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依頼について

伊織はエレベーターに乗りながらクシナやシアナと話している。


『さっきは出てこようとしてたけど、大丈夫だからな?』

『私たちには主を守る義務がある』

『そうよ、妖魔からもあの不届きな女たちからも主様を守って見せるわ』

『それはありがたいけど、そんなに危険な状況だったか?』


若干いつもより違う感じがしたが、伊織は先ほどの状況をそこまで危険視していなかった。


『主は鈍感。あの女たちからは邪な気配がビンビンしていた』

『邪な気配って...』

『主様は気配を察知する能力を鍛えた方がいいわね』


そんな話をしていると、支部長の居る十階までエレベーターが到着した。

エレベーターから降りて部屋の前まで歩く。


以前来たときは白雪が一緒だったため、少し緊張しながら支部長室の扉をノックする。


「久遠伊織です」

「は~い、空いてるから入っていいわよ~」

「失礼します」


入出を許されたので扉を開けて中へ入ると、以前と同じように美月が座っており、その傍らに楓が立っていたが何故かあわあわしている。伊織の方をチラ見したり髪を触ったりと動きがせわしない。


そんな楓の行動を不思議に思っていると、美月が笑顔で話しかけてきた。


「さっそく来てくれて嬉しいわ」

「なるべく早い方がいいと書かれていたので、特に予定も無かったですし今日来ました」

「ありがたいわ。どう?退魔士になってしばらく経つけど少しは慣れたかしら?」


直ぐに仕事の話になると思った伊織だが、どうやら雑談から入るらしい。

伊織としてもその方がありがたかったので応じる。


「そう...ですね。まさかこんな仕事があるとは思いませんでしたけど、今のところは問題なくやれてると思います」


今まで見えても関わらないようにしてきた存在を退治する仕事があるとは夢にも思わなかった。

漫画などではよく見るが、それは漫画の世界だけだと思っていた。


「そう、良かったわ。最近は札術も練習しているそうね?」

「はい、白雪から教わりながらゆっくりですけど練習しています」

「白雪ちゃんからね~、少し意外ね」

「そうなんですか?」

「そうよ?あの子は結構無愛想だし、他の子に何かを教えるところは見たことが無いわ」

「白雪が無愛想...?」


天真爛漫と言っていいような白雪の事を無愛想と表現した美月の言葉に驚く。

そして白雪は面倒見のいい方だと思っていたので、他の退魔士に何かを教えていることが無いことを意外に感じる。


「そうよ?組合の中だと常に一人だし、近づき辛い雰囲気があるのよ」

「近づき辛い雰囲気...?」


伊織の前では常に笑顔で、伊織よりも白雪の方が喋ることが多いので、そんなことを言われてもあまりピンと来ていない。


「組合の中だと、あまりに冷たい雰囲気を漂わせている事から【絶氷の姫】何て呼ばれる事もあるわね」

「絶氷の姫...?」


伊織はどうやら自分と組合の中で白雪に対する印象が全然違うことに気が付いた。


「その様子だと伊織君の前では随分と違うようね?」

「そうですね、白雪は常に明るくて面倒見が良くて、笑顔の絶えない女性ですね」

「本当に真逆ね?」


美月は白雪が伊織を連れてきた時を思い出した。

確かにあの時の白雪は、いつもとは様子が違い常に笑顔であった。

普通の退魔士と比べても美月は白雪と話すことが多かったが、あそこまで笑顔で楽しそうに話していた記憶はない。


「まぁ、白雪ちゃんの事は置いておいて、札術は楽しいかしら?」

「はい、まるで魔法を使っているようで凄く楽しいです」

「確かに札術や霊術ってゲームで出てくる魔法みたいよね。実際日本以外だと魔術と言ったりするわよ」

「そうなんですね」

「えぇ、まぁ国によって呼び方は様々よ。さて、そろそろお仕事の話をしましょうか」


雑談が盛り上がってきたところであるが、美月が仕事の話を始める。


「今回伊織君にお願いするのは、メールでも伝えたけど呪物の回収よ」

「はい」

「組合の退魔士が伊織君の住んでいる近くで呪物を感知したの、それを回収してもらいたいわ。その退魔士によるとあまりランクの高い呪物ではないらしいから安心して頂戴」

「分かりました」


呪物にもランクがあり、今回伊織が回収予定の呪物はランクが低いものと報告されていた。

そのためあまり難しい依頼にはならないだろうと予測される。

初めての依頼ということもあり少し緊張していた伊織だが、美月のその言葉で少しホッとする。


「ただそれでも少し心配だから、楓ちゃんを付けるわ」

「楓さんとですか?」

「よ、よろしくお願いします!」


その言葉に驚いた伊織が楓の方を見ると、ガバッとお辞儀をする。


