第六十八.五話 モテ期
「はあ……」
「若殿、何か悩み事でも?」
「別に何もなか」
「そうですか」
「おい! 盛淳! ここは若者の悩みをもっと掘り下げて聞くべきところぞ!」
台湾内陸部で雌伏の時を過ごす、島津家の次期当主島津豊久にはある悩みがあった。
次期当主として仕事をサボっているわけではないが、たまに時間が空くと物思いに耽ってしまうのだ。
「若者って……元服前後の若造でもあるまいし、若殿はもう二十をすぎているではないですか……」
豊久のお目付け役である長寿院盛淳としては、そろそろ落ち着いてもらいたいと願う年齢であった。
未来ならともかく、平均寿命が短いこの時代では二十すぎは十分に大人であったからだ。
「盛淳よりは遥かに若者と!」
「それはそうですが、それでお悩みとは?」
盛淳は、とっとと話を聞いて終わりにしようと思った。
津田家の尽力で数千人規模の脱出が叶った島津家の面々であったが、女性や子供が多くて戦力は心許ない。
織田軍に対抗すべく、津田軍のように火力を重視した戦力を整えるとなると金もかかる。
津田家から借りればいいという意見もあるが、あまり借金ばかり増えるとあとで困ってしまう。
子供ですら勉学や武芸の稽古の傍ら、農作業の手伝いや縄編みなどの手伝いをしている。
ヤシの実の外皮から取れる繊維で編む網は汎用性が高く、特に津田領では船が次々と建造されているので、船具としての需要が高かった。
作ればすぐに売れるので、効率のいい内職になっている。
子供ですら一生懸命に働いているのだから、豊久がずっと呆けているのはよくないと盛淳は思うのだ。
「盛淳、空はなぜこんなに青かとね?」
「それは学者にでも聞いてください。まあ、ここにはいませんが……」
「ちょっ! 盛淳は冷たかぞ!」
「若殿の恋の悩みを、何度も聞かされるこっちの身にもなってください!」
豊久が恋をしている。
それも、絶対に叶わないであろう相手とだ。
この事実を知らない者は、島津家中には存在しない。
豊久が時おり溜息をつきながら悩み、それを見かけた盛淳が声をかける。
島津家中では、珍しくもない日常風景になりつつあった。
盛淳としてもいい加減放置しておきたい気分なのだが、ここで声をかけないと豊久がサボる時間が伸びてしまうので、仕方なしに声をかけているのだ。
彼が豊久の忠実な家臣であるという事実は揺るがないが、この件だけでは冷たい態度を取るようになっていた。
「おいは本気ぞ!」
「本気でも何でも、相手は若殿の母君よりも年上で、他人の妻ではありませんか!」
しかも、どう考えても実る恋ではなかった。
そんな訳で、みんな他の仕事も忙しいので無視していたのだ。
「年は関係なかと」
「ありますよ。お子はどうするのですか?」
豊久は、島津家の次期当主である。
絶対に子供を作り、家を存続させていかなければならないのだ。
「あん人は、四十七の時に子供を産んだと」
「今は五十すぎですが……」
「大丈夫たい、あん人は若かたいね」
「見た目が若かろうと、もう子供は望めない年齢です。それよりも……」
「それよりも何とね? 盛淳」
「我らが、誰にお世話になっているか本気で理解しているのですか? 津田様でしょう? そのお方の奥方に恋をするなんて、若殿はどうかしておりますぞ!」
盛淳は、これで何度目かになる説教を豊久に対して行う。
島津家の次期当主が、津田光輝の正妻に恋をする。
常識的に考えて許されるはずがないからだ。
「じゃが、盛淳。誰に恋するかは自由ではなかと?」
「自由なのは認めます。ですが、それを公言するなと言っているんです!」
「忍ぶ恋は、おいの好みじゃなかよ」
「そういう問題じゃないんですよ!」
盛淳は、何度説明しても自分の意志を曲げない豊久に心が挫けそうになった。
だが、このまま放置するわけにはいかない。
もしこの件で津田光輝の機嫌を損ねれば、島津家は更なる苦境に追い込まれるのだから。
