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創命理念で異世界ライフを  作者: Izma
異変と策動編

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第五十話 「ナティア防衛戦 序編 戦慄と勇気」

鳥のさえずりが、静かな朝を染めていた。


目を開けた瞬間、胸の奥で何かがひゅっと縮む。


(……守る)


(僕が戦う。絶対に)


(死んでも、守ってみせる)


そう念じながら眠りについたはずなのに——

平穏な朝の光が、逆に不気味だった。


風灯り亭のある南側は、まだいつもと変わらない。

けれど、その穏やかさが

“今日の異常さ”を、かえって際立たせていた。


(……なんで、こんな普通の朝なんだろ)


胸に手を当てると、微かに震えているのが分かった。


前世では、一度だって

“生きるか死ぬかの戦い”なんてしたことがない。


だから。


(怖い……)


(逃げたい……)


(全部やめたい……)


その感情が、当日になって急に押し寄せてくる。


息が浅くなる。

視界が少しだけ狭まる。


(でも……逃げたら)


ナティアにいる人たち。

風灯り亭、ミーナさん、ミリエル。

カールアさん、ハルドさん。


遠くのトーヴェルで弟と妹を抱く父と母。


(僕の大切なものが……全部、奪われる)


その想像だけで、胸が痛くなった。


逃げられない。

逃げちゃだめだ。


そんなふうに、心の中で何度も

同じ言葉を反芻していた。



ギルドに戻ると、すでに人の気配であふれていた。


兵士たちの足音。

魔術師の詠唱練習。

弓兵の弦の音。

武器を擦る金属音。


戦いの息遣いが、建物全体を震わせるようだった。


「……アイザックくん?」


ミーナさんが、眉をひそめて近づいてきた。


その後ろから、ガルドさんの太い声。


「顔色が悪ぃ。大丈夫か?」


「……だ、大丈夫です」


声が少しだけ上擦った。


ガルドさんは大きな手で僕の肩を叩く。


「怖ぇのは普通だ。

 その怖さを感じられるやつのほうが、死なねぇ」


ミーナさんも小さく頷いた。


「震えててもいい。

 でも……止まらないで。

 あなたは、前に進める子だよ」


その言葉が、胸の奥にすっと染みていった。


(……うん。行かなきゃ)



支度を終えて、北東側の城壁へ向かう。


普段は商人や旅人で賑わう街道が、

いまは兵士と冒険者の列で埋まっていた。


魔術の刻印を刻む音。

武具を搬入する車輪の軋み。

どこかで祈るような声。


ナティアの街並みが——

“戦争の街”に変わっていく。


城壁の上に、

カールアさんとハルドさんの姿があった。


ふたりとも、険しい目で部隊の配置を確認している。


「アイザック、来たか」


「怪我はしてないな? 体力も問題ない?」


ふたりの声は落ち着いているのに、

その足元の空気は張りつめていた。


「……師匠はまだ戻らないか」


「間に合えばいいが……無理はしないはずだ」


ハルドさんは城壁の外を見つめながら続ける。


「もしこの城壁が突破される気配があれば——

 俺かカールアが前に出る。

 そのつもりで動け」


「はい」


返事をしながら、手の平がじっとりと汗ばんでいく。



太陽が真上に近づく。


そのときだった。


――ド……


地面がわずかに震えた。


城壁の上から、誰かが息を呑む。


「……来るぞ」


震えが少しずつ大きくなる。


――ドド……ドドド……ッ!


砂煙が北東の森の奥からうねるように立ち上がった。


木が折れる音。

獣の咆哮。

無数の足音。


森が……揺れている。


「っ……」


胸が、ぎゅっと縮んだ。


(やだ……やだよ……)


(怖い……っ)


朝、必死に抑え込んだ感情が

堰を切ったようにあふれてくる。


前方の兵士が盾を構え始める。

槍を持つ隊列が前へ進み出す。

その背後で、戦士系の冒険者が武器を構える。

城壁の上では弓が番えられ、大砲とバリスタの装填が始まる。


乾いた音と、震える息があちこちで重なる。


(ああ……始まるんだ)


僕は遊撃隊として、冒険者たちの少し後ろへついた。


横ではパトロール・ファングが無言で歩く。

それぞれの顔が、緊張で強張っている。


拳が、気づけば強く握り締められていた。


爪が食い込み、少し血の匂いがした。


それでも……歩いた。


前へ。


恐怖で足が震えても——

逃げずに。


(守る。絶対に)


小さく、小さく。

心の中で繰り返しながら。


そして、ついに。


黒い影の波が――視界の端に、現れた。

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