第六十四.五話 津田光輝の朝鮮紀行
これは、まだ織田信長が生きていた頃のお話しです。
本編の間のお話では、信長が生きていた頃のお話をかなりの数予定しております。
「朝鮮って、カナガワのデータベースでも評価が微妙なんだけど、観光地にはなるのか?」
光輝は信長の命令で朝鮮への視察旅行に出かけており、最初に済州島を訪ねていた。
この島には二百年前ほどまで『耽羅』という独立国が存在していたが、李氏朝鮮によって併合され、今は織田家によって保障占領されている。
島の中心には漢拏山という火山と、溶岩洞窟群などがあり、光輝は観光を楽しんだ。
ただ、観光スポットは自然環境だけなので、光輝はすぐに飽きてしまっている。
「大規模な港の建設を行い、防衛力の強化を図るしかないよな」
明との交渉ではいまだに糸口が見えていないが、織田家は最悪でもこの島だけは確保する予定のようだ。
済州島は織田家の直轄地となり、代官も派遣されている。
統治には困難が予想されたが、蓋をあけるとそうでもなかった。
この島の住民は、朝鮮本土の住民と民族が大分違うようだ。
李氏朝鮮に併合された後は僻地扱いで蔑まれ、政争で負けた王族や両班の流刑地となっていた。
しかも、流刑になった連中が偉そうにしていたので、織田家の支配の方がマシだと反乱などもあまり起こっていないらしい。
一部この地で支配者となっていた王族と両班が反乱を起こしたが、呆気ないほど簡単に鎮圧されている。
彼らは捕まって処刑されるか、船で朝鮮本土に逃げ出した。
李氏朝鮮の王宮が国を追われていたので、本土で再起をと考え、逃走先で潜伏したようだ。
政争で流刑にされていても、元は両班と王族である。
彼らは『自分達こそが李氏朝鮮の正当な継承者だ!』と宣言し、朝鮮本土で織田家に反抗的な勢力と手を結んで反抗している。
潰しても……鎮圧しようとすると逃げてしまうのでほとんど鎮圧できず、また集まって反抗する。
地の利がある彼らは、逃げるのも、また集まって反抗するのも上手であった。
彼らのこのやり方に、占領した朝鮮本土を統治している織田家の代官や駐留軍は疲弊を重ねている。
そんな状況で光輝が視察を行うのは、『講和である程度朝鮮の地を得たとして、果たして開発などが可能なのか?』という情報を、信長が知りたかったからだ。
朝鮮の状態は不安定であり、光輝は三百名の兵と共に視察を行っている。
「大殿、何もありませんな」
三百名の警備隊を取り纏めている娘婿の井伊直政が、済州島の未開ぶりに驚きを隠せないでいた。
「済州島は、李氏朝鮮から見れば流刑の島だからな」
「隠岐みたいなものですか?」
「そんな感じだと思う」
「それにしては、ここは静かですね。もっと色々とあると予想していたのですが……」
「織田家の支配に入ってから状況がよくなったんだ」
李氏朝鮮が僻地だと蔑んでちゃんと統治を行っていなかったのに比べれば、織田家の統治の方がマシであったというわけだ。
あとは、織田家が支配した事によって済州島が日の本の商業圏に入ったのも大きい。
まだ商人は少なかったが、ここは朝鮮との補給中継地にあたる。
朝鮮本土に送る補給物資のお零れが地元住民に渡り、それを買うお金も織田家が港や補給中継所の建設参加した者にちゃんと賃金を支払った。
