~114 サクラの提案~
タリスに取り憑いていた悪魔を助けたサクラ。
「そのお人好しに感謝しないとね」
その理由である"お人好し"に感謝する悪魔であるが
それには否定で答えるサクラ。
「すぐ鼻が雲を突き破るし
それにあなたを見たら鼻の下が地面を突き抜けて
とても人族とは思えない顔になりますから
微塵もそんなことは思わなくて結構です」
どんな人物だ!? と思いつつ
クスリと溢す悪魔は
「そういえばお礼も言ってなかったわねぇ。
ありがと♡
それから自己紹介しておくわねぇ。
私は悪魔族サキュバスのサーヒルよぉ」
自分の種族と名前を明かす。
それに応えるサクラ。
「ご丁寧にどうも。
私は――
途中で遮り言葉を挟むサーヒル。
――知ってるわよぉ、サクラさんでしょ?
この王子さんの中で聞いてたもの」
それもそうか、と納得するサクラ。
続けるサーヒル。
「それにしてもあなた、結界もそうだけど
とんでもない魔法使うわねぇ」
周囲にもっとトンデモない者達がいる
サクラからすると
そう言われてもピンとこない。
「そうですか? 多分普通ですよ?」
即座に反応するサーヒル。
「ちょっと、普通なわけないじゃない。
一応これでもサキュバスの中で
精神干渉系統の魔法能力は5本の指に入るのよ。
あなたな~んにも効かないじゃない。
ハァ、自信失くすわね」
さっきの結界や魔法を普通と言うサクラには
二度と逆らわないで置こうと決めたところで
尋ねるサーヒル。
「それで、これからどうするのぉ?」
興奮すると早口になるが、
何かしら方針を立てたことで落ち着いたのか
ゆったりした口調で問い掛けるサーヒル。
それについては戦闘中に
一緒に来てもらったユウコに
助けを借りるまでも無く勝てると判断した時点から
考えていたことを伝えるようだが、
その前にひとつ尋ねるサクラ。
「そうですね、まずは契約を破棄したことで
出る影響を教えて欲しいですね」
小首を傾げ顎に手を当てる仕草が
まさにあざとくサキュバスらしいなぁ、
と思いながらサクラが答えを待っていると、
「う~ん、そうねぇ、アイツ等にも伝わってるから
シんだか倒されたと思うわね」
概ね予想通りの回答を聞き、
改めて考えていたことを
これからの計画として伝えるサクラ。
「ということは、あなたは居なくなっても大丈夫ね。
その件は後で説明します。
それから――
それからのサクラの計画はこうだ。
まずタリス様と現王に憑いていた悪魔である
サーヒルをタリスが倒したことにして、
その事を現王をはじめとした高官達にも
広く伝えてもらう。
それにより次に同じようにサーヒルの代わりを
寄越すことを躊躇させられるはずで
暫くは手を出し難くすることになる。
当然、サクラのことは
口外しないよう口止めすることは忘れない。
――といった感じで進めます」
説明し終わりサーヒルの方を見る。
それを聞いたサーヒルはというと、
「助けてもらったしアイツ等にも
一杯食わせられるなら喜んで協力するわぁ」
口元に艶のある笑みを浮かべサクラに答えた。
そして計画に入る前に最後の確認をする。
「じゃあ始める前に、
あなたの精神領域を解除すれば
間違いなくタリス様は元に戻るんですね?」
今更な質問に溜め息をひとつ吐きながらも
答えるサーヒル。
「今更ねぇ、解除すればそこに眠ってる彼は
目を覚ますわよぉ。
そしたら肉体の方も目が覚めるわぁ」
頷くサクラ。
「あとここって身に付けてる物の効果は
そのままですよね?」
それを聞き、
またも同じ質問をしそうになるサーヒルだが
グッと堪える。
「なんで知ってんのよ!?
って聞くのは止めるわ、結構私達みたいなのと
やり合ってきたのねあなた?」
それには答えず
アンクレットから雷神剣を取り出し
ユウコを顕現させるサクラ。
眼球が飛び出して
目のあった場所が空洞になっているサーヒル。
ここは精神世界だし
こんな驚き方も出来るんだなぁ、
私もやってみようかしら?
面白いことを見付けた時はタケルと同様に
つい思考が逸れる。
「ん? 夢の世界?
