カフェへGO
「それじゃあ話はもう終わりかしら?」
「そう…ね、なんで伊織くん達が六尾の妖狐を倒せたかを一番聞きたかったから大丈夫よ」
「わかったわ。ねぇ主人様?話も終わったようだしカフェに行きましょう?」
クシナはすでに美月への興味を失っていた。
改めて対峙して分かった事だが、美月の内包する霊力を感じ取ってみても全く自分の脅威にはなり得ないと感じたからだ。
だから今のクシナの興味は全てカフェという場所に注がれており、この至極つまらない場所から一刻も早く移動したかった。
「えっと、本当に大丈夫ですか?」
ただ、話を聞いていた伊織からするとクシナが無理矢理話を打ち切ったようにも聞こえたので念のため美月へ本当にカフェへ移動しても大丈夫か聞いてみる。
「えぇ大丈夫よ、ただ悪いのだけれど楓ちゃんも一緒させてもいいかしら?」
「え?私ですか!?」
美月としては楓が伊織に惹かれていることを知っているので純粋に伊織と入れる時間を増やしてあげようと考えていた。
しかし、楓からしたら堪ったものではない。
あり得ない話だが、仮にクシナが何か癇癪を起こした場合楓は何も出来ずに塵になるだろう。
その事が分かっていたので、例え伊織と一緒に居れるとしても既に生きた心地がしていなかった。
その証拠に、美月からその話を振られた瞬間から冷や汗が溢れ出ている。
「楓さんをですか?いいかクシナ?」
「えぇ大丈夫よ、むしろ貴女とは話してみたいと思ってたのよ」
「えぇ!?な、何でですか!?」
「ふふ、それは後で話すわ」
今回カフェへ行きたいと言っていたのはクシナなので、クシナへ大丈夫か聞いてみた。
すると意外にもクシナからは好感触な反応が返ってきた。
しかし楓からすれば何故今日初めて会ったばかりの自分と話をしたいと思われてるのか分からなかった。
クシナはブレスレットに変化しながら伊織の周辺を観察をしていたので、楓がどういった人物なのかを把握してるがその事について話してないので楓がそれを知る由はない。
「じゃあ楓さんも行きましょう、白雪も来るよな?」
「うん、当然だよ」
「だよね、それじゃあ美月さん、失礼します」
「えぇ、今日は無理言って悪かったわね」
「いえ、自分も隠し事をしてたので…」
「ふふ、じゃあおあいこって事にしましょう」
「分かりました」
こうして美月との話し合いも終わった伊織達は支部長室を後にした。
ちなみに伊織達が退室していく時に楓も退室したのだが、既に顔面蒼白になっていた。
「か、楓さん、大丈夫ですか?」
「は、はい!?私はまだ何もやってません!?」
伊織がちらりと楓の顔を見てみるとあまりにも酷いことになっていたので思わず声をかける。
しかし極度に緊張している楓は急に話しかけられてしまったので、自分は何も悪いことをしてないのに変な弁明が口から飛び出してしまう。
「うふふ、そんなに緊張しなくても大丈夫よ」
「は、はぃ…分かりました…」
その様子に思わず笑いが漏れてしまったクシナが楓にそう告げ、その言葉を聞いた楓もなんとか自分の気持ちを落ち着ける。
大分マシになった顔色を見て伊織はホッとした。
『主、私も出ていい?』
『あぁ、いいよ』
『ん』
カフェへ向かっている途中にシアナが顕現しても良いか聞いてきたので伊織は了承する。
あまりにも変な雰囲気が続いていたので、シアナは口を挟むタイミングを伺っていた。
伊織から許可が出たので直ぐにシアナは顕現する。
「あら、やっと出てきたのね」
「ん」
「今日は、一緒に食べましょうね?」
「ん…」
クシナの言葉からは変な圧を感じた。
おそらく以前カフェを訪れたときにクシナ抜きで楽しんでいたことを少し根に持っているのだろうとシアナは直ぐに結論付ける。
触らぬ神に祟りなしとシアナは黙り込むことを決めた。
そんなやり取りをしているとあっという間にカフェへ到着した。
・・・・・・・・
SIDE:美月
「はぁ…」
伊織くん達が退出した後、思わず深いため息が漏れてしまう。
「まさか、伊織くんが九尾と契約してたなんてねぇ…」
本当にまさかだった。
