第75話 私も付き合うから、行こうよ
「ふぅ」
ルアと美愛さんの下校を観察……もとい尾行を終えた俺は、スーパーに来ていた。
俺を尾行の道に引き込んだ火車さんは、早々に帰ってしまった。勝手な人だ。
放課後、一緒に下校することになったルアと美愛さん。それはルアの涙ぐましい努力(?)が報われてのものだと思っていたが、なぜかそれに火車さんが過敏に反応。
結果、なぜか俺も巻き込まれ二人の後を追う形になった。
「ストーカーかよ、ったく」
二人の下校を見ていても、なんら変わったことはなかった。会話こそ聞こえなかったが、楽しそうなルアが積極的に話しかけ、時折美愛さんが返事をしている。
二人の家への別れ道で、二人は別れた。それだけのこと。
なのに火車さんは、ぶつぶつと呪詛のようなものを吐き続けていた。怖かった。
「お、卵安い。ラッキー」
俺はその足で、スーパーまでやって来たわけだ。
日々の買い物のため、放課後はできるだけ早くスーパーに行きたいのだが……今日は、ちょうどこの時間帯が特売だったようだ。
「けど、お一人様一パックか……」
手に取った卵は、安い。賞味期限の問題があるとはいえ、卵はいくつあっても困らない。
なので、最低でも二パックは欲しい。くそ、こんなことなら火車さんに買い物に付き合ってもらうんだったな。
いつもなら久野市さんもいるのに、今日はいないしなぁ……仕方ない、一つだけにしておくか……
「じゃあ、私も含めたら二つ買えるね?」
そんな声がして、かごの中に卵が入れられる。
その光景にぎょっとしたが、同時に安心感のある声に首を動かした。
「さ、桃井さん?」
「やほ」
そこにいたのは、笑顔で手を振る桃井さんだった。
まったく予想していなかったので、思わずかごを落としそうになったが……なんとか、耐える。
「ど、どうしてここに?」
「どうしてって……私だって、買い物くらい来るよ」
当たり前の質問だった……スーパーにいる理由なんて、それしかないだろう。
突然桃井さんと会ったから、驚いてしまった。
その証拠に、桃井さんの手には自前のエコバッグが握られている。
「木葉くんは、これから買い物でしょう? 私も付き合うから、行こうよ」
「え……いいんですか?」
「いいのいいの。じゃないと、卵もう一つ買えないよ?」
まさか、桃井さんが買い物に付き合ってくれると言い出すとは、思わなかった。
そりゃ、嬉しいが……いいのだろうか。
その疑問に、桃井さんは笑いながら答えてくれた。正直、助かる……桃井さんがいるおかげで、卵をもう一買うことが出来る。
「それじゃあ……お願いします」
「はーい」
とはいえ、桃井さんは買い物をした後だ。生ものとか買っているかもしれない。わざわざ俺を見かけたからこうして来てくれたのだ。
そんな状態で、桃井さんを長い時間付き合わせるわけにはいかない。
そのため、俺は買うものをそそくさと決め、それをかごに入れていく。
何度も来るスーパーだから、なにがどこにあるのかだいたいの場所は覚えた。
「さすが、手慣れてるねえ」
「いえ、まだまだですよ」
っと、これでよし。
桃井さんのおかげで余計に多く変えた卵を含め、買い物を終える。会計を済ませ、俺もまた自前のエコバッグに商品を入れていく。
今じゃレジ袋も有料だ。袋一つでも毎度であればバカにならない。
節約のため、そして環境のためにエコバッグは非情にありがたい。
「すみません桃井さん、付き合ってもらっちゃって」
「付き合うって言ったのは私だから、気にしないで」
俺たちは店を出て、帰路につく。
なんか、買い物のことだとわかっているのに、付き合うだのなんだのって……こっぱずかしいな。
「それにしても木葉くん偉いねえ、学校が終わって、そのまま買い物なんて」
「いえ、これももう慣れましたから」
「そっか。でも、放課後いつもすぐ帰ったりするの? お友達と話したりとかは?」
「心配しなくても、大丈夫ですよ。今日も友達とびこ……一緒に帰りましたし」
「?」
歩きながら、何気ない会話を交わしていくが……あ、あぶねえ! 口が滑った!
危うく尾行、って言っちゃうところだったよ!
いやあ、気を付けないと。強引に巻き込まれたとはいえ尾行していたなんて知られたら、引かれてしまう。
「部活とか、しないの?」
「うーん、あまり考えてませんね」
「そう……でも、高校生の部活動もいいものだよ。そこでしか経験できないこともあるし、運動部とか入ったら木葉くんならすぐにモテちゃうんじゃないかな?」
部活……か。あまり考えたことはなかったな。
でも、桃井さんの言うように高校生だからこそ……ってのは、あるかもしれない。
モテるとかは、そんな興味は……なくは、ないけど。
「部活はいいものがあれば、ですね。でもモテるとか、そういうのは」
「あ、もしかして木葉くん、もう彼女がいるとか?」
「へ? いや、いませんよ!」
俺に彼女……そんなのいないって。
その現実を知らされると、ちょっと虚しくなる。
「そう、か。木葉くん、結構女子に人気出そうなのに。恋人がいるんだったら楽しそうだなって思ったんだけど」
……桃井さんは、どういうつもりでそれを言っているんだ? 俺はそれを、どんなつもりで聞けばいいんだ?
「そんなことは、ないですよ。
てか、桃井さんこそ、じゃないですか」
「私?」
「……彼氏、いるんじゃないですか」
なんとか話題をそらしたくて、ついに俺は核心に迫ってしまった。
桃井さんに、彼氏がいる……そういう話を、聞いたことがある。桃井さんに彼氏がいるのも、それは当然だろう。
あぁ、今まで聞きたくても聞けなかったことを、こんな流れで……
「いないわよ、彼氏」
「……え」
だけど、返ってきたのは予想もしていなかった言葉だった。
「だから、いないの彼氏。
……悪い?」
ばつが悪そうに、桃井さんは頬を膨らませていた。
彼氏がいないことを、バカにされるとでも思ったのだろうか? ……だけど、そんなことをするはずもない。
これまで、桃井さんに彼氏がいると思ってなかったから……いないって知って、なんていうか……
……なんだろう、この気持ち。
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