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創命理念で異世界ライフを  作者: Izma
第一章 第二節 少年期冒険譚篇 ―始まりの旅路と邂逅― ナティア冒険者編

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第二十九話 「祠の奥で揺れる光と、律の精霊ルファス」

夜が深まり、街が完全に眠りについた頃だった。


胸の奥の“核”が、不意に強く震えた。


ズ……ズズ……。


(……呼ばれてる……?)


それと同時に、耳に届いた。


―― ちりん。


昨日よりもずっと近い。

まるで、僕の枕元で鳴ったかのように。


胸の核は熱を帯び、霊素が静かに沸き立つ。


(行け……って、言ってる?)


もう迷いはなかった。

靴を履き、夜のナティアへ出た。




夜の街は、不思議なほど静かだった。


パン屋の灯りは消え、行商人も宿へ戻り、

家畜の声すら止んでいる。


その暗がりの中――

祠のある方角だけ、淡く“金色”に揺れていた。


(……霊素の光が、見える……?)


気配円を広げる。


大地の静けさ、風の道、虫の呼吸。

そのすべての奥――祠の中心に、ひとつだけ揺らぐ気配がある。


(魔物でも、人の体温でもない……)


胸の核が脈打つ。


ズキン……。


(……霊だ)


確信と同時に、足は自然と祠へ向かっていた。




祠は昼間と変わらず小さく、古びていた。

けれど今は、淡い金の膜が全体を包んで見えた。


僕が近づくと、また鈴の音が響く。


――ちりん。


(……入れ、ってことだよな)


恐怖は不思議と湧かなかった。

霊術で作った薄い防壁の余韻が、指先で柔らかく残っていたから。


祠の戸を押し開く。


キィ……。


中は冷たい。

奥の祭壇に、小さな鈴が一つ置かれている。


そして――


その背後で、光が揺れた。


淡い金とも銀ともつかない。

霧のような、炎のような。

しかし“人の形”をしていた。


(……え……?)


光は揺らぎ、僕のほうを向いた。


その瞬間、空気が震えた。


『――ようやく、聞こえるようになったのだな』


声ではない。

意識に直接触れる響きだった。


「……誰?」


光は形を整えていく。

髪のように伸びる光の尾、細い輪郭。

瞳の場所には、二つの金の粒。


『私はルファス。この地を流れる“律”の端に宿る精霊だ』


「精霊……?」


『うむ。“律”とはこの世界を動かす大いなる法。

 生と死、時間と力……その流れを束ねる見えぬ河よ。

 我ら精霊は、その河の端で揺れるさざ波に過ぎぬ』


金の光が静かに揺れる。


恐怖はなかった。

むしろ懐かしさに似た温度が胸に広がった。


「どうして、僕に?」


『お前が“境界”に触れたからだ』


「境界……?」


『魔素、霊素……そして――それらとは異質の“第三の色”。

 さらに、この地より西の森で“律外の揺らぎ”を助けたな。

 お前の胸に宿る核が、それを覚えている』


胸に手を当てた。


(第三の……色。

 魔術にも霊術にもない、あの感覚……)


『あれはただの生命力でも魔素でもない。

 “律に抗い、守るという意思に呼応するもの”――こんな辺鄙なところでお目にかかれる力ではない。

 本来お前のような赤子が持つものではない』


「……じゃあ僕は、普通じゃない?」


『ふふ。普通とはなんだ?』


ルファスは揺らめきを柔らかく震わせた。


『お前はまだ“始まりの端”に立っただけだ。

 だが、その揺らぎはやがて世界のどこかを動かすだろう』


胸が大きく脈打つ。


(世界を……?)


『この半年、お前はよく歩いた。

 剣を学び、魔術を掴み、霊術に触れた。

 そして今日、“世界の静けさ”に手を伸ばした。』


(……見てたのか)


『祠に届く霊素の揺らぎは、すべて我が視る。

 お前の揺らぎは特に強い。』


僕は息を呑む。


「僕は……どうすればいい?」


『進め。恐れずに。

 その力は“選ばれた者”のものではない。

 “選んだ者”のものだ』


「選んだ、僕が……?」


『うむ。

 ――救いたいのであろう?

 命を。

 誰かを。

 世界の、小さな灯りを。』


胸の奥で、鈴が鳴るような音がした。


(守りたい。

 助けたい。

 救いたい。

 ――この世界の命を。)


ルファスの光が揺れる。


『その心が、お前を導く。

 我はそれを見届けるだけだ。』




祠を出る頃には、空が薄く朝色を帯びていた。


夜と朝。

闇と光。

その境界が、霊素の輪郭として浮かび上がる。


(ルファス……)


右手には、霊術の防壁の余韻が残っていた。


祠の方角で、金の光がひとつ揺れ、ゆっくり消えた。


(僕は……どうなるんだろう)


不安はある。

けれど――


昨夜よりもずっと胸の核は温かかった。


(進もう。

 守れるように。

 強くなれるように。)


遠くで鳥が鳴き、新しい朝が訪れた。


そして胸の奥では、薄く“第三の色”――

誰も知らない、僕だけの”何か”が静かに灯っていた。

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