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第六十八.七五話 紙芝居と宣伝工作? 

「紙芝居の始まり始まり」


 津田領内における娯楽には様々なものがあるが、江戸の子供に一番人気なのは紙芝居であった。

 桃太郎、浦島太郎、カチカチ山、花咲か爺さんなど、オーソドックスな童話を紙芝居にして江戸の街角で見せる。

 その時に水飴や駄菓子を販売し、それが紙芝居屋さんの収益となった。


 童話の他にも、津田家が領地にした蝦夷、琉球、台湾などの様子を絵付きで語ったり、最近ではヒーロー物に似た話も加わって人気を博すようになっている。


 ある大名の次男が頭巾と仮面を被り、困っている人達のために悪い山賊や奴隷商人などを退治する。

 非常にベタな展開であったが、わかりやすい勧善懲悪物なので子供のみならず大人にも大人気となっている。

 

 親子で水飴を舐めながら、紙芝居に見入る光景が江戸でよく目撃されるようになった。


 ちなみに国策と大人の事情により、奴隷商人は南蛮の海賊や宣教師と組んでいる。

 現在の津田領では、宣教師イコール奴隷商人とグルだと思っている者も多かった。

 外地の様子を伝えるのは、最近出生率が上がっているので、将来移民する候補地の情報を教えるためだ。


 瓦版と同じく、紙芝居は津田家の情報政策の成果と言える。


「紙芝居かぁ……」


「兄貴、大分普及したじゃないか」


「そうだな」


 この紙芝居の元を作製したのは、清輝とその妻である孝子であった。

 文化的な創作に打ち込めて嬉しい……と言うのかと思ったら、清輝には別の思惑があったりした。


「兄貴、何とかアニメを作製できないだろうか?」


「コンピューターで作れば?」


 未来は、コンピューターである程度のクォリティーのアニメや映画を作れる時代になっている。

 質はピンキリであったが、才能がある人は作品が評価されて莫大な富が得られる仕組みになっていた。

 その分、まったく注目もされない素人クリエーターがその数十数百万倍も存在していたが。


 カナガワには、専用の機材やソフトが存在した。

 足利運輸の宣伝映像を作ると、清輝が会社の経費で購入してしまったのだ。


 清輝は若い頃に漫画家志望で、ネオコミケで同人誌も出した事がある。

 だからその気になれば、カナガワのコンピューターでそこそこの作品が作れるはずだ。


「作るのはできるかも。問題は、放映手段に乏しいという弱点が……」


 この時代に、テレビや映画などないのだ。

 それと、清輝にはもう一つ不満があった。


「ここは手描きで」


「無茶を言うなよ……」


 実は、未来でも手書きのアニメには一定の需要があった。 

 絵が温かいとか、コンピューターで作るよりも優れていると評して愛好している人が多かったのだ。


 光輝は清輝に見せてもらった事があるが、未来では両者に大した差はなかった。

 コンピューターの性能が上がって、人間に近い作業ができるからだ。


「僕はこの時代で富と力を得た。声優さんにアフレコをさせて、あとで一緒に写真を撮るんだ」


「お前は、何を言っているんだ?」


 この時代に声優なんて存在しないし、製作者である清輝が仕事を頼んだ声優と写真を撮って何が嬉しいというのだ。

 光輝には、清輝の考えがまったく理解できなかった。


「僕には昔、自分の漫画が商業ベース販売され、それがアニメ化して、アフレコ現場で声優さんと知り合って結婚するって夢があったんだ」


「そうなんだ……」


 今日子が聞けば、また妄想が激しいと言われかねない夢だ。

 第一、清輝は絵は上手かったが、面白い話を考える能力が皆無であった。

 結局漫画家の夢は捨て、宇宙船員の学校に行き、足利運輸で常務になったのが現実だったのだから。


「この時代に声優はまだいないだろう。映画やテレビを産業にするのも早いと思うから、ここは地道に紙芝居や瓦版などで経験を積むしかないな」


「やっぱりそうか……ノウハウと機材はあるから、僕の子孫達が頑張ってくれると期待している」

 