生活レベルを上げてくれた織田家に、済州島の住民が感謝しているというだけの話なのだ。
「朝鮮本土も酷いからな。覚悟しておけ」
光輝の予言どおり、視察団一行が平壌の西から朝鮮半島に上陸して朝鮮半島内陸部を移動していると、荒廃した大地の連続であった。
たまに村や町が見えるが、日の本のものに比べると貧しく見える。
農地なども少なく、光輝も特に気になるものは見つけられなかった。
「なあ、言ったとおりであろう?」
「この土地を貰って喜ぶ者がいるのでしょうか?」
「そうだな、例えば織田家に負けて土地を奪われた旧大名や国人とか?」
そういう連中は、現在織田家で代官として働いている。
統治で成果を出せれば、その土地を貰える約束になっていた。
だが、最新の報告では、成功している者よりも失敗している者の方が圧倒的に多い。
反抗勢力に殺された者も少なくないようで、水面下では織田家を恨んでいる者も多いと、光輝は報告を受けていた。
これは、光輝が風魔小太郎に命じて朝鮮に送り込んでいる間諜からの報告である。
「……そうですか……気をつけます」
総勢三百名以上で、食料など必要物資も所持している集団である。
今の荒廃した朝鮮半島において、狙われないはずがなかった。
羽柴家が保持している物資集積所に到着するまで、いくつかの集団から接触を受けた。
直政が上手く指揮を執って追い払ったが、数名の負傷者を出してしまう。
「すぐに傷口を消毒して治療をするんだ」
怪我の手当てを適当にした結果、破傷風になって死ぬ者が朝鮮では少なくないと報告を受けていたからだ。
すぐに軍医や衛生兵による適切な治療が行われ、おかげで人員の損害は出ていなかった。
「こちらが銃撃をすると、あいつらすぐに逃げて行くな」
「朝鮮の正規兵ではなく、一揆勢なのかもしれませぬ」
直政が銃撃で死んだ敵の遺体を調べるが、服装も装備品も粗末であった。
たまに、日の本軍から鹵獲したものと思われる刀などを装備している者もいたが、練度は低そうなので、一揆勢力と見て間違いないであろう。
襲って食料や物資を奪おうとしたが、津田軍が精強なので諦めたというところであろうと直政は予想した。
「おおっ! 津田殿ではないですか! お久しぶりです!」
「羽柴殿もお元気そうで」
光輝達は十日ほどの道のりを走破し、李氏朝鮮と明との国境近くにある織田軍の防衛陣地に到着する。
すると、事前に光輝達の到着を聞いていた秀吉、小一郎、半兵衛、官兵衛が出迎えてくれた。
久しぶりに会う四人は、苦労のために年齢以上に老け込んでいるように光輝には見えてしまう。
だが、光輝はそれを口に出さず、彼らとの再会を楽しんだ。
「途中、大丈夫でしたか?」
「数度、銃撃で追い払いましたが……」
「やはりそうですか。前線の兵を減らしてまで治安維持に当たっているのですが……」
朝鮮半島のほぼ全域を占領しているにも関わらず、日本人は朝鮮人からの襲撃に警戒しないといけない。
これではとても占領しているとは言えないと、秀吉が苦笑いを浮かべていた。
「これを改善するには、数十年単位で時間が必要でしょう」
そこまで時間をかけるという事は、それに比例して日本人の人命と金をかける事になる。
それで半島が落ち着いたとしても、果たして日の本が投資したコストを回収するのに何年かかるのか?
