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繋がれた誓い ―白の誓い―  作者: 鏡 黒兎
2/10

共通ルート、その2

そして今、私は生まれて初めて王城の宴席にいます。


「お嬢様、そういえば殿下への祝いの品ですが……。」

「お気に召していただければよいのですが……。」


私自身が参加することになったのは三日前の話ですが、お兄様は当然元から出席予定でした。

お兄様と言えば、ご公務で幼い第三王女のパートナーをつとめていらっしゃいます。

こうした席で王族の方々のパートナーに任命されるのはとても名誉なことで、世情に疎い私にもお兄様を誉めそやす声が、こうして祝いの品を渡すため並んでいる間にも、あちこちから聞こえてきます。


話が少し逸れてしまいました。

そう、今私の手にあるのは殿下への祝いの品です。


もちろん、三日では用意も難しいのですが、そこはお兄様が参加するため、何日も前から複数候補が用意されていました。

複数、というのは、他の方々と万が一にも被らないようにするためだそうです。

とは言え、我が国最大級の領土を誇るキネア公が他の貴族の方に遠慮して品を変える必要はないそうで、本当に念のために用意していたそうです。

その中から、私も殿下にお渡しする品を選ぶことになったのです。

私が選びましたのは……


我が領土自慢の葡萄酒でした。

それもとても貴重な年代物だそうです。


「それにしても……お嬢様、その包み、は?」

「はい、私からの贈り物ですのに、私自身が用意したものがないのも無礼な話かと思いまして……。」

「それで、お嬢様手ずからご刺繍なさった手斤で包み込んだ、と?」


ワンポイントで刺した薔薇は、王城の庭にそれは見事に咲いているそうです。

3日しかありませんでしたが、幸いにも、こうした贈り物を包むための手斤は、あくまで中身を引き立てる役割のため、あまり仰々しい刺繍より、こうしたワンポイントの刺繍が好まれます。

ほとんど教養のない私ですが、刺繍だけは、亡きお母様が楽しそうに刺しながら、あれこれ教えてくださいました。

十年以上前、とても幼い頃の話ではあるのですが、お母様が本当に楽しそうだったので、不思議なくらいによく覚えております。

あの頃の記憶は、断片的にしか残っておりませんのに。


「お嬢様がご自分で考えたのですか?」

「はい。……あの、おかしかったでしょうか?葡萄酒を用意していただいた方にお願いして、相応しい布地を用意していただいたのですが。」


もしかしたら、今の流行は違っていたのかもしれません。

一応、葡萄酒を用意していただいた方に、刺繍についても相談したのですが……。


「……いえ、流石お嬢様、見事な仕上がりです。きっと殿下もお喜びになるかと。

ただ殿下のまわりの方には、親しくない相手にそのように手製のものを渡すことをよしとしない方もおられます。

お嬢様が手ずからご用意なさったことは、私とお嬢様だけの秘密にいたしましょう?」

「そうなのですか……。わかりました。」


やはり、三日しかないと慌てたりせず、一度落ち着いてギイニに相談するべきだったのかもしれません。

世間知らずの私は、ギイニがいなければ何もできないのですから――。


「――キネア公第一親等、ミスリア様。」

「はいっ!」


――クスクス


……緊張で、やってしまいました。

令嬢としては、些か元気のよすぎる返事です。

恥ずかしさで頬が熱いです。

ギイニが手を引いてくれなければ、殿下の前に進み出ることも忘れてしまっていたでしょう。


「――ふふっ……ミスリア嬢。」

「は、はいっ。殿下におかれましては、十六歳のこの日をご立派にお迎えになりましたこと、一臣下として、嬉しく思います。」


カチコチでしたが、言えました。


――クスクス


……やはりちょっと、おかしかったかもしれません。

ますます頬が熱いです。

はやく終わらないでしょうか……。


「ミスリア嬢、そんなに緊張しなくてもだいじょうぶですよ。私にとっては、あなたのその顔が見れただけで何よりの贈り物ですが……それは?」


さすがお優しいと評判の王太子殿下です。

私の失態をフォローしながら、さりげなく次にとるべき行動を示して誘導してくださいました。


「はいっ、我が領土自慢の葡萄酒となります。

えと……どうぞ、おおさめください。」


あぁ、本当は年代とかいろいろ説明があったのに。

頭が真っ白で、それしか言えませんでした。


「なるほど、キネア領の葡萄酒は有名でしたね。いただくのがとても楽しみです。

それにこの薔薇の刺繍……もしかして、ミスリア嬢が?」


殿下の視線が、薔薇の刺繍に注がれています。

やはり、私が手ずから用意したのでは、不敬だったのでしょうか。


「あの……はい、差し出がましいかもしれませんが、その、王宮の庭園に咲くという薔薇をイメージいたしました。」

「なんと……私はあの薔薇がとても気に入っているのです。葡萄酒もそうですが、これほど嬉しい贈り物はありません。」


そして、王太子殿下はにっこり笑ってくださいました。


――キャァッ


背後から黄色い悲鳴があがります。

私もそれに同意です。

なんと、素敵な笑顔でしょう。

今度は別の意味で、また、頬が熱くなってしまいます。


「――可愛らしい方だ。」

「殿下、そろそろ……。」

「わかっている。――ミスリア嬢、また後ほど、ゆっくりお話しましょう。」

「あの……ありがとうございます。」


辛うじて、御前から下がるための、お辞儀ができました。

ギイニに手を引かれ、退出いたします。


「――殿下はやっぱり素敵ねえ。」

「ねえ、ほんと。婚約者があのアレア様じゃあ、勿体ないわ。」


私の後ろにもまだ列は続いております。

幸いなことに、あれほどクスクス笑う声は聞こえましたが、私の失態よりも、殿下の笑顔が如何に素敵か、という話題がほとんどです。


それにしても……

「ギイニ、その……お腹が空きませんか?」

「ふふっ、お嬢様は、食いしん坊ですね?」

「安心したら、一気に空いてしまって……。」


また私の頬は、熱くなってしまうのでした。

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