妖狐vsシアナ
「ん!」
伊織目掛けて飛び込んできた妖狐であるが、直ぐにシアナが防ぐ。
伊織たちと妖狐の間に割って入り、妖狐目掛けて足を振るう。
「邪魔だ!」
妖狐はシアナの攻撃を腕で防いで見せた。
いくら五尾の妖狐とはいえ、まだ風を纏ってすらいないシアナの攻撃であれば防ぐのは容易い。
正面から攻撃を防がれたシアナは少し目を見開いて驚きを露にする。
だが今は伊織を狙っているこの妖狐を排除することを最優先に考え、攻撃を仕掛け続ける。
シアナが足や手を振るい、妖狐がそれに合わせて防御をする。
その辺の妖魔であれば一撃で消し飛ぶくらいの威力を込めているが、妖狐はその全てを捌いていた。
既に伊織たちには見えない速度で攻防が行われており、衝突するたびに轟音が鳴り響く。
「忌々しい、ならばこれでどうだ!」
妖狐はシアナの攻撃を捌きながら、妖術を発動する。
妖狐の周りに炎が五つ浮かび上がり、シアナへ殺到した。
「風と共に...」
それを見たシアナも妖術を行使する。
いつものように体に風を纏い、五体を使って炎を弾いていく。
しかし妖狐が使う妖術は決して攻め手が途切れることはなく、今度はシアナが防戦一方になった。
炎ばかりに目を向けていると、今度はその隙をついて妖狐自身が攻撃を仕掛けてくる。
シアナはその状況をマズイと感じていたので、霊力を爆発させ無理やり炎を弾き飛ばす。
そして一瞬だけ炎が無い状態を作りだし、その隙をついて妖狐へ接近する。
シアナの速度をもってすれば、この一瞬だけでも容易に妖狐へ攻撃を仕掛けることが出来る。
妖狐の前にたどり着いたシアナが渾身の力で攻撃をしようとしたとき、突然目の前に炎が現れた。
「ん!?」
全く予兆を感じさせないその攻撃にシアナは驚きを露にしながらすぐさま回避へ移る。
次の瞬間、先程までシアナの居た場所へ無数の炎が着弾していた。
「ちっ、惜しかったな...」
あと少しシアナの回避が遅ければ直撃していたその状況に妖狐は苛立ちを感じていた。
まさかあそこで反撃を貰うと思っていなかったシアナは一旦距離を取り伊織の近くまで下がる。
「シアナ!?大丈夫か?」
「ん、だいじょぶ」
速度が早すぎてまともに見えていない伊織であるが、シアナが危なかったことだけは分かった。
今までこんなことは無かったので、思わずシアナの心配をする。
爆発の余波で頬に煤の付いたシアナはそれをぬぐいながら伊織に心配をかけまいと言葉を返した。
しかし先程の攻撃は確実に決まったと思っていたので少し疑問にも思う。
それを確認するためにもう一度妖狐へ接近した。
そして攻撃を振るおうとすると、またしても予兆なくシアナの前に炎が現れる。
それを確認したシアナは先程より余裕を以て回避を行い、次に妖狐の後ろから攻撃を仕掛ける。
しかしそれでもシアナの目の前に炎が現れたので攻撃を中断し離れざる負えない。
「ん~?」
本来であれば既に五尾の妖狐であっても視認できないスピードでシアナは走っているのだが、何故かシアナの行くところ行くところに炎が現れる。
「確かに貴様のスピードは驚異的だ、だがそれほどまでに霊力を振りまいて移動してるのだ、感知は容易い」
「ん...」
そう、この妖狐は感知を得意としていた。
初めて世界に顕現した時、その感知能力をもって組合の位置を把握しその場へ移動した。
美月に敗れた後も感知を使い霊力を探りながら伊織を探し出した。
そんな妖狐に如何に目に見えないスピードで動いているシアナであっても、霊力を纏いながら移動しているので攻撃を合わせることは容易であった。
そしてこのタイプはシアナと相性が非常に悪い。
シアナの一番の武器はそのスピードだ。それが通じないとなるとシアナは途端に攻め手を失ってしまう。
「シアナ...」
それでも果敢に攻め続けるシアナを見て伊織は何も出来ない自分に悲しくなり言葉を漏らしてしまう。
そしてそれは伊織の直ぐ近くにいる白雪にも聞こえていたのだが、白雪はこの戦闘に割り込めずにいた。
「(シアナちゃんの援護をしてあげたいけど、迂闊に私が霊術を使うとシアナちゃんの邪魔をしかねない...。伊織君を守るとか言ってたのにこのざまとは情けないよ......)」
白雪は妖狐とシアナの戦闘をギリギリ目で追えていた。
しかし本当にギリギリのため、迂闊に手を出すことが出来ない。
「ふむ、お前の相手にも慣れてきたな」
「ん!」
「無駄だ、もうお前の速度は把握した。既に私の足は止められんぞ」
その言葉の通りに、妖狐が悠然と伊織の方へ歩いて行くがシアナはそれを止めることが出来ていない。
先程より苛烈に攻めようとしているのだが、シアナが行くところには既に炎が設置されており妖狐へ近づくことが出来ない。
このままでは伊織が危ない、なんとしても阻止しなければという気持ちが沸いてきてシアナに焦りを生み出す。
その焦りは動きににじみ出ており、先程より行動に繊細さが無くなっていた。
そんなシアナの対処をすることは先程よりも容易い。
「(このままじゃ伊織君が殺されちゃう...あれを使うべき?でもお母さんから許可出てないし...。でもこのままだと伊織君は...。なら、例え教えに背く事になっても私は...)」
妖狐の様子を眺めながら一つ決意をした白雪が一つのお札を取り出そうとしたとき。
『主様、私がやるわ』
伊織の脳内でクシナの声が聞こえてきた。
ちょっと仕事がデスマーチに突入したので五月中は不定期更新になります。




