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T  作者: 水面
9/22

愛がこぼれてしまわないように。

俺が自ら飛び込んだ泥沼は、なんで甘美なんだろう。

愛を知らない固い蕾だったT。

俺が抱く度大輪の花を咲かせる。


これから何が待ち受けているかわからないが、まずあなたを離婚を前提とした別居をさせなきゃいけない。

この部屋は、あなたと暮らしたいと思い選んだ部屋だ。

ここに迎え入れればいい。

俺の胸でまどろんでいたTにそんな話をしたら、


だめよ。そんなことできないわ。

まだ離婚もしていないのに、あなたに迷惑をかけるわけにはいかない。


じゃあどうするんだ?

あの旦那の屋敷でこれまで通り暮らしていくのか?


本当にどうしたらいいかわからないの。

離婚しなくちゃいけないっていうのはわかるんだけど、私は怖いの。私の結婚が大勢の人を巻き込んでいるのは知っているでしょう?それを振り切って離婚するってなると、どんな問題が持ち上がるか…。怖くてたまらないの。


俺のことを愛してるねと問えば、大きな瞳を見開きコクリと頷く。

この澄んだ瞳を曇らせることがないよう、俺が守っていく。

やっと素直に俺のことを愛していると認めてくれた。

その一言が俺にどんなに勇気をくれるか。


俺は忙しい。今はソロの仕事をしながら、メンバーの仕事の準備をしている。

今年の前半はメンバーのツアーを控えている。夏にドームツアーを終え、再びソロの仕事に入る。

体がいくつあっても足りない。

しかしその忙しい合間を縫って、あなたとの逢瀬を楽しむ。


忙しい俺と人妻のあなた。どうしても会う時間は限られる。会えない時間が続くと寂しいし不安になる。

会えば寸暇を惜しんで抱き合う。お互いの肌の温もりを確認する。

言葉より何より、体で確かめあう。それが俺達の愛の形。始まりが体からだったからか、お互いの体は嘘をつけない。


ひとしきり抱き合った後、俺の胸に頬を当ててあなたが囁く。


会いたかったわ。寂しかったの。

これからもっと忙しくなるの?

会えない日が続くと私どうしたらいいか分からなくなるの。得体の知れない不安で押しつぶされそうになるの。


そんな時、俺は大丈夫とつぶやくしかない。

そして、あなたをしっかりと抱きしめる。2人の間に隙間ができないように。この手から愛がこぼれてしまうないように。



俺に抱かれて、あなたは切ないほど乱れる。


これが最後かもしれない…。


そんな思いがいつもあなたを支配している。


あなたを失いたくないの。

あなただけが私の支えなの。


二人だけの秘密の関係。

誰にも言えない恋。

深く静かに、そして激しく燃える想い。


こんな関係、もうあなたには限界なのかもしれない。

世間を欺く爛れた関係。

慎ましやかに育てられたTは、もうきっと耐えられない。

早く終止符を打たないとTが壊れてしまう。


早く旦那と離婚して欲しい。


俺の言葉を聞いて、大きな瞳を一層見開き、ふるふると首を振るT。


もう私に飽きたの?


どうしてそうなる?

俺はあなたを俺だけのものにしたい。

旦那と離婚して、俺と一緒になろう。


無理よ…。そんな無理なことを言って、私と別れたいの?



俺が何を言おうと、Tの耳には入らない。

今の俺に出来るのは、泣き崩れるあなたを抱きしめ宥めるだけ。



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