 最初は紙芝居や瓦版から始まった津田家の娯楽、宣伝、マスコミ業であったが、すぐに津田領内全域を対象とした新聞社と出版社の設立、広告会社の誕生、十八世紀には映画会社も設立されアニメも制作されるようになるのであった。





「ミツ、お前の領地では子供が紙芝居なるものを見ると聞くが、どのようなものだ?」


「そうですね……」


 石山にいた光輝は、信長から紙芝居について聞かれる。


「実際に見た方がわかりやすいな」


 光輝が詳細を説明したが、信長は実際に見た方が理解が早いと言い出した。

 そこで、すぐに紙芝居の準備をさせる。

 とはいえ、紙芝居は読む人が上手な方が見ていて面白い。


 社長ボスの命令だからと、光輝は江戸から評判のいい紙芝居屋を呼び出した。


「お殿様ぁ……」


「大殿の前で緊張するのはわかるが、これは名を挙げるいい機会だぞ」


「頑張ってみます……」


 光輝が呼び出した紙芝居屋は、最初は信長の前で紙芝居を見せるのだと聞いて震えていたが、彼の説得で気を取り直して紙芝居を読み始める。

 題材は、一番ベタな桃太郎であった。


「昔、昔、ある所にお爺さんとお婆さんが……」


「なあ、ミツ。あの爺さんと婆さん。妙にいい服を着ていないか?」


 信長は、紙芝居に書かれたお爺さんとお婆さんが綺麗な服を着ている理由を光輝に尋ねる。


「今日子が経営に参加している服飾工房の宣伝です」


「そうなのか……」


 紙芝居には、津田家からの政府広報を庶民に伝えたり、新しい商品の宣伝を行う広告業的な仕事も含まれる。

 紙芝居を読んでお菓子を売るだけでは儲けが少ないので、宣伝費や津田家からの補助金で生活を成り立たせているのだ。


「お爺さんは山に柴刈りに、お婆さんは川に洗濯に……」


 お爺さんは、津田領産のよく切れる鎌で木の枝を落として薪を採取し、持参した高枝切りバサミで高い位置にある柿の実を採取した。


「ミツ、江戸にはああいう長いハサミがあるのか」


「便利ですよ。高枝切りバサミ」


 津田領産のよく切れる刃物と合わせて、これも宣伝であった。

 未来でも通販で販売されている定番商品であり、光輝がすぐに再現させたのだ。

 甲斐や東北では果樹の栽培が盛んなので、とてもよく売れていた。


「お婆さんは川へ洗濯へ……」


「ミツ、あれは何だ?」


「手回し式の洗濯機です」


「便利そうなものだな」


 ローラー式の脱水機がついた手回し式洗濯機は、江戸で徐々に普及しつつあった。

 これも宣伝である。


「川から大きな桃がドンブラコ~」


 お婆さんは、急ぎ岸に留めてあった小型ボートで桃を拾いに行った。

 繊維強化プラスチック製の小型ボートは津田家の独占技術であり、頑丈で長持ちするので高額でも購入を考える者が多かった。


「お爺さんとお婆さんが桃を切ると、中から男の子が! 男の子はお爺さんとお婆さんから『桃太郎』と名付けられ……」


「ミツ、安易な命名だな」


「はあ……」


 ベタなネーミングかもしれないが、自分の子供に奇妙だの茶筅だの付ける信長には言われたくないだろうなと、光輝は思ってしまう。


 子供がいなかった老夫婦に急に子供ができたので、彼らは急ぎベビー用品を購入して桃太郎を育て始めた。

