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Act20:最も永続なる恋







 血濡れた雫の身体を軽々と抱き上げたファリドは乱暴に目の前のドアを開けた。生徒の確認をすると言ったハーガンを捨て置き、地面で転がっているグルゲスを無視して宿舎へと戻ってきた。向けられた視線が好意的なものではない、とその視線から雫を護るようにギュッと抱きしめる。意識があったのならば、雫は怯えていただろう。魔術師は人形師を軽んじている。こんなにも力量差がある弱者が侮る権利はないと思いながら、生まれながらに持つ優越は拭えないのだろう。

「雫の部屋は?」

 苛立ったようなファリドの言葉に反応したのは手前にいた数人の生徒だった。

「奥の――」

「手当なら、俺達が」

「いい。俺が出来る」

 生徒の申し出を断るとファリドはそのまま雫を抱えたまま言われたとおり、廊下の奥へと向かう。幽かな魔力の残滓に、この部屋かと躊躇いもなく開ければ、想像通り雫が好きそうな部屋であった。ハーガンが雫の為に誂えさせたことは明白だった。

「馬鹿みたいに金を掛けやがって」

 相変わらず金に糸目をつけない男である。別に雫の機嫌取りの為にやっているわけではないだろう。下心など欠片もなく、純粋な厚意だ。だが、ファリドにとってハーガンは昔から警戒すべき相手である。言葉の端々に滲む悪意に、棘を纏う笑みに、雫の心に小さな傷が増えていく。純粋な悪意も、好意もない。それが普通の人間なのかもしれないが、重ねてきた時間の中でハーガンのように歪んだ人間をじっくりと見たことはない。人は、目的があり、その為に手段を選ぶ。そう在るべき、未来へ進むのが普通であるが、ハーガンはそれがない。将来を見据えていないのは雫も同じだが、少しばかり意味が違う。雫が今を捌くのに賢明なのに対してハーガンは、先を誰にも見せない。何をするつもりか予測も出来ないから、警戒をせざるを得ない。絶対に傍にいる確証もないのに、雫の致命傷になる部分を誰よりも理解している。縛り付けておけない、というのは厄介であった。裏切る可能性がある。それだけで、危険だ。

「雫、服脱がすからな」

 ベッドに慎重に横たえるとファリドは、そのまま体重をベッドに預け学生服を脱がしていく。魔術師学校はブレザータイプだったのか、と頭の片隅で考えながら、昔セーラ服を着ていた雫を思い出す。

「……臓器は平気みたいだな」

 自分の受けた傷の位置と痛みを確認してファリドは、死には至らないと己を落ち着かせる。ファリドに比べて雫は自己治癒が優れていない。その上に、ファリドに絶えず魔力を垂れ流しているので燃費が悪い。

「いいか、一時的に俺とお前の繋がりに壁を作る。お前の身体に魔力が溜まっていくから少し身体に負荷がかかるけど大丈夫だからな」

 浅い呼吸を繰り返している雫は恐らく意識はないだろうが、一応声を掛ける。

 雫からの魔力供給を一時的に遮断し、ファリドは雫の中の魔力がゆっくりと溜まっていくのを手の甲で感じ取る。

「んっ……――」

「気がついたか?」

 目蓋を幽かに痙攣させ、ゆっくりと目を開けた雫は茫洋として視線が定まっていない。

「痛い、か?」

 傷口を優しく手で覆う。手当、という言葉の意味通り、傷口から漏れる魔力を身体に押し戻している。

「ふぁりど、いたい?」

 泣きそうな顔をして拙い声で紡がれた言葉にファリドは、苦笑いする。

「俺は痛くない」

「そっか、よかった――ごめんね」

 謝るのはこちらだろう、とファリドは顔を歪める。人形として、防ぐべき事を防げなかった。出来るのならば、全ての痛みを背負いたかった。

「ふぁりど、いたいの?」

「いたくない」

 遠い昔に、同じ遣り取りをした、とファリドは思い出す。本当に、雫は愚かしいほど変わっていない。人形を都合の良い道具として扱えばいいのに、対等に向かい合おうとする。甘くて、弱い、どうしようもない主人である。だが、その主をファリドはこの上もなく愛している。無償の尽力を、夥しい幸福を、穏やかな世界を、捧げたいと思う。

