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50 ウルレインに到着

 

 あれはなんだ。

 空を飛ぶ大きな鳥?


「あれって竜じゃないのか!?」


 カレンが叫ぶ。

 竜? あれが?

 なんかイメージと違う。

 竜といえばかなり強大な力を持っていて、なりふり構わず周囲を火の海にでもするような邪悪な存在だと思っていた。

 しかし目の前を飛んでいる竜は神々しい姿をしている。

 神の使徒のような存在感……。


「あれは……白竜だな……」


 カレンがそう呟く。

 白竜か。確かに白い。

 なんとなくだけど、竜といえば黒かったりするイメージだったが、あのような竜がこの世界にいるんだな。


 私の感想とは裏腹にカレンたちも護衛の騎士たちも怯えて震えているが、どうも白竜には敵意は感じられない。

 気配察知でも特に白竜から敵意を感じないからだ。

 ただの暇つぶしに空を飛んで謳歌しているように見える。


「綺麗……」


 ふと、そんなことを呟いた。

 確かに敵対すれば勝つ見込みはないだろうけど、傍観するだけなら綺麗な姿をしている。

 白竜には失礼かもしれないけど。

 白竜は私たちを無視して、そのまま山奥の方へと飛び去っていった。


「怖かった〜」

「死んだかと思いました……」


 私以外の全員が腰を落として安堵している。


「ヒナタ、あれを見て綺麗とか正気かよ」

「え? 綺麗じゃなかった?」


 そんな不思議なことを言ったかな?

 そのままの感想を言っただけなんだけど。

 それとも私には違うものにでも見えていたのかな。

 ……ってそんなわけないか。


「白竜なんて初めて見ました!」


 馬車の中から小窓を開けてサーシャが感激していた。

 私と同じように白竜に感銘を受けたようだ。


「綺麗だったね」

「はい! あのように美しい竜が存在していたんですね!」


 騎士達はサーシャと私の会話を信じられない……とでも言いたげな表情で見つめていた。

 どうやらこの場で肝が据わっていたのは私とサーシャだけみたいだ。

 さて、白竜が通り過ぎるという展開もあったが、その後は何事もなく旅は続いた。

 そしてようやく明日にはウルレインに到着する。


 今日がサーシャとの最後の夜だ。

 あ、最後ではないか。

 でも、しばらくはこうやって一緒に馬車に乗って旅をすることもない。

 だから最後の晩餐はチーズフォンデュにしよう。


 王都のゲイル商会で購入したIHを使って鍋にチーズを溶かす。

 そしてにんじん、じゃがいも、ブロッコリー、ウインナーにベーコンを一口サイズに切り、お皿に据える。

 バゲットのような硬いパンはないので柔らかいパンも準備する。


「な、なんですかこれは!?」


 サーシャのテンションが爆上げしている。

 もちろんそんな姿も可愛い。


「これはね、チーズフォンデュっていうんだよ」

「ちーずふぉんでゅ?」


 なにその言い方。あざとすぎる。

 どこでそんな話し方を学んだんだ!

 世の男性達が悩殺されちゃうよ!


「このチーズに野菜をつけて食べるんだよ」


 そういうと、サーシャがベーコンを取って一目散に食べた。


「美味しいでしょ?」

「おいしいです!」


 そしてサーシャに続いてカレン、シャルも食べ始めて美味しそうに食べている。

 チーズフォンデュも好評のようだ。

 とはいっても、今までのハンバーグとかコロッケも好評だったがチーズフォンデュは特に好評なのだ。

 私も好きだったから、よくお店でチーズフォンデュを食べていた。

 でも男同士でチーズフォンデュは少し恥ずかしかったので、付き合っていた彼女を連れて食べに行っていた。


「ご馳走様でした」

「「「ご馳走様でした〜」」」


 好評のチーズフォンデュはすぐになくなり、全員が満足気の顔だ。

 そして私は街道から逸れて簡易風呂を作りに行った。

 いつも通り、土魔法で4人がゆったり入れるような穴を作り土を固める。

 そして火魔法と水魔法の混合魔法で作ったお湯を簡易浴槽に入れる。


「みんな、お風呂の準備をしたから入ろうか」

「はい!」

「ありがとうヒナタ!」

「ありがとうございますヒナタさん」


 やっぱり女性だから身体は綺麗にしたいよね。

 普通ならこんな街道でお風呂なんて入れない。

 身体を布で拭くくらいなら出来るかもしれないが、それだと満足しない。

 私が綺麗好きなのもあるが、女性に転生してから更に綺麗好きになっているような気がする。

 それに3人の裸を堂々と見られる機会だし、私にとっては一石二鳥なのだ。

 そして私達は服を脱ぎ、お風呂へと浸かる。


「しばらくはヒナタお姉ちゃんたちとこうやって森の中でお風呂に入るのもなくなりますね……」

「そうだね。でも、森の中では無理かもしれないけど、サーシャちゃんのお屋敷では一緒に入れるよ」

「んー。ヒナタお姉ちゃん……あまりお屋敷に来てくれないじゃないですか……」


 ドキッ!