 これも、ベビー用品の宣伝である。


「お爺さん、お婆さん、私は鬼を退治に行って参ります」


 大きくなった桃太郎は、お爺さんとお婆さんに人々を苦しめる鬼を退治しに行くと告げる。

 二人は桃太郎にキビ団子……じゃなくて銭を渡した。


「桃太郎さん、どこに行くのですか?」


 そして、桃太郎は最初のお供である犬と出会う。


「犬が喋るのか?」


「そこは物語なので……」


 信長からのツッコミに、光輝は冷静に対応する。


「私に肉をご馳走してくれたら、私も鬼退治にお供しましょう」


 桃太郎は、犬を鶏肉屋に連れて行って焼き鳥、鳥鍋、から揚げなどをご馳走した。

 なぜ鶏肉なのかと言うと、徐々に生産量が増えているので、庶民に普及させるためであった。


「桃太郎さん、どこに行くのですか?」


 続けて、猿が桃太郎に声をかける。


「果物をご馳走してくれたら、鬼退治に同行しましょう」


 猿は、津田領で生産量が増えているリンゴ、みかん、ナシ、ブドウ、メロンなどを美味しそうに食べた。

 すべて桃太郎が銭で購入したもので、これも果物の消費促進のためである。


「桃太郎さん、どこかにお出かけですか?」


 最後に、雉が声をかけてくる。

 雉は鳥なので、津田領で生産量を増やしているトウモロコシ、ホウレンソウ、コマツナなどを美味しそうに啄んだ。

 これも勿論、販売促進のためであった。


「では、鬼が島へ行こう!」


「「「はいっ!」」」


 こうしてお供に銭を使って報酬を支払った桃太郎は、彼らと共に鬼ヶ島へと渡っていく。

 あとは……。


「桃太郎、参る!」


 後半は、清輝が未来の物語を参考にしてバトル系の話に仕上げていた。


「桃太郎とやら、我ら三鬼衆を倒さねば、大鬼様とは戦えぬぞ!」


「桃太郎さん、ここは我らにお任せを!」


 鬼の大将に下にいる幹部三人と、犬、猿、雉が死闘を繰り広げる。


「ちょうど退屈していたところだ。今までに俺に傷を与えた奴などいないからな。桃太郎とやら、俺を楽しませてくれよ」


 犬、猿、雉と三鬼衆との戦いが続くなか、桃太郎と鬼の大将はほぼ互角に近い戦いを続ける。


「やるじゃねえか! 桃太郎とやら!」


「俺は負けない! お爺さんとお婆さんが私に託したこの刀に賭けて!」


 双方互角の戦いが続くが、次第に鬼側が不利になっていく。


「この炎鬼様が、犬如きに!」


「その侮りが、お前の敗因だ!」


「この猿野郎が!」


「はあ……何とか倒せたか……」


「鳥! お前は!」


「風鬼、あとはお前だけだ! 一緒に死ね!」


 残念ながら雉は三鬼衆と相打ちとなってしまったが、残りは大鬼だけとなった。

 

「三鬼衆が敗れるとはな!」


「大鬼とやら! お前の年貢の納め時だ!」


「抜かせぇーーー!」


 双方から最後の一撃が繰り出され、負傷した犬と猿が見守るなか、遂に決着がつく。


「みっ、見事だ……」


「手ごわい鬼であった……」


 桃太郎は、鬼が島の鬼を退治する事に成功する。

 雉という尊い犠牲は出たが、遂に人々に悪さをする鬼を全員倒したのだ。


「桃太郎さん、やりましたね」


「ああ、雉を早く弔ってあげないとな」

 

