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打ち合わせ

「それでしたら、明日はどうでしょうか?」


依頼についての予定を話し合っていると、楓がそう提案した。

呪物の回収依頼は早期解決が望まれるため、出来るだけ早く動きたい。


「そうですね、大丈夫です」

「伊織さんも大学があると思うので、講義が終わってから出発しましょう」

「分かりました、待ち合わせはどこにしますか?」


伊織から待ち合わせ場所はどうするか聞かれた楓は、男の子と待ち合わせ何てデートみたいだなと内心そんなことを考えていた。


「そうですね...。大学からも近いので組合前でお願いします」

「分かりました」

「それと、こちらを伊織さんに渡しておきます」


そういいながら楓が取り出したのは、白い布で出来た袋であった。

その袋には札術の術式のようなものが表面に書かれていた。


「これは?」

「こちらは回収した呪物を入れる袋になります。封印の効果が強いんですよ、なので明日は呪物をこちらに入れてください」

「分かりました、ありがとうございます」


楓から袋を受け取り、少し眺めた後鞄にしまう。


「何か今回の依頼で気を付けることってありますか?」

「う~んと、今回の依頼はランクが低いので無いとは思いますが、何が起きても良いように心構えをしておくことですかね?」

「心構えですか?」

「はい、呪物の回収依頼もそうですけど、退魔士のお仕事は本当に何が起きるか分からないので、何が起きても良いように準備をしておくことが重要なんです」


実際に退魔士の仕事には危険が付き物だ。

妖魔の退治依頼であれば、何かが切っ掛けとなり妖魔が強化される場合もある。

そしてこれは呪物回収の依頼でも言えることだった。


「なるほど、そうなんですね」

「まぁ今回はランクが低い呪物の回収依頼なので何事も無いとは思いますが。万が一何か起きても私が守りますので安心してください!」


楓は胸を張りながら自信満々に告げる。

その動作をしたことで、楓の山脈が強調され視線がそちらに向きそうになったが、伊織は白雪の事を頭に思い浮かべながら耐える。


「分かりました、ありがとうございます」


そこまで話したところで、ちょうどコーヒーも飲み終わり切りもいいので帰ることにした。


「それではまた明日」

「はい、また明日...(まるで恋人みたいなやり取りです!?)」


男性経験が少ない楓はちょっとしたやり取りでも直ぐにそう言った事に結びつけてしまっていた。




家に帰った伊織は白雪に連絡を入れることにした。

白雪にも依頼があるのか今日姿を見せなかったので、伊織が受けた依頼について連絡する。


「楓さんと一緒に呪物回収依頼を受けることになったけど何か準備をする必要ってある?...っと」


そしてメッセージを送ってすぐに白雪から電話がかかってきた。

少し不思議に思ったが伊織は電話に出る。


「もしもし?」

『もしもし伊織君?依頼を受けるってどういうこと?』


白雪からしたら、まさか伊織にこんなに早く依頼が舞い込むなど思っても居なかった。

そして初めて依頼を受ける時は、自分が教えようと考えていたので焦った様子で伊織に問いかける。


「まぁそのまんまなんだけど、依頼が回ってきたから明日行くんだよ、それで何か準備した方が良いものがあるかと思って連絡したんだけど...」

『ねぇ伊織君、一人で組合に行った?』


基本的に依頼の話は組合で聞くことになっている。

そして白雪は今依頼で伊織の近くに入れないため、依頼が舞い込んだ場合伊織は一人で組合に行くことを指していた。


「ん?行ったけどそれがどうかしたのか?」

『誰かに話しかけられた?』


いつもは白雪が牽制をしているため話しかけてくる人は居ないが、白雪が居ない場合その限りではない。

実際、伊織に話しかけようとした退魔士が暴走しかけた。


「ん~、支部長室への行き方が分からなかったときに朱炎結衣さんって人が助けてくれたんだ」

『...そう、朱炎が...(これは要注意かな?)』


少しだが白雪には結衣と面識があった。