「お前を害する者は誰もいない。だから、眠って良い」

 耳元で大丈夫、と囁く。

「ん、ありがと――」

 再び目蓋を下ろす雫の頭を撫でてやる。

 掌で感じた熱の高さが、傷の所為だと分かるとファリドは眉根を寄せる。一度体調を崩すと、雫は快方するのに暫く掛かる。

「大丈夫、だから」

 優しい言葉を吐きながら、腹部の傷に一瞬痛みで顔を歪める。傷口が開いたのか、とファリドは雫の腹部に置いている逆の手で今度は自分の腹部を触れる。雫からの魔力供給を止めたので回復が緩やかになったので、解れたのだろう。驚異的な回復力と言っても、魔力源が封じられていれば勢いは落ちる。

 後処理とか、異能者の話をしなければならないかと思うが、グルゲスが回復して戻ってくるまでは雫から離れるわけはいかない。最終的にファリドは身内しか信頼していない。用事があるのならばハーガンが勝手に来るだろう、と判断してベッドの傍に椅子を引き摺って腰を下ろす。


 腹部の痛みよりも、守れなかった事実の方が余程堪えた。





 不意に近付いた気配にファリドは警戒を滲ませる。雫と違って魔術師に対して平素で居られるほどファリドは豪胆ではない。雫が警戒を持たなければ自分が警戒すればいいことだ、とファリドは気を引き締める。

「大丈夫?一応、生徒回収して、ああ、お宅の番犬も回収したよ。ほら、これ」

 ノックもせず入室してきたハーガンが投げ渡した親指の爪ほどの大きさの何かをファリドは受け取って、拳を開いた。

「魔石……」

「賢者の石は流石に出せないけど、それで傷口は塞げるだろ」

 魔力純度の高さで言えば、賢者の石に遠く及ばないが、それでも魔力量の低い魔術師にとっては必需品であった。自分の体内で、魔力を精製するスピードが遅いのならば、道具として魔力を形に嵌めておけばいいと言う単純な方法である。

「まぁ、当然だな。お前の所為で、この状態だし」

 ありがたがる素振りもなくファリドは一見すると硝子玉にしか見えないそれを雫の腹部に添えた。

「っで、何あったわけ?」

「何か居た。お前達魔術師の言葉を借りるのならば“異能者”かな。まぁ、理性もあって会話が可能だったてのが問題点だな」

「……つまり、人に近いって事?」

 ファリドの言葉に不快そうに顔を歪めたハーガンは直接は相対していない為想像の域からでない。

「自分達が中心にしかものを見られない連中だな。似ているのは人間の方かもしれないぞ」

 皮肉げに呟かれたファリドの言葉に虚を衝かれたのかハーガンは目を丸くし、やおら、苦笑した。

「己の天秤は自分の価値基準に準じるものだよ」

「躊躇いもなく告げるとか、腹立たしい限りだな」

 これが雫であれば、相手の気持ち、と自分の考えの至らなさに落ち込むかもしれないがハーガンはそんな情欠片もない。雫は他者から見える世界を気にするあまり、フラフラと価値観が揺らぐ。一方、ハーガンは自分の中に確固とした規律があるから誰に何を言われても揺らがない。

「今回の件、うちが制圧したって事になるけど――」

「毎度のことを確認するな。白鞘の名前は出さなくて良い――寧ろ、迷惑だ」

 魔術師に余計にやっかまれる、とファリドは言葉を重ねた。“白鞘”に敬服している魔術師が多いのは確かだが、不愉快に思っている魔術師がいるのも確かである。攻撃の材料を余計に与えてやる程ファリドはお人好しではない。大体、魔術師学校の補講に“白鞘”が混ざっている時点で、強気には出られない。何をしに来たのか、と追及されて、巻き込まれただけだなんて馬鹿正直に言って素直に受容する程、魔術師は優しくはない。付けいる隙はない方が良いに決まってる。

「生徒達にも口外しないようにきつく言っておけ、面倒だ。人形師協会にも碌に顔を出していないのに、魔術師の補講なんぞで遊んでるのがばれたら、お歴々から召集令状が届きそうだ。まぁ、人形師に助けられたなんて、下らない矜持を持っている魔術師の卵は口が裂けても言えないか」