 こうして桃太郎は、雉の遺体と鬼が貯め込んでいた財宝を持ち帰りお爺さんとお婆さんの下に戻った。

 鬼の財宝で巨万の富を得た彼は、その後はお爺さんとお婆さんと一緒に幸せに暮らすのでした。


「……」


 実は光輝は、この紙芝居を初めて見た。

 清輝が監修したというので嫌な予感がして避けていたのだが、結果は光輝の想像以上のブツだ。

 色々とツッコミたい事があるが、これでも江戸では子供達に大受けしているのだと聞く。

 光輝は、江戸の子供達は純真なんだなと思った。


「ミツ! 面白いではないか!」


「そうですね……」


 そして、この手の物語に免疫がない信長もこの桃太郎モドキを大絶賛していた。

 光輝としても、主君信長が喜んでいるのだから、余計な指摘をして水を差すような真似はしない。

 時に主君の考えに追従するのも家臣の役目であると。


「我も、紙芝居を作りたくなったな。あとで話の筋をキヨに送る。作らせよ」


「ははっ!」


 そしてあろう事か、信長は自分も紙芝居を作りたいと言いだす。

 話の筋は自分で考えるそうだ。

 あとで清輝に送るから、上手く作れよと光輝に命令した。


「(まあ、俺が作るわけじゃないからな)」


 清輝なら元の話があればそれなりに仕上げるであろうと、光輝は信長からの命令を承諾する。

 それからすぐに信長自らが書いたシナリオが送られ、受け取った清輝は孝子と組んで一生懸命に作成したようだ。


 信長に披露する前に、光輝、今日子、お市、葉子で内容に不備がないか確認する事になった。


「題名は『桶狭間』」


「「「「……」」」」


 天才である信長は、紙芝居の中に宣伝、プロパガンダ的なものがあると瞬時に理解した。

 これを織田家のために使うとなると、やはり信長大躍進の元となった桶狭間の戦いというわけだ。


「信長の若造など、麿がすぐに踏み潰してやるでおじゃる」


 最初に、敵方である今川義元の描写となるが、彼は公家のように顔を白く塗り、お歯黒をして、肥満体で輿に乗っている。

 四万人の大軍を率いて、既に勝ったも同然と余裕の態度であった。


「完全に噛ませ犬だな……」


「そうね……」


 光輝と今日子は、今川義元が可哀想になってしまう。

 結局直接顔を合せる事はなかったが、ただの太った公家に三か国を治められるはずがないのだから。


「殿、今川軍に対し、我らは二千人ほど。既にいくつかの城や砦が落とされ、兵や将にも多くの犠牲が出ております」


「殿、ここは籠城で防ぐしかありませぬ」


 防戦する信長の方は、ほぼすべての家臣が籠城策に傾いていた。

 四万人対二千人では、野戦をしても勝ち目がないという意見だ。


「なあ、清輝」


「何だ?」


「今川軍って、本当に四万人もいたの?」


「公称ですw」


 兵力差が多ければ多いほど、織田家の宣伝に効果がある。

 清輝は、信長の要望どおりに今川軍を四万人とした。

 実は、桶狭間における今川軍の動員兵力数は津田家が調べてもわからなかった。


 後方支援要員も合わせて二万人から二万五千人、前線には一万五千人くらいというのが現実的な数字だと言われている。


「籠城はならぬ! 打って出るぞ!」


 家臣達の反対を押し切り、信長は出陣を決意。 

 湯漬けを食い、敦盛を舞ってから、清須城から出陣した。

 そんな信長を、後に重臣となる多くの家臣達が追いかけていく。


「みんな、美男子だなぁ……」


 信長も含めて、柴田勝家、丹羽長秀、滝川一益、羽柴秀吉、前田利家、明智光秀、池田恒興、森可成など、本人比150パーセントから200パーセント増しで描かれている。


「あのぅ……」


「何だい? 葉子さん」


「明智様は、桶狭間に参戦していないと思いますが……」


「葉子さん、歴史は勝者が作るのさ。それに、これは織田家の宣伝に使うからね」


 みんな美形に描いてあっても、桶狭間に参加していないはずの明智光秀がいても、所詮は紙芝居なので口うるさく言う必要はないと清輝は説明した。


「それを言うと、又左殿は裏口参加だからなぁ……」


 信長の勘気を蒙って、桶狭間の時点では前田利家は織田家家臣団に復帰していなかった。

 信長と一緒に出撃するはずがないのだ。


