10、日の当たる部屋
一応任務は遂行したということで報酬をもらった。
――十万円。
下級冒険者でもない俺にしては破格の報酬だ。
通貨単位は円形の硬貨にちなんで円が使われている。ちなみに井黒と北の牙途も円だ。南の森羅はルピーを使っている。
今はこの国の通貨は紙幣と硬貨の二種類がある。百年前の大災害で金属の価値が廃れ、通貨に紙幣も使われるようになった。
十万円というと大体金貨一枚に相当する。これだけで俺なら二、三ヶ月は暮らせてしまう。
砂川に冒険者になれば他にも保障がつくと言われた。怪我をしたときやスキルで後遺症があったときなどにも金が下りるそうだ。でも俺は外地には出たくなかったので気楽なギルド員でやることにした。
あの猫の飼い主は元は冒険者だったらしい。
砂川の先輩に当たる、この道楽の先代の夜番で砂川はその奥さんのこともよく知っていたそうだ。
何でも第三支部からの引き抜きを拒否し続けたため、いつからか第三支部から嫌がらせのような任務が頻繁にギルドに入るようになった。
頼むから従ってくれという街の住民たちの訴えも聞かず、その主人はあの家に居続けた。紫苑街に引き抜かれた冒険者は過酷な任務にあてがわれる。砂川も密かにその主人には行かないでくれと頼んでいたらしい。
子供はおらず、一匹の猫だけを飼っている仲睦まじい夫婦だったそうだ。冒険者を引退してからも第三支部の嫌がらせは続き、夫婦は批難を受け続けることになった。窓は割られ、ゴミを捨てられた。主人は体を壊して早くに亡くなってしまったそうだ。
余程悲しくて苦しかったのだろう。味方もほとんどおらず、捨て猫を集めて寂しさを紛らわした。
写真の遺体はどれも首を噛まれていて、外傷はそれ以外なかった。
俺はあの後、焼け跡の家に行ってみた。
火元であるあの部屋にはもう何もなかった。燃え残った柱や鉄屑があるだけだった。
隣の南向きの部屋には縁側があった。ゴミが全てどけられていてそれが初めてあることを知った。広い庭もそこにはあった。
穏やかな夕暮れの中、そこに腰かけている夫婦の姿が何となく目に浮かんだ。
隣で丸くなるあの猫の姿も思い浮かんだ。
俺は、結局あの猫に助けられた。
人に疎まれて生きてきた。俺も一緒だ。友達もいない。
帰り道、たくさんの人とすれ違った。
誰も俺のことは知らない人間たちだ。
そして俺はその人間たちのためにあの猫を殺した。
家に戻ると、ポケットの携帯を置いていつもの場所に腰を下ろした。
どうしても俺は部屋の隅っこが安心してしまうようだ。
しばらくそこにいると、この自分の部屋が何故かあの部屋と同じように感じられた。
隅にある布団。同じ形のやかん。散らかっている。
夕日が微かに窓から差していた。
俺の心は、どうしてもあの猫の眼差しを思い出してしまっていた。
俺は、昔から人が苦手だった。
だから一人でいることが多かった。
あの猫のように無言で誰かを救えたら、人を好きになることができるだろうか。




