~111 タリスとの面会②~
セレネースに見てくれと頼まれていた
例の白い靄がタリスの背中辺りに張り付いている。
それを見たセレネースはタリスから目を離し
隣に座っているサクラのスカートの裾を
キュッと引っ張る。
同じく気付いているサクラは
セレネースの方を向いて頷く。
セレネースは俯いてしまうが、
関係なくサクラ達の正面に回って
話し掛けてくるタリス。
白い靄は張り付いたままである。
「それでは食堂へ移動するか。
パリエット、案内を頼む」
そこでサクラが俯いたままの
セレネースの顔を覗き込みパリエットに伝える。
「あの、パリエットさん。
セレちゃん具合が悪いみたいなの」
俯いたまま目だけをサクラに遣るセレネースは
ウィンクするサクラを見て
何をしようとしているのか分からないが
とりあえず言う通りにしようと
ほんの少しだけ頷く。
「ム、それはイカンな」
タリスがそう言うと
すかさずパリエットがサクラに代わって
セレネースの様子を見て、
「少し顔色が悪いようですな。
セレネース様、お部屋へ参りましょう。
タリス様に会われてはしゃぎ過ぎたのでしょう」
そう言って俯いたままのセレネースを
椅子から立ち上がらせ
肩を抱き寄り添いながら部屋を出て行こうとする。
振り向かないまま
「ゴメンね、お兄ちゃん……」
そう言うセレネースに、
「なに構わん、直ぐに良くなる。
食事を摂ったら顔を見に行くからな」
声を掛けるタリス。
変わらず振り向かないまま頷くセレネース。
続けてタリスが、
「サクラ君も付いてやってくれ」
渡りに船と一礼をして
出て行こうとする2人を追い掛ける形で
部屋を出て行く。
廊下に出てタリスの私室から少し離れ
廊下の角を曲がったところで
肩を抱いているパリエットの手を弾き飛ばす勢いで
セレネースがサクラの方へ振り向く。
驚くパリエットを他所に
サクラに言葉を投げるセレネース。
「見えたでしょ!? サクラちゃん!!
何なのあれ!?」
興奮しているセレネースに落ち着くよう促し
ゆっくりとした口調で優しく答えるサクラ。
パリエットは何の事か分からず訝し気な表情で
二人を見ている。
「しっかり見えたわ、だから落ち着いてセレちゃん」
そしてサクラはセレネースにひとつお願いをする。
「あのね、セレちゃん。
まずはあなたの眼を見せてもらえる?」
疑問符を浮かべるセレネースだが大人しく
サクラの言うことに従い顔を寄せ目を見開く。
覗き込むサクラ。
(やっぱり……
私に隠密や隠蔽は効きませんからね、
見えるのは当然として……
タケルはちょっと別ですけど(怒)
ちょっと置いといて
セレちゃんにだけボンヤリとでも見えるのは
可笑しいと思いました。
セレちゃんのこの眼……
恐らく「精霊眼」なり魔眼の類ですね。
本人はまだ気付いていないようですし
使いこなせば白い靄でなく
ハッキリ見えたでしょうけどそれを誰に話すの?
って感じですね。
とりあえずその事は今は置いておきましょう。
さて――
セレネースの眼を覗き込むのを止め、
パリエットに向き直るサクラ。
――パリエットさん。
何の事か簡単に話しますので聞いてください」
神妙な顔付きのサクラの圧力に
只事では無い雰囲気を察し
セレネースが頷くのを見てパリエットも頷く。
サクラは
タリスには何かが取り憑いており、
セレネースとサクラにはそれが見えること。
他の人に見えないのは
高度な「隠密」と「隠蔽」で姿を隠していること
を説明する。
聞いたパリエットは
「それは本当ですかな?
わたしもそういったスキルを見破る訓練を
受けておりますが何も見えませんでしたが?」
そう疑問を口にする。
それはそうだ、見えない人からすれば
逆に見えている人が
可笑しなことを言っているようにしか見えない。
それでもセレネースがパリエットに懇願する。
「パリエット、本当なの。
お兄ちゃんには何か憑いてるの。
ホントのこと言うと、今日はそれが気になって
サクラちゃんに付いて来てもらったの。
お願い!! 信じてパリエット!!」
いつも明るいセレネースの
こんな必死の形相を見たことが無いパリエットは
困惑しながらもセレネースに答える。
「……直ぐに信じることは出来ません。
セレネース様は何が見ているのですか?
そしてサクラ殿は?」
セレネースは白い靄であり
見た瞬間から良いものでは無いと
感じていると伝える。
頷くパリエット。
「サクラ殿は?」
聞かれたサクラは聞いた時の相手の衝撃を考え、
一瞬躊躇するも腹を括り答えを言う。
「……悪魔、恐らくサキュバスの類です」
固まる二人を他所に続けるサクラ。
「あまり言いたくは有りませんでしたが、
私には「隠密」も「隠蔽」も
あまり効果がありません。
それに以前、悪魔とも戦ったことがありますし
彼らの使う術式の癖とも概ね一致します。
ですのでハッキリと見えていました」
固まっていた二人だが、
それを聞いて口を開いたのはパリエット。
「あ、あなたは一体何者ですか?