「無駄たい、盛淳。おいは、あん時に恋に落ちてしまっていたのじゃ」
あの時とは、注射から逃げようとして今日子に押さえつけられた時の事である。
「あん時は、今日子殿に対して怒りと自分の不甲斐なさを感じたとね。じゃが、あとになるとあん人の素晴らしさがわかったとね」
自分を完膚なきまでに押さえつけた相手に惚れてしまう。
ある種の吊り橋効果とも言えなくはない。
「あの人は、薩摩のオコジョとは違うとね」
今日子は未来の人間で、常に身嗜みや服装に気を使っている。
毎日風呂に入り、津田領産のシャンプーや石鹸なども使い、薄く化粧もしていた。
押さえられた時にその香りが仄かに漂い、女性慣れしていない豊久が一発でおかしくなってしまったわけだ。
豊久は、薩摩ではまず見ないタイプの女性に心奪われてしまったのだ。
地方出身者が、都会に住む女性に憧れるのと同じ現象であった。
「殿にまで、迷惑をかけているのですぞ!」
家久は、今の内に豊久と生き残りの一族の女性とを婚姻させようとした。
ところが、豊久の恋愛騒動のせいで話が進まない。
挙句に、その相手は津田光輝の正妻今日子であった。
家久からすれば、大病から命を救ってもらった恩人なのだ。
すぐに息子の不始末を謝りに行く羽目になった。
「うちの愚息がすみません」
「まあ、実力行使に出なければねぇ……若い頃って、そんな事もあるよね?」
「本当にすみません、あのバカにはよく言って聞かせますので」
光輝は自分の過去を思い出し、豊久の発言を責めなかった。
豊久が今日子に直接言い寄ったわけでもないからだ。
「いやーーー、困っちゃったな。私は人妻なのに。実は、私もまだまだいける?」
肝心の今日子は、若い男性に好かれて悪い気分ではなかった。
今まで散々清輝から喪女扱いされてきたので、『私だってモテるんだ!』と逆に自慢気に報告する始末であった。
そして、それを聞いた清輝は……。
「薩摩での戦闘は壮絶だったと聞いているからね。その豊久って人、戦争神経症か何かでおかしくなったのでは? その若さで、何が悲しくて義姉さんのようなババアを……彼はカウンセリングでも受けた方が? いや、元からババ専なのか? しかし、本当に趣味が悪い……」
思っていた事を正直に口にしてしまい、彼は今日子の怒りを買う事になる。
「私だって、モテる時はモテるんですぅーーー!」
「義姉さん! ギブっ! ギブっ!」
清輝は今日子からコブラツイストを食らい、体がバラバラになると思うほどの痛みを受ける羽目になった。
「でも、そうなると私が豊久君のところに行くのはまずいかな? 迫られたら困っちゃうからなぁ」
「困らないでしょう。どうせゴリラのように強い義姉さんが叩きのめしちゃうんだから」
「誰がゴリラよぉーーー!」
「義姉さん! 骨が砕ける!」
清輝による再びの毒舌に今日子が激怒し、彼は再びコブラツイストの餌食となってしまう。
「今度、今日子殿が姿を見せるとね。そん時に、おいの気持ちば伝えるとね」
「みんな、何かあったら若殿を抑え込むからな」
豊久は一人決意していたが、その横で盛淳が他の若い家臣達に当日の対応を指示していた。
盛淳は一瞬、あの時に薩摩に残って義弘に殉じた方がよかったかもと思ってしまうのであった。
「ここが台湾ですか。沖縄のように暑いですね」
「日の本から大分離れたからな。桃は、お父さんとお母さんが恋しくないか?」
「大丈夫ですよ、お爺様。私はもう十なのですから」
「そうか。もう桃はそんなに大きくなったのか」
光輝と今日子で、密かに島津家の様子を見に行く事になった。
いつもは幼い夕姫しか連れて行かないのだが、今回は孫娘の桃姫が参加している。
彼女は信輝と冬姫との間に生まれた娘であり年齢は八つ、十と言ったのは数え年での話だ。
年齢の割にしっかりしており、光輝夫妻の長女である愛姫と同じくらい、桃姫は今日子に容姿が似ていた。
