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クシナの戦い方

「お喋りは終わりよ。さぁ、私と踊りましょ?」


クシナはそう言葉をつぶやくと同時に両手に持っていた扇子を開く。


するとクシナの背後に九つの火の玉が扇状に浮かび上がった。

それはいつも見ている赤色の炎ではなく爛々と輝く白色で、まるで太陽のようだと伊織は感じた。


クシナが流れるように扇子を振るう。

するとこれまた白色の炎が現れ、妖狐を襲い始めた。


「くっ!」


妖狐もそれに対抗するように妖術を使って相殺しようとしたのだが、妖狐の炎は白炎に飲み込まれるようにして消える。


「なんだと!?」


自分の炎が飲み込まれる光景を目にした妖狐はすぐさまその場を飛び退く。

ギリギリ回避することに成功した妖狐であるが、飛び退く際に右腕が僅かに白炎に接触していた。


「うぐっ!!な、なんだこれは……!?」


激しい痛みを感じた妖狐が右腕に視線を向けると、白炎と接触した部分が、まるで最初から存在しなかったように消滅していた。


「私の炎は消滅の炎、これに触れたものはみんな消えてしまうの」


美しくも、妖狐からしてみたら恐ろしい笑みを浮かべながらクシナはそう説明する。


最初に妖狐が白炎を相殺しようと妖術を使った時も、白炎に触れた瞬間に妖術は消えていた。


これは火力負けをした訳ではなくクシナの白炎が消滅の性質を持っているため、触れただけで妖術そのものが消滅したためだ。


「そんな、そんな馬鹿げた話があるか!?」

「無理に理解しなくていいのよ?この白炎に飲み込まれれば消えるだけだもの。術も、体も、その魂さえも……ね?」


そこまで話したところでクシナは再び扇子を振るう。

静かに美しく扇子を振るうその姿は、まるで舞を踊っているかのようだった。


迎撃しようにも触れただけで消滅してしまうその炎を前に、妖狐は逃げるしかなかった。


「(冗談でしょ?なにあの炎…意味がわからないよ…)」


白雪は生まれてからずっと退魔士の世界に身を置いており、退魔士名家の長女でもあるため一般的な退魔士より霊術や妖術に詳しい自信があった。


ただ、その白雪を持ってしても今クシナが行使している妖術は理解できなかった。


「(触れただけで消滅させる?そんな概念系の術をなんでああも容易く制御できてるの?)」


退魔士の世界において、似たようなことが出来るものは存在する。


しかしクシナと同じような性質を持った霊術を行使する場合、己の全霊力を注ぎ込み、命を削りながら制御することでほんの一瞬だけこの世に顕現させることが精一杯であった。


だかそれをクシナは息をするように自在に操っており、その様子からはまだまだ余裕を感じる。


「伊織君……あの妖魔は、なに?」

「クシナは俺が最初に契約した妖魔なんだよ」

「シアナちゃんよりも先に?」

「あぁ、むしろシアナはクシナの紹介で契約したんだ」


僅かな怯えをその目に映しながらクシナのことを伊織に聞いた。

伊織はクシナと最初に契約したことを思い出しながら白雪に説明する。


「どこで契約したの?」

「家の近くにある山の祠で出会ったんだよ、その後俺が妖魔に襲われてピンチの時にクシナが駆けつけてくれて契約したんだ」

「そ、そうなんだ…(あんな存在が山の祠にいた…?冗談でしょ、それなら組合が把握してるはず。それとも何か自分の存在を隠せる術を持ってる?」


クシナが組合に把握されなかった原因はただ存在が消えかけていたからなのだが、そんな事を知らない白雪は深読みを続けていく。


「(それに伊織君はシアナちゃんと同じくらい強いって言ってたけど、そんな次元じゃないよこれ…..名家の当主が戦って勝てるかどうか….)」


白雪の中で身近な強者は母親である立花だ。

そんな立花とクシナが戦うところを想像するが、全く勝てるビジョンが浮かばなかった。


「(というか、なんで伊織君は平然としてるの?こんな妖魔と契約してたら普通であれば霊力が枯渇するはずなのに…..)」


こうして白雪と話している間もクシナは妖術を行使し続けている。

そしてその度に契約者である伊織の霊力が消費されているのだが、伊織は全く辛そうな素振りを見せていない。


「クシナさんって、何者なの?」

「うーん、実は俺もよく知らないんだよな。シアナは何か知ってるか?」

「ん?ん〜、あんまり」


白雪は何故このレベルの化け物と言っていいクシナが伊織と契約しているのか気になったのでそう尋ねてみたが、良い回答は得られなかった。


「(そんな妖魔が伊織君を狙ってる….勝てるのかな、私…..)」


クシナが現れた時に伊織へ向けた笑みを見た時、この妖魔もまた伊織へ大きな好意を向けていることに白雪は気がついていた。


しかしこの世の美を凝縮したような容姿に加え、今も圧倒的な力を振るいながら伊織を守っているクシナを見ていると、勝てないと言う敗北感が心に募る。


今はまだ自分の方がリードしているかもしれないが、伊織と契約してると言う事は、一つ屋根の下で一緒に暮らしていることになる。


思いがけない強力なライバルの出現に白雪の心は乱れていた。


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