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久野市さんは忍びたい  作者: 白い彗星
第二章 現代くノ一、現代社会を謳歌する!

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第76話 主様を尾行していましたから



「あの、ありがとうございました」


 スーパーで買い物を終えた俺と桃井さんは、アパートへとたどり着く。

 桃井さんが一緒に買い物をしてくれたおかげで、卵をもう一パック買うことができた。


 今度改めて、お礼をしないとな。また卵料理でも、ごちそうしちゃったりして!


「ううん、私も楽しかったから。じゃあね」


 桃井さんは、にこっと笑顔を浮かべて自分の部屋へと戻っていく。

 あぁ、やっぱり癒されるなぁ。今日みたいに、なんでもない平日に会えるというのはなんだか特別感がある。


 俺も自室に戻り、買ってきたものを冷蔵庫に入れていく。

 さて、今日の献立は買い物中に考えたし、休憩してシャワー浴びてから作るとしますか。


 学校帰りで疲れはあるが、こんなのなんともない。


「久野市さん、帰ってきてるのかな」


 最近は、久野市さんも料理を始めた。

 とはいえ、もともと家事スキルは高かったのだ。けれど、機械に弱かったため電子レンジや炊飯器など慣れる必要があった。


 最初はどうなることかと思ったが、スキルが高いだけあって覚えるのは早く、今じゃすっかり自炊ができるようになっている。



『ほぉほぉ……自動的に、食べ物を温めてくれると? なかなかヤリますねぇ』



 機械相手に感心した様子の久野市さんは、少し面白かった。


 その久野市さんは、作った料理を俺のところにお裾分けしてくることが多い。むしろ俺のために俺の分だけを作ってくる。

 本人曰く、自分の分を抜いてでも俺に食べて欲しいらしいが……


 さすがにそういうわけにもいかないので、お裾分けを少しもらうことにした。

 もらってばかりだと悪いので、俺もお裾分けをしたり……隣同士の部屋なのに、互いに行き来することが増え、一緒にご飯を食べることもある。


「ま、そのうち帰って……」


「私ならここにいますよ」


「わひゃお!?」


 突然背後から聞こえた声に、肩を震わせて振り返る。へ、変な声が出てしまった。

 俺の背後には、教室でのときと同じように誰もいない……なんてことはなく。


 普通に、久野市さんがいた。


「い、いつからそこに……と、扉閉まってるよな!?」


「先ほど主様が帰宅した際、扉が閉まる直前気づかれないように中に入らせていただきました」


「なにゆえ!?」


 あっ、ぶねぇ……危うく、卵落とすところだった。一パック無駄にしたら洒落にならんからな。

 震える手をなんとか落ち着かせ、冷蔵庫に卵を入れていく。


 久野市さんの身体能力の高さは知っているけど、まさかこんな気配もなく部屋に入ってくるとは。

 気配を消していたのだろうか。俺相手にそんなことをする必要もないか。


「よ、よくこんなタイミングよく、部屋に入ってこれたね」


「えぇ。主様を尾行していましたから」


 久野市さんがタイミングよく、部屋に入ってきたことが疑問だったが……

 尾行…………?? つまり、どういうことだ?


「尾行?」


「はい」


「俺を?」


「はい」


 真っ直ぐな返事だ……まるで質問をしている俺のほうが、悪いことをしている気持ちにさせられる。

 なにゆえ、俺を尾行なんかするんだ? そしてなにゆえそんな真っ直ぐな目で答えられるんだ?


「なんで……いや、そもそも、放課後教室にいなかったのは……え、俺を尾行するため?」


 頭の中の混乱を、一つ一つ口に出していく。


「いえ、正確には主様を尾行していたのではなく、目的の人物を尾行しようとしていたらその人物を主様たちが尾行していたので、結果的に目的の人物を尾行している主様たちを尾行する形になったのです」


「……」


 ちょ、ちょっと待てよ混乱してきた……ええと?

 久野市さんは俺じゃなく、別の人物を尾行しようとしていた。でも、その人物を俺が、いや俺たちが尾行した? 俺と、火車さんが。


 俺は尾行なんて……するつもりはなかったが、火車さんに巻き込まれる形で尾行することになってしまった。

 そして、尾行していたその相手こそ……


「それって、ルア……」


「の隣にいた、女子生徒です」


 ルアと、美愛(みあ)さんだ。二人が下校することになり、それを尾行した。

 久野市さんの狙いは……ルアではなく、美愛さんのほうだという。


 しかし、なんで久野市さんが美愛さんを尾行するのか? それが、わからない。


「それ、屋上で言ってたことと関係ある……んだよね」


「はい」


 久野市さんには、学校の屋上で美愛さんについて話を聞かれた。そして、放課後には美愛さんを尾行した。

 これが、無関係なはずがない。


 現に、久野市さんは返事をして、こくりとうなずいた。


「美愛さんのなにが、そんなに気になるの?」


 屋上では、女の勘という答えのようで答えじゃない返事をもらった。

 でも、相手のことを調べて尾行して、久野市さんの中ではなにか引っかかるものがあるはずなのだ。


 それを、確かめたい。


「……すみません、うまくは言えないのです」


 けれど、久野市さんは首を縦には振らなかった。

 それは、俺に隠し立てしようとか……そのような魂胆があるとは思えなかった。


 ただ、久野市さん本人も……美愛さんに"なにか"を感じ、彼女を調べていた、以上のことはうまく口に出せないということなのだろうか。

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