表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
コディの泉  作者: 天猫紅楼
27/28

絆が生まれた時

 セツナは、しばらくしてゆっくりとクリスを寝かせると、おもむろに銃を拾った。

 そして、それを躊躇なく自分のこめかみにあてた。

 

「! ちょっ!」

「終わり!」

 驚いて止めようとするカリンを、セツナは制した。

「何もかも、終わったわ。 私とクリス様の旅はここで終わった。 結局何も残らなかった。 私達の道はここで終わったの」

「セツナ!」

「カリンさん、最後に目を覚まさせてくれて、ありがとう。 だけど私は、あなたのようにはなれない。 ただクリス様の足を止めることしか出来なかった。 でもこれで良かったのかもしれない。 私も、今まで何人もの幸せを奪ってきた。 罪は償います」

 セツナは引き金に指をかけ、力を込めた。

 

 

 パーーーーン!

 

 

 銃声が森の中にこだました。 何羽かの鳥が木々から飛び立った。

「セツ……ナ……?」

 目を見開くカリンの前には、セツナの手にからみつくコディの姿があった。

「コディ!」

 シーノが驚きの声を上げると、コディの体はセツナの手から離れ、地面に落ちた。

 急いで抱き起こしたシーノの腕の中で、コディは力なく体を預けた。

「何で出てきた!」

≪シーノ……≫

 その胸に、丸く穴が開いている。 不思議と、穴の周りがぼやけて見える。 コディはか弱い声を出した。

 

≪もう誰も死んじゃいけない。 生きることは尊いことだから……≫

「コディ、セツナを助けようとして……?」

 カリンが震えながら跪いた。

 呆然と立っていたセツナが呟くように言った。

「コダマ……?」

 見えないが、気配と二人の会話で感じたようだ。 彼女もまた、コディの傍に跪いた。

「私を……?」

≪人も森も同じ。 大切なものだ。 そんな大切な自分の命を捨てちゃだめだ≫

「コディ! だからってその身を使ってかばうなんて……!」

 カリンの瞳から涙が零れ落ちている。 シーノも悲痛な思いでコディを抱えている。

 

「コディ! カカの木に行こう! きっとまた治してくれる!」

 立ち上がろうとするシーノの腕を、コディはギュッと掴み、首を横に振った。

≪コディ、鉄とか鉛が苦手なんだ……≫

「こんな時に冗談言うなよ!」

 重さを感じるハズのないコディの体が、とても重く感じられた。

「……ウソだろ? コディ! また遊ぼうぜ! もう悪い奴らは居なくなったんだ。 これから遊び放題じゃないか。 森の中、また一緒に走り回ろうぜ、なぁ!」

 コディは力なく微笑んだ。

≪うん、楽しかったよ。 シーノ、カリン、それに、ロックス……≫

「ロックス! そう言えば、まだここに来てない!」

 カリンが弾けたように顔を上げた。

 コディは彼女の方を見た。

≪ロックスはちゃんと生きてる≫

 

 その時、ガサガサッと草むらが揺れ、巨体が姿を現した。

 その肩には、気を失ったような兵士が担がれている。

「「ロックス!」」

 シーノとカリンが同時に声を上げた。

「まだちょこまかと兵士らがうろついててな、掃除していたら遅くなっちまった……! コディ!」

 ロックスはシーノの腕の中のコディに気づいて驚いた。

 そして、傍に跪いて呆然としているセツナにも気づくと、肩に担がれた兵士を放り投げ、剣を向けた。

「お前かぁ!」

 カリンが急いで止めた。

「違うのロックス! セツナを守ろうとして、コディは……」

「何だって?」

 状況を把握できず戸惑うロックスに、カリンが言った。

「詳しい話は後で。 とにかくコディを助けるのが先決よ!」

 ロックスもまた、コディの傍に寄り添った。 その背中が真っ赤なことに気づいたカリンが驚いた。

「何、この出血!」

 するとロックスは、

「こんなのは後でいい! コディの方が先だ!」

 よく見れば、真っ青な顔をしているロックス。 心配に思いながらも、カリンはコディの方に向き直した。

「コディ! 何か手はないのか? 薬草とか、何か必要なものがあれば、言ってくれ!」

 シーノは必死で声を掛けた。 今にも目をつむりそうな状態に、皆動揺していた。

 コディは必死に薄目を開けて言った。

≪皆、ありがとう。 森は守られた。 カカの木も喜んでる。 これからも、森は人々を、動物達を見守る。 未来永劫、変わる事無く、見守り続ける≫

 うわごとの様に呟くコディ。

 そして、フウッと大きく深呼吸をすると、そのままゆっくりと息を吐きながら目をつむった。

 安らかな眠りにつく子供のようだった。

 

「「「コディ!」」」

 

 皆の声も空しく、コディの目が再び開くことはなかった。

 そしてその体は、シーノの腕の中でフワンとぼやけ、次にジンワリと水の固まりになると、バシャンッと地面へとこぼれた。

「体が水に……?」

 戸惑うシーノの足元が滲み出した。

 そして、コンコンと湧き水があふれ出してきた。

「これは……」

 動揺するロックスの言葉に、カリンが思い出すように言った。

「歌えば癒し、泣けば水晶、死して泉……」

「泉……」

 シーノが呟いた。

「コディは、泉になって生き続けるのね。 ここに居て、私達を見守ってくれる……」

 カリンが愛おしそうに湧き水をすくった。

 まったく濁りの無い透明な水が、いつの間にか昇っている陽の光を反射して、キラキラと指の間を零れ落ちた。

 それを見ながら、シーノは落ち着きを取り戻した。

 

「そうか、そういうことか!」

 

 いきなりシーノが明るく言ったので、ロックスが怪訝な顔で聞いた。

「どういうことだよ、シーノ?」

 シーノは嬉しそうに言った。

「この森に点々とある泉。 あれはきっと、歴代のコダマが眠る場所なんだよ。 何らかの事情でコダマが死んで、その後、またコダマが生まれる……」

 カリンも微笑んだ。 その頬には、涙の後が付いたままだ。

「そうね。 次のコダマも、可愛くて面白い子がいいわね」

「はあん、そういうことか」

 ロックスも納得したようにうなづいた。

 シーノは立ち上がると、今度は真面目な声で言った。

「だけどこの泉は、俺たちにとって一番大切なコダマの眠る場所だ」

「ええ、私達にとっては特別な……」

 カリンとロックスも頷いた。

 

 三人は立ち上がると、目を合わせた。

 その瞳には、固い絆が宿った事を意味する光が生まれていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