26、天空
おすすめ定食は、海や川のものと山のものを分けて料理を作っているようだった。魚の塩焼きに鶏肉、人参、竹の子などの野菜の煮もの、わかめとあさりの味噌汁にご飯。一品一品に使われる食材が海と山に綺麗に分けられている。変わったこだわり方をする。心なしか食材がぶつからないせいなのか優しい味がした。
夜になって部屋へ戻ると、明かりに落ち着かないことを思い出した。
どうせいつかは覚えることになるのだ。俺は照明魔法を獲得することにした。
両手でボールを作るように構える。そして真ん中に明かりだ。意識が真ん中に集まると急速に修行が疾走した。あっという間にゴールまで行き、ぽっと明かりが灯った。
周りを見てちょうどいい高さだった障子のところに明かりを置いた。
少し暗いが、俺は薄明かりの下で本を読み始めた。
俺はそのときふと思った。
ノエルに見せられた夢と同じような気がする。
試しに部屋を出て本館の物置に行ってみた。手には畳んだ浴衣を持った。
すると、驚いたことに夢の中と同じ形の棚が置いてあった。
大きさもちょうどいい、木で作られた棚だ。手作りの風情がある。俺は代わりに浴衣を置く。
何から何まで同じだ。夢には不思議な居心地のよさがあった。それと同じものを感じる。次は何をしただろうか。俺は思い返してみた。
果歩にメールだ。いや、その前に何かしたような気がする。
思い出せなかったので果歩にメールを送った。
“思っていたより暇だよ”
返事はすぐに来た。
“よかったね”
違う文面だ。
夢をなぞるのはここまでのようだ。
しかし、途中までは恐ろしいほど一致していた。ノエルに聞いてみた方がいいだろうか。
とにかく不思議な懐かしさのようなものがあった。源力の郷愁に近いものかもしれない。源力を使ったスキルだからだろうか。もう一回食らいたいくらいだった。
パンを食べたことを思い出した。しかし、腹は減っていない。俺は本の続きを読んだ。
照明魔法のLキャストと空箱の練習も一応やっておいた。二つとも夢の中と結果は同じだった。しかし、夢とは違い実際の感覚はリアルだ。照明魔法のLキャストは反動を感じるほどの重い発動だったし、空箱は下が空間だと思うとそれだけでできる気がしなかった。
「失われた大陸」を読み進めていった。
闇の組織の長は世界が大混乱に陥るほどの災害が起きると、その後に恩寵がもたらされるという幻想を抱いていた。長たちは無菌の空間を作り、そこで事の成り行きを見守っていた。
闇の組織には、外征中に死んだと思われていた大陸の王子が匿われていた。王子は付き従う何名かと共に長を倒すために反乱を起こした。
また、同じ頃、とある田舎町で正体不明の空箱が唱えられた。細菌は活動が鈍り、人々は免疫力が高められた。後に天空と呼ばれる広範囲の強力な空箱だ。
サカモトのおかげで大陸でも特効薬が作られ始めた。混乱は収束しつつあった。王城で薬の量産を進めるサカモト。正体不明の空箱使い。そして闇の組織と対抗する王子の一団。それぞれの勢力が出揃った、というところで一巻は終わった。
窓の外にはブナの木が見下ろせる。
本を置いて横になった。
毎日が穏やかだ。
しかし、猿田はどこか緊張していた。
本当に何かが起こるのだろうか。
もうこのまま、露九戊からも連絡が来ないような気さえした。
俺は一人、天井を眺めながらしばらく呆けていた。