 言われてみれば、いつも遊びに行くって言っておいてサーシャに会いに行っていない。

 でも、色々やりたいことが多くて忙しいから仕方がないんだ。

 ……しかしこのままでは私は口だけの女になってしまう。

 他の人にはどう思われてもいいけど、サーシャにだけはダメだ。


「……ウルレインに帰ったら絶対に遊びに行くから!」


 嘘はつかない。

 今度こそただサーシャと遊びに行くために屋敷に行こう。

 そして泊まって一緒にお風呂に入った後、ベッドでいやらしいことを……。

 違う違う。それは流石にできない。

 それをしてしまっては私は大切何かを失ってしまう気がする。

 それに未成年者にそのような行為は犯罪だ。

 刑法にも青少年保護育成条例にも抵触してしまう。

 ってここは日本じゃない! そんな法律はないのだ。

 つまり……未成年者に手を出しても大丈夫……なのか?

 いや、冗談だよ。大切なサーシャにそんなことをするつもりはありません。


「約束ですよ……」


 口を尖らせて言ってくる。本当にサーシャはあざといな。

 こんな風に言われたら、この世の男性は誰も断れない。


「もちろんだよ」


 もうお金には困っていないから、依頼なんてそっちのけでサーシャと遊ぼう。

 夜も遅いのでサーシャには寝てもらい、私達は護衛として交代で見張りをして夜を過ごした。




 翌朝、ウルレインの門が閉まる前に着きたいので、いつもより早めに起きて出発する。


「んー、眠いですぅ」


 サーシャはまだ眠そうな顔をしている。

 今日もいつも通り可愛いよ。


「ヒナタはウルレインに着いたらどうするんだ?」


 カレンからの唐突な質問が飛んできた。

 とりあえずやることは決まっている。


「ちょっと土地でも買って家を建てようかなって思ってるよ」

「「「えぇ!?」」」


 そんな3人して驚かなくても。

 私だって自分の拠点は欲しいからね。


「そんなに驚くこと?」

「いやだって、家を買うなんて……ずっとウルレインに住むのか?」


 そういう風に捉えられるのか。

 別に住み着くわけではないんだけど。

 今まで通り自由にいろんな街にも行きたいし、他国にも行きたいからね。

 ただ拠点が欲しいだけだ。

 どこにいようと自分の家があると安心するからね。


「そんなつもりはないよ。ただ毎回宿に泊まるのも面倒だからね」

「そ、それならあたしたちと一緒に宿に泊まることもなくなるんだな」

「寂しくなりますね……」

「なんで? カレンとシャルも一緒に暮らすんだよ?」

「「え?!」」


 2人とも驚いた顔をしている。

 え? 当然だよね?

 カレン達には宿に泊まってもらって、私だけ自分の家で過ごすなんて申し訳ないよ。


「いいのか……?」

「もちろん。1人だと寂しいからカレン達がいると嬉しいな」


 それに2人とお風呂に入りたいし、同じベッドで寝たいしね。

 あ、でもベッドは無理かな。そっちは諦めよう。


「なら世話になろうかな」

「ありがとうございます……」


 カレンもシャルも笑顔で答えてくれた。

 私にとって2人は大切な家族みたいなものだ。

 一緒に住むのが当たり前なのだ。

 下心は全くないよ。本当だよ。


「気にしないで」


 なんかいい雰囲気になっているけど、私にとっては当たり前のことだから不思議だ。

 逆にパーティーメンバーなのに別々に暮らす方が不便だもんね。

 そこから数時間。気がつけばウルレインの街が見えてきた。


「サーシャちゃん、もうすぐだよ」

「やっとですね!」


 私はサーシャに向かって声を掛ける。

 久しぶりのウルレインだ。

 サーシャも嬉しそうにしている。


 なんとか門の閉門時間に間に合ってウルレインの街へと入る。

 そしてそのままブルガルド家の屋敷へと向かう。


「久しぶりにお父様に会えます!」


 サーシャは昨日からずっとテンションが上がっている。

 この時期の女の子は、お父さんのことなんか嫌いなイメージもあるけどサーシャは両親ともに好きなようだ。


「お父様!」

「サーシャ! 無事に帰ってきてよかった!」


 いつも通りブルガルド家の抱擁の始まりだ。

 なんとも微笑ましい光景。


「ヒナタさんにもお世話になった。おや? そちらにいるのはワイバーン討伐の時の……」


 フィリップはカレンたちを覚えていたようだ。


「お久しぶりですフィリップ様。こちらは私と冒険者パーティーを組んでいるカレンとシャーロットです」

「ほう! ヒナタさんもパーティーを組んだのか!」


 カレンたちはやっぱり貴族が苦手なのかずっと萎縮してしまっている。

 なんでサーシャは大丈夫なんだろう? 子供だから?


「サーシャを無事に送り届けてくれたお礼に今夜はここに泊まっていくといい」

「それではお言葉に甘えてお世話になります」

「「ありがとうございます」」


 どうせ今からだと宿に泊まれるかも分からないからありがたい申し出だ。

 さて、明日はいい土地を探しに行こうかな。

 家は私の土魔法で作れるしね。

 明日が楽しみだ。


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