「権六の奴が、えらく美形に描いてあるのな」


 柴田勝家がヒゲの似合う美中年に書かれており、光輝は詐欺だと断定した。


「そのままだと、子供が泣くからね」


 確かにその通りだと光輝は思った。

 勝家は、誰が見ても怖いヒゲモジャ親父でしかないからだ。


「義元は桶狭間にて休憩をしておる! いかに今川軍が多かろうとも、本陣には五千人程度しかおらぬ! 行くぞ!」


 駆け出した信長に兵と将が次々と追いつき、織田軍は二千人ほどになった。

 そしてそこで、新たなる参戦者が現れた。


「織田信長様でいらっしゃいますか?」


「何者ぞ?」


「我らを、織田家に入れていただきたく。我ら、姓はありませぬ」


「いい度胸だ。この戦で手柄をあげれば、お前らを武士にしてやろう」


 信長は、三人の男女に参戦を許可する。


「これが、一番のツッコミどころだよなぁ……」


 同じく、桶狭間に参戦などしていない光輝、清輝、今日子が本人比200パーセントで描かれているのだ。

 今日子は元々美人だが、かなり色っぽく描かれていた。


「私達、桶狭間に参戦していないけど……」


「義姉さん、そうなんだけど、これは織田家の宣伝の要素が強いからね」


 津田家は、織田家が天下を取る時に一番の功績を挙げた家だ。

 このような、民衆に向けて織田家の宣伝をする物語には出しておいた方がいいという信長の考えであった。


「歴史の修正だねぇ……」


「紙芝居を本気にする歴史学者もいないと思うよ。僕達が気にする事はないよ」


「そうですね、兄上が必要だと判断したのでしょうから」


 信長の妹であるお市がそのままの方がいいと言ったので、紙芝居はそのまま進んだ。

 光輝達は桶狭間に今川義元の本隊がいると、信長に知らせる役でもあった。

 それは他の家臣の役割だと思うが、光輝は気にしない事にする。


「ふっ、桶狭間か! 油断大敵とはこの事よ! そして!」


 信長が天を見上げると、空から大粒の雨が降ってきた。


「奇襲ではない! この雨音のおかげで、我らは正面より強襲が可能になったのだ! 我に続け! 狙うは義元の首一つのみ!」


 光輝達も加わり、織田軍二千人は桶狭間で通常の休憩から雨が降ったので雨宿りをしようとした今川軍に一斉に襲い掛かった。


「バカな! 奇襲じゃと!」


 義元は慌てふためき、その間に次々と兵と将が討たれていく。

 信長も陣頭で自ら刀を振るい、他の将達も獅子奮迅の働きを見せた。

 光輝と清輝も、馬上から槍を振るって大活躍だ。


「俺、こんな強くないけど」


「僕、こんな戦場へ放置されたら一分以内に討ち死にする自信あるけどね。馬にも乗れないし」


 そこは物語という事で、話は進んでいく。

 織田軍の強襲で、兵数が倍以上もいる今川軍は混乱するばかりであった。

 次々と今川家の有力な家臣が討たれ、遂に毛利新介と服部小平太が今川義元を見つけた。

 小平太が一番槍を入れ、新介が遂に義元の首を獲る。


「我らの勝利ぞ!」


「「「「「おおっーーー!」」」」」


 信長が勝鬨をあげ、みんなもそれに続く。


「こうして織田家は圧倒的な劣勢を覆し、今川義元の首を獲る事に成功するのでした。そして、ここから織田家の天下取りが始まるのです」


 最後にナレーションが入って、清輝は紙芝居を読み終えた。


「こんな感じ」


「物語としてはよくできているな」


「大殿、物書きの才能もあるかも」


 紙芝居を見た全員がいいできだと判定した紙芝居『桶狭間』は、光輝の手で信長に納められた。

 その時に、彼が江戸から呼んだ紙芝居読みが臨場感あふれる講演を行い、信長は集中して聞き入っている。

 

「いいできだな、これをいくつも作って、織田領内で読ませるのだ。あと、ミツ」


「はい」


「水飴を忘れるなよ」


 勿論信長も、紙芝居を見ながら水飴を美味しそうに舐めていた。

 『桶狭間』の紙芝居は、『義元が駄目公家のようで落とされすぎだ』とか、『信長以下織田家臣団を美化しすぎ』とか多くの批判は出たが、後世に現物が残るほどの大人気作となり、清輝もようやくその分野で名を残す事に成功するのであった。

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