表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
創命理念で異世界ライフを  作者: Izma
戦後療養編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

86/275

第八十話 「心の闇に差し込む手──黒い子と語らうひととき」

長い夢を見ていたような気がした。


(……あぁ、結局守れなかったんだ)


前世では、何かをしようとしても、いつも無力だった。

だからこそ、この世界では強くなろうと、誰かを守れるようになろうと必死にもがいてきた。

けれど――足りなかった。


“運命を変えるほどの強さ”を、僕は掴めなかった。


その瞬間、ゼールさんの言葉が脳裏を掠める。


――弱肉強食。弱い者は、強い者には逆らえない。


あんなもの、間違っている。

そう思ってきた。

でも今、こうして倒れ伏している自分を見ると、あの言葉も真実味を帯びてくる。


最後の記憶は、右脚を斬られ、それでも這いずって、

芋虫のように足掻いていたところで途切れた。


(痛かった……でも、よく頑張ったよな、僕)


堪えていた涙が、つっと溢れた。

前世では――誰かのために、死ぬほど必死になったことなんて一度もなかったのに。


(悔しい……悔しいよ……お母さん……お父さん……)


前世の記憶が邪魔をして、この世界の家族に素直に甘えることができなかった。

“本当の子”として抱きつくこともできず、

ずっと遠巻きに愛情だけを見つめていた。


来世があるなら――今度こそ、甘えたい。

ちゃんと、一人の存在として生きたい。


願ったところで叶わないと分かっていても、

胸の奥がどうしようもなく痛んだ。


(……そういえば、さっきすごく心地いい夢を見たな。ナティアの英雄? 僕が?)


くすぐったいような嬉しさが胸に広がり、自然と口角が上がった。


そのときだった。


「……奪われそうになったから、奪い返して……君を守りたかったのに……

 どうして……どうして守れなかったの……」


すすり泣く声が、右下から聞こえた。


薄暗い世界に、小さな人影――黒い“影の子ども”が座り込んでいた。


(僕と同じくらい……いや、それより幼い?)


身体を起こし、そっと声をかける。


「君……どうしたの? 大丈夫?」


影の子はびくりと震え、涙声で答えた。


「君が……悲しむの、見たくなかった……

 守りたいって、思ったの……でも、守れなかった……

 ごめんね……ごめんなさい……」


泣きじゃくるその声は、幼くて、痛いほど純粋だった。


(僕のために……頑張ってくれたんだね)


理由なんて分からない。

でも、“ありがとう”と言わなきゃいけない気がした。


僕はその子を慰めるように抱き寄せようとした。


触れた瞬間――


痛み、憎悪、孤独、殺意、苦しみ。

乾いた炎のような感情が、脳内に一斉に流れ込んだ。


ゼールさんを痛めつけようとした自分。

三人の魔族を残酷に追い詰める自分。

カールアさんに迫る殺意。

シルファさんへ振り下ろした斬撃。


どす黒い映像が連続で脳を刺し、僕は膝をつき叫んだ。


「ぐああぁ!!」


黒い子が慌てて身を寄せる。


「大丈夫!? 痛いの……?」


息を乱しながらも、僕は無理やり笑顔を作った。


「だ、大丈夫……ありがとう」


悲しんでいる誰かを放っておくなんて、できなかった。


ぎゅっと抱きしめ返しながら言う。


「僕ね……ずっと一人で寂しかったんだ。

 よかったら……もっと話そうよ。君と話してると……寂しさが薄れる気がする」


影の子は驚いたように目を丸くした気がした。

続けて、ぽつりと呟いた。


「……え?

 君が初めてだよ……僕を、人として抱きしめてくれたの……」


声がかすかに震え、でも、さっきよりずっと柔らかい響きだった。


(……ずっと、誰にも触れられなかったんだ)


そう思った次の瞬間――


「二人とも。僕も混ぜてくれる?」


左側から声がした。


人影がひとつ、ゆっくりと歩み寄ってくる。


髪は長い。

背は高い。

女性でも男性でもないような、威厳を帯びた輪郭。

そして――どこか懐かしい声。


(……律? いや、違う……違うけど……)


僕の困惑を察したのか、人影は静かに言った。


「違うよ。僕は“そいつら”とは別物だ。

 ただ一つだけ言えるのは――

 僕は君の“味方以上の存在”だ、アイザック」


(味方以上……? なんで僕の名前を――)


問いを形にする前に、その人影はそっと膝をついた。

そして、僕と黒い子の両方を、まるごと抱きしめた。


温かい。

涙が出るほど、優しい温度だった。


「よく……ここまで頑張ったね」


胸の奥がぎゅっと掴まれたように痛む。


黒い子も、僕も、ただその腕の中で固まった。


(……どうして……この人、泣きながら笑ってるんだ?)


やがて、人影は僕たちをそっと立たせ、背中を押した。


「さあ、行っておいで。

 君たちを、待っている人たちがいるよ」


僕は振り返り、叫ぶ。


「待ってください! あなたは……誰なんですか!?」


人影は頭をかき、何かを言う前のように目元を軽くほぐす仕草をして――

口を開いた。


「僕は――■■■■であり、■■■■■■■だよ」


(……聞こえない……!)


肝心な部分だけ、砂嵐のノイズのように掻き消される。


もう一度聞こうとした瞬間、

僕と黒い子の身体は白い光に包まれ始めた。


黒い子が、僕の左手をぎゅっと握る。

さっきまでの痛みはなく、ただ温かい。


「ま、待って! まだ聞きたいことが――!」


「……もう時間だよ。

 僕も本当は、君ともっと話したいけどね」


優しい声が遠ざかり、

僕の意識は水面へ浮かび上がるように戻っていった。


――そして目を開ける。


最初に飛び込んできたのは、青空だった。


雲が流れ、冬なのに不思議と温かさを感じる色。


右手が、いつの間にか空へ伸びていた。


「……すごい。現実みたいだ」


呟きながら、左手を振り返る。


黒い子が握ってくれていた感覚が、まだ微かに残っている。

そのぬくもりを追うように、左へ顔を向けた。


――ピクン。


左手がわずかに震え、その先にいたのは。


「……カールアさん……?」


その隣には、ミーナさん、ミリエルちゃん、ミゼスさん、ロッカさん、ティーネさん、ララさん、ガルドさん。

そして――シルファさん。


(みんな……僕のそばで寝てる……)


(待って…なんで生きてるんだ?)


視界がじわりと滲んだ。


そのとき、視界の端に“誰か”の影が映った。


背の高い騎士の男が、城壁の壁に寄りかかりながら腕を組んでいた。

真面目そうで、でも妙に酒癖が悪そうな雰囲気の――


(……誰?)


目が合った。


男は軽く顎を上げて言った。


「あ、起きた」


その瞬間、僕は盛大に叫んだ。


「わあああああああ!!!! なんかいるう!!」


――このあと、城壁の上はちょっとした修羅場と化すのだが、それはもう少し先の話だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