光輝は、気が遠くなるほどの年月がかかると予想していた。
「遠くからお疲れでしょう。白湯ですが、飲みますか?」
「いただきます、温かい飲み物はありがたい」
「まあ、温かいだけなのですが……」
朝鮮派遣軍への補給は秀吉のおかげで滞りなく行われているが、優先順位は米、味噌、煮炊き用の炭……これは水を煮沸消毒しないといけないからだ、あとは矢と弾薬が最優先なので、朝鮮派遣軍は碌な食事を取っていなかった。
野菜や他の嗜好品は、たまに補給が来るか、地元の住民が売りに来る程度らしい。
「それは大変ですな」
「飢え死にしないだけマシでしょうな」
光輝は、もし秀吉以外の将が朝鮮派遣軍を取り仕切っていたらと考え、背筋が寒くなってしまう。
「(駄目だ、朝鮮は損切りした方がいい)」
ただし、光輝は信長にそこまで強く言わないつもりでいた。
信長とて、そのくらいの事は十分に理解しているのだ。
今はただ、明との講和で少しでもいい条件を得るため、朝鮮派遣軍をそのままにしているのだから。
「大殿のお考えはわかりますが、早く講和なり結んでほしいですな」
局地的な戦闘を除き、朝鮮派遣軍は戦術面では敗北した事がない。
だから朝鮮半島を占領しているわけだが、勝っているのに士気は最悪であった。
こんな戦争は今までに未経験であり、それが秀吉達に大きな負担を強いていたのだ。
「交渉は非公式なので、俺にも詳しい内情が伝わってきません。婿である信房様経由で、条件面で揉めているとだけ……」
無条件で日の本軍の全面撤退を主張する明と、朝鮮の南半分は寄越せという主張する織田幕府と。
双方が歩み寄りに達するまで、まだ時間がかかるとの報告であった。
「長くなりそうですな」
「すみません、楽観的な報告ができたらいいのですが……」
「いやあ、事実を伝えてもらった方がいいですよ。変に期待して失望すると、朝鮮派遣軍が崩壊してしまうかもしれませんからな」
希望を持たせてからそれが嘘だとバレると、最悪軍勢が崩壊しかねない。
だから事実を伝えてもらってありがたいと、秀吉は光輝に言った。
「本当に白湯ですね……」
「ええ、我らだけでいい物を飲んだり食べたりできませんからな。決して聖人君子ぶっているわけではなく、我らだけでいい物を食べていると暴動になるやもしれないからです」
「そこまでなのですか?」
朝鮮派遣軍の士気の低下ぶりに、光輝は驚きを隠せなかった。
「これだけ苦労しても、大赤字ですからな」
羽柴家は、留守番役の長吉が上手く領地を治めているので辛うじて借金はしていないそうだ。
柴田家なども、勝家はあれで内政なども巧みにできる。
でなければ、信長から筆頭宿老に命じられるはずがない。
彼も辛うじて借金をしていない状態であったが、他の諸将の大半は朝鮮への出兵で多額の借金を抱えている。
「なるほど、お困りのようですな。では、一緒に汚い商売でもしますか?」
「汚い商売ですか?」
「孫子にあるでしょう? 敵の一石を奪うと、十石を得たに等しいだったかな?」
「それは、『故に智将は務めて敵に食む。敵の一鍾を食むは、吾が二十鍾に当たり、一石は、吾が二十石に当たる』ですな」
孫子に詳しい黒田官兵衛が、光輝に正しい答えを教えてくれた。
「おおっ! さすがは官兵衛殿」
「まあ、このくらいは……」
あからさまなお世辞ではなく、光輝は孫子の文言を一字一句完璧に覚えている官兵衛を本心で凄いと思っていた。
官兵衛もそれがわかるので、褒められると悪い気がしなかったのだ。
「しかしながら、敵の食料を奪うのは難しいのでは?」
「軍勢を率いて奪いに行くのであれば難しいですが、策を用いて明や朝鮮から金を奪う事は可能です。食料ではないので即効性はないですけど、敵の財政に打撃を与えられます」
「そのような策があるのですか」
「秀吉殿、ちょっと官兵衛殿を貸していただきたく」
「喜んでお貸ししましょう」
そんな話の後に、光輝と秀吉の汚い作戦とやらがスタートする。
