が講和する前に、奪えるだけ奪ってしまえ! 力を蓄え、いつか津田幕府を打倒するのだ!」


 伊達家は明の冊封体制に入っており、本当は女真族の支配地に兵を進めるのは禁止のはず。

 ところが、今の明は日の本軍の攻撃と略奪で大きな損害を受け、それどころではなかった。

 実は事前に政宗が明の重臣に賄賂などを送っており、『どっちが支配しても明に冊封しているから問題はない』で済まされてしまったのだ。

 政宗は、彼らに朝貢貿易の量を増やす事も約束していた。

 当然その裏には津田家がおり、前線で津田軍と戦う明の軍人からしたら、彼らは裏切り者に近い存在である。

 酷い腐敗ぶりであるが、これが今の明の実情であった。

 宮廷にいる文官達からすれば、畑違いで下等な軍人などどうなっても構わないし、大国明がこの程度で潰れるとも思っていない。


 文官と武官の温度差は、次第に明の致命傷となっていく。


「小十郎、順調ではないか」


「今は領地を広げるだけ広げましょう。あとで開発は必要ですが」


 他民族を支配する以上、伊達家は彼らに一定の利益を与えないといけない。

 次第に日の本化が行われる地域は増えていくが、津田家からもその原資が出ているのは公然の秘密であった。


「我らはいつか津田幕府を打倒する! それまでに力を蓄えるのだ!」


 その後、伊達政宗は死ぬまで勢力拡大と領地の支配権強化に奔走したが、遂に津田幕府打倒はならなかった。

 その後も伊達家は勢力拡張を続け、津田幕府が大政奉還により日本連邦共和国となった時、北日本共和国として主要な加盟国になっている。


 その領土は、シベリア、アラスカ、中国東北部という広大な範囲に広がっており、政宗は建国の父として後世まで称えられる事となった。

 だが、彼自身がその事実に満足したのかは、どの歴史学者にもわからなかった。

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