31、運命の日
その日、俺はあてもなく街の中を歩いていた。朝から夜まで歩いてみよう。そう思って青葉の外地の手前まで特に理由もなく歩いていた。この前とは違うルートを取った。
道には人が大勢出ていた。道路の真ん中で子どもたちがサッカーボールを蹴り合っている。懐かしい。水色学校ではよくサッカーをしていた。アスファルトだからボールはよく弾むようだ。紙袋を抱えた親子が歩いている。他にも買い物で出ている人が大勢いる。
市街地を抜けると田んぼに出た。水が張ってある。あぜ道に下りて田んぼの中を覗くとオタマジャクシが泳いでいるのが見えた。俺はしばらくそれを見ていた。
やがて外地との境界にある川までやってくると川のせせらぎの音が聞こえてきた。
俺は河原に降りていってみた。草が生い茂っている。草をかき分けながら川岸まで来ると、俺はしゃがんで川の水に手を入れた。冷たい。川のほとりは流れがなく水たまりのようになっていた。おかげで川底まで見通せて小さな魚が泳いでいるのが見えた。メダカだ。
川のせせらぎが心地よく聞こえる。俺は草むらに仰向けになり、しばらく川の流れる音を聞いていた。五月の初め頃だ。対岸には竹林がある。その向こうは外地だ。黄色い蝶があてもなく羽をはためかせていた。
空は青空だ。雀が鳴いている。俺は目を閉じた。
いつの間にか眠っていたようだった。
それは何の前触れもなくやってきた。耳をつんざくような音だった。隕石だ。それが突然激しい音と共に降ってきた。青葉の町のど真ん中に落ちた。激しい地鳴りが聞こえた。落ちた方角を確認すると、巨大な火の羽が四枚、天に向かって伸びていた。それに呼応するかのように空が真っ赤に燃えている。反対側の空はまだ青だ。隕石が落ちた辺りの空だけが紅蓮に燃えている。中心には火の羽。俺は慌ててそこまで駆けていった。
巨大なクレーターができ、建物は吹き飛んでいた。爆風と急激な温度差で風が吹き荒れている。街のど真ん中だ。滅茶苦茶だった。人がたくさん倒れている。わけのわからない獣の鳴き声が辺りに響き渡っていた。bタキオンによる幻聴だ。甲高い鳴き声だ。
クレーターの中心には人影が立っていた。ボロ切れを身に纏っている人間だった。背には火の羽。
突然雄叫びが聞こえた。声の中心は人影だ。立ち尽くしたままだ。轟音が辺りを包んだ。耳がキーンと鳴った後、耐えきれず激痛が走った。鼓膜が破れた。耳を押さえているとその人影は少しだけ揺れた。
「――」
何かを唱えたような後、火山の様に地面が爆発して岩石が噴き上げられた。野次馬が次から次へとやってくる。大部分が耳をやられたり倒れている。辺りはbタキオンで充満している。獣の悲鳴が響く。
一人の男が前に出て、人影の元へ下りていった。眼鏡をかけた長身の男だ。冒険者だろう。その後ろにはもう一人、別の男が控えている。耳に手を当てて治癒を施しているようだった。
ゴオ
棒立ちになっている人影に近づくと体が燃え上がった。それでも気にせず、男は人影の前まで来ると、腰を深く沈めた。
渾身の殴殺が刺さった。
鈍い音が鳴り、火の羽が一本傷ついた。しかし倒せない。男は今度は四つん這いになると唸り声を上げた。何かのスキルだ。
次の瞬間、炎の波紋が周囲へ広がり、眼鏡の男と控えていた男と野次馬、そして俺のところまで襲ってきた。
人影は立ち尽くしたまま、再び咆哮を上げた。陰鬱な立ち姿だ。声を上げているようには見えない。どこから来る声なのだろう。
景色のあちらこちらで地面が噴火し、岩石が巻き上がる。地獄のような光景だった。建物は消し飛び人一人生きてはいられない。
やがて眼鏡の男と周りの人間、俺の体が炎で焼かれるのが客観的に見えた。俺は死んだ。
俺は二つのことを理解した。客観的に見えた辺りでこれが夢であることがわかった。そしてこの夢は芽留の裸やノエルの術と同じ類のものであることもわかった。
俺は草むらの上で目を覚ました。川のせせらぎが聞こえる。景色は穏やかだ。
芽留はあの後、呉服屋で着物を試着したのだろう。そんな感じの映像だった。
つまり、俺のこの突然垣間見える夢のような映像は未来を見ているということなのだろう。
重く受け止めなくてはならない。さっきの人影は近い将来、襲ってくる。おそらく猿田が言っていたよくないことや露九戊が警戒していることも同じものなのだろう。帰って相談しなくては。
未来を変えなくてはならない。ノエルの夢も途中で違うものになった。こちらの対応次第で変えられるはずだ。必ず変えてみせる。