おっとりとしたお嬢様みたいな人だなとその時は思っていたが、ああいうタイプが男性に人気がある事も白雪は知っている。

万が一にも伊織の目がそちらに向くような事があれば目も当てられないのでしばらくは要注意人物として監視することを心に決めた。


『他には何も無かった?』

「うん、特に無かったかな」


結衣以外は話しかけていないと知り、ひとまずホッとする。


『あと、楓さんと依頼を受けるってどういうこと?』


白雪はさらに気になっていることを尋ねた。


「あぁ、最初の依頼で不安だろうから楓さんを付けてくれるって話になったんだ」

『ふ~ん、そうなんだ(ありえない、美月さんは何を考えているの?)』


本来であれば五等星の初めての依頼に楓のような実力者を付けることはまずあり得ない。

そのことを訝しんだ白雪であるが、実際は楓の恋路を応援する美月が仕組んだことである。


『まぁ伊織君にはシアナちゃんがついてるし、それに楓さんまで同行してくれるならひとまず安心かな』

「そっか、特に何か準備とかしなくていいのか?」

『うん、五等星に発注される依頼なら要らないと思うよ』


五等星以上の依頼であればそれ相応の準備が必要だが今回は必要ないように感じていた。


「分かった、ありがとう」

『気を付けてね?本当は私も同行出来れば良かったんだけど』

「そういえば白雪も今依頼受けてるのか?」

『うん、そうなんだよ。ある依頼で救援要請が来て、私に話が回ってきたの』


白雪はある妖魔討伐依頼の救援要請を受けて少し離れた場所に居た。


「そうなんだ、白雪も気を付けてな?」

『うん、ありがと。それじゃあね?』

「あぁ、またな」


白雪との通話を切り、ソファーに深く座るとクシナが絡みついてくる。

最近、クシナはこういった行動を良くしてくる。


「あのクシナ、近いんだけど」

「主様があの女とずーっと話してるのがいけないのよ?」

「そんなに長いこと話してなかったと思うけど...」


最近白雪は伊織に対してかなり激しいアピールを行っている。

意味深な事を言ったりボディータッチが激しかったり...そのたびに伊織はドギマギしながらも嬉しい気持ちがあった。

そんな伊織の気持ちを感じ取っているのか、段々と家の中でのクシナの行動は過激なものになっていた。


「ん~、主様~」


そういいながらクシナは伊織の腕に頭を擦り付ける。まるでこの男は自分の物だと証明している様だった。

伊織は心の中で自分が好きなのは白雪だと唱えながら、その行動に耐える。

本当であれば、クシナから離れるのが正解なのだろうが、それをしようとすると凄く悲しそうな顔をするので伊織はあまり強く出られなかった。


「(優柔不断なんだろうな、俺は...)」

「ん、主とクシナがえっちっち」

「...違うからな?」

「ん、でもくっついてる。そうやってくっ付くのは番だけ」


最近シアナからこの言葉を良く聞く。

シアナの中では男女がくっ付くのは番だけなので、てっきり伊織とクシナはそういう関係なのかと思っていた。


「違うよ、俺とクシナはそういう関係じゃない」


ここは譲れない部分だったので、伊織もそういう。


「そうよ?私と主様はそんな次元の関係じゃないわ。もっと深い関係なの」

「え?」


しかしクシナには通用しなかった。

クシナの中では伊織と永久の契約を交わしたことで、番などという一生切りの関係では無く、もっと深い関係であると考えていた。


「不思議そうな顔をしてるわね主様。私たちは未来永劫、生まれ変わっても一緒になる運命なのよ?それは番より深い関係だと思わない?」

「まぁ、言われてみればそうかも知れないけど...」

「だから、私たちがこうやっていても何も問題は無いの」

「いや、でも...俺が好きなのは」


そして伊織が白雪の名前を出そうとしたその時、クシナの指が唇に触れる。


「今は、でしょ?私の方がいい女だって事を、これからいーっぱい教えてあげるわ」


そうしてほほ笑むクシナの顔は、まさしく傾国の美女と言っても相応しいものであった。


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