「なぜ私なのでしょうか?」
「官兵衛殿は、孫子に詳しいですからな」
「それは半兵衛も同じなのでは?」
「どちらでもよかったのですが、まあ何となく近くにいた方を指名したのですよ」
相変わらず、冗談なのか本気なのかわからない事を言う光輝に官兵衛は困惑したが、主君秀吉の命令だと、光輝と敵の金を奪う作戦に参加した。
「まずは、これを」
「缶詰ですね……」
官兵衛が、光輝に興味を持つようになる切っ掛けとなったものだ。
津田軍で採用されており、あとは高級品としても一部市場に出回っている。
朝鮮派遣軍でも採用が検討されたが、量を揃えられないのと値段が高いので却下された品であった。
「官兵衛殿、李氏朝鮮の王宮とも繋がっている間諜や、こちらに協力しているフリをしている両班を把握していますか?」
「ええ、何人かは……」
いわゆる二重スパイであるが、間諜の世界では当たり前のようにいる。
官兵衛も、朝鮮側の情報が手に入るので黙認……むしろかなり利用していた。
「彼らに小遣い稼ぎを提案してください」
「津田様、まさか……」
「缶詰は所詮は食料です。少量を明や朝鮮に流しても、戦況に変化はありませんよ」
光輝の作戦とは、日の本軍と対峙している明、朝鮮軍に缶詰を密輸して大金を稼ぐ作戦であった。
「本当に銀色の筒に入っているのだな!」
光輝の命を受けた官兵衛が暗躍した結果、たまたま運よく朝鮮王宮が情報収集に利用している間諜の一人が、臨時王宮に数個の缶詰を持ち帰る事に成功した。
「東夷の癖に生意気な! 蛮族の食べ物だが、味見くらいはしてやろう」
李氏朝鮮の王宣祖は缶詰を味見し、他にも多くの政府高官や共に亡命していた両班もその御相伴に預かる。
「これを我が国でも作るのだ!」
缶詰が日の本製である事に不満はあったが、缶詰の味自体は気に入ったので宣祖はすぐに缶詰を作れと臣下に命令した。
ところが、それに困ったのが家臣達だ。
亡命政権が、缶詰の量産などできるはずがないからだ。
だが、それでも王の命令である。
家臣達は、何とか缶詰を定期的に入手しようとした。
どこからかといえば、日の本からしかないわけだ。
朝鮮で作ってはいないが、それは適当に誤魔化す事にした。
宣祖がわざわざ缶詰を作っている場所を見に来るはずもなく、うちで作っていますと言って誤魔化し、日の本から輸入(密輸)すればいいというわけだ。
「(これほどの作りの物だ。物凄く高額だという事にして、俺の懐に差額を入れれば……)」
宣祖から缶詰の製造を命令された家臣は、いい小遣い稼ぎができると嬉しさを隠しきれないでいた。
「命がけで手に入れているので、そう簡単には……日の本の補給責任者を買収するしかありません」
「それでいい。これを持っていけ!」
間諜は李氏朝鮮の重臣から大金を預かり、官兵衛の元に戻ってきた。
勿論その間諜も、途中で金を少し抜いている。
「(本当に大金を出しやがった!)」
官兵衛は、それを読んでいた光輝に内心で驚いてしまう。
缶詰は朝鮮派遣軍への補給物資であり、これを横流しして問題にならないようにするには賄賂として大金が必要だ。
実際には大金で購入しているのに等しいわけだが、それに朝鮮側は気がついていなかった。
朝鮮や明では賄賂が普通なので、間諜の言い分を不自然だと思わなかったからだ。
「(津田殿は、朝鮮と明の人間の気質まで知っているのか……)」
官兵衛は、光輝が味方でよかったと思いつつ、慎重に缶詰の流通量を増やしていった。
光輝が朝鮮を出てからすぐ、津田水軍が朝鮮の港に缶詰を持ち込み羽柴家が購入する。
その缶詰をボッタクリ価格で朝鮮に密輸して、津田家も羽柴家も大金を稼いだ。
缶詰に入っている食料の量など、たかが知れている。
それに量が少ない高級品なので兵士には回らず、朝鮮王宮と軍高官だけで消費される事となった。
自分達だけで高価な品を楽しむような連中なので、いくら密輸しても朝鮮軍の士気は上がらなかったが、完全に自業自得であろう。