 人形師協会、最年少理事の雫はその職務を全うすることなく、彼ら曰く『辺境の島国で籠もっている』。空顕から譲り受けた、形ばかりの役職だと雫は思いこんでいるので、能力などを全て鑑みて席を用意されたことを雫は未だに信じようとはしない。その中身がどうであれ、人形師協会では“白鞘雫”は確かに評価を受けている。魔術師に比べれば人形師の方が同属意識が強い分、雫に対する風当たりは強くないが、異例の若さで選ばれた雫への嫉みが皆無とは言い難い。

「――っで、その“異能者”の顔は分かる?」

「生憎、ぼやけていた――恐らく、そういう術を掛けていたか、元々そういう呪いを受けているかだな」

 珍しく言葉を濁して悔しそうなファリドの様子に、一筋縄ではいかない相手なのかとハーガンは早急の捕縛は無理そうだと諦める。

「記憶から引き摺りだしても無理?」

「多分、在るという認識しかないだろうな」

 顔立ちなどは明確な輪郭を持たずぼやけているだろう、とファリドはあっさりと告げる。その返答を予測していたのかハーガンは顔色も変えず、そう、と、淡々と漏らした。

「まぁ、変なの来るだろうから、雫が動けるようになったら帰った方が良い」

 対異能者専門の魔術師の来訪を匂わせたハーガンに、ファリドは不快そうに慍色を容に滲ませた。

「言われなくとも、こんな国にいたら雫の精神が崩壊する」

 魔石によって塞がっていく傷口を掌で確認したファリドは、明日には出立する、と、声を漏らした。

「懸命な判断だ。あっ、雫のフォローしに近いうち来日するから」

「来なくていい。お前は出禁だ」

 きっぱりと告げたファリドに、相変わらず手厳しい、とハーガンは苦笑いした。自分の主に対して悪意がなくとも危害を加える可能性がある男を近付ける程ファリドは愚鈍ではない。ファリドの存在意義は、雫を護る為であり、雫を支える事が全てである。その為に創られたファリドに躊躇いはない。例え、雫に憎まれることになろうとも全ての害を遠ざける覚悟を持っている。もしかしたら、とファリドはハーガンに目を遣る。遠くない未来、雫の数少ない友人を奪うことになるかもしれないと心の中で密やかに呟いた。




 傷口自体は塞がっている。

 腹部から広がる痛みは確かに、動きを制限する。

 だが、それよりも雫にとって苦痛だったのは、周囲から向けられる視線だ。

 憎悪、厭気、好奇、怯えもある。

「雫、俺の胸に顔押しつけて良いですよ」

 不調という理由で雫を抱え上げていたグルゲスは雫にソッと耳打ちする。生徒達の視線に息苦しさを感じていることを察して逃げ道を用意してやる。

「ん、平気……だから」

「グルゲス、行くぞ」

 ハーガンと適当に話をしていたファリドがグルゲスを振り返る。正確にはグルゲスの腕の中にいる雫を気遣っての眼差しである。衆人環視を分け入ってさっさと外へ出ようとするファリドの前を二人の少女が立ち塞がった。

「何の用だ」

 さりげなく戦闘態勢に入ったファリドにサンドラとウーテは頭を振る。

「お礼、言ってないから!!雫ちゃんと友達だからね」

「あんなに手助けしてもらったのに、肩書き一つで掌を返すような人間とは思われたくないしな」

 そう告げると二人は雫に紙切れを手渡した。

「それ、私のメールアドレスだから、こっち来たら連絡して!!絶対、だよ」

「あまり国から離れないと聞いているが、私達が日本に行ったら相手をしてくれないか」

 紙切れを受け取った雫は、小さな声で、ありがとう、声を零した雫に、ウーテとサンドラは静に笑った。機会を伺っていルカとイゾルフも胆力のある女性陣達に後押しされたように人混みを掻き分けて雫に近付く。

