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女の戦いVer2

クシナから言われた事の意味が分からず楓は少しボケっとした顔をしてしまう。


なぜクシナがまだ強くなれると自分に言ってきたのか楓には分からない。

伊織の周りに集まっている人たちの中で、楓の実力は一つ劣っている。


伊織と契約しているクシナやシアナ、伊織からマッサージを受けて退魔士の頂点に一歩踏み入れた白雪、一等星の紅葉、全員楓より強い強者ばかりだ。


当然楓にもそれが分かっていたので、伊織と関わるようになってからより鍛錬に力を入れていたのだが上がった実力は微々たるものだ。


そんな中で楓を観察していたクシナは、楓に伊織のマッサージを受けさせてもいいのではないかと考えていた。


もちろん伊織の気持ちが一番なので、もし楓にマッサージをするのが嫌だと伊織が言えば無理に話しを進めることはない。


「(な、なんでほほ笑みながら私を見てるんですか!?)」


そういった考えがあってクシナは楓に言ったのだが、それっきり楓の方を見ながらほほ笑み続けている。


クシナの事をよく知らない楓からしたらそれは恐怖以外の何ものでもない。


楓がどうしていいか分からず半泣きになっていると、頼んでいた商品が到着した。


「お待たせしました、こちらタピオカミルクティー、コーヒー、紅茶になります」

「は、はい!タピオカは私です!!」


届いた飲み物が楓にはまるで救世主のように映った。


「あ、そう言えば白雪に聞きたいことがあるんだけど」

「ん?なになに、何でも聞いて?」

「白雪ってさ、シアナみたいな妖魔って見たことあるか?」

「シアナちゃんみたいな?」


伊織は先程シアナから自分の存在がよくわからないという悩みを聞いていた。

その事を白雪に聞こうと思っていたので一つ尋ねてみる。


「ん~、シアナちゃんとかクシナさん見たいな妖魔は時々現れるよ」

「あ、ごめん説明が足りなかった。シアナって生まれてからずっとこっちの世界に居るらしいんだ」

「え?そうなの?」


伊織からそう聞かれた白雪は今まで退魔士として活動してきた記憶や、家で読んでいた文献からそう答えたのだが、シアナの場合は少し事情が違う。


伊織から詳しい説明を受けた白雪は考えてみるが、今までそう言った話しは聞いたことがなかった。


「ごめんね伊織君、私でもちょっと聞いたことないや」

「そっか、分かった」

「でも家にまだ読んだことない妖魔についての本とかあるから、帰ったら調べてみるね」

「ホントに?助かるよ」


実際白雪の家は退魔士名家だけあってかなり多くの蔵書がある。

退魔士について、霊術について、妖魔について、その種類は多岐にわたる。


白雪は今まで自分に関係ある本や、依頼で出てきそうな妖魔について調べる程度だったが伊織から頼られたことでやる気を出して少し調べ物をしてみようと思っていた。


そして丁度その時パンケーキが到着した。


「お待たせしました、こちらイチゴパンケーキとバナナパンケーキ、ショートケーキでございます」

「やっと来たわね」


待ちに待ったパンケーキをニコニコとクシナが見つめている。

そして綺麗にナイフとフォークを使い切り分けていき、早速一口食べてみた。


「あら、本当に美味しいわね」


その味はこれまでクシナが食べてきた甘味の中で二番目に美味しいと感じた。

もちろんクシナにとって一番おいしい甘味とは伊織が作ってくれた物だ。


伊織はよくシアナからのおねだりでちょっとしたデザートを家で作っていた。

そして家で作れば当然クシナも食べることになるので、クシナの中では伊織の作った甘味が不動の一位に輝いている。


ただもし伊織が甘味を作ったことがなければ、このバナナパンケーキが一番になっていたのではないかと言うくらい美味しかった。


「美味美味」


クシナの対面に座っているシアナも頬を一杯にしながらパンケーキを頬張っていた。

ただあまりにも頬張り過ぎていたので頬っぺたに少しクリームがついていた。


「シアナ、クリーム付いてるぞ」

「ん?主取って」

「はぁ、仕方ないなぁ」

「「え?」」


これも実は伊織家ではよくあることだった。

シアナはかなり食への関心が強く、夢中になって食事をする。


だからよくシアナの口周りにソースが付いたりすることがあるのだが、そのたびに伊織がしょうがないなという風にふき取っていた。


ただ当然そんなことを知らない楓と白雪は驚きながらも内心は一緒の事を考えていた。

自分も伊織に口元を拭いてもらいたい…と。


そして白雪の手元には今ショートケーキがある。

つまりはこのショートケーキのクリームを自然に口元に付ければ伊織に拭いてもらえる可能性がある。

白雪は意を決してショートケーキを食べ始めた。


そして時を同じくしてクシナも一つの行動に移る。


「ねぇ主様、少し食べてみない?」

「ん?くれるのか?」

「えぇ、どうかしら?」

「そうだなぁ、ちょっと貰おうかな?」

「分かったわ。はい、あーん」

「えぇ?あ、あーん」


クシナは以前伊織がカフェに訪れた時もそのやり取りを見ていたので、自分だけその時あーんを出来なかったことに不満を感じていた。


「どう?美味しいかしら?」

「おぉ、このパンケーキも美味しいな」

「主様、口元にクリームが付いてるわよ。ちょっとじっとしててね?」

「え?あ、あぁ。ありがとう」

「どういたしまして」

「「…!」」


見事伊織にあーんをしたクシナであったが、そのハイスペックな身体能力を活かして少し伊織の口元にクリームが付くように食べさせた。


その結果、あーん+伊織の口元を拭くという二つの行為を成功させた。


もちろんこの光景を見ていた楓と白雪は驚愕し目を見開く。

まさか、そんな方法があったなんてと。




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