あっ、サキュバス」
驚いているのかいないのか分からないユウコだが
現状は認識してくれたようだ。
「そうですユウコ様。
そこのタケルが好みそうな
サキュバスの精神世界です。
それでですね――
訳を説明するサクラ。
――という訳でして、
また匿って欲しい方が
増えるのですがよろしいですか?」
聞いたユウコは、
「ん、良い。主殿の好み? ……」
二つ返事ではあるが他のことが気になるようだ……
一方落とした眼球を元に戻したサーヒル。
「ちょ、ちょっとあなた?
この人ただの精霊じゃないでしょ?
私の精神領域が既に浸食されかけてるわよ……」
ユウコの周りから徐々に光が広がり始めている。
このままだと精神世界が絡まり合って
とてもややこしいことになるため
サッサと事を進めることにするサクラ。
「じゃあユウコ様、申し訳ないのですが
神域まで彼女をお願いします」
いつもの黄色のワンピースの胸の辺りを
上げたり下げたりしているユウコ。
そんなユウコを見ながらクスリと零すサクラ。
予想通りなら神域への扉も問題なく開くはず。
なぜなら神域こそ、
その主の精神世界が具現化したものであるからだ。
ユウコも分かっているのか
上げたり下げたりしながらも
神域への扉を簡単に開いて見せる。
今度は下顎を地面に落として見せるサーヒルを
ユウコに任せ礼を言うサクラ。
「では、また後程。
よろしくお願い致します」
「ウム、よしなに」
それも使い方を間違っているが
言いたいことは分かるので
頭を下げ礼を言って送り出すサクラ。
サーヒルの下顎はそのままであるが襟首を掴まれ
引き摺られて行った……
二人を見送った後、タリスの姿を確認しに戻ると
既に赤いバラの球体は無くタリスが素っ裸で
仰向けになっている状態であった。
「キャアーー
とか言ってる場合ではありませんね。
とりあえず戻りましょう」
そう言って現実世界へ、
肉体へと戻るサクラであった。
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神城シャラフ 第1王子タリス 私室
サクラがタリスの精神世界へ入ってから
1時間ほどが経過している。
……
沈黙が支配する中、
セレネースはサクラとタリスの心配を。
パリエットも二人の心配はしているが、
それよりも上手くいかなかった時のことを考え
胃が痛くなるのを感じながらも
意識を失っているタリスの様子を
頻繁に確認している。
そんな中、
「う、む……」
声を上げたのはタリス。
それを見て椅子が転ぶほど勢いよく立ち上がり
駆け寄るセレネース。
「お兄ちゃんっ!!」
パリエットは椅子に座った状態のタリスに
視線を合わせるよう傍らで跪いて声を掛ける。
「お、お加減は如何ですか? タリス様?」
何の加減か分らないが
他に声の掛けようが無かったパリエット。
それに答えるタリス。
「……フム、少しボーっとするが、
頭の中の靄が晴れたようだ」
それを聞いてガバッとタリスの首の辺りに
抱き着くセレネース。
「良かったよぉ、お兄ちゃあん、グス」
抱き着かれたことで
少し驚き照れるタリスであったが嬉しいのだろう。
抱き着いて離れないセレネースに声を掛ける。
「スマン、心配を掛けたな」
そう言ってセレネースの手を解き
立ち上がって胸元に抱き寄せ頭を撫でる。
傍らでパリエットも涙ぐんでいる。
そんな光景を黙って見ていたサクラ。
既に精神は肉体に戻っており意識も覚醒している。
そこで気が付いたのかセレネースが、
タリスの胸元から勢いよく離れサクラの方を見る。
そこには暖かく見守る微笑を湛えたサクラが居る。
兄の胸で泣いていたことが少し恥ずかしいのか
顔を赤くしながらもサクラのことを伝える。
「お兄ちゃん!!
サクラちゃん、
サクラちゃんが助けてくれたのよ!!」
セレネースの指差す方向を見てタリスが頷く。
「ウム、分かっているセレよ。
ボンヤリとだが覚えている。
……私は悪魔に憑かれていたのだな」
そう言うタリスは自分がどういった状況にあったか
精神を乗っ取られていても
ある程度は覚えているようであった。
それによると、
何時の頃からか他国に聖光教の教えを広めることが
真に世界を平和に導くことが出来ると思う様になり
それに逆らう国に対しては
憎しみが募る一方になったようで
その考えを声高に周囲へと触れ回っていたようだ。
しかしそれは自分の口から出た言葉なのか?