「言っておくけど、お前がなんだって俺には関係ないからな」

「通りで強いわけだ。今迄の非礼を許してくれ」

 ルカとイゾルフの手にも同じように英数字の羅列が書かれていた。


「俺は、貴女のこと尊敬してます!!」


 その大きな声に、人垣が割れた。

「今は、俺は強くないし、魔術師としても一人前じゃないけど、必ず貴女の居る場所に辿り着きますから――待ってて、下さい!!」

 ニコラスの大声に雫は眼を瞠り、ふうわり、と微笑んだ。

「今度は、俺が貴女を護ります」

 人の前に出て大声を出すなんてニコラスにとって緊張の最頂点だったが、目の前にいる雫を見ると何故か足の震えが収まる。

「後、これ、俺の連絡先です。友達になって下さい!!」

 紙切れを両手で握りしめて差し出しギュッと目を瞑り頭を下げる姿は告白そのものだが、ニコラスの口から零れたのは、友人から、という何とも弱気な発言だった。

「邪魔しないの?」

 顔を真っ赤にしたニコラスに和やかに応対している雫を窃視しながらハーガンは眉根を寄せているファリドに声を掛けた。

「貴様よりは余程害がない上に、二心ないからな」

 それでも面白くないのかファリドの眉間の皺は消えることがない。


 こうして、白鞘雫の久しぶりの遠出は終わりを迎えた。





 ■■■




 英国にある聖堂魔術師協会本部は便宜上、魔術師学校の一角を使っている。正確に言えば、本部の真横に学校を継ぎ足しただけで、生徒は授業によっては建物から建物への移動を余儀なくされている。神聖な本部という事で、生徒の姿はまばらである。今回の件の処理報告を上長に渡したところで、ハーガンは古い建物の端に足を進めた。学校と本部が入り交じって境界が曖昧になっている箇所と比べて本部の中枢だけあって、空気も心做し冷えている。


 ――コンコン


 木造のドアをノックしてハーガンはドアを開けた。その、瞬間、青い光が閃き、ハーガンは身体を反らすが床を這うような第二撃に頬を引き攣らせた。

「うおっっ」

 多々良を踏み、辛うじて避けるハーガンは壁に突き刺さった凶器と、抉られた壁に乾いた笑いを漏らした。

「……侵入者除け、ってレベルじゃないだろっ」

 怒鳴り込んでやる、とハーガンはドアから部屋を覗き込めば、狭い室内に堆く積み上げられた資料に人影は見当たらない。

「おい、シーグル?」

 足を踏み入れて見渡した途端、背後に蠢いた殺意にハーガンは思わず両手を肩まで上げる。

「ちょっ、マジで?」

「人の部屋に勝手に侵入したくせに随分と口が回るんだな」

「ノックした、全力でノックした!!」

 首を後ろに回してハーガンが焦ったように言えば、この部屋の主――シーグル・ヴィロックはうんざりとした様子で手元の凶器を掻き消した。

「どうでも良い。勝手に入室してきたのだから殺されても文句はないだろ」

「部屋ってか、物置……」

「何処に何があるかは把握している問題ない」

 身長よりも高く積み上げられ並べられている書類の束を避けシーグルは漆黒の椅子に腰を下ろした。プラチナの髪、甕覗き色の双眸、ほどよい筋肉が付いた引き締まった体躯、勝ち気につりあがっている眼、高い鼻梁に綺麗な弧を描く眉、白皙の美貌は女性ならば誰もが憧れただろう。全身を黒で統一し、襟元崩した気怠そうな様子が一層色気を増しており、密かなファンが居るのも頷ける。密やかな、というのは当人が認めていない事が一番の理由だがファンというよりは信奉者という感じで遠巻きだと言うことをハーガンは知っている。聖堂魔術師協会に設置されている違法魔術師の監視、及び、異能者の駆逐を専門にしている外部機関――“異端審問官”の一人である。そして、雫の引き籠もりの原因になった張本人でもある。

「うちの近くで随分で遊んだみたいだな」

「……知ってるんだ。これ、落ちてたよ」

 ポケットから銀色の使い魔の破片を取り出したハーガンは机の上に置いた。

「……うちの近くに、俺の使い魔が飛んでいて何が疑問だ」

「いやー、別にー」

 態とらしく唇を尖らせたハーガンにシーグルは小さく溜息を漏らした。

「大事な時に役に立たなければ、幾ら網を巡らせても無駄だな。何しに来た。用がないなら帰れ」

 ドアを指し示したシーグルにハーガンは、目を輝かせてポケットから写真とメモリーカードを取り出した。

「雫たんのブレザー姿の写真沢山撮ってあげたよ」

「そんなのいるか」

「雫たんの使用済みのネグリジェとか、ブレザーあるけどいる?」

「処分しろ。下らない。帰れ」

「素直じゃないなー」

 つれない返事を繰り返す友人にハーガンはこれ見よがしに溜息を漏らす。

「……これは――」

 写真の一枚――茶色の髪の青年の姿に興味が沸いたのかシーグルの指先が微かに震えた。

「ああ、シーグルは見るの初めて?シーグルが雫を振った後、雫が引き籠もって創った人形、グルゲス――お宅の身代わりだよ。お宅と違って、優しくて、穏やかで、雫にだけ甘い。まるで正反対だよね。振られた後、似た相手を好きになるなんて言うけど、現実逃避で真逆を選ぶこともあるよねー」

