あなたの旦那。
今まで、Tの旦那にはなるべく触れないようにしていた。
知ってしまえば、今まで実体のなかったものが実態を持つようになる。
あなたが人の持ちものであると言う現実を突きつけられるような気がする。
だけど、あなたの離婚問題が膠着している今、俺はあなたの旦那のことやあなたの父親のことを調べてみた。
あなたの旦那は、あなたより10歳年上?という事は俺と同じ位か…。
日本で1番と言われる大学を卒業し、親の会社を継いで、手腕を発揮し日本でも有数の企業に育てたらしい。
いろいろな雑誌や媒体に特集されている写真を見たが、長身の端正な顔立ちであなたとお似合いだ。
俺はと言えば、歌しかない。
歌を取り上げられたら、俺は俺でなくなる。
もし俺が歌を歌っていなければ、どんな人生を歩んでいただろう。
想像したくはないが、どうせろくな人生じゃない。
そしてあなたの父親。政財界の大物らしい。
政治の世界に興味のない俺にはよく分からないが、相当の実力者らしい。
自分では決して表には出ず、影の実力者?
その父親を怒らしたら、俺なんか一捻りだろう。
俺は何と言う女に手を出したんだろう。
今更ながら恐ろしくなってきた。だが、もう後戻りはできない。どんな旦那や親がついていようとあなたはあなただ。
俺の前では可憐なただの女。
俺の部屋の俺のベッド。
まっ白なシーツ。
そのシーツより白いTの裸体。
恥ずかしげに自分の体を抱くような仕草。
それは、神が造った最高の芸術のようだ。
どんな豪華な宝石も似つかわしい女だが、こうして何も身に纏っていなくても素晴らしく美しい。
俺を悩ませ、虜にする厄介な存在。
ガラス細工のように壊れやすい心を抱いた儚いT。
形だけの夫婦とはいえ、あの旦那と俺との板挟みで苦しんでいる。
俺に抱かれた後は、罪悪感に苛まれ、自分を責めている。
そんなTが不憫で、俺は一層、Tにのめり込む。
今夜も些細なことでTの気持ちは落ち込んだ。
そんな時、俺に為す術はない。
ただ優しく抱きしめるだけ。
愛してると囁きながら…。