「陛下、金がないですな」
「よし! 缶詰を明に売ろう!」
根無し草の朝鮮王宮と軍上層部が無駄遣いをすれば、すぐに困窮してしまうのは誰にでもわかる事だ。
なくなった金を稼ぐべく、すぐに缶詰は明へと流れていった。
ここで朝鮮側も莫大な利益を取ったので、余計に価格が暴騰してしまったのだ。
それでも缶詰は珍しいので、前線の高級軍人から、軍経由で明各地にも販売(密売)された。
缶詰は軍需物資という扱いなので、沿海州からの交易では手に入らなかったからだ。
「陛下、大儲けですな」
「これで贅沢ができるな」
朝鮮王宮は缶詰の密輸で大きな利益を出したが、それらは明への借金の返済と、自らの贅沢に使われてしまった。
兵士達のためにはほとんど使われず、やはり彼らの士気は上がらない。
「普通、軍備を強化するとか、朝鮮で扇動を行う工作資金にしたりとかしないのか?」
「他の国ならそうかもしれませんが、李氏朝鮮に限ってはそれはないようです」
「津田殿は、よくかの国の現状を知っておられるようだな」
秀吉と官兵衛は、朝鮮王宮の酷さに乾いた笑いしか浮かばなかった。
彼らは沿海州経由で津田領から他の高級品を輸入し、臨時の王宮で贅沢を楽しんでいると間諜から報告が入ってきている。
『それどころではないのでは?』と、二人は自分達が攻めている国なのに、彼らの将来を少し心配してしまった。
明はそんな李氏朝鮮には慣れたもので……似ている部分も多々あるので……缶詰が朝鮮で作られているなどという嘘は信じていない。
伊達政宗経由で津田領産である事を知り、朝鮮が何らかの手で日の本軍から横流しさせていると思っていた。
「最近は、缶詰が明の王侯貴族に大人気らしいな」
「おかげで、財政は大分潤いました」
日の本軍と対峙している明軍も、朝鮮から手に入れた缶詰を軍高官だけで消費したり、明本国に横流しして莫大な利益をあげていた。
李成梁、李如松、李如柏親子、祖承訓、董一元、劉テイ、李平胡、査大受などの明軍諸将は、朝鮮から横流しされていると思っている缶詰の密売で大きな利益をあげた。
そして彼らは、ある事実に気がついてしまう。
「どうせ、日の本の軍勢は朝鮮を持て余す。日の本と明は講和交渉をしている最中であるし、これ以上の攻撃は無駄だな」
諸将の思惑が一致し、彼らは無駄な犠牲が出る攻勢を中止してしまう。
それよりも、講和が結ばれるまでは缶詰の密売で稼ごうと、朝鮮王宮に手を貸す有様であった。
「これは賄賂なのか? 官兵衛」
「そのようであり……ある種の不戦策であり……羽柴家は儲かっておりますな……」
缶詰の密売のおかげで明、朝鮮連合軍の攻勢は止まり、羽柴家の財政は多少マシになった。
光輝の手法はかなり汚い部類の策になるが、講和締結まで余計な戦闘をしないで済むので秀吉は助かっていた。
「ただ……柴田様には内緒にしておいた方が宜しいかと」
「あの御仁が、この策を聞けば激怒するからの」
賄賂で敵の将を買収するなど卑怯千万だと大騒ぎしそうなので、缶詰の密売は官兵衛が徹底的に情報を秘匿して行っていた。
「それにしても、これで津田殿も儲かるわけか」
「その利益を、新たに押さえた領地の開発に使うのでしょうな」
秀吉も官兵衛も、津田家には逆らわないでおこうと心から誓うのであった。
「ミツ、朝鮮のお土産はないのか?」
朝鮮から石山に帰還した光輝は、その足で信長に謁見していた。
「これが、驚くほどに何もなく……朝鮮のドブロクです」
「我は酒はあまり好きではないのだが……」
「では、朝鮮漬けです」
キムチの事であるが、実はこの時代のキムチは野菜を山椒などで漬けてあり、光輝が知る未来のキムチではなかった。
「普通の漬物の方が美味いな。しかし、本当に何もない土地なのだな」
「本当に一部だけ、観光に向いた自然しかありませんでした」
「そうか……」
信長は、何とか明との交渉を纏めようと奮闘するようになっていくのであった。