第2話 平穏の中の闇 3
当日の放課後、同好会に向かう前から私は早くも後悔していた。
なぜ貴重な時間をこんなことに使うことになってしまったのか。
自分のことながらなぜこんな気まぐれを起こしてしまったのか。
授業についていくためにも勉強時間を確保しておきたかったのに。
「取り戻さなければいけない時間」は、まだまだ山のように残っている。
全部この人のせいだと八つ当たりの念を込めて私を連行しようとしている村尾さんを見る。
どうやら私が当日になってためらうことを予測していたらしく、わざわざ隣のクラスから私のクラスまで迎えに来たのだった。
思わず文句が口から漏れた。
「なんで私なんか誘ったんですか?」
「一回体験にいったんだけど二人だけじゃできるゲームに限りがあってね。
でも正直瀬島さんが来てくれるのは意外だったな」
それを言われると返す言葉もない。
私はただ単に断ればよかっただけなのだ。
というかそう思っているなら良く誘ったな。
私が断ったらどうするつもりだったんだろう。
「今更ですけど、他の人は誘ったりしなかったんですか?」
「あいにくまだこっちにあんまり知り合いがいなくてね。
小船井さんも誘ったけどボードゲームにはあんまり興味がないみたいで断られちゃった」
そういうこともあるだろう。
興味がない人を無理に付き合わせるのはよくない。
もっとも私もボードゲームにはたいして興味があるわけではないのだが。
……ただ、生沼先輩には少しだけ興味がある。
彼女が楽しそうにしていられる理由が知りたいとは思わなくもない。
まあ行くといった以上、ここから急にやめたというのも良くないし、できるだけ無難に手早く済まそう。
なんだったら長くなりそうだったら義理を果たしたと思ったところで先に帰らせてもらってもいい。
そんなことを思っていると村尾さんが続けて言った。
「それにほら瀬島さんって結構変わった人だからさ、同じ部に入ってたら面白そうだなって思ったんだよ」
「それ褒めてるつもりですか……」
真顔でそんなことをいうものだから思わずため息をついてしまった。
こういうことを素直に言えるところは彼女の美点だと思うが、言われた方はたまったものではない。
私にいい意味で変わったところなどないと思うのだけど。
返す言葉をなくした私は村尾さんに引きずられて渋々ながらボードゲーム同好会へと向かったのだった。
ボードゲーム同好会には正式に決まった部室というものはなく、生沼先輩のクラスの教室が他の部活動等に使われていないのでそこで勝手に活動しているらしい。
しかし、教室に入っても誰もいなかった。
「誰もいませんね。
ここで合っているんですか?」
「なんか先生に用事を頼まれて職員室にいるみたい。ちょっと遅れるって」
村尾さんは携帯電話を見ながらそう言った。
手早く済まそうと思った矢先に無駄な時間が発生してしまった。
「時間がかかりそうなら図書室にでも行ってきていいですか?」
自分の学力のことを考えると勉強時間は確保しておきたい。
無駄に焦っている自覚はあるが、空いた時間があるのなら有効に使いたかった。
「そんなにはかからないみたい」
焦る私とは対照的に村尾さんは落ち着いたものだった。
まあ彼女にとってはそれほど焦る状況でもないのだろう。
私と違って学力的にも問題はないのだろうし。
とりあえず時間はかからないということなので、近くの椅子に腰掛けた。
教科書でも読んでいようかと思ったが、ふと気がついて村尾さんに声をかけた。
「前来た時ってどんなことをしたんですか?」
少しでも情報収集をしておけば、いざ始まったときにスムーズに進めることができるだろう。
始まってからぐだぐだするようだと時間がもったいないし、なにより精神衛生上良くない。
「モノポリーとかあとなんか名前は忘れたけど無人島を開拓するゲームとか。
あと生沼先輩が作ったゲームを見せてもらったりしたよ」
自分でゲームを作っているのか、意外と本格的だ。
まあたしかに一人で活動していたのだとしたら、そのくらいしかすることがなかったのかもしれない。
「自作のゲームなんてあるんですか?」
「うん、いくつか見せてくれたんだけどすごかったよ。
僕も驚いたな。瀬島さんも見せてもらったらきっと驚くと思う」
少し興味がわいた。
一人でどんな活動をしていたのかと思っていたけれど、ゲームを作ったりしていたのなら、案外充実した時間だったのかもしれない。
作ったゲームが誰にも遊ばれていないのならば、それは残念なことだとはおもうけれど。
そういえば……。
「ゲームってどこに置いてあるんですか?」
「教室の後ろの棚の上においてあるよ」
そちらを見ると確かに荷物を置く用の棚の上にいくつかのボードゲームと大きな段ボール箱が置いてあった。
どうやら小さなゲームは段ボール箱の中にまとめているようだ。
「すぐに始められるように、先に準備しておきませんか?」
せっかく時間が余っているのだから先に準備してしまえばいい。
幸い二人だとできないゲームがあるみたいな話はしていたみたいだし、先輩がやりたがっていたゲームを適当に見繕って準備しておけばいいだろう。
先輩が勝手に話を進められると怒るタイプの可能性が少し心配だけど、その時はその時だ。
そういう人だとわかればわざわざ部活動に参加してまでかかわる理由もないし、さっさと帰る口実にもなるだろう。
「そうだね。そうしようか」
村尾さんも同意してくれた。
私の前を横切り、ボードゲームが置かれている教室後方へと向かう。
私も椅子から立ち上がり、後に続いた。
棚の上に手をつき身を乗り出して、棚の上の段ボール箱を覗き込む。
中にはいくつものゲームが並んでいた。
訂正、並んではいなかった。
確かにいろいろなゲームは入っていたものの、それらは中身がぶちまけられ、明らかに人為的に荒らされた状態だった。




