見透かされた本音
喉越しのいい酒を飲んで、腹がくちくなるまで食事をとって気持ちが満ちる。
「はぁ……いい気分だ。この肉が一番だった」
「ああ、どれもうまかったが、確かにこれは格別だった」
そう褒め称えると、人の良さそうな店主は満面の笑みを浮かべた。
「そう言ってもらえると嬉しいね! この肉の柔らかさと味わいを出すのに苦労したんだよ。リベルタだとラカダンの葉に包んで土釜でじっくりと蒸し焼くから簡単なんだが」
「ラカダンの葉に包んで土釜で焼く?」
「ああ。その方がしっとりして、葉のいい匂いもついてさらに美味いんだよ。ただこっちだと難しい。まずラカダンの葉が手に入らんからね」
「うーん、ラカダン……」
顎をさすったサミュエルから不穏な物を感じる。
問いただそうとしたヴィルヘルムを制するように、サミュエルが口を開いた。
「なあ、リベルタに行ってみたくはないか?」
「は?」
「だって気になるだろ?」
ヴィルヘルムが反応する前に屋台の店主が食い気味に突っ込んできた。
「お客さん、リベルタに興味が?」
「実は植物園で、ラカダンを食べ損ねてな」
「リベルタはすごく刺激的で面白い土地だよ。元々は貿易商であっちとこっちを行き来していたんだ。女房に子供が産まれたんで、商売替えしてこちらに定住したんだよ」
訳知り顔で店主が続けた。
「向こうはこっちと全然違ってね。太陽が強くて蒸し暑くて景色が鮮やかだ。向こうでしか食べられない果物や食べ物も多い。酒はモラセス酒やアガべ酒が有名だ。あとね……」
そこで店主はぐっと声をひそめた。
「世界最高の娼館があるんだ。貴方、分かるクチでしょ?」
どうやら屋台を探していた時の騒ぎを聞かれていたらしい。
止める間もなくサミュエルが店主に顔を近づけた。
「首都のミルヒシュトラーゼが最高だと言われているが?」
「いや、あっちはあっちで良かったよ。けどね、違うんだ。ラトゥーチェ・フロレンスは。なんていうか心を癒してくれる。しかも皆、特別別嬪でね」
店主は首にかけたロケットペンダントを開いて絵姿を見せてくる。
「実は……妻もそこ出身で。娼館で惚れ込んで身請けしたんだ。ほら、綺麗でしょ?」
「そうだな。確かにものすごい美人だ」
食い入るようにペンダントを見つめるサミュエルの次の一言は聞かなくてもわかっていた。
「ヴィル、俺たちは絶対に今すぐに、リベルタに行くべきだ」
「無茶言うな!」
「イイっすネ!」
「お客さん、行く気になりました?」
「おう! この堅物を説得してからだがな」
サミュエルに何度も背中を叩かれ、ヴィルヘルムは鼻の上に皺を寄せた。
「ならちょうどいいタイミングだよ。二ヶ月に一度の定期船が明後日の早朝出発だ」
「これぞ天の配剤だ! 行くぞ! ヴィル」
「兄貴のところに行かないといけないだろ! 書状も預かってる」
「そんなもんオリヴェルに持って行かせりゃいい」
「ええー! 俺だっていきたいっすヨ! リベルタ! ずるい!」
「お前は完全に仕事だろ。俺達は遊びで仕事はついでだ」
「そりゃそうですけど……」
「俺はリベルタに興味ないし、兄貴のところに行かないといけないし……」
もしょもしょと口の中で答えると、サミュエルの顔からスッと表情が抜けた。
「お前さ、正直なところ、エリアスのところにいきたくないよな?」
内心を見透かされたヴィルヘルムは、それに返す言葉を持たなかった。
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