いつも頭の中に霧が掛かったようで
その白い靄の中を彷徨うような思考しか出来ず
それが徐々に酷くなり最近は思考しなければ
勝手に身体が動いて
色々と対応してくれるので便利だ、
とまで思っていたようだ。
特に獣王国との戦闘では
やりたくもない戦いをする自分をどこか遠くから
眺めているようで
とうとう怪我を負うまでに至ってしまった。
またサクラ達への対応も覚えてはいるが
自分らしい対応だ、と思っていただけで
他人事のように思っていたとのこと。
それを聞いたサクラは
先ほどサーヒルと話した内容を提案するため
前に進み出て跪き口を開く。
但し、サーヒルを匿っているのは内緒だが……
「恐れながら申し上げます、タリス様。
私から一つご提案が――
そこで口を挟むタリス。
――堅苦しいのは抜きにして立ってくれ。
それにまずは礼を言わねばならん。
助かった、感謝するサクラ殿」
そう言って頭を下げるタリス。
立ち上がって慌てて両手を振るサクラ。
「ちょ、ちょっとお止め下さい殿下。
逆に話し辛くなりますから」
そう言って慌てているサクラを
ジッと見詰めるタリスは、
「フッ、悪魔を倒すほどの女傑は随分と謙虚だな――
一拍置いて続ける。
――さっきは悪魔が
私の思考を真似て言ったのであろうが、
本当にウチに来る気はないか?」
そう問われたサクラ。
ニッコリと笑みを浮かべ立っているだけであるが
答えを理解したタリス。
「……そうか、愚問であったな。
フム、まずは提案とやらを聞こうか」
気持ちを切り替えたタリスは
サクラが言い掛けていた提案を
聞くことにするようだ。
「はい、有難うございます。
それでは申し上げます――
サヒールに話した計画と同じことを伝えるサクラ。
内容を聞いたタリス。
――フム、私があの女悪魔、サキュバスか、を
倒したことにするのか。
そうか。
それを喧伝することで私にサキュバスを
憑かせた者共への牽制とするのか」
またサクラのことは口外しないよう
口止めすることは忘れない。
そもそもの計画が破綻するし、
加えてここ聖光国ド真ん中で目立つのは
大変非常にマズいのである。
後は現王にもタリスと同じく悪魔が憑いていたため
それも無くなった今、
徐々に身体も回復するだろうということも伝えた。
「そうだな、概ねその案で良いと思うが、
ひとつ疑問に思うのは、
私にその悪魔を嗾けた者は分からないのか?」
そりゃ聞きますよね、と心の中で思うサクラ。
サクラの中で伝えるかどうか
迷いに迷った情報である。
なぜなら第四、五聖守護が噛んでいるとなると
国が割れることになる。
また今この時点で現王や殿下に第四、五聖守護、
ひいては聖光神が黒幕だと
伝えるのはリスクが高過ぎる。
信じてもらえなかった挙句、
現王と殿下、下手をするとセレネースまでもが
聖光神側に付いた場合、
タケル達にとっては殆ど人質と変わらず
身動きが取れなくなるからである。
しかし知らぬ存ぜぬで通した場合、
再び現王と殿下が操られる可能性も残る。
しかも今度は一度失敗しているため
王妃や第2王子と同じ様に行方不明者リスト入り
するかもしれない。
そんな爆弾情報ではあるのだが
結論が出ていないサクラではない。
答えるサクラ。
「それについては捨て駒だったのでしょう。
何も知らなかったようです」
それを聞いたタリスは少し残念そうにするが
納得もしている表情である。
「そうであろうな。
分かるようには仕掛けんだろう」
チクリと胸を刺す痛みは罪悪感だろうか。
めげずに続けるサクラ。
「それでですね、殿下。
暫くは敵も様子を見ると思うのですが、
黒幕が分からなかったことで
再度仕掛けられる可能性もありますので――
真剣な眼差しでタリスを見詰めるサクラ。
続きがあるようなので促すタリス。
――私が殿下をお守りする物を
持って参りましょう」
そう提案するサクラであった。