伊織くんと初めて会ったときにシアナちゃん以外に妖魔と契約していることは気が付いてたけど、私はシアナちゃんと同格の妖魔だと予想していた。
そもそもシアナちゃんレベルの妖魔と契約できていることもおかしいのだけれど、それよりも遥か上位の妖魔が現れたときは心臓が止まるかと思った。
いや、実際止まっていたかもしれない。
むしろ今あった出来事は夢なのではないか?そんな疑問を持った私は試しに頬をつねってみる。
「痛い…はぁ、夢じゃないわよね~」
いい加減現実逃避は辞めて今後のことについて考えましょうか。
伊織くんが九尾と契約していることは直ぐに知れ渡るだろう。
そうなってくると、良からぬ企みをする輩が出てきてもおかしくない。
「結局伊織くんが受けた依頼についても分からなかったのよねぇ」
伊織くんが初めて受けた依頼で呪物が化け物に変容した。
本来であればそのレベルの呪物の回収依頼は二等星から一等星の依頼になる。
それが何故か伊織くんの依頼へ周ってしまったのは誰かしらの企みがあったのだろう。
「ま、どんな企みをしてもあの九尾に勝てるとは思わないけど」
私は退魔士の中ではそこそこ強いと自負している。
そんな私が、一目見た瞬間にこれは勝てないと確信してしまった。
「秋月家のあれを使っても勝てるか分からないのよねぇ…困ったものだわ」
今までは伊織くんは強い妖魔と契約している男の退魔士という認識だったが、九尾と契約していることで超弩級の爆弾へ変貌してしまった。
私でも勝てないと言う事は、仮に九尾が暴走でもした場合誰も止められないことになる。
「まぁ幸いあの九尾は伊織くんに対してかなり心を許していそうだし、出来ることはやりつつしばらくは様子見しましょうか」
とりあえず、九尾と鉢合わせた場合問題が起きそうな紅葉ちゃんにだけは厳重に注意しておきましょう。
「うん?」
これからの事について考えていると、扉がノックされた。
もう誰よ、こんな忙しい時に。
「入っていいわよ」
「失礼します」
部屋の中に入ってきたのは黒地に白点で模様が描かれている、まるで星空のような巫女装束を着た女性だった。
この巫女装束は本当にごく一部の人たちしか着ることができず、この衣装を着る人たちのことを通称「星読みの一族」と呼んでいる。
そんな人たちがこの部屋に来たということは、何かあったという事ね。
はぁ、こんな忙しい時に…。
「どうしたのかしら?」
「はい、新たな厄星が現れます」
「やっぱりね、そうじゃないと貴女たちはわざわざ来ないものね。それで?詳しい内容は?」
「夜空が三度回るとき、強大な厄星が現れます。厄星を祓う鍵となるのは二つの星と契りを交わしている男」
「つまり三日後に何か強大な妖魔が現れて、それを倒す鍵となるのが何か二つと契約している男の退魔士って事ね?」
「はい」
相変わらず分かりづらい伝え方をするわね~。
ってちょっと待って?二つの何かと契約している男の退魔士?
そ、それってもしかして伊織くんの事かしら…。
「ち、ちなみにその二つの星と契りを交わしている男について詳しいことは分かるかしら?」
「一つの星は荒ぶる風の化身。もう一つの星は全てを滅する破壊の化身」
「あぁ、分かったわ…分かってしまったわ…」
もう完全に伊織くんの事ね。
というか、あの九尾のことを破壊の化身と例えているのがひじょーーーーーーに気になるわね。
「ありがとうね、後はこちらで対応するわ」
「はい。あ、すみません、あと一つ伝えることがありました」
「な、何かしら?」
もう既にお腹いっぱいなのにまだ何かあるというの?
「厄星は、二星現れます」
「…」
「一つは真なる邪悪の化身。もう一つは善にも悪にもなりえる審判の化身」
あーもー、なんでそんなものが二つも現れるのよ!!!
「それでは伝えましたので、失礼します」
伝えることだけ伝えて、星読みの巫女は退出していった。
「こ、これは予想以上に大変そうね。早急に動く必要があるし、伊織くん達にもまた戻ってきてもらう必要があるわね」
多分まだカフェに居るわよね?
とりあえず楓ちゃんに連絡を入れて戻ってきてもらいましょう。




