43、別れの朝
一週間が経った、その日の朝。食堂にはいつものように猿田とノエル、そして筧がいる。俺は席に着いてトーストを頼んだ。
「さて、一週間経って慣れてきたぞ。ここからが本番だ」
「何言ってるんだ。今日は帰る日だぞ」
「楽しかったですよ」
あれからほぼ毎日、夜になるとここで四人で集まっていた。一度だけ芽留も参加した。早いもので、もう筧が帰る日だ。
俺たちは三人で餞別に本の栞を渡した。和紙で作った栞だ。そこに一言ずつ書いた。
“読書と釣り”。
“ありのままに”。
“また会いましょう”。
「ありがとうございます。熊のプーに万歳」
朝飯を食った後、筧はザック一つだけ背負って、寮の玄関に立った。
「姉さんにもよろしく言っておいて下さい」
「わかった、伝えておくよ。またな」
寮を見上げ、頭を下げ、筧は去っていった。
別れるとなると寂しさがある。俺も砂川や果歩にこんな思いをさせたのだろうか。
「さて、作戦会議でもするか」
そう言うと三人は食堂に戻った。
あの後、露九戊からしばらくは暇が続くだろうと言われた。各自で強さを磨いておくようにとのことだった。
やることを確認した。
俺はまず筋トレ、あとはスキルの習得だ。でもそれだけでは足りないような気がする。実戦が必要だ。一般の任務もチェックしておけと言われた。
それ以外はいつものようにゆっくり過ごす。あまり足掻いても仕方がない。
まだ午前中だ。離れには片付けと掃除がされ、早くも人が入ったようだった。
闇属性魔法には九番呪泉と六番呪文という禁忌のスキルがある。呪泉は回復、呪文は活力を増強する。どちらも他者の命を使う。
「定型技能はまだ全部が開拓されたわけじゃない。未知のスキルがまだあるといわれている」
猿田が興味深いことを言った。
「そうなのですか」
「しかしこれほど長いこと人々が生活を営んできたわけだから、生活の中で偶然発見されるというようなスキルはもうないだろうと言われている。だからギルドの研究室では、あらかじめ予想を立てて偏ったことをしてスキルが発見されないか探っている。例えば体気煥発がいい例だな。限界までいったら普通はそこでやめてしまう。しかし実際にはそこからスキルに繋がる。何も知らずに体気煥発を偶然覚醒する確率はかなり低い。何日も寝ないでいるとか、空箱のさらに先に派生スキルがないかとか、色々やっているらしいな」
新しい定型技能には自由技能のように賞金も懸けられているらしい。
「回復スキルもあるのではないかと言われている。もうすぐ発見されるんじゃないか」
食堂にはまだほとんど人がいない。静かな三人の時間に戻った。テーブルの上に水だけが運ばれてきてある。
「本で読んだのですが、海にある船って動力は何なのですか?」
気になっていたことを聞いてみた。
「動力は魔法だ。水属性と風属性に、もしかしたら土属性にもあったかもしれない。漁師が覚える場合もあるが、まあほとんどは冒険者が雇われるな」
「なるほど」
読んだ本というのは「失われた大陸」のことだ。主人公のサカモトは、帆船で大陸に渡っていた。
季節はもうすぐ夏になる。
露九戊は占い師からあの悪魔が襲ってくるまであと一年と告げられている。俺の感覚でもそれぐらい先のことのような気がした。それまでに少しでも強くなる。あの未来は必ず変えなければいけない。
猿田とノエルはいつもと変わらない様子だった。俺もあまり考え過ぎないようにした。