そんな彼女が外地を見てみたいと言うので、孫娘に甘い光輝が急遽連れて行く事にしたのだ。
桃姫は、年下の叔母にあたる夕姫の面倒をよく見てくれたし、船酔いとも無縁であった。
光輝と船上で景色を見たり釣りをしながら、初めての船旅を楽しんでいる。
「桃は、今日子によく似ているな」
体が大きいのは津田家の人間の特徴として、桃姫は既に十二~三と言われても不自然ではないほど成長していた。
「私も、早くお婆様のようになりたいです」
「(それは止めた方がいいような……)」
容姿や女性としての嗜みなどはともかく、今日子のように強くなられてしまってもなと、密かに思う光輝であった。
今日子本人が傍にいるので、絶対に口には出さなかったが。
「お爺様、お婆様は嬉しそうですね」
「ちょっと、これから行く所でねぇ……」
「桃、お婆ちゃんはモテモテなのよ」
よほど嬉しかったようで、今日子は暇さえあれば周囲の人間に自分が二十ほどの若者に惚れられてしまったと話をして……正直なところ自慢していた。
『もし旦那様がいても構わないと言われたらどうしようかなぁ?』
『はあ……』
御付きの家臣や世話役の女性、果ては水軍の水兵にまで話しかけ、彼らは非常に困惑していた。
今日子の性格からして、彼女が豊久とどうこうなるつもりがないとは全員が理解している。
夫である光輝にまで嬉しそうに話すのだから、隠すつもりが皆無で、これは浮気以前の問題であった。
『(これは、久々にモテ期を迎えた今日子がちょっと暴走しているだけだな。久々? あれ? 初めてか?)』
光輝も、今日子が豊久と浮気をするつもりなどないのは理解できた。
これでも夫婦になって三十年以上も経っているから、お互いが考えている事など簡単にわかってしまう。
今日子は、年下の若い男性に好意を持たれた事が嬉しくて堪らないのだ。
思えば、今日子は押しかけ女房に近いので、彼女が男性から迫られた事実を光輝は知らない。
女性に迫られた事実は、光輝も何件かは知っていたが。
「これから行く島津豊久様ですか?」
「桃は知っているのか」
「はい、大叔父様が仰っていました。世の中には変わり者がいると」
「キヨちゃんは、あとでキャメルクラッチね」
清輝は、桃姫にまで余計な事を教えたらしい。
そのせいで今日子から制裁を受けるであろう彼に、兄である光輝は心の中で合掌した。
「お婆様は格好いいから、女の人にはモテモテなのです」
「それはある」
今日子は、男性よりも女性に圧倒的にモテた。
今も女の孫達から『格好いいお婆ちゃん』として大人気だからだ。
「もし迫られちゃったら、可哀想だけどぶん投げるしかないわね。残念だけど」
残念というよりも、光輝は段々と豊久が可哀想な気がしてきた。
今日子は若い男性にモテた事実は嬉しいし自慢もするが、その気持ちを受け入れるつもりが皆無なのだ。
光輝としても浮気などされたら嫌なのだが、こうも否定されてしまうと豊久が憐れでならなかった。
「家久殿がいるし、向こうも弁えるだろう」
「そうかなぁ? 豊久君も若いから」
「……」
船は予定どおりに基隆港に到着する。
前に来た時から二か月ほどしか経っていないが、前回の来訪時よりも大分工事は進んでいた。
コンクリート製の岸壁に、荷を積み下ろしするクレーンの設置なども終わっており、クレーンは津田領内の港では普通に使われている電池式のクレーンである。
電力は警備隊の駐屯地内にあるソーラーパネルから充電され、もし敵勢力がクレーンだけを盗んでも、電池が切れれば何の役にも立たなくなるというわけだ。
このクレーンにより少ない人数でも港を運営できるようになったが、津田領内中で港の建設、拡張ラッシュが続いていたので、港湾技術者は不足気味だ。
現在、懸命に人員の教育が進んでいる。
「津田様、よくぞお越しくださいました」
光輝達一行は、基隆港から内陸部へと移動する。
