カフェで
カフェに到着した伊織たちはそれぞれ席に座り注文を行う。
クシナは楽しみにしていたバナナパンケーキを頼み、シアナは前に悩んでいたイチゴパンケーキを頼む。
「うふふ、楽しみだわ」
「ん」
伊織はそこまでお腹が空いているわけではないので飲み物だけを注文する。
「じゃあ俺はコーヒーをお願いします」
「私は紅茶とシフォンケーキをお願いします」
「わ、私はタピオカミルクティーで!」
そして白雪は前回の反省を活かして伊織とは違う飲み物と伊織に分けてあげられるようちょっとしたケーキを注文する。
楓は以前注文したものと同じタピオカミルクティーを注文した。
座席についてはクシナ、伊織、白雪の順で壁側に座り、通路側にシアナ、楓と座っていた。
つまり伊織はクシナと白雪に挟まれていることになる。
「うふふ、楽しみね主様?」
「ん?あぁそうだな。前にシアナに分けてもらったとき結構おいしかったから期待して良いと思うよ」
「そうなのね?楽しみだわ~」
クシナはかなり上機嫌で尻尾をユラユラと揺らしている。
当然クシナのボリューミーな尻尾が揺れれば隣に座っている伊織にもワッサワッサと当たることになる。
伊織としてはクシナの毛並みはかなり気持ちが良いと思っているので全然当たっても迷惑には思っていなかったが、絵面がなんとも言えない感じになっていた。
「クシナさん、尻尾が伊織君に当たってるよ?」
「あら?本当ね。ごめんなさいね主様」
「いや、大丈夫だよ」
伊織ファーストな白雪からしたら、伊織に降り注ぐ尻尾の連打はあまり見ていて気持ちいいものではなかったので思わず注意してしまう。
白雪に注意されたことでクシナの尻尾は止まったのだが、伊織は少し残念そうな顔をしていた。
その表情に目ざとく気が付いたクシナはコッソリと伊織の手を尻尾で包み込む。
「っ!」
それにビックリした伊織がクシナの方へ目を向けると、「これがいいんでしょ?」と言わんばかりの笑顔を向けてきた。
当然その通りだったので、なにも言い返さずに尻尾の感触を楽しんだ。
ちなみにこのカフェの中だけでもクシナの存在はかなり目立っていた。
今も別の席に座っている退魔士達がクシナの方を見ながらコソコソと何かを話している。
「ねぇ、あれって妖狐じゃない?」
「多分妖狐だよね、でも伊織様と白雪様と一緒に居るわよ?」
「じゃあ注意喚起で回ってきた妖狐と違うのかしら?」
「一、二、三…きゅ、九本も尻尾がある…」
当然カフェの中でも目立っているので、ここに移動するまでにもかなりの注目を集めた。
その時すれ違った退魔士達は皆五度見くらいしてクシナのことを凝視していた。
ただ当のクシナはそんなことはまったく気にしていないのか、非常にすました顔をしている。
「やっぱりクシナは珍しいのかな?」
「どうなのかしらね~」
「私の時は、あんまり見られなかった」
「確かにシアナと一緒に居てもあまり注目された覚えはないな」
全然そんなことはないのだが、伊織からしたらシアナと一緒にいる時に見られている感覚はなかった。
これは初めて伊織が組合を訪れたときに緊張や考え事をしていて、他に意識が向かなかったためである。
そうしているうちにシアナの存在は組合の中へ浸透していき、あまり注目されなくなった。
「(わ、私は話さないほうが良いんでしょうか…?)」
そんな中、楓はこの場でどういった立ち回りをするかで非常に悩んでいた。
今は落ち着いてるように見えるクシナだが、何処に地雷が埋まっているか分からない。
もしクシナの不興を買うようなことがあれば自分は一瞬で灰になってしまうだろうと考えている。
まぁクシナとしては伊織に何かない限りそこまで怒ることはないので、伊織に惹かれている楓は比較的安全な立場にいる。
「そういえば楓さん、組合が六尾の妖狐に襲われたって話しでしたけど実際のところ大丈夫だったんですか?」
「はえ?あ、そうですね…支部長が対応してくれたので他の退魔士は全員無事でした」
「そうだったんですね、支部長が…」
楓は考え事をしていた時にいきなり伊織から話しかけられたので思わず口から情けない声が漏れてしまった。
楓からそう聞いたが伊織からしたら支部長はいつもニコニコと笑顔を浮かべている女性という認識しかないので戦っている姿が全く想像できない。
「支部長ってどんな感じに戦うんですか?」
「支部長は鉄を操る霊術を得意としてるので、隠し持っていた砂鉄を使って妖狐と戦ってました」
「さ、砂鉄?」
「はい、物凄い数の砂鉄を操って妖狐を攻撃したんです」
「へ~、想像すると凄そうですね」
「実際凄かったですよ、まぁ取り逃してしまったのですが…」
そこまで話したところで楓は少し暗い表情を浮かべる。
もし自分がもっと強ければ、あの場で美月と一緒に戦って妖狐を倒すことが出来ただろうと最近は考えている。
今までは感じたことがなかったが、ここ最近は自分の不甲斐なさを強く感じていた。
「大丈夫よ、貴女はもっと強くなれるわ」
「え…?」
そしてそんな楓に声をかけたのはクシナであった。