 ハーガンの言い様に不快そうに眉根を寄せたシーグルは直ぐに興が削がれたように写真の束を突き付ける。

「持って帰れ」

「えー、別に要らないし捨てるなら自分で捨てなよ。俺は持って帰らないから。ああ、因みに今回の件だけど、個を持ち、意思疎通可能な特殊な“異能者”が出現したっていうレアケースだよ。一応、そいつ追ってるけど、誰も顔を覚えていない。それと、雫だけど、腹部負傷したけど、爺やの術が発動して、まぁ、大事には至ってないよ。痕も残らないよ。良かったね」

 眼光鋭いシーグルを無視したハーガンは言葉を重ねる。

「勝手に喋るな、俺はそんなこと聞いていない」

「うん、勝手に言ってるだけだから。どうせ、直ぐそっちに追討指示が来ると思うし、一応話しとこうと思って。どうせ、書類には雫の名前ないからね」

 ははは、と軽く笑ったハーガンはそっとシーグルの顔色を窺うが、相変わらず感情を読み取らせない程、無表情だ。

「ねぇ、聞きたいんだけどさ、以前、パーティで俺と雫と会った時、なんで雫にドレス似合ってないって言ったの?」

「……正気か?似合ってなかっただろう。あんな肌を露出したデザイン、下品な色、あいつには似合わない。もっと控えめで瀟洒としているのが似合っている。抑も、絹のような綺麗な黒髪なのだから白や淡い色を基調とした方が良いに決まってるだろう」

 何を言っているのだ、と信じられないものを見るような眼差しを向けられたハーガンはそれをそのまま返したい、と肩を落とした。どうして、あの時、今言った言葉を一言一句違わず言わなかったのか、と突っ込みたくなる。あの時、シーグルは一言、そんな女みたいな格好は似合わない、と言っただけだった。その結果、可愛い格好は似合わないと曲解し。男装めいた格好を雫がしているのを知っているのだろうかと思ってしまう。

「……お宅らは、本当、言葉が足りてない」

「何の話だ」

 互いに頑なで自分の信じるものしか信じていないからハーガンの話など耳を傾けない。

「雫のこと好きなんでしょ」

「好きじゃないし、あいつも俺を好きではない」

 この話になると、平行線になる、とハーガンは嘆息する。

「あのさ、今回、雫に興味持って惚れちゃった男子生徒とかいるんだけど――」

「そうか、それは僥倖だな。あんな面倒な女の一生を背負うなんて、奇特な奴もいたもんだな」

 淡々とした様子で告げたシーグルに、もう面倒だ、と笑みを引き攣らせてハーガンは心の中で色々なものを放り投げる。

「本当に良いの?結構優秀で、イケメンで、家柄も良いよ。しかも、雫とは豆腐メンタルが共通で仲良くなっちゃってるよ」

「くどい」

 傍らの資料に手を伸ばしたシーグルはハーガンの言葉を突っぱねる。まるで、自分には無関係なことだ、とでも言いたげな様子である。


「いつまでも意地張ってると負けるよ、それだけ」


 ヒラヒラと手を振るとハーガンは、そのまま部屋から出て行く。ドアを閉めた途端、何かが崩れ落ちた音に口の端をあげる。


 類似感情で己の心を慰めるには、限度がある。


 孤独に耐えきれず、精神の均衡を崩し、折れるのはどちらが先だろうか。













______________________

 メイン登場人物が出揃ったところで、人形師と魔術師(仮)――序章が終了になります。続きは違う名前かシリーズ?でゆるりと書いていこうと考えています。最後に、ここまで読んで下さった方ありがとうございます。少しでも楽しんでいただけたら幸いです。







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