暫く移動すると段々とサトウキビ、バナナ農園が見え、そこでは島津家の家臣やその家族が働いていた。
農園の中心部に大きめの屋敷があり、そこでは島津家の当主家久が出迎えてくれる。
「家久殿?」
「もはやこのような状況で、同じ織田家の家臣同士とは言えますまい。我らは、津田様の家臣として扱ってください」
「そうか」
「もし上手く薩摩に戻れたとしても、我らは津田様に大きな恩があります。気にする事はありませんよ」
その結論に至るまでに、家久は色々と葛藤したかもしれない。
それを考えると、光輝は彼に対して何も言えなかった。
第一、島津家は天下に何か騒乱が起こらなければ薩摩に戻れないのだ。
家久は、津田家が自ら謀反を起こすつもりがない事は理解できた。
ならば、薩摩への帰還には長い年月がかかるかもしれない。
自分の子豊久、孫、ひ孫、その先かもしれないのだ。
ならば、今は台湾で力を蓄えなければならない。
そしてそれは、津田家の家臣になったに等しいというわけだ。
「わかった、家久の意志を尊重する」
「ありがたき幸せ。ところで、日の本の様子はどうなのですか?」
「また反乱があった。それも、上様の弟がだ」
光輝は、織田信孝が信忠に反抗して腹を切った事件について話す。
「外様のうちならまだわかりますが、信孝様がですか?」
「移封話で、堪忍袋の緒が切れてしまったんだろうな」
前半は朝鮮派遣軍の総大将として兵を出し、何の益もないまま破産寸前にまで追い込まれた。
後半で、爪に火を灯すような生活を続けながら徐々に領国を発展させてきたのに、またここで転封となってしまった。
しかも、転封先の甲斐と信濃には海がない。
信孝は、仲がよかった弟の信房経由で津田家とも船で交易を行っていた。
この交易の利益が備後、備中の統治を支えている部分が大きく、信孝はこの件でも移封に反対している。
交易で使う産品とて、信孝が苦労して開発した品なのだから。
「思うに、甲斐と信濃でしたら津田領と交易ができると思いますが……」
「そのように説得する前に信孝様は暴走してしまったからな。うちの婿殿も、晴天の霹靂だったのさ」
今まで何をしても水準以上の実績を示した信孝であったが、どう頑張っても無能な兄信雄には待遇で勝てなかった。
信忠も同腹の信雄を優遇する面があり、色々と溜まっていたものが爆発したのかもしれない。
さすがの光輝も、信孝は救えなかった。
信房が彼の妻子を預かっているので、津田家も密かに援助を出しているくらいだ。
「これで落ち着くといいのだが……」
「そうですね……」
生粋の戦人である家久は、このままだと織田幕府が崩壊するのではと予想した。
それは島津家にとっては僥倖なのだが、光輝からすると望まない未来でもある。
家久は、光輝が自分を引き立ててくれた信長に報いるために織田幕府の安定化を望んでいると思っていた。
だからこそ、気を使ってこれから世相が荒れるとは決して言わなかったのだ。
「日の本の様子はわかりました。どちらにしても、我らは力を蓄えませんと」
「殿、若殿がお戻りです」
「そうですか。津田様、私の息子の豊久が……」
戻って来たと言おうとした家久であったが、彼は今日子の存在を思い出して顔を硬直させてしまう。
もし豊久が今日子を口説こうとでもしたら、その時点で島津家は終焉を迎えてしまうからだ。
「(豊久、絶対に止めろよ)」
まさか、自分の跡継ぎである豊久を光輝達に会わせないわけにもいかない。
家久は、豊久が空気を読んでくれる事を心から願った。
彼の向う見ずな行動には愛嬌があり、それが家臣達に愛されている部分もある。
だが、今の状況では止めてくれというのが家久の本音だ。
「親父、津田様が来ているって?」
そして、そこに豊久が姿を見せた。
彼はすぐに今日子へと視線を向け、それを見た家臣達に緊張が走った。
もし彼が、突然今日子を口説き始めたら?