悪魔と戦うなど――
遮って言葉を投げるのはセレネース。
――そんなこと今はどうだっていいじゃない!?
それより何とかなるんでしょサクラちゃん?」
コクリと頷くサクラ。
全てを納得したわけではないが
タリスに害を及ぼさないという約束で
出来る限りのことはすると言うパリエット。
対してサクラは
まずタリスの私室に戻り
サクラ、セレネース、パリエット
そして当のタリスの4人だけに出来ないか伝える。
これにはタリスも問題ないと
協力を約束してくれる。
ただ4人になり
ヴァッケンの大会で優勝もしており
悪魔と戦ったことがあるというサクラが
何をするのかは聞いておかなければならない。
「それで何をするのか教えて頂けるのですな」
サクラは頷くと直ぐに答える。
「信じられないかも知れませんが
あれがサキュバスであれば
タリス様を操っていると思われます。
それを解くには
精神世界への干渉が必要となります」
一拍置いてパリエットは、
「……操っている――
何か思い当たる節があるのか
少し考え込むパリエット。
言い難そうではあるが続けて、
――もうご存じかと思いますのでお話ししますが、
現王のモタリ様が病に伏せった頃から
その、タリス様の言動も
少しづつ可笑しくなってきましてな。
聖光国以外など滅べとばかりに過激と言うか
残酷なことを申されるようになりまして……」
やはり何かしら聖光神の狙いと関係があり
現王の病についてはサキュバスである可能性が高い
と見当を付けるサクラ。
黙って考え込んでいたパリエットだが
セレネースの様子を報告に
タリスの元へ戻らねばならず
あまり時間も無いため考えるのを止め
サクラに尋ねる。
「操られているとして、それを解く方法が
精神世界への干渉と言うことですが
そんなことが出来るのですか?」
それについては論より証拠、
見てもらい結果で示すしかない。
「出来るというよりやってみせます。
行きましょう」
少々強引な物言いであるが
その自信と
何よりセレネースの真剣な表情も後押しし
協力を了承し頷いたパリエットは
タリスの私室へと足を向ける。
付いて行く二人。
タリスの私室の前に到着し小声で二人に
「ヒソ、人払いをしますので、
わたしが良いと言うまで部屋の前でお待ち下さい」
そう言って扉をノックするパリエット。
コンコンコン
「失礼します、タリス様」
「ん? パリエットか? 入ってくれ」
少し間を置いて
メイド2名と若い執事が部屋から出てくる。
先程調子が悪いと言って出て行ったセレネースが
居ることに若干訝し気な表情ではあったが
皆、一礼してその場を去る。
程なくして
「どうぞ」
パリエットに呼び入れられる。
言われて恐る恐る入っていくセレネースの後ろから
続くサクラ。
目線はタリスの後ろ。
サクラには白い靄ではなく
タリスが会議から帰って来た時から
ハッキリと見えている。
頭の両横から羊のような巻角が2本、
背中からは蝙蝠のような2枚の翼。
その恰好の良い肢体と万人が美人と認める顔を持ち
裸ではないが水着のような妖艶な服を着て
タリスの後ろから抱き着くような格好で
浮かんでいる生き物。
セレネースはおずおずと
俯いたままタリスの前に進み出る。
サクラは後ろに控え機会を窺っている。
「ウム、どうした?
パリエットから聞いたが何か話があるのか?」
それを聞いてセレネースは
サクラの方に振り向き縋るような目を向ける。
それを機会と捉えたのか
瞬間ギラリとサクラの瞳が濃い蒼に染まると
タリスの後ろに浮かび上がる
分かりやすく悪魔の姿をした女性。
驚き過ぎて固まるパリエットとセレネース。
「隠密」と「隠蔽」が解け
全てが露わになったが慌てている様子の無い悪魔。
「ヘェ、”竜眼”持ちですかあなた?
珍しいわねぇ――
以前ディースを見付けるために
色々と試していた折に肉体の特性もあり
発現したスキル「竜眼」
無論例外もあるが事象を曝け出させる効果がある。
要は魔法効果を喪失させるのである。
既にタリスは意識を失っている。
睨み合うサクラと悪魔。
続けて
――フフフ。
妹の方は何か気付いてるとは思っていましたが、
付かず離れず上手く誤魔化してたのにねぇ。
まさか見破られるとは思いませんでしたわぁ。
でもここからどうするんですかぁ?」
この悪魔は自分の特性を良く分かっており
この状況にまで持ってきても
絶対に逃げられる自信があるため余裕を崩さない。
セレネースを庇うように前に出るサクラ。
ニヤリと獰猛な笑みを口元に張り付け、
「どうすると思いますか?」
サクラの強者の放つ雰囲気と
その風格を感じ取った悪魔。
「ウフフ、怖い怖い。
逃げるとしますわぁ、追って来られるなら
追って――ッチ!!
全てを言わせず放つのは、
「マキシマム・グレー"幽玄夢想"!!」
嫌な予感がした悪魔は間一髪逃げたようだが
どこに逃げたかは分かっている。
こうしてタリスの精神世界へと
悪魔を追っていくことになったサクラであった。