「楓ちゃんはとても優秀な退魔士だから、色々と教えてもらうといいわ」

「そうですね、分かりました。こちらこそよろしくお願いします」


実際伊織は一人で依頼をこなすことに少し不安を覚えていた。

なので美月の申し出は正直かなりありがたかった。


「はい!何が起きても私に任せてください!精一杯お手伝いします!」


その言葉を聞いた楓は凄く嬉しそうに返事をした。

実のところ、本来であればこの程度の依頼に楓を付けることは無いのだが、以前楓から伊織を好ましく思っていると聞いていた美月がこの依頼に無理やり楓を付ける事にしたのである。


「楓ちゃん、張り切るのはいいけどメインは伊織君よ?あまり出しゃばり過ぎてはダメよ?」

「あう、はい...気を付けます」


ザ・出来る女性という姿の楓がシュンとしている姿を見て、思ったより可愛らしい人だなと伊織は思った。


『ん、主の事は私たちが守る』

『そうね、この女じゃなくて私たちを頼ってね主様?』

『わ、わかったよ』


二人は何故か対抗するかのようにそんなことを言う。


「さて、伝えたいことは以上よ。後の細かいところは楓ちゃんと話し合って決めて頂戴」

「そ、それではカフェスペースがあるのでそっちで打ち合わせをしましょう!」

「分かりました、では失礼します」


一通り話も終わったので、伊織は楓と共に支部長室を出る。


「改めて今回はよろしくお願いします」

「はい、こちらこそよろしくお願いします!」

「楓さんが一緒に手伝ってくれてとても心強いです」

「そ、そうですか!」


伊織と二人で歩いているとき、楓はものすごい緊張をしていた。

元々緊張しいな体質で、あまり男と話したこともなく、そして気になる男性と歩いているというトリプルコンボが楓を襲っている。


「(い、伊織君がこんなに近くに...それになんだか良い匂いもします。男の子ってこんなに良い匂いがするんですか...!?き、緊張でまともに喋れません、美月姐さん(・・・・・)私はどうしたら...)」


実は楓はある密命を美月より受けていた。


「いい楓ちゃん?今回伊織君の依頼にあなたを同行させる予定だけど、しっかりとアピールをするのよ」

「アピールですか?」

「そうよ、前回伊織君と少し話した感じ、礼儀正しくて凄く優しいわ。こんな退魔士の男性が滅多に居ないことはあなたもわかるでしょ?」

「はい」

「そんな男性をいいなと思う女はごまんと居るわ。だからしっかりと自分のことをアピールする必要があるのよ」


実際、既に伊織は退魔士組合の中でかなり人気が高いものになっている。

直接話したことはなくても白雪と話している伊織の姿はよく目撃されており、その話し方や言動に好感を持たれていた。


「出来るでしょうか...?」

「楓ちゃん、出来るかじゃなくてやるのよ」

「はい...」


楓は美月との話を思い出して、アピールとは何かを考えていた。


「(どうしましょう、アピールってなんですか?ボディタッチでもすればいいのでしょうか?でもそんなことしたら捕まっちゃいませんか!?)」

「(楓さんって表情が良く動く人だな)」


楓は考え事をしながら一人で百面相をしており、伊織はばっちりその姿を確認していた。

ただ伊織はどちらかというと、感情豊かな人がタイプであるため、奇しくも良いアピールポイントとなっていた。


そのまましばらく歩いていると、カフェスペースにたどり着いたので楓と座り飲み物を注文する。


「な、何を飲みますか?」

「そうですね、僕はコーヒーが好きなのでコーヒーにします」

「そ、そうなんですね!私も実はコーヒーが好きなので同じものにします!」


二人して同じものを注文し、早速仕事の話に取り掛かる。


「この回収依頼って早い方がいいんですよね?」

「そ、そうですね。いくらランクの低い呪物と言っても、時間が経つとどうなるか分かりませんし、なるべく早い方が良いですね」


呪物は何かしらの強い想いが籠った物体だ。

そして強い想いというものは何かしらの影響を現実に及ぼす。

それが良いものであれば問題ないのだが、残念ながら悪影響を及ぼす物の方が多い。

人の願いというものは得てして悪感情の方が強い側面がある。

そして呪物の厄介な部分は、最初はそこまで危険ではないものが時間が経つごとに効果が上がっていってしまう点である。

そのため、ランクの低い呪物であっても早期回収が望ましい。


「分かりました。僕は今大学に通ってるんですけど、結構予定があるのでいつでも大丈夫です」

「そうなんですね、それでしたら...」


こうして伊織と楓は依頼についての内容を話し合っていく。


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