家久は家臣達に目で合図を送った。
そうなったら、強引に止めろと。
「(もしかして口説かれちゃう?)」
この件では駄目女になっている今日子は、密かに豊久から口説かれてみたいと期待を胸に膨らませていた。
「……」
豊久が今日子を見つめ、他の全員が彼の次の行動に注目するが、彼は予想外の行動に出た。
すぐにその視線を同行した光輝の孫娘桃姫に移し、彼女に対し声をかけたのだ。
「いやーーー、おいはこんなに綺麗な人に始めて出会ったと。姫様のお名前は?」
「津田光輝の孫で桃と申します」
津田家の女性として礼儀作法もきちんと躾けられている桃姫は、優雅な所作で豊久に挨拶をする。
まだ八つの彼女は化粧はしていなかったが、他の小袖を着ている島津家の女性とはまるで違っていた。
虫対策のため、津田家工房で試作したスニーカーとシーンズと長袖のTシャツ姿であり、髪も綺麗に手入れされている。
加えて、桃姫は今日子をより可愛くしたような顔をしている。
豊久が今日子から桃姫に乗り換えたとしても、何ら不思議はなかったというわけだ。
「お義爺様、おいは必ず薩摩ば取り戻して桃姫様に相応しい夫になるけん!」
「誰がお義爺様だ! お前に桃はやらん! というか、まだ誰にもやらんぞ!」
「お義爺様、そこは孫娘の幸せを祈らんと」
「だから、誰がお義爺様だ!」
豊久は、今日子に似た桃姫に一目ぼれしてしまう。
今日子には目もくれず、光輝に彼女を嫁に欲しいと懇願して光輝を怒らせていた。
「うちの愚息がバカで申し訳ありません。あの……今日子様?」
そして今日子の方は、あまりに呆気ないモテ期の終了にショックを受け、一人呆然としていた。
「さようなら、私のモテ期……」
今日子は、短かった自分のモテ期に一人さよならを告げていた。
「(私の判断は間違っていたのか? いや、それはないはずだ)」
一時双方が大混乱に陥ったが、家久と光輝の会見は無事に終了する。
豊久の方も、本来心配されていた今日子へのアプローチはまるでなかった。
その代わりに、その孫娘である桃姫には熱心に声をかけていたが。
「だから、桃はやらん!」
「お義爺様、おいは島津家の次期当主として頑張るけん」
「それは頑張れ! 桃はやらん!」
「またまた、お義爺様は」
「とにかく、桃にはまだ婚姻は早いんだ!」
「おいは待つけん、何の問題もなかと」
「お前、とっとと嫁を迎えろよ!」
「今は色々と忙しいけん、あとで桃姫様を迎えればよかと」
実はとんでもない不敬に見えなくもないが、まだ津田家と島津家の関係は公式には定まっていない。
それと、豊久が愛されるバカだという事もあり、二人の言い争いも周囲にはあまり深刻には見えなかったのだ。
「豊久様、またお会いしましょう」
「おう、いつでも遊びに来てくれてよかたい」
そして光輝としては忌々しい事に、豊久と桃姫がすぐに仲良くなってしまった。
桃姫が豊久を嫌がっていればすぐに排除できたのに、ここで無理に引き剥がすと自分が孫娘に嫌われてしまうかもしれない。
光輝は二人が仲よさそうに別れの挨拶をするのを見て、密かに嫉妬の炎を燃やす。
「今日子からも、あのバカに何とか言ってやれ」
「やっぱり、若いって物凄い武器よね……」
「駄目だこりゃ……」
今日子は、豊久が呆気なく桃姫に好意を移した事実から、もう戻らない若さに一人寂しさを感じていた
「仕事は終わったんだ。帰るか……」
「お義爺様、お元気で」
「だから、俺はお前の義爺さんじゃねえよ!」
最初は豊久に文句ばかり言っていた光輝であったが、最終的には桃姫が豊久の下に嫁ぐのを容認する事となる。
だがそれは、まだ大分先の未来の話であった。
「ああ、やっぱりね。島津豊久はババ専ではなく、ロリコンだった? まあ、この時代だと普通かな? 義姉さん、若さって圧倒的な強者だね」
「うるさぁーーーい!」
江戸への帰還後、今回の騒動の顛末を聞いた清輝が再び余計な事を言ってしまい、今日子からキャメルクラッチに続き、アンクルホールドを食らっている姿を多くの家臣が目撃する事になる。
だが、いつもの事なので誰も止めには入らなかった。




